天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
それは
本来であれば護衛の問題点を明確にし、次から事件を未然に防ぐための話し合いをするべきだというのに、『帰りのルートに狙撃手が待ち伏せしていたのはどうしてなのか』という責任の押し付け合いしか行われていない。
最初はその様子を会議室の端でぼんやりと眺めていた俺だったが、護衛隊長の保脇卓人から名指しで犯人扱いされてしまっては積極的に参加する意思を見せないわけにもいかなかった。
鬼の形相で「コイツらが犯人です!」と訴える保脇にはもはやエリートらしい品性は感じられない。
そもそも今回の件で責められるべきは警護計画書を作成した彼ら護衛官のはずであって、なんの嫌がらせか
『いままで一度として聖天子が狙われることはなかったのに、こいつらが雇われた途端、聖天子の暗殺未遂が起きている。ゆえにこいつらは暗殺者と内通している』
馬鹿馬鹿しい。
明らかに無理のある訴えであったが、数々のライバルを蹴落として護衛隊長の座を得ただけあって、屁理屈をそれらしく伝える能力はあるらしい。俺が弁解しようとしても「騙されるなッ」だの「みなさんこいつの意見を聞いてはいけません」とことごとく遮られてしまった。
そうすると瞬く間に劣勢に追いやられる。このままではまずいと思うも、この場に俺の味方は誰一人として存在しない。
『呪われた子供たち』と手を組み、争いに身を投じる民警の立場は当然危うい。危険な職種であるためヤクザや犯罪者まがいの野蛮な連中が多いのも要因か。
それが例え天童菊之丞の息子で東京エリアの救世主だとしてもだ。それだけ『赤目』への差別意識は強いともいえる。
好き勝手に振る舞う護衛官たちに不満を抱いている職員も少なくはないはずだが、委縮してしまっていて俺を擁護する状況は期待できそうにない。敵の敵は味方かもしれないが、敵の被害者はなかなか味方になりえないのだ。
それにしてもこいつ、どうやら蓮太郎やイニシエーターよりも俺のことを貶めたいらしい。俺がこいつを嫌うように、こいつもまた俺のことを憎しみを持つほど嫌っている。
あきれ果てて言葉も出ない。それを保脇は好機と捉えたのか目をギラつかせたところで流れが変わる。
聖天子が乱入してきたのだ。
『天童紅蓮を雇ったのは聖天子の意思であり、その紅蓮を疑うということは聖天子の判断を疑うということ。なにより東京エリアを救った英雄を犯人扱いするとはどういうつもりだ』
聖天子は厳しい口調で保脇に言いつけた。国家元首にそうまで言われては押し黙るしかない。保脇は言葉も出ないといった顔で席に座った。しかしその目は修羅の如く燃え上がっており、奴がこの程度で引き下がるとは思えなかった。執念深い男だ。
以前聖天子の秘書を務める清美さんから聞いた話だと、保脇は、俺と聖天子の仲を民警と国家元首の関係以上の何かがあると勘違いしているらしい。たしかに古い友人ではあるが彼女が『紅蓮』と呼ぶようになった理由もロマンチックなものではないし、彼女自身俺のことは信用のおける友人くらいにしか考えていないだろう。
清美さんは「本当になにもないのですか?」とからかってきて俺は「まさか」と笑った。
まあ、清美さんいわく、彼女の周囲で親しい異性など俺しかいないのも事実らしいが。
そこからも実りのない話を続けて会議はお開きとなった。
最後まで責任の擦り付け合いしか行われず、マトモな防止策も提示されない。そして誰一人として暗殺の依頼人を暴こうとしない。
