“煉獄さん”になる方法   作:鮫の呼吸

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列車の鬼と“煉獄さん”

 眠っていた乗務員は数人いたが、懐に錐を持っていたのは一人だけだった。念の為に拘束しておきたい所だけど、鬼との戦闘で列車に影響があった時、その状態だと大惨事になりかねない。妥協して軽く頸動脈を押さえ意識が中々戻らないようにしておいた。

 勿論一番悪いのは鬼だが、他の犠牲を厭わなかった彼らにも罪はある。公に裁かれる事はないが、彼らには償いの気持ちを持って生きてほしいと思う。

 先頭の機関車には客車から渡る事はできない。一旦外に出て竈門君の様子を見ておくかと考えた時、車内の様子が一変した。

 

「!? 血鬼術か……!」

 

 壁や椅子、天井の一部が盛り上がり、ずるりと人の身体を這おうとする。血管の浮き出た醜悪な肉塊が次から次に現れる。今にも人を呑み込もうとするそれらに、刀を抜いて一閃。

 切り落としたものは鬼の一部のように崩れさる。そして徐々に再生していく。幻の類ではない。

 成る程、態々列車に呼び込むような手の込んだ事をしたのは、己が同化して一気に人々を吸収する為なのか。そしてこれは、実質僕達への人質だな。

 肉塊の動きこそ大した事はないが回復と増殖は早い。それが八両分に及ぶ。

 守らなければならない乗客は二百余名。

 此方は階級の低い隊士三人と僕一人、戦力としては数えられるかわからない鬼が一人。

 人を守れば頸を探せず、頸を探せば人を喪う。小狡い鬼らしい、有効策だ。

 普通に考えれば、犠牲なく切り抜けるのは不可能と言える。

 

 でも、“彼”はそれを成し遂げた。

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 斜め下段に刀を構え、半身引いて意識を集中する。

 例え才能がなくても、やり遂げて見せよう。

 その為に重ねてきた努力なんだから。

 

「鬼殺隊を甘く見るなよ」

 

 出し惜しみなんて、してやるものか。

 

 

 

 炎の呼吸の型は火力が高い攻撃が持ち味だ。身体能力を著しく上げての、強靭な一撃。

 だからこそ、密閉空間で使うのには向かない。特に今のような列車内では使えないと言っていい。

 大正の客車は大部分が未だ木製。呼吸を操る剣士が一撃入れれば直ぐに砕ける。穴が開けばそこから乗客が落ちかねない。列車はまだ走行しているのだ。落ちれば剣士ならともかく一般人は死ぬ。

 つまり車両の破壊は決してしてはならないのと同義。炎の呼吸は型のほとんどを封じられる。

 ただの剣戟で行うにも繊細な操作がいる。車両はもちろん乗客にも当ててはならず、確実に肉のみを削がねばならない。

 加えてそれに速さも必要となる。肉が人を呑むより速くそれを断ち、回復より先に他の対応をする。

 またそれらを肉塊に侵されていない足場を選んで実行しなければならない為、動きに柔軟さも要求される。

 

 繊細、かつ速く、柔軟に。

 選ぶことができるなら、恐らく現状に合うのは水の呼吸。変幻自在な歩法、流れる水の様な剣戟は屋内戦向きだ。

 

 

    ―― 炎の呼吸

 

 

 無論僕に適性は殆ど無く、型を満足に使う事はできない。

 知識は持っていても、基準に満ちる精度には及ばない。

 

 

    “煉織(れんしき)

 

 

 ――だから、()()()()()()()()()

 

 

    火流(ひなぐ)

 

 

 炎の苛烈さを残し、水が流れゆく様に。

 舞う様に足を運びながらも確実に断ち斬っていく。

 

 独自の呼吸というほどでは無い。他の流派の基礎を踏まえ、傾向を取り入れただけの技術に過ぎない。

 それでもこれは、僕の歴とした研究成果だ。

 

 

 

