天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
予想はしていたが、自分は外れを引かされたらしい。
主から送られてきた警護計画書は偽物だった。内通者が露見した形跡はないとの事だったが、容疑者全員に偽の計画書を流されていたとすれば。聖居の内務調査班も無能ではなかったというわけだ。
しかし第二回の会談場所はすでに掴んでいる。いまからならまだ、聖天子が会談場所から出たところを狙える。
視線の先には三人の人影。向こうからは視認できないだろうが、こちらからはハッキリと見えていた。
藍原延珠、千寿夏世、そして──里見蓮太郎。
天童民間警備会社襲撃の直後、ティナは主から送られてきた社員名簿を確認して愕然とした。
総勢三人からなる天童民間警備会社の社員。
個人情報が国に管理されているようで名前だけしかわからなかったが、それでもすぐにあの人だとわかった。
そもそもあの人と初めて会ったのは聖居付近だ。彼があの日あそこにいたのは、依頼主とのミーティングがあったからではなかろうか。
彼の顔を思い浮かべるたびに、愛おしさに胸が潰されそうになる。
「どうして──ッ。どうしてなんですか、蓮太郎さんッ!」
■
「蓮太郎、近いぞ」
三十九区都市中心部。五感に優れた延珠が敏感に異変を察知する。
「周囲の警戒は任せてください、里見さんは今のうちに戦闘準備を……」
「ああ」
蓮太郎は右腕と右足の裾をまくる。
わずかな痛みのあとみしりと音がして右腕と右足に亀裂が入る。人工皮膚が反り返りながら剝落。月の光を反射するブラッククロームの義肢が現れる。
同時に義眼開放。左眼に仕込まれた義眼内部が回転し、蓮太郎の思考がクリアになっていく。
木更さんの仇を討つために、紅蓮兄ぃの期待に応えるために。
そして、この狂った世界の被害者であるティナを救うために。
「さあ決着をつけようぜ、ティナッ!」
■
二十時半。第二回非公式会談が行われる料亭。
斉武宗玄は苛立っていた。
会談の開始時刻は二十時から深夜の予定だったのだが、いつまでたっても聖天子が現れない。
しかし怒りの理由はそれだけではなかった。
第一回目の会談での聖天子暗殺の失敗。
そして会談への往路で決行されたはずの狙撃、その情報が一切届かない。
取り繕うともしない斉武に、彼の護衛は気圧されながらも個室に入った。
聖天子の車が到着したとの報告だった。
「チッ、またもや失敗か。生意気な小僧共め……」
天童紅蓮と里見蓮太郎。
忌々しい天童菊之丞の養子たち。
短期間で序列千位まで登り詰め、東京エリアの英雄とまで呼ばれるようになった機械化兵士。
そして天童式戦闘術を極めた天才で、グリューネワルト主体のプロジェクト、『
忌々しい存在なのは変わらないが、そのどちらもが高い戦闘力を有しており、斉武からすれば喉から手が出るほどに手に入れたい存在ではあった。
しかし──
「天童紅蓮……奴の目的は一体なんだ……?」
斉武は唸りながらも居住まいを正した。そろそろ聖天子との会談が始まる。
しかし部下から伝えられる来訪者の情報に斉武は目を見開く。
次の瞬間、発砲音。
何事かと護衛の男を見れば、脇腹を抑えて蹲っている。
──撃たれたッ? 誰に? そんなの決まっている。
「どうせ普通の人間じゃねえだろ、死にやしねえよ」
宙に吐き出されるような冷たい声。その主が姿を現す。
バラニウムを彷彿とさせる黒に包まれた人型。背には巨大な翼が畳まれるように背負われている。
「天童……紅蓮……ッ!」
「決着をつけようか──斉武宗玄」
憎悪を結晶化したかのような漆黒の青年が、嗤っていた。
■
俺は護衛官を無力化すると、無能な大阪エリアの国家元首の近くに腰を下ろした。
こちらとしては話し合いに応じる姿勢を見せたつもりだったのだが、斉武は酷く気に入らなかったらしい。唾を飛ばして捲し立てる。
「き、貴様、一体何のつもりで……! いや、それよりも、貴様はセラフとして未覚醒だとグリューネワルト翁はッ」
「あーうるさいうるさい。だからお話しましょっつってんだろ。落ち着けハゲ」
コイツ顔怖いんだよ。こっち見んな。
「……聖天子はどうした」
「聖天子〝様〟な。国家元首だぞ、様くらい付けろ斉武」
「俺とて国家元首だ! 口を慎めよ、実験台風情がッ!」
調子戻ってきたじゃん。
「で、聖天子様な。アイツはさっき何者かに暗殺されそうになって、今回の会談は中止だってよ。ひっでぇことする奴もいたもんだ」
「フン、ケツの青い理想主義ばかり唱えるからこうなる。最後通牒はくれてやったよ」
「おや、ずいぶんと簡単に認めるんだな。いまここで殺せない相手にそんなこと言っちゃっていいのか?」
「くだらん。貴様は我らの〝細胞〟だろうよ」
「なんだ知ってたのか」
斉武は軽口を中断するように息を吐いた。
「立場を弁えろ『四枚羽根』。目的はなんだ」
気丈な様子を見せる斉武だが、今の俺には彼の動揺が手に取るように見えていた。
覚醒するとはこういうことなのか。吞気にそんな感想が出てきた。
「……その前に、一つ訂正がある」
俺はそう言うと、右上腕部の変身を解除した。
俺の右腕部には
脊髄を電流が走ったかのように即座に立ち上がった斉武は、金魚みたいに口をパクパクと開いていた。
「なッ……馬鹿なッ⁉」
「五翔会生命科学研究所『新世界創造計画・
──言ったろ? 俺たち〝同じ人間〟だってさ」