パスティーシュ作家・清水義範氏からインスピレーションを受けた作品です。パスティーシュ作家様の文をドが何個もつくシロートがパスティーシュするとか、正気の沙汰じゃないですね。しかもその割には清水先生っぽさが微塵も出ていないという。正気の沙汰じゃないですね。もし、氏のファンのみなさまが何かの手違いでこの駄文を読んでしまったら、どうか命だけはお助けください。
※小説家になろうにも投稿しています。
「はいどうもー。多礼喪 美内でぇーす。今回はぁ、えー、このですね、今大人気のこのゲーム、『ファイティング・ピストル・スペシャル』、やっていきたいと思いまぁす」
画面の中には、目が痛くなるような蛍光色の数々で塗りたくられた背景に、でかでかと交差した二丁拳銃と『ファイティング・ピストル・スペシャル』の文字。
左下の方には中々奇抜な格好をした女性の3Dモデル。これまた蛍光色の髪に、左右で色の違う目。実に目に悪い。こちらはゲーム画面とは関係ない。
「実はですねぇ、えー、私はぁ、こういうのあんまり得意じゃないんですよぉ。だけどぉ、今回はぁ、みなさんからのリクエストが多かったのでぇ、まぁ、えー、こうして、あー、やっているワケなんですが」
えーとかあーとか言いながら画面の中ではちんたらちんたら、名前などの初期設定を決めていく作業が進んでいく。見ていて非常に腹が立つ遅さだ。やっとこさ設定が終わると、次は一緒にプレイするプレイヤーを探す。こちらは機械が勝手にやってくれる。
それにしても、もう少しシャキッと喋れないのだろうか、この実況者は。聞きづらくて仕方がない。
「このゲームはぁ、八人対戦みたいですねぇ。四人一チームでそれが二チーム。はへぇー。こっちは完全に初見だしぃ、お手柔らかに頼みたいですねぇ。わっ、この
「わっ、わっ、名前が英語の人しか入ってこないですぅ。うひゃー、強そうっ。勝てるかなぁー、これぇ。ここは存分に味方さんに期待していきたいトコロ」
どうやらこの女の中ではローマ字=英語という方程式が成り立っているらしい。YamadaManやTYANAKYAといったのはどう考えても英語ではないだろう。おまけに名前が英語(ローマ字)のプレイヤー=強い、という図式も成り立っているそうだ。気持ちは分からなくもないが、そりゃないだろう。
「ひーん、日本人は、日本人の方はいないんですかぁ。あっ、来ました。来ましたよ日本人。最後の一人。えー、
海に月と書いてクラゲと読むのだバカタレ。そして『みないちゃんはーと』を名乗っているような人間にクラゲをバカにする資格は無い。
「さぁーて、遂に始まりますねぇー。キンチョーしますねぇー。ちなみに私ぃ、まだこのゲームの操作方法わかんないんですぅ。誰か教えてくれませんかねぇ」
操作方法も知らないで対戦ゲームやろうとしてたのか。それは実況者云々の前にまずゲームをする者として、いや、人としてどうなのだ。
「では、この書類をいついつまでに纏めておいてくれるかね」
「はい。あ、あの、課長」
「なんだね」
「自分、やり方がわかんないっす」
「えーっ、困るよ君ぃ。こないだ説明したじゃないか。まさかとは思うが、聞いてなかったのか」
「えへへ」
「バカッ」
つまりはこういうレベルの事をやらかしているのである。呆れて物も言えない。
「おほー、キレイな景色ですねぇ。さて、では操作確認を……あれっ、動かない。あれー、なんでかな。うそぉ、なんでぇー。うわー、困っちゃったなぁ。視点は動くのにぃ。あ、ヤバイ。みんなもう先に行っちゃった。わ、わ、もう少しでわかるから、誰か一人くらい残ってくれたっていいでしょお。これじゃ私ただのアホの子じゃない」
妥当な評価だと思う。
