「お、全集中の常中ができるようになってるみたいだね」
偉いなあ、と頷くと皆ちょっと照れたような顔をした。正確には嘴平君は被り物で顔が見えず、「ホワホワさせんじゃねえ!」と怒っていたけど。
任務先の無限列車は丁度自宅を経由して行ける場所から出ていたので、一回家に寄る事にした。その前に竈門君とも連絡を取り、近くの藤の家で彼らと落ち合ったのである。
任務の事は告げていない。纏めてある資料を取って、任務までの道中話そう、と言う事にしてある。そのまま無限列車に乗り調査する予定だ。
柱の任務になし崩しに同行させようと言うのは中々酷かもしれないが、その位は乗り越えてもらわないと困る。鬼を連れる以上、竈門君には相応の実力を持ってもらわなければならないし、それは一緒に行動する嘴平君、我妻君も同じ事だ。
機会があるかは分からないが、この機会に実際鬼の子の様子も見ておきたい。竈門君の言葉通り、戦う事が出来るのか。結果によっては、公に竈門兄妹を認めてあげたいと思っている。皆頑張ってほしい。
「常中は柱への道の一歩だ。一万歩の内の一歩かもしれないけど、大きな進歩には違いないよ。竈門君は水の呼吸の方かな?」
「はい、ヒノカミ神楽は使うだけで凄く負担で、続けてはまだ……」
「出来る時に練習だけはしておくと良いよ。知っていてもいざと言う時に使えなければ意味がないからね。使っていけば身体の方が馴染んでいくさ」
「はい!頑張ります!」
「良い返事。さ、行こうか」
三人を促して歩き出す。その時に目に入った竈門君の背負う箱は、きちんと修理されているようだった。
不死川さん凄い容赦なく刺してたけど、その穴も塞いであるみたいだ。日光が入ると致命傷だから当たり前か。
「妹さん、元気?」
「え?」
「結構な勢いで刺されてたでしょう。蝶屋敷では見かけなかったし、大丈夫だった?」
「えっ禰豆子ちゃん刺されたの!?誰に!?誰にですか!?報復を、報復をせねば!!女の子に手をあげる奴は即粛清ィィィイイ!!」
ぎゃん!と元気になって喚く我妻君。あ、やっぱり鬼の子の事好きなんだね。そんな気はしてた。
この子が甘露寺さんと会ったらどうなるんだろうなあ。一途に鬼の子を思うのか甘露寺さんの色んな圧に負けるのか……ちょっと気になる。
鯉口切る勢いで奮起してるのはいいけど、多分今の我妻君だと歯牙にもかけられない。下手に暴走しては困るので、そっとやる気を奪っておく事にしよう。
「不死川さんは風柱で、物凄い血の気が多くて、傷だらけで目が常に血走ってて、滅茶苦茶に強くて、時々自分で腕を切ったりして、鬼を容赦なく惨殺しては高笑いしてる感じの人だよ」
「エ……め、めっちゃ怖そう……それ人間ですか……?新手の鬼ではなく……?」
「比喩としての鬼なら合ってる気がするかな、同じ柱にもしょっちゅう殺気向けてて正直凄く怖いよ?」
「ヒョエ……」
我妻君はそっと刀から手を離し、竈門君の箱に向かって悲しげに囁いた。
「弱い俺を許して、禰豆子ちゃん……」
「その人に頭突きしたい時はどこに行けばいいですか?」
「たぁあんじろぉおお!?聞いてた!?今聞いてた!?凄い怖い人だよ!?そんだけ怖いと殺すのが鬼だけとは限らないよ!?禰豆子ちゃんの身の安全の為にも今後は近づかない方が良いって!!」
「そいつ強えのか!?俺とどっちが強い!?」
「お前それ挑む気でしょ!?絶対挑む気で聞いてるでしょ!?止めろってぇええ自ら進んで命捨てるんじゃないよお前達はさぁぁあ」
「風屋敷に住んでるけど、任務もあるからいつもは居ないよ。そのうち会う機会もあるさ」
「そんで普通に答えないでくださいよ!!絶対こいつ行くに決まってるでしょ!?本気の音しかしないもん!!」
さっきまでの暴走気味な様子が嘘のように、善逸君は涙目になりながら叫んでいる。
いつもこんなに騒がしいのかな?賑やかで楽しいな。
「不死川さんは僕より強いよ。僕は柱で一番弱いから、あまり比較にならないけどね」
手合わせをした事はないけど、まず間違い無いだろう。
条件を満たしていて、それでも尚柱就任に反対を受けたのは、現在の柱の中で僕だけみたいなもんだ。時透君が就任する時、悲鳴嶼さんが幼さに難色を示したそうだけど、それも彼の実力によって承認された。
未だに柱に相応しくないと、そう言われ続けているのは僕だけだと思う。きっと僕だけが、まだ認められる程の成果を出せていないという事だろう。
「天国、弱えのか?」
うーん、一字違いでだいぶ違う。
