竜殺しだけど竜殺しじゃない竜殺しのお話 作:竜殺し
ジークフリートが己を自覚したのは五歳の頃であった。
シグルド機関と呼ばれる教会の裏の顔の一つにおいて、日夜魔剣との適合実験のさなかに幼いながら彼は世界を見たのだ。
気づけば、機関の中でも最高峰と称される“ジークフリート”の完成形としてこれからの教会を引っ張っていく存在であると期待を受ける事になる。
果たして、彼は見事にそれを成し遂げた。
生身でありながら並大抵の攻撃では傷一つ付かない頑強にして堅牢な肉体と、破壊力抜群の聖と魔の性質を併せ持った黄昏の大剣。
生物の最強種であるドラゴンすらも打倒する最強の
そんな彼は、
「すまない。俺には壊す事しかできそうにない」
謙虚だった。
*****
教会陣営にとって最強の切り札といえば幾つか挙げられる。
一つは、教会のジョーカー。序列二位の神滅具をもった男。
一つは、聖剣デュランダルの前任者。年老いてなおその実力は、相当な者。
一つは、文字通り最強の竜殺し。SSランクのはぐれ悪魔すらも歯牙に掛けず塵殺する男。
「―――――此度の聖剣の一件は、お前に任せよう、ジークフリート」
「はっ」
荘厳な一室にて、一段上がった席に着く司祭たちの前でジークフリートは膝をついて頭を下げていた。
彼の持つ大剣の在り方を示すような灰色の髪に、褐色の肌。肉体は筋骨隆々としており身に纏うのは、黒が印象的な軽装甲冑。肉体そのものが鎧である彼にとって、防具というのは動きを阻害するものでしかない。
「今回は合同の任務となる。若手の戦士をお前の元へと付けさせる」
「それは、扉の前の者たちでしょうか?」
「ほう、気づいていたか。ああ、その通り。彼女たちがお前の同行者となる」
司祭の一人に入室を促され、入ってくるのは二人の少女。
「ゼノヴィアだ」
「紫藤イリナです」
「…………」
名乗る二人を前に、立ち上がったジークフリートは彼女らを見下ろすだけで口を開こうとしなかった。
その様子に、ゼノヴィアが眉根を寄せるが今はお偉いさんの前。流石に糾弾するようなことは言えない。
「ではな、ジークフリート。任務達成の報告を待っているぞ」
「はっ」
そうして、三人は退室を促される。
部屋を出た一行は、大理石が鏡面の様に輝く静謐さのある廊下に出て歩き出す。任務達成には一分一秒が惜しいのだ。
「…………あの、ジークフリートさん?」
その道中で、おずおずとイリナが声を掛けた。
「こ、今回の任務、宜しくお願いします!」
「…………」
「その、貴方の威光はいろいろ聞いてて……憧れてたんです!」
「…………」
キラキラとした目を向けられ、ジークフリートは眉を顰めて若干後ろに仰け反る。主に、称賛の目が彼にとってはむず痒いというか、居心地が悪かったから。
そんな露骨な避け方をされているというのに、イリナは更に興奮を募らせたように迫っていく。余談だが、彼女とゼノヴィアの着る教会の戦士としての格好は黒のボンテージのようなピッチりとしたかなり挑戦的な見た目をしている。
プロポーションの良い美少女が恥ずかしげもなくそんな恰好をしているのだ、野郎としては来るものがあるというもの。
だが、
「…………」
相変わらず口を閉ざしたままのジークフリートは、困ったように眉根を寄せるだけだ。
この反応にカチンと来たのが、ゼノヴィア。
「おい、何か言ったらどうなんだ?」
「ちょ、ゼノヴィア!」
「何か言ったらどうなんだ?」
イリナが止めようとするも、ゼノヴィアは詰め寄る事を止めない。
ジークフリートは、少し彼女と目を合わせ、そして目を逸らし、
「……すまない。俺は君たちのような美人と接したことが無いんだ。話題の無いつまらない男で、本当にすまない」
蚊の鳴くような小さな低い声でそう呟き、顔を逸らした。
