天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。   作:紅銀紅葉

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クライシス・ポイント
パンデミックミックニシテヤンヨ


 正面には芝生に直接座る瞳を輝かせた少女たち。背後には二〇三一年とは思えない、年季の入った古びた黒板。

 デジャビュを感じずにはいられない光景にため息を一つ。

 

 既に自己紹介を済ませ横に控えている弟妹に助けを求める。サムズアップする木更。口パクする蓮太郎。なになに……あ・き・ら・め・ろ? ふざけんな。

 

 死んだ目で姿勢を正面に戻す。どうしてこうなった。

 

 天井、無し。壁、無し。机、無し。

 ついでに風も無いため死ぬほど暑い。

 

 東京エリア外周区・第三十九区。青空教室。

 俺はそこで講師をするはめになっていた。

 

 期待に満ちた生徒たちの中には延珠ちゃんやティナちゃん、そして困っている俺を見て満足気な顔をした夏世の姿もある。ホントなんなのお前。

 

 もう一度大きく息を吐くが、憂鬱さが消えることはない。

 

 事の発端は蓮太郎と木更のもとに舞い込んだ、この辺りを住処とするマンホールチルドレンの世話をする松崎さんからの依頼。

 蛭子影胤(蓮太郎曰く生きてたらしい、クタバレ)の策略で学校を移ることとなった延珠ちゃんを青空教室──東京エリア第三十九区第三仮設小学校に転校させた矢先のことだったそうだ。

 

 何故俺が巻き込まれているんだ。

 俺は聖天子が立ち上げたプロジェクトで忙しいというのに。保脇率いる三馬鹿の監視(外周区の子供たちを対象に猟銃を向けて〝狩り〟を行っていた過去がある)や、彼らに『呪われた子供たち』のことを理解させるための更生プロジェクトだってあるというのに。

 まあ松崎さんとは知らない仲ではないし、彼女たちのことを理解するいい機会でもある。

 

 覚悟を決めて口を開いた。

 

「よっしゃあガキどもッ! 何度か会ってるし俺のことは知ってるよな? 新入りにも教えてやれ!」

 

「ブラコン!」「シスコン!」「イキリ大学生!」

 

「ひ、人が気にしていることを……!」

 

 そこはさ、違うじゃん。あるじゃん、こう、なんていうの? 『数年前からたまに遊んでくれるお兄さん』とか『呪われた子供たちを支援する活動をしてるお兄さん』とかさあ……。

 

「まあいい……そんじゃあ俺に質問あるやつッ」

 

「ハイ紅蓮先生! いっつも先生が話してる兄妹が蓮太郎先生と木更先生だって本当ですか!」

 

 バラしやがったこのガキ。なんだよこっち見てんじゃねえぞ木更。なに顔赤くしてんだ蓮太郎。せめて逆の反応しろ。

 

「……本当だ。ちなみにあいつらもブラコンだ」

 

 生徒たちが一斉に二人に視線を向け、弟妹が俺のことを口汚く罵ってくる。ハッハッハッ照れるな照れるな。

 

「ハイ次ー」

 

「これからなんて呼べばいいですか? 先生? それともお兄ちゃん?」

 

「あたかも常日頃から俺をお兄ちゃんと呼んでいるかのように言うのはやめろ。お前ら紅蓮(呼び捨て)だろうが。つーかこの質問考えたの夏世だろ。俺を社会的に殺すつもりか」

 

「チッ」

 

「聞こえってっからなー、次」

 

「紅蓮勉強できるの?」

 

「大学生舐めんなよ。小学校の範囲なんて覚えてるわけねーだろ」

 

「なにしに来たの?」

 

 本当にな。

 

「え、てかお前らそんなに勉強したい? 今日土曜日よ?」

 

「紅蓮兄ぃ、だからさっきも言っただろ? 一般教養科目じゃなくて社会的なことを教えるんだって」

 

「そだっけか」

 

 耳打ちしてくる蓮太郎。そういうことならと、俺は声を張り上げた。

 

終末世界を予習復習! 解説授業! インタールードファッキュー!(FAQ)

 

紅蓮兄ぃそれヤバイやつ!

