“煉獄さん”になる方法   作:鮫の呼吸

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竈門兄妹と“煉獄さん”

「あっ!煉獄さん!」

 

 目を開けるとすぐ目の前に竈門君が居たのでちょっと驚いた。君時々距離感おかしいね?

 

「おはよう。どこまで把握してる?」

「俺も今起きました!切符が血鬼術だったみたいです!縄も変な感じがするので多分……」

 

 視界の端で急に動きがあったので、咄嗟に相手の手元を跳ね上げる。悲鳴を上げた少女の手から錐のような物が飛んだ。

 そのまま手を捻り上げて、座席に押し付け拘束する。その時少女の腕と自分の腕が縄で括られていた事に気付いた。なる程、僕の担当はこの子だった訳だ。

 

「あぁあッ!!」

「煉獄さん!?その人は……」

「竈門君、覚えておきなさい。世の中には自分で進んで鬼に協力する人間もいるんだよ」

「え……!?」

「そうだね?君は多分、夢を見ている間の僕を殺す予定だったんだろう」

 

 鋭い声を出すと、少女は座席に押しつけられた状態のまま、苛烈な目でこちらを睨んだ。

 

「何よ……!変な夢見て梃摺らせて!邪魔しないでよ!夢を見せてもらえないじゃない!!」

「成る程、ここの鬼は夢を見せる能力を持つんだね。切符を切る事で発動するというところかな。この縄は夢と夢を繋げて干渉させるためのものか。身体ではなく、夢を見せ無防備になった精神の方を殺すように手配されていた。その為の駒に、そうだな、幸福な夢でも餌にして君達を釣ったのかい?」

「うるさいッ煩い煩い煩い!わぁぁぁあ!!」

 

 無理に暴れようとするので、頸動脈を少し押さえて意識を落とす。我妻君達の方に目を向けたが、かなり少女が大声を出したのに起きる様子はなく、彼等も少年少女と縄で繋がれている。

 はたと、椅子の影に見覚えのある子がいることに気付いた。竹の口枷に麻の葉模様の着物、毛先が緋い長い髪。竈門君の妹の鬼の子だ。

 

「君を起こしたのは妹さん?」

「……切っ掛けになったのは禰豆子の火です。夢の中で禰豆子の火で身体が燃えて、かなり覚醒に近づきました」

 

 困惑したように気を失った少女を見ながらも、しっかり報告する竈門君。彼の手首の縄は焦げて燃え落ちている。

 なるほど、血鬼術に対抗するにも血鬼術という事かな。身体が燃えたと言っていたが実際燃えているのは縄だけだ。鬼に関する物だけを焼くのか?

 

「縄も血鬼術の可能性があると言ったね。じゃあ妹さんにこれと、我妻君達の物も焼いてもらえる?」

「はい!禰豆子、頼む!」

「ムーッ!」

 

 元気よく声を上げた鬼の子の掌から、血の炎が生まれ出る。鮮やかに躍る火は、縄を伝って肌に触れても少しも熱くない。人には危害を加えない術のようだ。竈門君の指示にも問題なく従っている。

 問題は、竈門君の目と指示のない状況でどう動くかだな。箱から出ればずっと一緒に行動しているのは無理だろう。戦力として使うなら分散できなければ意味がない。

 何にせよ、先に敵意がある存在の鎮圧だ。

 

「竈門君、我妻君達と繋がれていた民間人を制圧できるね?」

「制圧……!」

「敵意がある者をそのままにしておくと、任務の障害以前に他の乗客、何より彼等自身が危ない。迅速に意識を失わせ武器を回収、鬼の捜索に向かう。気をつけなさい、追い詰められた人の力は凄まじい」

「……はい!」

 

 起き上がり錐を構える二人に竈門君が対峙するのを見ながら、意識を先程まで掛けていた椅子の裏側に向ける。そこからふらつきながら姿を見せた青年には、敵意がない。

 

「君も錐を持っているね。こちらへ渡して」

「……はい……」

 

 涙を流しながら差し出された錐を受け取る。金属ではないな。これも血鬼術の一部か。再び持って襲ってきたり他の乗客に危害を加えないよう、竈門君が回収した物、そして倒れていた車掌の懐から出てきた物と合わせて窓から破棄しておく。

 自然にはよくないけど、今から戦う鬼に関わるものを持っていて悪影響があっては困る。致し方ない。良い子は真似しないでね。

 失神した子達を椅子に座らせてから、連結部へ急ぐ。戸を開くと風圧で一気に外気が押し寄せてきた。隣の竈門君が顔を顰めて鼻を押える。

 

「ぐっ……!」

「竈門君?」

「鬼の……匂いです!凄く重い……強い鬼だ」

 

 鬼にも匂いを感じるのか、この子は。対峙すれば鬼の気配を感じる事も出来るけど、それは近づいてから始めてわかることだ。過去巧妙に人間に擬態されて、気がつかず食われてしまった隊士もいる。それをあろうことか匂いで判断するとは!