教会において、現英雄とすらも称される彼の初々しい反応に、さしものゼノヴィアも舌鋒を収めるしかない。どうやら黙っていたのは、彼女らに対して動揺していたかららしい。
まあ、当然か。彼も今年十八歳になったばかり、御年ごろというやつである。
「…………いい」
耳を赤くして顔を逸らしたジークフリートを見ながら、イリナは息荒く彼を見つめ何やら呟く。赤くなった頬なども加味すれば実に変態じみていた。
とにもかくにも、彼らは教会より奪われた聖剣を求めて大陸を縦断する。
目指すは極東。日の出国、日本。
*****
世界各国には、それぞれに神話体系が根付いており、日本ならば日本神話が基本となる。とはいえ、この国は様々な宗教が入り混じっているのだが。
「おばあさん、そちらの荷物をお持ちいたしましょう」
「おや、ありがとうねぇ」
「坊や、泣いているだけでは何も起きないぞ?」
「で、でも…………」
「大丈夫。俺も共に君の母君を探してあげよう。さあ、立って」
「引ったくりよーーーーッ!」
「返してもらおうか」
「げぺっ!?」
聖剣が持ち込まれたとされる街、駒王町にて何度目かとなる光景を前にしてイリナもゼノヴィアも呆れるしかなかった。
というのも、ジークフリートは数メートル進むたびに困っている人々に手を差し伸べ続けるのだ。それはもう、節操無しと言われそうなほどに留まる事を知らない。
果ては、車に撥ねられそうになった子猫も車道に飛び出して助けるのだから相当だ。
因みに彼の今の格好は、スーツに眼鏡。主武装である剣は、教会の開発局に作らせた異空間を内包するポーチの中だ。
見た目こそいかついが、誰であろうとも腰を折り、ひざを折り、彼は目線を合わせる事を心がけている。ついでに整ったその顔立ちから初恋ハンターになりかけていたり。
今回の任務は、聖剣の奪取。敵は、教会の裏切り者と堕天使幹部。
三人が街の中を回っているのは何も捜索だけではない。
イリナやゼノヴィアは未だしも、ジークフリートの戦闘は派手の一言。場合によっては、街一つなど容易く焦土に変えてしまう可能性すらあるのだ。
無論、そこまで暴れるつもりは彼には無い。だが、念には念を入れて場所探し。
ついでに周りに悟られない程度に、しかし鋭い者ならば気づく程度の敵意を振り撒きながらの行脚。
釣りだ。そして、その時は訪れる。
「―――――なっつかしい顔じゃねぇのよぉ。なあ、良い子ぶりっ子ちゃんよぉ?」
「フリードか。久しいな」
突如周囲に結界が張られ、現れた白髪の神父に、ジークフリートは温度の乗らない声を返した。
「チッ、相変わらずのすかした面してんじゃねぇかよ。昔から、テメェのその面は気に入らねぇ!」
「貴様の奪った聖剣を返還しろ、フリード。言っておくが、今回の任務に貴様たちの命に関しては一切の救済は無い。死にたくなければ、大人しく渡せ」
「ハッ!いつまでもテメーが優勢だと思ってんなよ堅物!俺ちゃんの聖剣の錆にしてやる!」
叫んだフリードが取り出すのは、過去の大戦で七つに分かれた聖剣エクスカリバー。その内、“天閃”“夢幻”。腰には“透明”。
それぞれが特殊な能力を秘めており、所有者にその力を与える。
七つに分かれようとも過去最強と称された剣は伊達ではなかった。
対するジークフリートは、腰のポーチに手を突っ込み、一振りの魔剣を抜き放った。
教会の戦士が持つには、その気配は禍々しく、しかしそのオーラのすべては敵対するフリードへと向けられており、従順な猟犬を思わせる雰囲気だ。
「そいつは…………」
「悪いが、貴様との会話を楽しむ気は俺には無い。速攻で片を付けさせてもらおう」
言うやいなや、ジークフリートは前へと飛び出していた。
凄まじいオーラを放つ魔剣。本来ならば、所有者本人にすらも牙を剥く様なじゃじゃ馬である筈のソレは、しかし全ての呪いを主の敵へと向けていた。
