今回は此方の投稿。
そろそろ境界線上の方も投稿しないと……
それではどうぞ。
辺境の街から半日離れた小さな森。
その中を一人の少女が全力で走っていた。
「はぁッ……はぁッ……!」
身につけた高価な鎧や武器、纏う雰囲気から貴族なのだろう。首から下げた鋼鉄の認識票が、彼女が冒険者であることを証明している。そんな彼女……令嬢戦士は整えた髪が乱れようが、スカートが枝に引っ掛かって破けようが、彼女はただ走り続けた。
背後から迫る
「GURGU!」
「GOBBO!」
「GIA!」
「GURRBOA!」
「いや! 来ないで!」
令嬢戦士は心の中で後悔していた。どうしてこうなたのかでと。
彼女は依頼でゴブリンの討伐に来ていた。準備はちゃんとしていた。油断なんて無かった。だというのに、
(まさか、
想像していなかったイレギュラーの存在に一党は壊滅。令嬢戦士だけは仲間が何とか逃がしてくれたが、果たして自分の命は一党の命を犠牲にしてまで助かっていいものなのか? むしろ、一党の為に自分が犠牲になるべきだったのではないのか? そんな自責の念が彼女を襲う。
しかし……いや。だからこそ、彼女はすぐ前方の足元にあった木の根に気づかなかった。
「キャア───!?」
盛大に転ける令嬢戦士。すぐに起き上がろうにも、転んだ拍子に足首を捻ったのか、上手く立ち上がれない。結果、ゴブリンたちの接近を許してしまった。
「GURRBOA!!!」
「イ、イヤァァァァァッ!!」
ゴブリンたちが令嬢戦士に襲いかかり、淑女の悲鳴が森林に響き渡る。
「イヤ! 離して!
最後の抵抗と暴れる令嬢戦士だが、手足を押さえられている状態ではただの身じろぎになり、彼女の泣き叫ぶ顔はゴブリンたちの劣情を増幅させるスパイスでしかない。
ゴブリンの一物が令嬢戦士の乙女の園に狙いを定める。
(誰か……誰か助けて……!)
届く筈のない想いを抱いて、純潔が散る痛みを耐えるために目を硬く閉じる。
……が、いくら待ってもその時は来なかった。令嬢戦士は恐る恐る目を開けると、ゴブリンたちの視線は彼女には向いておらず、別の方向を見て怯えていた。令嬢戦士はゴブリンたちの視線を追ってみれば、そこには狼に似た巨大な
「グルルルル……」
モンスターの唸りのみが静かな空間に響き渡る。
今、ゴブリンたちを支配しているのは性欲ではなく恐怖。生物としての本能が危険信号を発していた。
「───オォォォォォン!!」
モンスターが雄叫びを上げ、ゴブリンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。残された令嬢戦士は純潔が守られた安心感と同時に絶対絶命のピンチに追い込まれた事での恐怖心に支配されていく。
「あ……あぁ……」
あまりの恐怖で失禁する令嬢戦士。そんな彼女に、モンスターの顔が近づく。
食べられる。そう覚悟した瞬間、
「あの……大丈夫っすか?」
「───ふぇ……?」
落ち着いた男性の声。見上げれば、モンスターの背中に、モンスターを人型に変えたような鎧が跨がっていた。
●●●●●●
(さて……どうしたものか……)
場所は変わって、少し開けた場所。
気まずい空気が流れるなか、ライダーは腕を組ながらさっきまでとは別の考え事をしていた。内容は、
「えぐっ……ひぐっ……」
(どうやって慰めよう?)
「見られましたわ……私の彼処を……御父様にも見られたこと無かったのに……どうしてくれますの!」
(いや。俺に言われても……)
「クゥン…………」
ライダーの目の前には渡した毛布にくるまって泣きじゃくる令嬢戦士の姿があった。現在、彼女の顔は偶然とはいえ、男性に見られた(何処を?とは言わない)事に対する羞恥心でぐしゃぐしゃになっていた。
「といいますか、なんで冒険者がモンスターを連れていますの?!」
「それは俺のオトモンすから。それと冒険者ってなんすか?」
「貴方、冒険者ではないのですか?」
「俺は乗り人。モンスターライダーっす」
「……とりあえず、人と話すときはマスクぐらい外しては?」
「それもそうっすね」
留め具を外し、ヘルムを脱ぎとって顔をさらけ出す。
「あら。意外と整っていますのね」
「おい。どういう意味だ?」
「ヘルムで隠してるから、てっきりゴブリンのような顔かと思いましたわ」
「どんな顔すか……それに、ゴブリンって何? さっき、あんたを襲ってた奴ら?」
「貴方、冒険者の癖にゴブリンも知りませんの? あと、先程の事は全部忘れなさい! それに、そのわざとらしい敬語も結構です」
令嬢戦士は顔を赤くしながらもライダーにゴブリンについて説明する。
「ゴブリンとは
「ふーん……簡単にすると最低最悪、モンスターとは呼べない奴らって事ね」
「
「俺のいた場所じゃあ、そんな奴らをモンスターとは言わねぇよ」
