決して見ることのない、ありえざる世界。
それでも君は思い描く、彼女と共に歩む未来を。
もしもゲルダと共に2部2章を旅をしていたら、という話です。
そう。あたしはあの時、自身の運命から飛び立つことが出来たのです。
あの日の夜、小さいふとっちょのおじさまに『どのように感じて生きているか?』『自由を得たいと考えた事はないのか?』と訊ねられてから、あたしは考えていた。
言葉の意味を、ではなくてあたしの返答を聴いたお兄さん、マシュさま、おじさまが悲しい顔をしていた理由を。
そして、マシュさまに『願いはないのか?』と問われたあと、一晩考えました。そして、大門での御使いとの闘いを見て、お兄さん、マシュさまの言葉を聞いて分かったのです。
きっと、外の世界にはあたしの知らないことが数多くあるのだと。
だからあたしは思い至ったのです。願いを探すために彼らと一緒に外の世界に旅立とうと───
「待って!!」
「ゲルダさん、どうしてここに!?」
「あたしも連れて行って!」
集落から出ようとするお兄さんたちを引き留める。
「危険です。私たちはこれから巨人や御使いと戦います。ゲルダさんでは、その……」
「足手まといなのは分かっているわ。でも、それでも外の世界を知りたいの」
「ですが……」
「いいんじゃねぇか」
マシュさまを止めたのはナポレオンのおじさんでした。
「嬢ちゃんは巨人の恐怖も、ワルキューレ達の戦闘能力も知っていて外に出たいって言ってるんだ。それなりの覚悟と決意があるんだ、それを止める資格なんてないさ。
なぁに、俺も英雄って奴なんだから嬢ちゃんの1人や2人守ってみせるさ」
「……外は危険だよ」
お兄さんがしゃがんで目線を合わせて語り掛ける。
「俺たちは巨人や御使いが大量にいる……いやそれよりも危険な場所にも行かなくてはいけないんだ。それでもいいかい? 怖くはないかい?」
「怖いわ。でも、それでもお兄さんたちと一緒に外に出たいの」
「……分かった。行こうかゲルダ」
お兄さんは優しくあたしに手を差し伸べます。
「はい!!」
そしてあたしは大門を抜けます。1人で抜け出したあの時は巨人の恐怖と不安で一杯だったけど、今は別の気持ちで満ちています。
彼らと共に見る外の世界には何が待ち受けているのだろうかとドキドキ、ワクワク言葉にできない気持ちで一杯なのです。
ヴァルハラに行くためでなく、生きるための巨人との戦い。怖かったけどマシュさん、おじさまの戦いは格好よかったわ───
みんなとたき火を囲んで食べたごはん。集落にいた時のように手の込んだものは作れないけれど、長い道のりに冷えた体を温める料理はとても美味しかった。なによりみんなとの距離も近づいて心も温かくなった気がする───
みんなと2羽の鳥を見た。空を自由に飛ぶ生き物を見たのは初めてだったわ。心なしかフォウが対抗しているようで微笑ましい───
ナポレオンおじさまに抱えられ、スキーというものに乗せてもらった。こんなに速く移動できるなんて驚きだわ! 冷たい風だけれどとても心地いい。もし、巨人がいなくなれば集落のこどもたちに教えたいわ───
神さまのお城に入った。初めて見た神さまは綺麗だったなぁ。表情は堅かったけど、あたしを見る目は優しい感じがした。笑顔になればもっと素敵だと思うのだけれど───
お城のちかろう? で女の子に会った。あたしより幼い見た目なのに大人びた話し方、聞けばあの子も神さまなんですって! 神さまは何人もいたなんて初耳だわ───
燃えるおうちで御使いのお姉さんを助けに行った。氷の城の神さまのように綺麗な方で、なんでも御使いの長女なのですって。探し人が見つかるといいわね───
