弓の知識はそんなに無いです。
「普段ならこうやって、矢に毒を塗ってから弓を引き絞るけれど」
今にもはちきれそうな弦から手を離す。弦は元の形に戻ろうと、勢いよくしなった木の枝に向かう。反動で、弦に乗せられていた一本の矢が同じ速度で弓から放たれる。
矢は白いシーツを突き破り、けれども後ろの壁へ届くには及ばず。部屋を傷つけることにならなくて済んだ。
「こうすれば、そんな手間暇かけることなく狩りを進めることができる」
弓の中央に開けた穴に、毒が入った瓶を差し込んで僕は弦を引っ張る。これは瓶が差し込めるように、普通のものよりも太くて大きい木を選んで作った、
穴に設置された瓶から毒の液体が流れてきて、矢の先端に自動的に塗りつけられる。
もう一度、弦から手を離す。今度もシーツを貫通するが、壁には届かない。それでいい。もし部屋を傷つけでもしたら、大家さんにこっぴどく叱られる。
「でもそれじゃあ、腕に毒が付いちゃって危険じゃん」
「素手で狩りに臨む人はいないよ。水を弾く手袋か何かを装備して使ってもらうんだ。今の段階では、だけどね」
シーツの裏に落ちた矢を拾って僕は言う。
「手に毒が付かないようにまた改造が必要だな。刀のように、弓にも柄を付けてみてもいいかもしれない」
そんな僕の独り言を、ベッドに座って頬杖をしながらつまらなさそうに聞くテリーは、やがて諦めたように横になる。
「兄ぃ、今の時代に狩りで弓を使う人はいないよ。刀は槍に、弓は銃に移り変わったんだ。弓なんて時代遅れもいいところさ」
「弓のいいところは制作の燃費がいい。素材も比較的集めやすく、壊れても修理が利きやすいところにある」
「弓そのものが折れたらどうするの?」
「それはもう天寿を全うしたから仕方がない。でも銃は壊れたら丸腰だ、弓ならまだ矢がある。最悪、そのまま武器としても使えないこともない」
「ナイフも持っていかない狩人なんて素人だ」
部屋の隅に弓と矢を寝かせて、僕も自分のベッドに腰掛ける。
「銃は撃ったら最後だけど、弓は撃っても矢を回収すれば再利用できる。リサイクルなのだ、我が弟よ」
「それは素晴らしいことかもしれないね。でも弓は重くてかさばる。二丁も三丁も持ち運べる銃の方がいい」
「重くてかさばってもいいじゃあないか」
「どうして?」
「かっこいいだろ? 弓のあのフォルムは」
テリーは呆れて壁の方へ寝返りを打つ。
僕はこの部屋唯一の窓へ足を運ぶ。オレンジ色の空の光が、僕たちの部屋を照らす。
「銃の方が殺せる」
「それでも好きは止められない」
小高い丘の上にあるこのアパートは、街の景色を一望できる。といっても、代わり映えのない風景なので特に思うことはない。走っている車がいつもより少ないくらいか。
「もう寝るよ、兄ぃ」
「つまらなかった……かな?」
「ううん、面白かった。また見せてよ、兄ぃの発明」
「ありがと」
テリーのそんな様子を、気づかれないように注意しながら、僕は笑ってベッドにつく。
きっとテリーも、僕と同じ表情をしているだろう。
「でも、今は本当に眠らなきゃ。明日がつらいよ? ハッシュを待たせるかもしれない」
「そうだね。彼は気が早いからね」
毛布をかけて僕は天井を眺める。オレンジ色に照らされた、電球に光が点いていない部屋で僕たちは眠る。
「今日も日が落ちなかったね」
「三年前に見た夜景は最高だった。また見に行こうよ」
「ああ、必ず」
そんな約束をして、僕は目を閉じた。
午前二時。
明日は起きられないな。
そう思いながら、僕は闇に身を任せた。
きっと続きは無いと思います。
読んでくださりありがとうございました。