天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。   作:紅銀紅葉

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神を目指した者たち
プロローグ


「俺、家出てプロモーターになるわ」

 

 そう切り出すと、天童家の一室──俺の部屋に重い沈黙が訪れた。

 緊張がピークに達し、渇いた唇を舌で湿らせる。それでも落ち着かないので堪らず水を口に含む。含む。含む。含……いや長すぎない? 気が付けば五百ミリリットルペットボトルの中身は空になっていた。

 小さな来客用の机を挟んで俺の向かいに座る少年少女──義弟と義妹。ペットボトルのビニールを剥がしながら視線を向けるも、二人は厳しい表情のままピクリとも動かない。

 

「俺、天童家から出てプロモーターに」

 

「ちゃんと聞こえてるわよッ」

 

「あ、そうなの……」

 

 このまま待ち続けるのもどうかと思い再度口を開いた。すると義妹の木更は裏切られたカエサルの如く憤慨し、義弟の蓮太郎は元の不幸面が五割増しに見えるほどの落胆を見せる。ところでカエサルってなにした人なの。

 とりあえず水でも飲んで落ち着こうぜ木更。話に集中するあまり、出されたコップに一切口を付けていないじゃないか。飲んでなくないwowwow

 

「ふざけないでよッ」

 

 アッハイすみません。

 まさかの台パン、まさかの叫喚。蓮太郎ならまだしも、木更のお嬢様あるまじき言動に気圧される。蓮太郎がやっていたら黙れドン太郎(略してれン太郎)になってしまってたわね……。

 

「理由、聞いてもいいか?」

 

 どうして、なんでを繰り返す木更を制して、いくらか冷静な蓮太郎が言葉を絞り出した。

 

 理由……理由? そんなこと聞かれても困ってしまう。ここまで激しく詰め寄られるほどの理由はない。強いて言うならその場のノリと義兄たちの策略だ。

 

『誕プレなに欲しい?(意訳)』

 

『誕プレ(バイクの)免許欲しい』

 

『わかった(民警の)免許だな』

 

 などというコントみたいな流れで気が付いたらプロモーターの免許(ライセンス)を取得していた。

 なにを言っているのかわからないかもしれないが、俺もなにをされたのかよくわかっていない。

 と言っても講習は全て受けたし、プロモーターは戦車と戦闘機以外はなんでも運転できると知ってからは結構乗り気だったのだけど。

 ちなみに民警とは民間警備会社の略で、人類と敵対するガストレアと呼ばれる寄生生物をぶっ殺している野蛮集団である。このライセンスがあれば銃やら刀やらを持ち歩いても罪に問われない。プロモーターは戦闘員の監督役みたいな感じ。

 

 そうこうしている間にこれまた別の義兄が『じゃあ俺は住む家を用意してやろう(訳:お前は邪魔だからさっさと天童家から出ていけ)』なんて言い出して高級マンションの最上階を購入。俺は俺でまったくクズの金で住む家は最高だぜと快諾してしまった。いまでは後悔しかない。というか俺、高所恐怖症だった。

 

 思考に耽っていただけなのに言いづらくて黙り込んでいると勘違いされたのか、なにかを察したかのように悲し気な表情になっている木更に気付く。

 待ちなさい話はまだ始まってすらいません。

 木更の目に水滴が溜まる。蓮太郎が悔しそうに歯噛みする。俺は無力だとか言い出しそうな顔やめろ。

 違うんだってそんなシリアスな理由じゃないんだって。前世が苦学生すぎて免許取れなかったからホイホイ着いていっただけなんだって。

 

 木更が声を震わせている。

 

「お兄様も、私を置いていってしまうの……?」

 

「木更さん……」

 

 おっと木更そんな目で俺を見るんじゃない。胸が痛い胸が。蓮太郎も蓮太郎だ。『木更さん……』じゃねーからなお前。マジアレだかんな。泣いてる木更の背に手を回すくらいしろよボケナスコラ。

 

 木更の精神状態は不安定だ。たぶん、鬱病。義兄や祖父の策略でガストレアに両親を食い殺され、さらにはそのときのストレスで持病の糖尿病が悪化。腎臓の機能がほぼ停止している。

 これ以上彼女に天童の裏切りを実感させるのはよくないかもしれない。どうしたものか、義兄たちから受けた迫害を話せば木更の憎しみが増すだけだ。ここはもうひとつの理由を正直に話すべきだろうか。

 ……いや待て。コレあれじゃない? 俺が天童家を出なきゃいけなくなったもう一つの理由をコイツらに説得してもらえば解決じゃない? 

