天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。   作:紅銀紅葉

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誰が何と言おうと、エイン・ランドはロリコンです。


プロフェッサー・ランド。どうして貴方は、ロリコンのくせに抑制剤を座薬に改良しないのですか?

 蓮太郎は体当たりするような勢いで病室に飛び込んだ。

 中にいた医者と看護師がぎょっとして立ち上がるが、気にしている余裕などなかった。遅れて紅蓮も飛び込んできて、二人は木更が横たわるベットに駆け寄った。

 まるで大量の礫がぶつかってできたような痛々しい傷跡がいくつもあったが、命に別状はないらしい。そのことにひとまず安堵するのと同時に、耐え難い怒りが込みあげてくる。

 蓮太郎はこんなにも弱々しい木更の姿を見るのは初めてだった。普段の高潔な姿には程遠い。

 

 そもそも一回目の聖天子暗殺が阻止された段階で、暗殺の弊害になる天童民間警備会社に敵意が向くであろうことに気が付くべきだったのだ。

 蓮太郎は天童木更を守るために強くなった。兄弟子たちの協力があったとはいえ、何とか蛭子影胤にも勝利した。大切な人を守れるくらいに強くなったと、思いあがっていた。

 

「ごめん木更さんッ、ごめん……! 俺のせいだッ」

 

 木更の手を祈るように握って、謝罪の言葉があふれ出してくる。

 

 そこで蓮太郎の隣で、紅蓮が立ち上がる気配があった。紅蓮は医者にいくつか質問して病室を出ていってしまった。

 

「……木更さん。すぐ戻るから」

 

 蓮太郎は木更の顔を見て、もう一度強く手を握ってから紅蓮のあとを追った。木更から離れたくはなかったが、紅蓮の様子があまりにおかしかったため、このまま放っておく気にはなれなかった。

 

 歩調を早めて廊下の角を曲がると、すぐに紅蓮の背中があった。腕をつかんで引き留める。

 

「待ってくれ、どこ行く気だよ?」

 

「……お前には関係ない」

 

「関係ないッ? アンタが俺を指名したんだろッ!」

 

 言ってから失言だと気付く。何を言っているんだ自分は。リスクを込みで依頼金を受け取っているのだ、紅蓮に怒りをぶつけるのは筋違いだろう。

 

「……そうだな、お前の言う通りだ。この依頼を降りろ、蓮太郎」

 

「なに?」

 

 紅蓮から発せられた言葉に耳を疑う。

 

「ここから先は俺一人でやる。夏世もバックアップに専念させる」

 

「無茶だッ。アンタ怪我もまだ完治してねえだろ。その状態で聖天子様を守り切れるはずがない」

 

「なら斉武のもとへ直接乗り込む」

 

 何を言って──

 

「紅蓮さん! 里見さん!」

 

 叫ぼうとしたところでロビーで待っていたはずの夏世が駆け寄ってきた。

 

「夏世? どうした?」

 

「それが……」

 

 夏世の背後、そちらから筋肉質な大男が乱暴な足取りで向かってきていた。

 荒々しく逆立った金髪、特徴的なドクロのフェイススカーフ。蓮太郎たち睨む三白眼。

 

「オイ、ガキ。いつまで待たせるつもりだ」

 

「伊熊将監──⁉」

 

 将監は紅蓮の前で立ち止まると、苛立ちをあらわにして顔を近寄らせた。

 序列元千番台、夏世の元プロモーター。防衛省で蛭子小比奈に両腕を切り落とされたため、民警稼業は引退したと聞いていたのだが。

 そんな人物がどうしてここに……? 

 困惑する蓮太郎に夏世は耳打ちする。

 

「将監さんは天童社長の護衛に協力してくれたんです」

 

「なッ──コイツがッ⁉」

 

 思わず素っ頓狂にに叫んでしまった。ここが病院内だと思い出してボリュームを下げる。

 

「嘘だろッ?」

 

 この男と蓮太郎には浅からぬ因縁があった。蓮太郎は防衛省に召集された際、この男に一方的な暴力を振るわれていた。比較的若い民警である蓮太郎は、同業者からよく思われないのが常だが、この男はその傾向が特に強い。

 そんな男が蓮太郎と二つ三つしか年の離れていない紅蓮に協力していたというのか? 