仮に──いや、十中八九そうだが斉武宗玄が今回の事件の黒幕だとして、それを問題にしようものならたちまちエリア間の戦争に繋がりかねない。気持ちはわからないでもないが聖天子が第二回の会談を行う気でいるのだから、絶対に考えなければならないことだった。
さて、聖居の人間が役に立たない以上、できる限りのことは
と言っても俺と蓮太郎、それから延珠ちゃんに出来ることは少ない。夏世は……頭良いからいろいろやってくれているが俺には理解できない分野なのでひとまず任せることにした。
蓮太郎は巨大兵器会社『司馬重工』のご令嬢、司馬未織に協力を仰ぎに行くと言っていた。
司馬重工は俺や蓮太郎に武器類を提供してくれているパトロンだ。立場上CM撮影の協力は難しいが、こちらはこちらで新製品のテスターをしたり、実際に武器を使うことで宣伝したりと協力している。
ある程度序列が高くなると国から個人情報を管理されてリストに上がらなくなるため宣伝効果は薄い。理由はさまざま考えられるが、他国からの引き抜き、拉致、暗殺を防ぐためだろう。そのため
以前はどうか知らないが、蛭子影胤テロ事件以来、蓮太郎は民警たちの間で有名人になっているためこれ以上ない適任者ではある──のか? 名前は売れていても顔までは出回っていないと思うのだが。英雄呼ばわりされる以前は下から数えた方が早かったくらいだし。
逆に、扱いにくい『天童』であり、情報を秘匿された元高序列者の俺に宣伝効果はほとんど無い。それでも支援が続いているのは昔馴染みのよしみと、『闘神』伊熊将監のイニシエーターだった夏世のおかげだった。……ヒモみたいだな、俺。もちろんちゃんと働いてます。
ちゃんと働いている俺は、聖居の職員に頼み込んで、聖天子宛てに届く脅迫状や犯行予告などを管理する保管庫にいた。
「……想像以上だな、これは」
その膨大な量に、顔をしかめた。
今回の暗殺未遂事件、黒幕はともかく、警護計画書が漏れていた以上、聖居内部に協力者がいることは間違いない。
そちらの調査となると俺ひとりでは無理があるので、城ヶ崎と芦名に手伝わせようと思ったのだが、あいつら「冗談じゃない!」と逃げやがった。本当に使えない奴らだな。
資料を手に取って読み上げる。
「『お前を殺してやる!』──は赤目のアンチか? 『君は僕だけのものだよ。聖天子様の──に僕の──を』……いい歳して恥ずかしくないのかね?」
とりあえずファン(?)からの手紙は無視する。協力者はやはり呪われた子供たちに恨みを持つ者である可能性が高い。
期待していたわけではないが、やはり一通り目を通しても参考にはならなかった。
とりあえず今日はもう帰ろう。
職員に挨拶して、聖居を後にする。
すると、出てすぐの場所で蓮太郎が金髪ロリに餌付けしていた。
……そういうことするからロリコン疑惑が晴れないんだぞ。
■
延珠ちゃんと蓮太郎が菫先生から呼び出されたということで、俺も病院へ向かう。俺にもかかわる大事な話だと知っているからだ。
勾田公立大学付属の病院の地下──そこにある霊安室が菫先生──室戸菫の住処だ。
悪魔のバストアップが刻まれた扉(どういう趣味してんだ)を開けた瞬間に、ここを訪れたことを後悔した。
菫先生がテーブルの上に大の字になって笑い転げている。試験管やビーカーを除けもせずに暴れるものだから、それらが次々と床に落ちて割れていく。もったいねえ……。
「ハハ、ハハハハハ! おや紅蓮じゃないか。これを見てくれ! ヤクザが月移住計画に騙されたという記事なんだが──」
……そしていつにも増してうぜえ。
それからたっぷり二分ほど魔女のような高笑いを続けてようやく満足したらしい。
それまで無視を決め込みガラス片の後片付けをしていた俺だったが、彼女が立ち上がったところでようやく視線を向けた。