 

「なあ二人とも、よく聞いてくれ」

 

 覚悟を決め、静かに息を吐く。

 

「言われたんだ、助喜与師範に」

 

 場にシリアスな雰囲気を醸し出しつつ、俺は慎重に言葉を紡いだ。

 

「『次の昇級試験までに技名を全て覚えられなければ、貴様を破門とする』って……」

 

 何を隠そう俺は天童式戦闘術の有段者である。最近の俺はステージⅠガストレア程度なら徒手空拳でちぎっては投げ、ちぎっては投げ……真の野蛮人は俺だった。

 

 そんな俺ももう高校生。そろそろ落ち着きを持ち、将来を見据えて行動していかなければならない。

 具体的には技術のみならば免許皆伝も夢ではないというのに、技名をひとつも覚えられないとかまじ卍。タピオカブームに乗っかって司馬重工の令嬢と「黒の銃弾(タピオカ・ブレット)www」とか言ってオモシロ兵器を作っている場合ではないのだ。

 

 ──というのが師範の意見。

 

 しかし俺の堅い意志はそう簡単に変わらない。頑固? そうとも言いますね。

 技名覚えるのはめんどくさいし、一々技名叫ぶのも恥ずかしいし、弟弟子である蓮太郎の足は臭い。

 やってられっかクソ野郎。

 

 ──というのが俺の意見。

 

 ならばそれを二人に協力してもらって有耶無耶にしようじゃないか。

 そうすれば俺は家を出ていかなくて済むし、二人は大好きなお兄ちゃんと一緒にいられるし、ジジイは弟子たちに〝お願い♡〟をされて大満足。パーフェクトストラテジー。誰も損しない。

 

 俺の決意を汲み取ってくれたのだろうか。二人の顔からは先ほどまでの悲し気な表情はなくなっていた。

 わかってくれたかお前たち。

 

 立ち上がってこちらに近づいてくる木更。ビックリして木更の顔を伺ってみる。

 

 失われたハイライトッ! 

 直後おおきく振りかぶって迫り来る拳ッ! 

 

 その鋭いパンチをひょいと躱すと、木更は勢い余って転倒した。

 

「あっ」

 

 声を上げたのは我関せずといった様子で机をどかしていた蓮太郎。あら邪魔にならないように避けてくれたのねありがとう……じゃなくてッ。

 

 四つん這いに蹲った木更に視線を戻す。彼女は顔を真っ赤にして憤慨していた。ひっひっふーっとラマーズ法で呼吸を始める木更の怒りは計り知れない。正直言って面白い。

 

「なんでかわすのよ腹立たしいわねッ」

 

「ハッハア、お馬鹿め! 刀を持たないお前など俺の敵ではないわッ」

 

 歴代多くの政治家を輩出してきた天童家。養子の俺に与えられた部屋でさえ無駄に広く、木更がいくら俺を追いかけまわそうが捕まることはない。

 

「いい加減……捕まり、なさい、よ……」

 

 体力のない木更から逃げるのは容易い。故に注意が散漫になっていたらしい。

 

「だって絶対に殴るじゃんお前──あッ」

 

 途切れる言葉。タンスにぶつかる小指。続いて悲鳴。

 

「ぐあああああッ!!」

 

 俺は思わずその場に蹲る。しかしこの状況でそれは命取りになるわけで。

 

「ちょ、タンマ。いま絶対にタンスが動いた! 今のなし」

 

「ねえよ」

 

 蓮太郎が肩を震わせている。笑ってんじゃねえぞテメ──ハッ⁉ 背後に殺気!

 

「他に何か言い残すことはあるかしら」

 

 次の瞬間、衝撃。頭が吹き飛んだかと思った。それはさながら女神(シスコンではない)のゴッドブロー。まあ木更はゴッドブローというよりカースド・クリスタルプリズンなのだが。俺まだ何も言い残してない……ガクッ。

 

 

 

 ■

 

 

 

 俺はその翌日、泣きながら天童家を出ていった。

 

 ──見送りにはジジィとジジィしか来なかった。

 

 

 

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