「……ゴブリンを知らないといい、この様な魔物を連れている事といい、貴方はどんな所から来ましたの?」
「どんなところって言われても……話しても信じないよ
(まさか、こことは別の世界から来た……なんて───)」
ライダーはここが自分の元いた場所……いや。元いた世界ではないと理解していた。見たこと、聞いたことのない生物や植物。それだけなら知らない場所ですむだろうが、等級や冒険者なんて聞いたことのない単語。何よりも令嬢戦士の装備。ライダーの視点から見れば、彼女の物を装備と呼ぶことは出来ない。ジャギィノスのタックルを受ければ、簡単に変形すると思えた。
しかし、令嬢戦士はそれでも話せと言う。
「信じるか信じないかは私自身が決めることですわ。貴方の判断で決めないで下さい」
「……分かったよ。だけど、その前に───」
ライダーは立ち上がり、ある一方向に顔を向ける。彼の行動に疑問符を浮かべる令嬢戦士だったが、気づけばライダーの後ろで伏せていたライライも体を上げ、同じ方向を睨んで唸っていた。
「ライライ。彼女を守れ」
ライライは頷き、立ち上がって令嬢戦士を守る為に移動する。
彼らの行動に説明を求めようとする令嬢戦士だったが、彼女の聴覚が
「ま、まさか───!?」
「俺が合図したら目を閉じろ。ある程度はライライが守る。
───来たぞ」
ライダー達の視線の先、森の奥から緑色の体を持った醜悪の塊『ゴブリン』の群れが此方に向かって来ていた。奴らの奥には何倍の大きさを持つ巨体……恐らく、ホブゴブリンと言う奴だろう。その隣にはゴブリンシャーマンと思われる杖を持った個体を確認した。そして、
「───なんだ、あれは?」
ホブゴブリンが持つ盾……いや。あれを盾と呼ぶべきなのだろうか? 少なくとも、普通の人に対しては有効だろう。何せ、汚された女性の裸体がホブゴブリンの持つ盾に括りつけられていたのだから。
「あれは……!?」
「……知り合いか?」
「
悲鳴を上げそうな口を抑える令嬢戦士だが、一方のライダーは静かに怒りを滾らせていた。
(あんなのがモンスターだと? ふざけるな!
あれはモンスターじゃない!
あれは生きていて良いモノじゃない!)
ライダーは背中に背負っていた己の武器。五枚の黒刃が並ぶ双剣 "夜天連刃【黒翼】" の柄を撫でる。
(
ゴブリン達との距離は目測五メートル。本来なら強走薬の一つでも飲みたいが、そのような時間はない。ライダーは大地を蹴り、ゴブリン達に向かって走り出した。
それを見たゴブリン達は『間抜けが来た』と言いたげに笑い、群れの内二匹がライダーに襲いかかる。
……だが、次の瞬間。二匹のゴブリンが見たのは首を失った自分の体だった。ドサリ……と地面に落ちるゴブリンの首。少し遅れて、頭を失った体から血が噴水のように吹き出した。それを見ていた他のゴブリンは唖然としている。
一方、令嬢戦士はというと目の前で起こった出来事に目を疑っていた。
「な、何ですの……今の動きは……!」
駆けるライダー。襲いかかるゴブリンたち。その時、彼女は一回だけ瞬きをした。
……そう。その瞬き一回分の僅かな時間の間にライダーは武器を抜き、ゴブリン二匹の首をはねたのだ。
ライダーの攻撃は終わらない。
直ぐ様呆けているゴブリン達に肉薄し、その肉を絶つ。本来、普通の武器ならゴブリンを4~5匹切れば血と脂でなまくらになるのだが、ライダーが使っている夜天連刃【黒翼】は切れ味と改心率に優れた武器だ。その刃はゴブリンの骨を容易く断ち切り、振るう度に血を落とす。
「GURAAAAAA!!」
仲間が殺られたからか、それともたった一人を倒せない雑魚どもに痺れを切らしたのか、今度はホブゴブリンが盾を前に構えて迫る。
「───そうすると思ったよ」
ライダーがポーチから取り出したのはミラボレアス討伐で残ったアイテムの一つ "閃光玉" 。それを放り投げ、令嬢戦士とライライ。そして、盾にされている女性に向かって目を閉じろと叫ぶ。
ホブゴブリンは刃もついておらず、大した力を込められずに投げられたそれを防がず、そのままライダーを殺そうとする。
だが、次の瞬間。ホブゴブリンの視界を閃光が焼き殺した。
「目が!? 目がぁぁぁ!!?」
訂正。ホブゴブリンと令嬢戦士の視界を閃光が焼き殺した。
驚きと痛みに顔を抑え、叫ぶホブゴブリンだが、そんな隙だらけの状態をライダーが逃す筈もなく、僅か数瞬の内にホブゴブリンの体から首と腕が切り離された。
縄を切り、人質を解放するライダー。
残るはゴブリンシャーマンのみ。奴は直ぐ様呪文を唱え、"
「ライライ、殺れ」
次の瞬間。ゴブリンシャーマンは異界の狼竜に叩き潰され、その血で地面を汚したのだった。
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