反射的に防ごうとするフリード。だが、
「―――――は?」
僅か一太刀すらも止める事など不可能。圧縮された呪いと魔剣そのものが元より持ち合わせた切れ味は、たとえ過去最強であろうとも折れて弱体化した聖剣など歯牙に掛けるはずもない。
その光景には、ついていけていなかったイリナとゼノヴィアも目を丸くするほかなかった。
何せ、
「ああああああっ!?お、俺の腕がぁああああああああ!?」
叫んでその場にへたり込むフリード。彼の前には無惨にも刀身の中ほどからへし折れたエクスカリバーだったものが転がっているのだから。
彼の間違いは二つ。一つは聖剣を過信し過ぎた事。二つ目は、ジークフリート本人を侮り最初から能力を使わなかった事。
「言っただろう?俺達の目的は、聖剣の奪取。貴様たちの命は勘定に含まれていない、と」
イリナに詰め寄られて頬を染めていたジークフリートの姿は、そこにはない。
「さらばだ、フリード。かつての、同志よ」
躊躇いなく、彼はフリードへと魔剣を振り切った。
圧倒的なまでの魔剣のオーラが彼の体を飲み込み、それが収まれば残るのは鞘に収まった聖剣と折れた聖剣だけ。
「任務完了。帰ろう、二人とも」
聖剣を回収し、ポーチへと収めたジークフリートは魔剣も収め結界が消えていく様子を見ながら提案する。
呆気ないものだが、確かに仕事は終わった。であるならば、最早長居は無用というもの。
しかし、事はそう簡単に運ばないというのが世の常だ。
「―――――止まりなさい!」
解けかけていた結界に代わり、新たな結界が三人を包み隔絶すると声が響いた。
現れるのは数人の悪魔たち。その中で、紅の髪をした女性が厳しい目をジークフリート達へと向けていた。
*****
駒王町は悪魔が日本神話より貸借している土地である。その統治権は悪魔にあり、今は若手四天王と称される一人、リアス・グレモリーが治めていた。
そんな彼女のホームである駒王学園旧校舎に置かれた、オカルト研究部にて教会の戦士と相対する。
「―――――つまり、貴方たちは聖剣の奪取の為に来たのね?」
「ああ」
「あの結界は?」
「敵のモノだろう。だが、既に討った。聖剣も回収済みだ。すまないが俺たちは一刻も早くこれを返還しなければならないんだ」
「…………あのオーラを使ったのも貴方かしら?」
「ん?ああ、そうだ」
「明らかに魔に属するオーラだったわ。結界越しでも感じられる程度には、ね。貴方一体何者かしら?」
「俺は、ジークフリート。しがない、教会の一戦士をしている」
「ジークフリート!?あ、貴方があの…………?」
リアスが驚くのも無理はない。彼女の眷属も、二人を除けば驚いた眼を彼へと向けているのだから。
「あの、部長?こいつって、そんなにすごい奴なんですか?」
いまいちピンと来ていない兵藤一誠が問う。
「凄い、何てものじゃないわ。彼は生きた伝説よ。最強の竜殺しだものね?」
「りゅ、竜殺し!?」
彼が反射的に跳び下がるのも無理はない。
「む?彼はどうしたんだ?」
「イッセーは今代の赤龍帝なのよ。だから、貴方は天敵という訳ね」
「成る程…………すまない、こちらとしても君を怖がらせるつもりは無かったんだ」
すまない、と頭を下げるジークフリート。その姿には威厳もくそもない。
事実、彼は偉ぶる事など無いし力を笠に驕る事も猛る事もない。相手が変身を残していようとも第一形態で殺すのが基本だ。
子供にやさしく、老人に優しく、敵対者には容赦なく。そんな男が、ジークフリートであった。
その後、ゼノヴィアが悪魔となった元聖女、アーシア・アルジェントに噛みついたり。その件でジークフリートが再び深々と頭を下げて謝ったり、ゼノヴィアの頭をイリナがハリセンでしばいたりしたのだが、それよりも重要な事がある。
