天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
「でな、彰磨のやつが『俺は道を違えた。だから破門された。俺は信じていた天童流に裏切られ、路頭に迷った』なんて言うわけよ」
豪勢なリムジンに揺られながら会談が行われるという高層ホテルを目指す。お前ふざけんなよそんな東京スカイツリーより高えとこ登れるわけねーだろ殺す気かなんて聖天子様に言えるわけがないので大人しく付き従う。目的地まで二時間ほど掛かるということなので頑張って話題が尽きないように努力する。蓮太郎と延珠ちゃんは別の車に乗っているため俺が頑張るしかないのだ。
「でもさー、そもそもの話天童流って免許皆伝になるまで技の開発は認められねーんだよな。そのうえ危険な技術となればそりゃ破門されるわ。ルールくらい守れよな。って彰磨本人にも伝えたんだけどさ、あいつなんて言ったと思う?」
いまは聖天子から聞かれた蛭子影胤追撃作戦での話だった。たしか襲撃直前での対話だな。
「ポカンとした顔で『……たしかに』って」
「何のオチもないしょうもない話でしたね。薙沢さんも面白いこと言ってるわけじゃないですし。これ以上しゃべられても気まずくなる一方なので降りて貰えませんか?」
「夏世ちゃ~ん? 最近のキミいじわるが過ぎないかな~?」
あっこいつ鼻で笑いがった。
その様子を微笑ましそうに笑う聖天子。なにも微笑ましくないんだが?
「紅蓮さんと薙沢さん、それから里見さんは戦闘術の有段者なのですよね。他にもお弟子さんはいらっしゃるのですか?」
「いや、戦闘術に目ぼしい継承者はいない。天童流は元々一族にだけ継承されてきた流派だから。ごく僅かに解放されてる道場があるにはあるけど、今じゃもう門下生もいないし廃墟同然だよ。あーあ、近いうちに戦闘術どころか天童流そのものが終わるかもしれないな」
師範である助喜与ももう百二十歳だ。いつ引退してもおかしくない。
「紅蓮さんは、跡を継ぐ気はないのですか?」
なんとなしに口にする聖天子にギョッとする。この方はおれが破門されたことを知らないのか。
「いや俺破門されて……」
「存じています。ですが縁が切れているわけでも、規則を破ったわけでもないのでしょう? それならば、次こそ技の名をしっかりと記憶してしまえば、免許皆伝を認められるのではないでしょうか?」
「そりゃ俺だって道場が廃れていくのを見てるだけしかできないのは、悲しいけどさ。俺が習ったのは戦闘術と抜刀術、あと合気術くらいだし、戦闘術以外は免許皆伝ほどの実力もない。その他の術で免許皆伝なのは皆、お偉いさんになって家を出てるしな。抜刀術の木更はほら、あんなだし」
ある程度木更とジジイの関係を知っているらしい聖天子は納得した様子だ。
「それにしても、同じ流派でもそんなに種類があるのですね」
「まあな、他にも色々あるぞ。免許皆伝の兄たちは皆歳が離れすぎているから、和光兄さんの神槍術としか手合わせしたことがないけど」
「現・国土交通省副大臣の和光さんですね」
「そりゃ知ってるか。にしても、和光兄さんには結局一度も勝てなかったなあ」
まあ生体強化兵の能力を全開放すれば勝てるけど。オラッ(本気を)出すぞッ。
そうこうしているうちに目的地に着いたようだ。
リムジンから降りて聖天子の隣を歩く。いつもより距離が近いのでドキドキする。リムジン内での距離も相当なものだったが、そこには夏世がいた。しかしここからは二人きり。歳の近い女の子と二人でホテルに入るという状況に緊張してしまう。我ながら気持ちが悪いぜ。
おおお落ち着け俺、俺は年上好きのはずだろ年上年上年上年上おっぱいおっぱいおっぱいおっぱいやっぱりおっぱいは最高だな落ち着け。
「紅蓮さん、お気をつけて」
「おう」
リムジンに残る夏世に手を振る。