 

「私も最初は驚きました。ですが、紅蓮さんから優秀な義肢装具士を紹介されたとのことで……」

 

 言われて将監の手元に視線を向けた。確かにそこには本物の手と変わりない精巧な義手があった。

 天童民間警備会社に危険が迫っているのではないかと察知した夏世は、すぐに蓮太郎や紅蓮に電話をいれたらしい。しかし返信がなかったため、偶然居合わせた将監に協力を要請したそうだ。駆けつけた時には木更と暗殺者の戦闘は始まっていて、二人が加勢した途端、不利に思ったのか逃げだした。というのが事の顛末だった。

 それにしてもこの男、義手を使うようになってまだ間もないはずだというのに、もう剣を握って戦ったというのか。将監の背中にある漆黒のバスターソードを見て舌を巻く。

 

 それでも紅蓮の瞳は冷めたままだった。

 

「何の用だよ」

 

「『何の用だよ』じゃねえんだよボクちゃん。俺はテメエの妹を助けた、これで貸し借りなしだ。舐めた態度取ってるとぶった斬るぞ」

 

「アンタじゃ無理だ」

 

「ンだと!?」

 

 一触即発の空気になりかけるも、今度はさすがに夏世が止めに入っていた。

 

「やめてください、そんなことしてる場合じゃないでしょう。それにバックアップに努めていた私からは確認できませんでしたが、将監さんは犯人の顔を見たそうなんです」

 

「本当かッ?」

 

 将監はこちらを見向きもせず鼻を鳴らした。

 

「あのクソガキ、次会ったらぶっ殺してやる」

 

「ガキ? ということは暗殺者の正体はイニシエーターか?」

 

 蓮太郎は顎に手をあて前回の襲撃を思い出す。

 狙撃手がいたとされるのは現場から一キロほど離れたビルの上だった。それほど離れた位置からほとんど誤差なく三発連続で撃ち込む神業。蓮太郎はその人間離れした絶技から、相手は機械化兵士ではないかと疑っていたが、特殊能力を持つイニシエーターである可能性を度外視していた。まだ幼い少女が暗殺を生業にしているとは考えたくなかったのかもしれない。

 

 紅蓮が何かに気付いたのか、目を見開いた。チラと蓮太郎を見やってから尋ねる。

 

「そいつの特徴は?」

 

 億劫そうに将監が答えた。

 

「──ドレス姿の金髪のイニシエーターだ」

 

 ──え? 

 

 蓮太郎の脳裏を一人の少女の姿が過った。まさか、いやそんなはず……

 

「蓮太郎。聖居で会っていた子供──」

 

「やめてくれ紅蓮兄ぃ」

 

 食い気味に紅蓮の言葉を遮り、一瞬過った最悪の考えを否定する。

 違う。そんなはずがない。次々と思い起こされる彼女の不審な言動。その全てが気持ち悪いほどに暗殺者の人物像に合致していく。

 

 絶望に顔を歪める蓮太郎。それを敏感に嗅ぎ付けて将監が詰め寄った。

 

「ガキ、テメエ知ってんだろ」

 

 粘つく眼差しに耐え切れず、自分に問題があると自覚しつつ目をそらしていた。

 

「黙れ、アンタには関係ねーだろッ」

 

 次の瞬間、蓮太郎の頭に強い衝撃。

 

 勢い余って背中から壁に叩きつけられる。蓮太郎は混乱しつつも、将監とのファーストコンタクトを思い出していた。

 

 ──頭突きだと? それも前回よりずっと速い。

 

 苛立ちあらわに追撃しようとする将監。その頭部に紅蓮のハイキックが突き刺さった。今度は将監がなすすべなく床に倒れ伏した。

 

「寝てろカス」

 