「このボタンは違うし、あっちのも違うし、えーっ、どれが正しいのぉ。もうやんなっちゃう。あ、跳んだ。跳んだよ、跳んだよみんなぁ。みんな見てたぁー?いえーい、ジャンプジャンプ。あ、お帰りなさい」
今しがたリスポーンしてきたプレイヤーの目には、ゲーム開始地点から一歩も動かずに、ぐるぐる回りながらぴょんぴょん跳ねている奇ッ怪なみないちゃんはーとが映っていることだろう。
困惑したような目線を一瞬こちらに向けてから再び戦線に戻る彼と、それを見送るみないちゃんはーと。
ぐるぐるぴょんぴょん。
「あらぁ。もう行っちゃいました。せっかちですねぇ。動き方くらい教えていってくれればいいのに」
この女には、画面右上のタイマーが見えていないのだろうか。
「うーん、しかしどうしましょ。このままここでぴょんぴょんしてても味気ないですしぃ、早いとこ移動する方法を見つけたいですねぇ。しかしこのゲームなんでこんなに操作がややこしいんだろ。もうワケわかんない」
本当にワケわかんないのは君の頭のほうだよ。
ちなみにこの子、パソコンのキーボードのキーのことをボタンだと勘違いしているらしい。
「あっ、しゃがんだ。うーん、でも肝心の移動がなぁー。そういえば、ウチのチームのみなさんが帰ってくる回数が増えたような。こんにちはー、お帰りなさーい。ぎゃっ、撃たれた」
どうやらこちらのチームは押されているらしい。当然だ。実質三対四で戦っているようなものなのだ。しかも最後の一人は相も変わらずぐるぐるぴょんぴょん。弾の一つや二つ食らわせたくもなる。
「ぬうう、動けぇ。あ、また撃たれた。わ、わ、やめてくださいよぉ。私は味方ですぅ。ほぉーらぴょんぴょん。うひぃ、今度は蹴られた」
素の状態でこんなことが出来るとは、どうやら彼女は相当高い煽りテクニックをお持ちのようでいらっしゃる。
「うわーん、チームメイトが私をいぢめてきますぅ。あっ、
何もしてないのが問題なのだバッカモーン。
そんなこんなで、チームメイトから蜂の巣にされながらぐるぐるぴょんぴょん、時々ひょこひょこするという、なんともシュールな光景がしばらく続き。
「あ!やっと、やっと動き方がわかりましたよみなさん。わはーい、これでやっと活躍出来ますよぉ」
ちなみにこの時点で制限時間の大半が過ぎ去り、タイムアップまでのカウントダウンが始まっている。
「よーっし、早速敵さんを探しに、いざ……え?」
画面いっぱいに広がる「ゲームオーバー」の文字。流れる悲し気なBGM。そして後から塗り潰すようにして躍り出るタイムアップの表示。
「…………うっそぉ」
蜂の巣のされていた時でさえぎゃひー、だの、痛い痛い、だの、飴ちゃんあげるから許して、だの、にぎやかにしていた(うるさかっただけとも言う)のに、今は本気で困惑している。3Dモデルの顔も呆然としている。面白い。
「…………えーと。えー、そのぉ、何と言いますかですねぇ、はい。終わりましたね。終わっちゃいました。えぇ。あれぇー、こんなに早く終わるものなんですかね。私もう何がなんだか。うーん。あ、見てください。ランキングですよみなさん。ランキング。私の名前が一番下に載っていますよ。うわーっ、これはキビシイ」
始終ぐるぐるぴょんぴょん、ついでにひょこひょこしていただけなのにキビシイも何もあるかい、このアンポンタン。
「えーとですね。えー、これではあまりにも、何と言いますか、地味。そう、地味ですのでぇ、この、えー、まっちんぐ?というのをやってみてから今日の配信は終わりにしたいと思います。はい。では申請ボタンをば……えっ、拒否?えーっ、なんでよぅ」
そりゃそうだ。自分の胸に手を当てて考えてみろっ。って言っても分からんのだろうなぁ。
結局この後、実況者多礼喪 美内がこのゲームの配信をすることは無かったそうな。