「
病的なまでに青白い肌、伸ばし放題の長い髪、床を引きずるほどに長い白衣。どこか浮世離れした雰囲気は幽霊のようだが、よく見れば絶世の美女だ。
室戸菫。
『バラニウム』の発見者にして、機械化兵士プロジェクト日本支部の元最高責任者。日本最高の頭脳の持ち主であり、蓮太郎の執刀医だ。
余談だが、彼女は義肢装具の分野にも精通しているため、俺の勉強を見てもらったりもしている。
「それにしても君、背伸びしたい年ごろなのはわからんでもないが、ここに来るときは香水と整髪料は落としてきてくれないか? 頭が痛くなりそうだ」
「そういう菫ちゃんは芳香剤の臭いがキツすぎるけどな」
「私はいいんだよ。なにせもうずっと風呂にも入っていないからな。君が蓮太郎くんの足の臭いに興奮する変態という事実を差し引いても耐えられるものじゃないよ」
「自分で言うな! シャワーくらい浴びて床に散乱した下着を捨てろ。目のやり場に困る。あと俺は変態じゃない」
「なんだ、気になるのかい? 仕方ない大サービスだ。君がミイラになったら頭に被せて入口に飾ってやろう」
「帰りてえ……」
ケタケタと笑う菫先生。
「菫、遊びに来たぞ!」
そこで元気よく延珠ちゃんがやってきて続いて蓮太郎も入ってきた。
──助かった!
芝居がかった調子で二人を歓迎した菫先生だったが、彼女の熱い歓迎はその程度では終わらない。弄りがいのある若者二人を徹底的に遊びつくしてようやく本題に入った。
「遅れたけどおめでとう。君たちは蛭子影胤を倒し、序列の階梯をかけあがることをきめた。君も序列千番という高位序列者の列に加わったわけだから、そろそろ気を付けておかなければならないことと、私以外に存在する三人の天才について話しておかなければならないと思ってね」
「それって……紅蓮兄ぃの執刀医だっていう……?」
蓮太郎には何度か話して聞かせていた
「そうだ。日本支部『新人類創造計画』室戸菫、オーストラリア支部『オベリスク』アーサー・ザナック、アメリカ支部『NEXT』エイン・ランド、そして──」
「菫先生、そこから先は俺が。プロジェクトの最高責任者であり、俺たち
お前も知っての通り、俺が天童の屋敷で死にかけた日、俺はその日本支部に運び込まれたんだ。そしてあいつの元お気に入りになったってわけだ」
「でも、プロジェクト参加者は戦後まもなくして始末されたって言ってたよな?」
「正確には違う。生体強化兵は機械化兵士と同時進行されていたプロジェクトで、コストだって機械化兵士同様馬鹿にならない。
呪われた子供たちの存在が確認された以上、続ける意味がなくなった……ってのが表向きの理由。そもそも生体強化兵と言っても
身体の弱い患者や欠損のある患者向けに行われた、筋組織を弄ったり皮膚を弄ったり、感覚を鋭くしたりしただけの機械化兵士の練習台から、サイボーグとはまた違った次世代の人類を生み出す実験だとか──ちなみに俺は後者寄りだな。処分されたのは後者だけで、前者は今でも普通に生活してるはずだよ。研究内容も詳しくは知らないだろうしな。
で、後者が処分された理由だけど、彼らと人類に深い断絶が起きた。まさしく新人類に片足突っ込んだ彼らは、仲間内での特殊なコミュニケーションしか取らなくなり、他生物への興味関心を失っていった」
「そんな馬鹿な……」
愕然とする蓮太郎に、菫先生が話を纏める。
「蓮太郎くん、残念ながら全て事実だ。グリューネワルト翁は大戦後の短い期間で、本物の新人類を創造しかけたんだ」
「……そんなの、神の領域だろ」
「そうだ。そしてそれが、グリューネワルト翁が我々『四賢人』を統括する所以だよ。悔しいことにね」