 弟弟子である蓮太郎でさえ恐怖する一撃。義眼を開放していなければ目で追うことさえできない速度。それでいて身長百八十はある巨漢を一撃でノックダウンさせる威力。

 これが天童紅蓮の本領。天童式戦闘術で免許皆伝同等の実力を有する者。

 

「イニシエーターの名前教えろ」

 

 紅蓮は無表情のまま蓮太郎を見下ろす。しかし蓮太郎には酷く冷徹なものに見えて、首筋がゾクリと震えた。

 

「違う、アイツは、そんなはずないんだ」

 

「いいから言えよ。聖天子様の権限で、IISOに照会するだけだ」

 

 蓮太郎はグッと目を閉じて、開く。その一瞬の間にどれだけの逡巡があったことか。

 

「ティナ……ティナ・スプラウトだ……」

 

 聞いて紅蓮は一切言葉を返すこともなく携帯を耳に当てる。相手は聖天子だろう。五コールほどの沈黙の後、紅蓮が口を開いた。ティナの名前と身体的特徴のみを伝えて電話を切る。

 

 騒ぎを聞きつけたらしい医者には夏世が事情を説明し、気絶した将監はどこかに運ばせていた。意識を取り戻したところで話の邪魔になると判断したのだろう。

 消灯時間も間近だったため外に出たところで、紅蓮のスマホに結果が送られてきた。

 紅蓮は無言でスペックデータを蓮太郎に見せた。

 

 ──ああ、クソ。彼女だ。恐るべき暗殺者の正体は──木更さんを襲ったのは、ティナ・スプラウトだったのだ。

 

 スペックデータと共に送られてきた、アメリカ人少女のバストアップ。欧米系の顔立ちと金髪。大きく青い瞳孔は、写真でも眠たげに細められている。どことなく植物のような雰囲気を持った少女。それは蓮太郎がよく知るティナ・スプラウトそのものだった。

 まだあどけなさの残る彼女の写真を見ていると、湧き上がる憎悪と愛おしさがぶつかって思考を止めてしまう。

 どうしてッ。ティナ、どうしてなんだ。

 悪い奴じゃなかった。好意を抱いていた。相手もそうだと信じていた。

 

『ティナ・スプラウト』『モデル・(オウル)』『NEXT』

 

 情報が断片的にしか入ってこない。しかし──

 

 序列──九十八位。

 

 紅蓮や彰磨でさえ苦戦した蛭子影胤より遥か上。その絶望的な数字だけはしっかりと刻み込まれていた。

 

 

 

 ■

 

 

 

「お前はもう戦えない。依頼は俺一人で続ける」

 

 今にも泣きだしてしまいそうな弟に告げる。

 夏世を連れていくつもりもない。彼女にはバックアップに専念させるつもりだ。

 

「嫌だ紅蓮兄ぃ、俺はアンタを行かせたくない」

 

 しつこく縋る蓮太郎に苛立ちが募る。

 

「いい加減に──」

 

「だって紅蓮兄ぃ──あのとき(・・・・)の木更さんと同じ顔をしてる」

 

 悲痛に訴えられて心臓がドキリと跳ねた。

 

「ティナは……紅蓮兄ぃが嫌う『手遅れ』な人間じゃない。違うんだ。アイツ、俺と話してるとき、辛そうにしてた。突然立ち去ってたのも、今思えば何らかの命令を受けていたからなんじゃないか?」

 

「……彼女の動きは、人を殺すことに恐れを抱いているかのようにぎこちないものでした。以前の私──将監さんのイニシエーター(道具)だったころの私に近いものを感じました」

 

 どうやら夏世も蓮太郎側に立つらしい。毒気を抜かれたというか、急激に頭が冷えてくる。

 

「……その言い方はずるいだろ」

 

 ため息をついて露骨にしょうがねえなぁ感を出して威嚇。けっ。バーカバーカマヌケ。お前の兄ちゃん悪徳政治家。

 

「……未織と先生に電話しろ、作戦立てるぞ」

 

 

 

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