嘴平君は人の名前を覚えるのが苦手みたいだから、仕方ないのかな。
「でもお前メッチャ強え気配するぞ」
「ありがとう。それだけ他の柱の皆さんが強いって事だよ。名に恥じないよう努力はしてるけど、それでも肩を並べられてる訳じゃないんだ」
「そうなの……?柱って化け物の集いなの……?この人で最弱って嘘すぎでしょ……絶対遭遇したくねえ……」
「そうかなぁ……」
素直に怯える我妻君と、首を捻る竈門君。
竈門君、何となく思ってたけど、凄く優しい子なんだろうな。言動の端々から、そういう根の性格が滲み出てる。妹思いで、凄くいい子だ。
ちょっと頭が固そうだけど、それも愛嬌の内だろう。一生懸命頑張っていて、健気で可愛い。
そんな子が悲しむ所は見たくないので、鬼の子には頑張って欲しいと思う。これからも人を喰わず、そして竈門君が言うように鬼殺隊として戦える子であって欲しい。
まだちゃんと顔合わせもしてないけど、頑張ってね。そう心の中で箱に対し告げた。
「何にせよ日々精進あるのみさ。呼吸の研究もその為に始めたんだ」
「その資料を見せてもらえるんですよね?」
「うん。次の任務まで間がないから、話は移動中にするしか無いんだけどね。知っておいて損はないから、二人も付き合ってもらうよ」
「は、はぁ……それで俺達、今どこに向かってるんです?」
あれ?竈門君に鴉で伝えた筈だけど、伝わってないのかな。視線を送ると、竈門君はキョトンとしている。多分普通に伝え忘れたか、伝えたつもりでうまく伝わってなかっただろうなと思う。
しっかりしてる子だけど、時々こう言う事があるのかな。年相応という感じでホッとする。
「資料を保管してある場所に一度寄ってから出発する。つまり、僕の家にね」
言ってる間にも、もうすぐそこに門が見える所だ。
「お帰りなさいませ兄上!!」
「うわ同じ顔だ……」
「小せえ原木だ!!」
いつも通り元気よく出てきた杏寿郎の顔を、みんな僕の後ろからマジマジと見ている。
うん、初めては驚くよね。我が家の遺伝子濃すぎるもん。普通に怖い。
そしてまた違う名前になったね?今度は木になっちゃったよ。椎茸でも生やしたらいいのかな。
「ただいま、杏寿郎。少し寄るだけでごめんね」
「いいえ!!兄上が顔を見せてくださるだけで俺はとても嬉しいです!!」
「(声デカくない?)」
「(どこを見ているんだろう……)」
二人の心の声が聞こえるようだよ。
杏寿郎は昔から声が大きい子で、生まれた最初の産声で母上は鼓膜が破れそうだったという。まん丸な目はどこを見ているか捉え辛く、僕も時々不思議な気持ちになってしまう事がある。
でもとってもいい子なんだよ。自慢の弟だ。
概ね予想通りの反応にほっこりしていると、杏寿郎が「よもや」といつもより少し静かな声を上げた。
「そちらの方々は、兄上の継子ですか?」
「いや、呼吸の研究関連で少しね。皆高い素質を備えた子だ、僕の継子には勿体無いよ」
「そうですか!!良かった!!」
え、良かったって何?
「杏寿郎?」
「では俺はお茶を入れてきます!!兄上のお部屋にお持ちしますね!!」
「ああいや、資料を取ったらすぐに……」
言葉が終わる前に飛んでいってしまったので、お茶が運ばれてくる事が確定してしまった。
おみよさんに教わった気配りを発揮したかったのかな?三人の紹介もしてないのに……。
まあ、元から少しせっかちな所のある子だから仕方ない。お茶の腕が上がっているのか、楽しみにしよう。
「仕方ない、とりあえず僕の部屋に行こうか」
振り向くと、三人は僕を黙って見上げた。
え、どうしたの。何かあった?
「……俺達、素質ありますか?」
「うん。三人共将来は柱になれてもおかしくない逸材だと思ってるよ」
短期間で常中を会得するに至ったこともそうだ。存在すら知らず伸び悩んで、挫折する隊士だって少ない訳じゃない。そもそも常中ができず諦める者だっている。昨今はそう言った隊士の方が多いくらいだ。
そんな中、癸の隊士が下弦討伐を生き抜き、常中を会得した。これは快挙であるし、鬼連れであることをさて置いても将来を期待してしまうというものだ。
「さ、履き物を脱いで上がりなさい。部屋に案内するよ」
そう促すと、暫く固まったもののなんとか動き出して、少しギクシャクしながら付いてくる。
なんか、実力を評価されるのに慣れてないのかな?つまり照れてるんだ。可愛いものである。
伊之助君、励ましてもらったので“煉獄さん”の名前を覚えてるようで覚えてないです。