 そういえば嘴平君の型にも周囲の地形や鬼を知覚するものがあった。宇髄さんと一緒に戦った時、鬼や民間人を音で察知している様子を実際見聞きしたことがある。感覚の鋭い子はそれぞれに、そう言った特技を持っているのかもしれない。

 少し考えて、指示を出す。

 

「他の車両にも協力者が居るかもしれない。乗客に危害を加える恐れもあるから僕が対処しよう。妹さんには我妻君達を起こすように指示をして。竈門君、君は車両の上から匂いを追って鬼を探すんだ。見つけ次第斬るように」

「俺がですか!?でも、煉獄さんの方が早く鬼を斬れるんじゃ……」

「この任務は試験でもある。君と、妹さんのね」

 

 息を呑んだ竈門君を見据える。彼の背に、キョトンとした顔の鬼の子が寄り添っていた。意識して真顔を作る。冷たく見えるようにする。

 

「君が本当に鬼を連れて戦えるだけの実力があるか、妹さんが本当に人間に危害を加えず戦えるのか。多くの柱が疑念を持っている。一部を除いては全く信用していない。()()()()()。厳しい事を言うけど、君の才能は評価しているが、まだ全て信じるに足るとは思っていない。判断材料が十分じゃないからね。だからこうして見定める機会を作ったんだ」

「……はい」

 

 ああ、傷付いた顔をさせてしまった。ごめんね、竈門君。でも、これは僕の役割なんだ。

 きっと他の柱は積極的に君を見定めようとはしない。興味がないんだ。関わらなくてもその内死ぬと思っている。伊黒さんや不死川さんはいっそ死ねと思ってるかもしれない。あの人達は大分過激だし、後見の冨岡さんのことも嫌いだから。

 でも皆がそうなわけじゃない。甘露寺さんは君の健気な様子に感じ入ってたし、胡蝶さんは信頼じゃなくても君を信用しようとしてるみたいだ。宇髄さんは僕から君達の情報を得ようとした。君達を信じようとしてくれてる人は、ちゃんと居るんだ。

 だから僕もきちんと見極めたい。情に流されずに、柱として。そして出来れば、それを他の柱に伝えて、少しでも君達を見て貰う助けにしたい。

 僕は、竈門君。君が戦える事を信じたい。君達兄妹を信じたいと思ってるんだよ。

 

「実力を示し、自分の力で信頼を勝ち得なさい。いいね?」

「……はい!!頑張ります!!」

「いい返事」

 

 少し緩んでしまった口元を引き締め、懸垂で屋根に上がる竈門君を横目に指笛を吹く。客車の外殻に潜んでいた鴉が、合図に従って現れ肩に留まった。

 

「他の子の鴉を一羽飛ばして鬼の出現を報告して。術の巧妙さと規模から十二鬼月である事も考えられる。民間人及び乗務員にも協力者がいた為、討伐後列車が運行停止する可能性有り。隠の派遣準備を。討伐後改めて報告、要請する」

「了解」

「竈門君の鴉は竈門君につけて。危険なら僕を呼ぶ事。他はいつも通りに。よろしくね」

 

 撫でてやると鴉らしい鳴き声を一つ残し、飛び立つ。その姿が消えてから振り向いて、少し驚いた。

 寄り添うような至近距離で、鬼の子がジイッと僕を見上げていたのだ。

 

「ど、うしたの?」

 

 まん丸の綺麗な目。まるで幼い子供みたいだ。口枷が無ければただの可愛らしい女の子にしか見えないかもしれない。

 竈門君の指示が通りにくかったんだろうか。戸惑っていると、鬼の子の視線が移る。その先にあるのは、僕の手だ。

 手がどうかしたんだろうか。何かついてる?見ようと手を挙げると、あからさまに目が輝く。下ろそうとすればシュンとするように眉尻が下がった。

 よく分からないけど……撫でられたい、とか?

 

「えっと……。君も、頑張ろうね?」

 

 これで大丈夫なのかな、と思いつつもそっと手を伸ばし、触れる。遠慮がちに撫でると、目元が笑った。

 

「ムン!」

 

 頑張る!と言わんばかりに拳を掲げて駆けていく。殴って起こすつもりなの?出来ればやめてあげて?

 少し唖然と見送ってから、今まで触れていた掌を見る。……普通の人の子と、変わらない感触だった。撫でられると嬉しいのか。本物かは兎も角、人の心のようなものが、あの子にはあるんだな。

 うん。なんか少し、元気出た。

 さあ、僕もやる事をやろう。

 

 

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