「夏世のこと置いていっていいのか? 俺としては斉武に会わせたくはないから助かるけどさ。あいついたほうが安全度は段違いだろ」
「こういう真面目な場に子供は連れて行けません」
「そういうもんかね」
そう返されてしまってはそれ以上何も言うまい。政治の話に関してはIQ二百ある夏世のほうが詳しそうだけど仕方ない。
ホテルに入るとどこからともなく支配人が現れて丁重に鍵を渡された。エレベーターに乗って鍵穴に差し込むと、本来表示されていない最上階のボタンを押す。はー、これが高級ホテルっすか。
てかガラス張りのエレベーターじゃん怖ッ。極力そちらを見ないようにしていると、
「紅蓮さんは斉武大統領と面識があるのですよね?」
「ああああああるよ」
「……大丈夫ですか?」
「な、なにが?」
「声色がすぐれないようでしたので」
「知るか。そんなことより斉武がどうしたって?」
右手で左手首を掴むと、落ち着き無くさすった。
「はあ、それなら良いのですが」「私は斉武大統領とお会いしたことがありません」
「そうか、アンタ、先代聖天子様の跡継いでまだ一年くらいだったな」
「はい。それで、あなたから見た斉武大統領はどのような人なのですか?」
「タテガミの生えたゴリラ」
「……容姿について言っているのでしたら、私だって写真くらい見たことがあります」
「あー……じゃあ、独裁者。俺は『大阪エリア』にだけは絶対に住みたくないね」
聖天子は目をぱちくりさせていた。
「誰に聞いたって同じこと言うだろうけどな。市民に十七回は暗殺されかけてるのも有名な話だし、税金だってクソ重い。つーかそもそもエリア統治者なんて人類がガストレアに敗北してから一代で大戦直前レベルまで立て直したヤベー奴ばっかだ。聖天子様みたいな若手のことなんか、斉武に限らずエリア統治者は全員認めちゃいねーだろうよ。気をつけろ」
「そう、ですよね……」
顔を暗くさせて俯く聖天子を見て、やってしまったと思う。言い過ぎた。
「ま、まあ、東京エリアほど平和な国なんて、そうそうないだろうけどな」
聖天子が顔を上げる。
「そう、でしょうか」
「東京エリア以外の国は治安クソ悪いからな。差別も酷いし住めたもんじゃねえよ。特に呪われた子供たちは。だから、なんだ。アンタはよくやってんよ」
お世辞でも何でもなく、俺はそう思っている。聖天子は呪われた子供たちへの差別を良しとしない。現に彼女は、呪われた子供たちの社会的地位を向上させて、共生していくための法案を出していた。
聖天子が僅かに頬を染める。
「あ、ありがとうございます」
話をすることで少しは落ち着いた。おっと、もうそろそろ最上階だ。
「私の側、離れないでくださいね」
エレベーターが開く直前「了解」と応えて。開いた瞬間──
視界いっぱいに飛び込んできたのは広い青空だった。
「は?」
半円のドーム状に張り巡らされた六角形の強化ガラス。そこからは地上八十六階からなる無限の広がり。
俺は死んだ。
■
フリーズしていたのは数秒だけで、聖天子に肩を揺すられることで我に返った。斉武め……こんなトラップを仕掛けてくるとは……。
落ち着いて見てみると、ホテルの一室というよりは展望台を応接室にしたといったところか。高所恐怖症でなければインスタにアップしたい洒落た内装ではある。
いつのまにやらエレベーターの脇に立ち、一礼する大柄な男は斉武の護衛だろう。ハイ勝ち~俺の方が強いで~す。バーカバーカクタバレ。
その奥にはデザイナーズソファに腰掛ける男の姿。男はゆったりと立ち上がる。
「初めまして聖天子様」
そして俺の存在に気づくと途端に嫌そうな顔になる。なんだよ死ねよ。
「……何故、貴様がここにいる、天童紅蓮」
「ぼくばいと~」
「フン卑しくも民警の真似事か。天童の女狐にそそのかされて天童を出奔とは……愚かな真似をしたな」
「は? していないが。兄貴にマンション買ってもらってジジイの金で好きな大学に通っているが。お宅の情報網ガバすぎない?」