くるま? という動く小さなお家に乗った。外の冷たさを感じずにスキーよりも速く動くなんて考えられないわ! でも、ガタガタ揺れるのは止めて欲しいわ。舌を噛んでしまいそうなのですもの───
みんなの敵である、目の赤い戦士との戦い。ブリュンヒルデさんが何時にもまして苛烈だった───
そして、巨人の咆哮と共に辺りが暗くなり───
おひさまが落ちた───
「 今こそ 来たる 真の
炎と氷の大巨人はあたしの集落に大剣を振り下ろす。
「 『
眩い光の中、全てを焼き尽くす一撃を、黒い巨人が受け止める。
「■■■■■■■■■■──────!」
「バーサーカー! いいわ、そのまま魔力ごと受け止めなさい!」
「白鳥礼装を緊急起動。人理の英霊からもたらされた影を補助します」
「ならば、神鉄の盾を多数同時に顕現させよう!」
その攻撃に、御使いと神さまも対抗する。
でもまだ足りない。このままだと───
「
「ダメよ! あんなのに立ち向かうなんて!」
一歩前に出るマシュさんに思わず声を上げる。
「ここは───わたしと、この盾が食い止めるべきです。
マスター、指示を」
「お兄さんも止めて、危険過ぎるわ!」
「マシュ……スルトを止めるんだ」
お兄さんは震える手を握りこみ、マシュさんに命じる。
「そんな……」
「大丈夫ですよゲルダさん、わたしは倒れません。
先輩が全力で支えてくれますから」
そう言ってマシュさんは駆け出す。
怖いだろうに、心細いだろうに、でもお兄さんを信じて立ち向かうその姿に、あたしは目を奪われた。
「おいおいおい、誰かを、肝心な司令官を忘れちゃいないか! 影が薄い方だとは思わんのだがな、オレは!」
「ナポレオン!」
「おじさま!」
「そうだ! オレさ!
オレが! ここに、いるぜ!」
巨大な筒を空へと向けながら、おじさまが不敵な笑顔を浮かべる。
「とっておきの隠し球だ───受け取れ! 怪物!
───『|凱旋を高らかに告げる虹弓《アルク・ドゥ・トリオンフ・ドゥ・レトワール》』!」
炎の剣にも負けぬ極光が、炎の巨人に突き刺さり
───虹が架かった。
「オレはここまでだ。ここから先はオマエ達がやれ。オマエ達が進め」
おじさまが振り向きながら告げる。
その大きな背中は下の方から徐々に消えていく。
「そうだ、進め。踏み出していけ。
迷ってもいい、悩んでもいい。だが止まるな、進め。
前でも、右でも、左でも。思うがままに進め。後ろに進んでもいいさ。
ただ、止まるな。引くな。戻るな。
生きているのなら進め。生者の進む先が、人理の行く先だ」
最期にその言葉だけを残し、おじさまは消える。
おじさまの言ったことはよく分からない。
でも、そうして進んだ先に彼はいるのだろう。なら───
あたしもそう在りたい。
「『
「『
「 なぜ、だ……! この俺が……! 」
炎の巨人の身体が崩れ始める。
「 ヒトが俺を殺すのか! 人理が炎を殺すのか!
誰だ、誰だ、誰だァ! 炎を消し去らんとする者は! 誰だ! 」
炎の巨人の指先がリツカさんに向く。
「 貴様だ! 貴様が、要だ……カルデアの……マスター!
ならば、ならば貴様も道連れだ─── 」
「「させない!」」
「 否、遅い! これから死のルーンを刻む 」
「(しまった。攻撃に夢中になるあまりマスターの護衛を怠った。今からでルーンによる現実誤認も間に合わない……)」
炎の巨人がお兄さんを睨みつける。
何をするのかは分からない。でもこのままではお兄さんが死んでしまう。
でもあたしに何が出来るのであろうか? 力もなく、戦う術も知らず、後ろでただ見守り、護られるだけのあたしに───
『進め───』
不意におじさまの声が聞こえた。
そうだ、何が出来るかなんて分からない。でも、何がしたいかは分かり切っている。
お兄さんを助けたい!