「―――――それで?そちらの彼は、俺に何か用か?」
穏やかな様子から一転、ジークフリートは部屋の隅からギラギラとした目を向けてくる金髪の彼、木場祐斗へと目を向ける。
彼だけが、この場で交流を持とうとせず、ジッとゼノヴィアとイリナを、正確には彼女たちの携えた聖剣を見続けていたのだ。
「……僕が用があるのは、聖剣さ」
言って、己の神器『魔剣創造』によって生み出した魔剣の切っ先をエクスカリバーへと向ける木場。
突然の状況。咄嗟の事で周りも唖然としている。
そんな中で、ジークフリートが立ち上がった。
「どうするつもりだ?」
「決まっているだろう?僕はエクスカリバーを破壊する。そう決めたんだ!」
それは、復讐の念に囚われた者の末路といってもいいだろう。
「…………それは困るな」
言って、完全に切り替わったジークフリートは木場限定で威圧感を発する。
その圧倒的な気配は、幼少より復讐を誓った彼ですら目を見開き、驚きを露にするほどの圧倒的なまでの強者のもの。
「復讐の是非について、俺から言う事は無い。だが、聖剣をこれ以上破壊されるのは仕事にも差し支えるというもの。向かってくるのならば―――――斬る」
「ッ…………それでも…………!」
彼にも引き下がれない理由がある。
*****
結界の張られた駒王学園の校庭。
その中央では、魔剣を構えた木場と無手のジークフリートがそれぞれ相対していた。他の面々は距離を置いて観戦。
「剣は抜かないのかな?」
「お望みとあらば」
木場の挑発とも取れる言葉に、ジークフリートが抜くのは一振りの魔剣。
瞬間、観戦していただけの一誠の背に冷たいものが走っていた。
「な、何なんだあの剣…………!」
『グラムだな、相棒』
「グラム?」
『最強の竜殺しの呪いを内包した魔剣だ。その力は使用者すらも蝕むとされている。だが…………』
「ジークさんは、完全に手なずけている。でしょう?赤龍帝さん?」
赤龍帝ドライグの言葉を引き継いだイリナへと周りの目が集まる。
『あの小僧、あの若さで魔剣を手懐けたというのか?』
「ジークさんは、最強の教会の剣士よ。当然じゃない」
『ジークフリート…………シグルドか。ファーブニルを倒した英雄だったな』
「ジークフリート殿は間違いなく私達よりも上の領域に居る。この場に居る全員が奥の手を駆使して襲い掛かっても五分もかからず殺されるだろうな」
ゼノヴィアの補足に、しかし反論は出ない。
魔剣を飼いならすような男だ。それも、神話級の代物。
相対する木場は、観戦者以上の圧力を全身に浴びていた。
手が震え、脂汗が滲むほどの、生物の本能的な死の恐怖が目の前にあるのだ。逃げださないのは偏に、彼の復讐心が折れそうな心を支えているから。
「来い」
「ッ、あああああああ!」
折れそうな心を繋ぎ留めながら、木場は魔剣を振りかぶりジークフリートへと切りかかる。
だが、その刀身が彼の肉体に触れた瞬間、
「―――――あ…………」
ガラス細工の様に砕け散っていた。この間、ジークフリート一切の防御の姿勢も、魔剣を構える事すらもしていない。
そこからは一方的だ。
何度も何度も木場は魔剣を創り出し、ジークフリートに振るうのだがその度に儚い音を立てて魔剣は砕け散るばかり。
十を超え、三十を超え、五十を過ぎたころ、
「―――――はぁ…………!はぁ…………!」
木場は項垂れる様にして両手両膝をつき崩れ落ちていた。
この間、ジークフリートは無傷。只、グラムを片手に木場を見ていたのみ。
「僕は…………!」
「…………俺は、復讐を悪だとは思っていない」
血を吐く様な彼に、ジークフリートは語る。
「そもそも、死者の気持ちなど俺たち生者には分からないものだ。元より、生者同士ですら言葉のやり取りは齟齬が生まれるからな」
「…………」