 同じ呼吸からの派生であるという事は、真逆の性質を持つとしても別れた場所は同じなのだ。ならば複数の呼吸を使い、鍛えていけば頂点たる呼吸の強さに近づくのでは無いか。

 柱でなかった頃、そう浅はかに考えて試行錯誤した時期があった。

 様々な育手の元を巡り、一定期間近隣の任務をこなしながら師事して呼吸の基礎を実際に学ぶ。そして、それを炎の呼吸と合わせて用いようとした。

 

 結論として、無理だった。肺を壊しかけた。ただでさえ人間の身体に無茶を強いる全集中の呼吸を、複数使うと言うのは不可能だと身を以て知った。

 肺を鍛える鍛錬にはなるだろうが、とても戦いの場で使う事はできない。一瞬息が止まっていたと当時世話になっていた育手にも言われた。戦うたびに息が止まっていたら命がいくつあっても足りない。そもそも基準値に至っていない呼吸を幾つも使ったところで意味がないので、この道は止む無く断念した。自分でも死ぬかと思うくらい苦しかったし。

 

 その代わり、呼吸そのものではなく、傾向を僕の基盤である炎の呼吸の一部として取り入れたのだ。

 呼吸によって得られる力を操作し、それぞれの独特の動きを取り入れる。上手く切り替え、使いやすくする為に型を作った。

 炎の呼吸の型と共に日々稽古して身体に覚え込ませる。呼吸法も炎の呼吸を基盤とし折り混ぜる形でなら取り入れる事ができた為、炎の呼吸本来の型とは違う物でもより動きやすくなった。

 

 

 

 そうした編纂と鍛錬の末に生まれたのが、“煉織”と称する型。研究という名の無茶を根底にした、現状僕のみが使う技術だ。

 炎の呼吸のみに専念せず、こうした技術を使うのも僕が半端者と誹られる要因だが、才能のない僕が柱を務める為の苦肉の策である。

 まあ勿論、手数を増やせばいいわけでもないんだけどさ。増やせばそれだけ鍛錬が必要になるから、使い物になるのはほんの幾つかしかない。

 

 火流は炎の型が使えない局面での汎用性が高いので、必然的に精度が高い。あっという間にこの車両は何とかなった。細か目に刻んで置いたから少しは持つだろう。

 さて、残り七両に鬼を斬り損ねた竈門君と、起きてるかわからない嘴平君に我妻君、不確定要素の鬼の子か。凄く頑張れば全車両見れなくはないけど、ここは鬼の子の行動と能力を見ておきたい。

 僕が乗客が多い後方車両を担当、彼らに前方車両の護衛と鬼の頸を探す役を分担させるか。頸斬りに竈門君、護衛に鬼の子を当て、鬼の子側にもう一人と頸斬りにもう一人。嘴平君に護衛を当てるとゴネそうだし、屋内戦闘にはどちらかといえば我妻君が向いているだろう。雷の呼吸なら速さは折り紙付きだ。

 彼らの監察をしながら後半四両……五両にしておくか、まだ癸なんだし。五両守るのは中々大変だろうが、これも僕の役目だ。しっかりやろう。

 

 よし、まずは道中肉塊を斬りながら合流と指示出しだ。

 床をしっかり踏みしめながら体勢を低くする。前のめりに、刀を中段に引き絞る。

 

 

    炎の呼吸  “煉織”

 

 

 求めるのは雷の如き速さと、飛び散る火花のような斬撃だ。

 

 

    灼光(やこう)

 

 

 力一杯踏み込み、一変する視界に合わせて刃を振るう。鋒のブレは許されないし許さない。速さに判断がついていける様に手足だけでなく脳にも力を傾ける。

方向転換に座席や壁、時に天井を蹴りながら技を維持して進む。

 結構な揺れと音がするはずだが、誰も目覚めない。老若男女、鬼の魅せる夢に微睡んでいる。その眠りをこれ以上踏みにじらせない為に、駆けた。

 

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