そう思った瞬間、自然と足が動き、飛び出していた。
「ゲルダ!?」
お兄さんを突き飛ばすと同時に倒れこむ。
ズン、と胸に重い衝撃が届く。
自然と息が出来なくなり、手足から体温が消えていき感覚が無くなる。
「 またしても、ヒトに、ヒトに邪魔されるのか……! 」
炎の巨人はそう言い残し消える。
あたしもこのまま死ぬのだろう。
でも、後悔はない。お兄さんやマシュさんに助けてもらわなければ、あの雪山の中で巨人にぺしゃんこにされていたのだから。
「ゲルダ! しっかりして!」
「ゲルダさん、目を覚まして下さい」
彼らの声が聞こえる。きっと瞼の向こうでは悲しい顔をしているのだろう。
それだけが申し訳ないと思った。彼らに救われた命を、彼らを助けるために使ったのなら本望だ。
もう思い残すことなんてないわ。
───いえ、嘘をつきました。本当は少し未練があるの。
旅立ちの日の夜に一生懸命考えた『あたしの願い』。今頃になって分かるなんて───
このまま眠ったら、もう彼らには二度と会えないと考えると涙が出そうで───
でも、泣くわけにはいかないわ。この別れに涙は相応しくないもの───
「マシュさん、お兄さん。とてもいい旅だったわ。
ありがとう……」
瞼を開き、肺に残った最後の空気を使い、最期の言葉を並べる。
やっぱり、泣いているのね。とっても強いのに泣き虫さんなのね。
再び目を閉じると、二人の声が遠ざかる。
暗い闇が徐々に白くなっていく。眩しさを感じる光の中に2つの影が見える。
光が収まると、そこは花畑で、目の前には見知った少年と少女が歩いている。
あたしは立ち上がり、二人の間に並んで歩く。
あたしの視線は少し高くなり、少年と目線が同じくらいになっている。少女の背は完全に追い越した。
髪も伸びており、吹き抜ける風が心地よい。
少年と少女はあたしの手を握り、顔を覗き込む。
『素敵ね。こどもを産んでいないのに大人になれちゃうなんて。お年寄りにもなれちゃうんでしょ? きっとなんだって出来るわ』
それに笑顔で応えると、彼らも笑顔で返す。
あたしは嬉しくなり、手を繋いだまま駆け出す。二人も一緒に並び駆けている。
あのよく跳ねる生き物はなんだったんだろうか? ウマだろうかイヌだろうか、名前も忘れてしまった白い毛玉を思い出し、ぴょーんと3人でジャンプする。
すると一陣の風が花びらと共にあたしたちを持ち上げ、どこまでも遠くへ連れて行った───
「ゲルダーーっ!」
「ゲルダさん!」
二人は動かなくなったゲルダに泣き縋る。
「ゲルダ、貴方は戦士でも英雄でもない。しかし、大切な者のために命を投げ出した貴方は間違いなく勇者です。
他の誰がなんと言おうとも、オルトリンデの名に懸けて貴方の魂はヴァルハラへと送り届けましょう」
「護られるだけの存在であった我が子が、あのような行動を取るなんて」
「子供は成長するものよ。お義母さん。
誰かのために戦い、立ち上がり、予想だにしない力を振り絞る。覚えはないかしら」
スカディの呟きにシトナイが答える。
「……そういえばそうだったな。3000年前はそうだった。
そうか。私は可能性を狭めていたのだな」
スカディは目を閉じ、思案してから口を開く。
「……だがそれでも、この奇跡の3000年を否定させぬ。させてはならんのだ」
「不器用ね、貴方も」
シトナイが悲しげな表情で見つめる。
「オルトリンデ」
「はい。我が神」
「おまえはどうする? 許す。好きに選ぶがよいぞ」
「私は、私の想うままに在ろうと思います。
ブリュンヒルデお姉さま、スルーズとヒルド……そして貴女のように」
一瞬オルトリンデはゲルダの方を向く。
「それにヴァルハラに送り届けなければいけない魂もありますので」
そのシステムはとうにないことを知りつつも、彼女の勇姿に報いたいとオルトリンデは応える。
「そうか……」
スカディは一歩前に出るとマシュたちに告げる。
「
「スカディさん……」
「改めて自己紹介をしよう。我が北欧───おまえたちが
100の集落、1万の民しか維持できない、老爺や老婆になるまで生かすこともできぬ不出来な神だ!
この世界には先がなくとも! 変化させる力がなくとも!
私は愛する者たちのために、おまえたち汎人類史と戦おう!」
スカディとオルトリンデは並び立ち、マスターとマシュに対峙する。
お互いの世界を懸けて、第2の
おわり