「俺は、言葉を尽くせない。だからこそ、誰よりも前に立ち剣を振るうと決めた」
死んだ者たちに代わって、とジークフリートは続け言葉を切る。
教会の裏側では、神の為にと謳って数々の非道な実験が行われてきた。
シグルド機関もそうであるし、木場の復讐の原点である聖剣計画もその一つ。
多くの犠牲の末に、ジークフリートは前を見て進み、木場は後ろを見て立ち止まってしまった。それが二人の違い。
「―――――だからこそ、立ち塞がるならば貴様も斬り捨てよう」
ジークフリートが睨む先。月の昇り始めた夜の空に、月を背にして空を飛ぶ男が一人結界を見下ろしていた。
「成る程、貴様か竜殺しの英雄」
男の声が響き、直後結界を破壊して襲い掛かるは光の槍。その穂先は、真っ直ぐにジークフリートへと向かい、
「…………」
グラムによって斬り払われた。
極光は儚く霧散するも、そんな物はこの場においての単なる準備運動に過ぎない。
校庭に降り立つ十の黒翼を持つ黒髪の男。その威圧感は、確かな上位者であると如実に語っている。
突然の事態に、動くのはただ一人。
グラムのオーラを開放し、その全てを真っ直ぐに男へと向けているジークフリートその人だ。
「黄昏の剣を抜かんのか?」
「必要ない。貴様程度ならば、グラムでも十二分に戦える」
「フッ…………思い上がったな、小僧!」
男、堕天使幹部コカビエルは叫ぶと同時に、背後に数十本にも及ぶ光の槍を出現させ撃ち放つ。
対するジークフリート。これを躱すという選択肢は彼には無い。躱せば背後にいる者たちすべてに脅威となって襲い掛かる事になるから。
「“我が身は、竜殺しなり”」
グラムの刀身を撫でながら、詞を紡ぐことによって、その刀身に呪いのオーラが纏わりつく。
そうして振り下ろされる一撃より放たれるのは、呪いの激流。これにより、光の槍との相殺を狙った。
弾ける衝撃が張り直された結界の中で飽和し、びりびりと薄紙の様に四方八方を揺らしていく。
「―――――ッ」
巻き起こる粉塵で完全に視界が潰れていたにも関わらず、ジークフリートは僅か一歩で距離を詰めるとコカビエルへと肉薄していた。
跳ねるように振り上げられたグラムが、黒い線の様になって振り落とされる。
「な、に…………!」
光の槍で反射的に受けようとしたコカビエルであったが、グラムの刃はまるで水にでも通したかのようにアッサリと槍の穂先を斬り落とすとその勢いのままコカビエルの左腕と左足の一部を切り離していた。
フリードの時と同様、コカビエルもまたジークフリートを侮った結果だ。
グラムは確かに竜殺しに特化した魔剣だが、そもそも呪いだけが全てではない。
剣としての質もそこらの魔剣に勝っており、龍に特攻なだけでその呪いが他の生物を蝕まないとは言っていない。
何より、ジークフリートの膂力は過去の英雄の中でもかなりのモノ。何せ不死身の肉体を手に入れる前に彼はファーブニルに勝利し、その後肉体を得るのだから。
つまり、その魂を継ぎ更なる修練を己に課してきた彼も同等かそれ以上の実力を有しているという事。最早、人間の枠組みに収める事すら馬鹿らしくなってくる。
「ぐっ……!」
「貴様の油断が招いた事だ。大人しく、その首を刎ねさせてもらおうか」
無常だ。ジークフリートは、愛用の剣すらも抜いていないというのに。
「一つ、聞かせてもらおう」
「…………」
「
揺るがすつもりなのか、コカビエルは爆弾を投擲してくる。
しかし、
「俺は、俺の道を行くだけだ。貴様にどうこう言われる筋合いは、無い」
全くの効果なし。そもそも、信仰に縋っていないジークフリートにとってその手の話題は意味をなさないのだから。
血払いし、グラムを収めた彼は振り返った。
「帰るぞ」
たった一言。
史実であったのならば何日もかかった事件は二日で幕を閉じた。
最強の竜殺しの名の下に。