菫先生が自虐的に笑った。当時の菫先生は、ガストレアに恋人を食い殺されたばかりというのもあって、グリューネワルトの天才性に激しい嫉妬と怒りの感情ばかりを向けていた。現在の菫先生しか知らない延珠ちゃんには想像もつかないだろう。
「じゃあ、紅蓮が処分……されなかったのは何故なのだ? 皆死んでしまったんじゃないのか?」
延珠ちゃんが腕組しながら首を傾げると、蓮太郎はたしかにと呟いた。
「俺はあの人のお気に入りだったからなあ……。でも一番は、俺、人間やめるつもりなかったから」
今度は蓮太郎も首を傾げた。菫先生がクク、と愉快そうに笑う。
「蓮太郎、お前だよ。お前と木更を守りたくて俺は天童流を習って、力をつけたんだ。それなのに人間やめて
だから俺は、急速な進化に身を委ねなかったし、研究者とのコミュニケーションも続けたんだ」
「紅蓮兄ぃ……」
「そのせいで中途半端に進化しちゃって、それがグリューネワルトのお眼鏡に叶っちゃったんだけどな」
言い終えてなんだか恥ずかしくなってくる。しんみりした空気を変えたくて、
「だから覚醒したら延珠ちゃんより強かったりして」
と、がおーと威嚇のポーズをすると、延珠ちゃんも「負けないぞ!」と威嚇のポーズで返してくれた。何この可愛い生き物。
「さて、そしてここからが本題だ。そんな天才が生み出した機械化兵士たちは、そのほとんどがプロモーターとして活動している」
タイミングを見て菫先生が話を再開させると、各々居住まいを正す。
蓮太郎に暗い表情はすでになく、瞳には強い意志が宿っていた。俺の話でそこまで覚悟決められると照れますなあ。
「蓮太郎くん、君が自分の出自を追うと決めたならば、私はとりたてて反対はしない。だが並みいる敵を倒し最高レベルの機密情報キーを手に入れるために超々高位序列者を目指すなら、遠からず彼らが作り上げた機械化兵士のプロモーターともぶつかることになる」
「ああ」
「だが蓮太郎くん、君はすでに、グリューネワルト翁の機械化兵士を倒している」
「まさか、蛭子影胤かッ?」
あの変態仮面、兄弟だったのか……。最低の気分だ。
「俺だって覚醒してりゃ勝てたんだけどな」
「仕方ねえよ紅蓮兄ぃ、相性だってあるんだし」
まあそれはそうなのだが。俺には影胤の装甲を破る破壊力がない。しかし影胤に勝利した蓮太郎にも、さっきは「延珠ちゃんより強かったりして」などと言ったが彼女にも負ける気はしない。
「新人類や神様といえど、万能ではないというわけだ」
菫先生の話はそこで終わった。
「蓮太郎くん、紅蓮、悪いが君たちは先に帰りたまえ。これから、延珠ちゃん向けの話をする。君たちには聞かれたくない」
「おい、先生まさか──」
「違う」
蓮太郎が菫先生を睨みつけ、彼女は、それを否定する。
俺が知らない話ではあるようだが、延珠ちゃんにも隠してることってなんだ?
そうして俺たちは延珠ちゃんを残して病院を出た。
「悪い、紅蓮兄ぃ。さっきのことは今度ゆっくり──」
と、蓮太郎の言葉を遮るように俺の携帯が鳴った。
断りを入れてから携帯を取り出す。蓮太郎は少し離れてから立ち止まった。どうやら待っていてくれるらしい。
「はい」
『紅蓮さん大変ですッ』
悲鳴じみた夏世の声に意識を切り替える。依頼に関係する話だろうか。すぐさま蓮太郎を呼んでスピーカー機能をオンにした。
「何があった」
『天童民間警備会社が何者かに襲撃され、現在天童社長が──意識不明の重体です』
作品タイトル長すぎて覚えられない作者です。
というわけでTwitterのフォロワーさんにタイトルの略称を考えてもらいました。
「天転破(てんてんは)」
技名っぽい。ありがとうございます!