引っ越したけど。
「口を慎め民警風情が! ここをどこだと心得ている!」
「大学生つってんだろボケたかジジイ。百から七引けるか?」
「貴様殺されたいのか」
「落ち着けってちょっとした冗談だろうがよ。俺、お前、同じ、人間。わかったかゴリラ? わかったなら握手~」
手を差し出すと斉武の護衛から殺意を向けられる。気安く触んなってか。はいはい悪うございました。
手を引っ込めて斉武の顔見たらブチギレてて草。聖天子様は顔真っ青で草。俺、なんかやっちゃいました?(笑)
「相変わらず癪に障るな、貴様は」
「そりゃお互い様だろ」
気に食わないといった感じで斉武は引いた。こいつ毎回喧嘩吹っ掛けてくるから嫌い。
「あの仏像彫りは元気か、紅蓮?」
仏像彫りとは菊之丞のことだろう。菊之丞は政治家としての顔以外にもう一つ、『仏師』としての顔がある。それも人間国宝に指定されるほどの。ちなみに蓮太郎はその弟子だったりする。
「もうあんま彫ってねーよ。弟子が出奔しちまったからな。てか気になるんなら菊之丞がいる時に来いや」
「お前は隙あらば煽ってくるな。自殺願望でもあるのか?」
「ねえよ。さっさと話始めてくれ聖天子様。普通に怖いこの高さ」
「え、ああはい、そろそろ本題の方に入ってもよろしいでしょうか、斉武大統領?」
■
それから二時間をかけ、第一回の非公式会談は終了した。日はすでに落ちている。
今回の会談では望んだ進展もなく、聖天子と斉武が決して相容れない不俱戴天の敵だと理解できただけだ。
「そんなに落ち込むなよ」
動き始めた車内で聖天子に声を掛ける。
「別に落ち込んでなど──」
反論しかけて首を振る。
「そうですね、少し……。漠然と、こちらが誠意を持って話せば、どんな人でもわかってくれると信じていたから、なおのことそう思うのかもしれません」
「それが普通だろ、気に病むことじゃない。斉武は菊之丞に限らず他エリアのトップでさえ手を焼く暴君だ」
「紅蓮さんは斉武大統領以外のエリア統治者とも交流があるのですか?」
「仲は悪いけどな」
聖天子が笑うことで、車内の張りつめた空気が和らいだ。
そこでふと嫌な予感がして、窓の外を見る。夏世も感じたらしく警戒を強めている。
巳継の忠告が脳裏をよぎる。会談の内容からして斉武が何か仕掛けてくる可能性は十分に考えられる。
聖天子のすぐ隣に移って事態に備える。来るッ。
聖天子に覆いかぶさると同時。ガラスの破砕音と車の急ブレーキ。聖天子が悲鳴をあげる。そのまま車体が横に滑って標識に激突した。狙撃されたッ?
「夏世、運転手連れて出ろ!」
聖天子の手を引いて車外に出た直後にビル屋上で
「紅蓮さん、すみません、私、腰が抜けて……」
延珠ちゃんが猛スピードでこちらに駆けてくるのが見える。その後ろには蓮太郎や護衛官たち。だが三発目に間に合いそうにない、まずい。
「紅蓮さん、次が来ます!」
三回目の
「ハアアアアアアッ!」
甲高い衝撃音。司馬重工製の戦闘用ブーツで狙撃弾を弾き飛ばす。吹き飛ばされて何度もバウンドして転がった。
「クソがッ! 絶対足の骨折れた!」
通常なら足が吹き飛ばされていてもおかしくないところだが、そこは(銃器と爆薬以外は)安心安全の司馬重工。さすがの高性能。
護衛官@ポンコツたちが駆け付け、聖天子の肉壁になりながら後退していた。ひとまず危機は去ったか。
夏世に支えなられながら遠方のビルを睨む。目算で一キロ。視界の悪いこの状況で正確無比な三連発。常軌を逸した技量。
聖天子暗殺未遂。斉武の独断なのか、あの組織の総意なのかは不明だ。しかしこれが単なる脅しではなく、明確な殺意があったことは俺でもわかる。
また面倒なことになったなとため息をついた。
政治的な話を全て飛ばす学のない私を責めないでやってください。
ちなみに紅蓮に政治的な話をすると寝やがります