 

 お黙り! 

 

「今回のテーマは……そうだな、木更こっちゃ来い来い」

 

 手招きすると緊張した木更がカクカクした動きで近寄ってくる。

 

「ここで問題です。木更先生が着てる制服、どこの制服かわかる人!」

 

「え?」

 

 困惑する木更。そんなことは気にせず数名の生徒が元気よく挙手。

 

「ちょっとお兄様、確かに有名な高校だけど子供たちは知らないと思うわよ?」

 

「大丈夫大丈夫。コイツら頭いいから。じゃあそこの君ッ!」

 

「美和女学院です!」

 

「正解です」

 

「ええッ? 知ってるの?」

 

「紅蓮が『美和女学院の制服ドエロイな~、聖天子様に着させて~』って言ってた」

 

「ああ、あの」「いっつも言ってるよね」「私三回は聞いた」「私は五回」「でもじっさいえろいと思う」

 

 どうしてそう、口が軽いのかな君たちは。

 

「……お兄様?」

 

「げ、幻聴じゃねえの? とにかくッ! 今話に出たな、今日のテーマは『聖天子様』だ」

 

「聖天子様テーマにファッキューとか使うなよッ」

 

「なんだよいいだろ本人いねーんだしよ、ファッキュー!」

 

「や・め・ろ!」

 

「あ、聖天子様」

 

 延珠ちゃんの何気なく言われたセリフ。聞き流しそうになってようやく脳が追いついた。

 今なんて言──

 

「ごきげんよう紅蓮さん」

 

 停車したリムジンをバックに、レース付きの日傘を片手に佇む、真っ白い美女。

 間違いなく本物だ。東京エリア国家元首、聖天子その人だ。

 

「少々お話、よろしいでしょうか?」

 

 俺は聖天子の背後に仁王像を幻視して、ワっと泣き出した。

 

 

 

 ■

 

 

 

 外周区から天童民間警備会社に移っての会議。俺たちは聖天子の話を聞いて絶句していた。

 

「聖天子様、確認させてくれ。あと六日で、モノリスが倒壊してガストレアが乗り込んできて、東京エリアはパンデミックで壊滅するんだな」

 

「なにも対策を打たなければ、そうなります」

 

 聖天子が数枚の写真を取り出した。テーブルの上に置かれたモノリス白化写真とガストレアの写真。数日のうちにはモノリスの白化が遠方からでも確認できるようになるという。

 

「ステージⅣガストレア、アルデバランが取りついた三十二号モノリスですが、時間を同じくしてモデル・アントのステージⅠガストレアの侵入が報告されています。幸いなことに、()()()()()()()()()()()()()紅蓮さんによって討伐は果たされましたが、戦闘が終了する頃にはアルデバランは立ち去っていたそうです」

 

「アンタその場にいたのかッ?」

 

「ん。生き残りの自衛隊員ひとり庇いながらの戦闘だったから、マトモな写真は撮れなかったけどな。いま思えばあいつらは、時間稼ぎだったのかも」

 

「『アリの自己犠牲』……か? たしかに、そこまでモノリスの近くにいれば、紅蓮兄ぃがいなくてもいずれは死んでいただろうしな」蓮太郎はアリの習性を利用した囮ではないかという説を唱えた。聖天子までもが納得する説明の後、俺に向き直った。「それにしてもスゲーよ……よく助けられたな」

 

 もう少し早くに現場にいれば犠牲となった隊員も救えたのだが、その場にいたのは本当に偶然だったため割り切っている。

 

「そりゃあもう、空をビューンって飛んでお姫様抱っこよ。それはさながらスーパーマンのように……」

 

「ああ、そう」

 

「あっ、信じてねえだろ」

 

 緊張がほぐれたのか蓮太郎たちの表情が和らいだ。良かった……空飛ぶ練習してたなんて口が裂けても言えないぜ。

 

「話を戻します。バラニウム浸食液を注入し、モノリスから離れたアルデバランの元に、大量のガストレアが集結しつつあります。最終的には結集したガストレアは二千体に及ぶと予測されています」

 

「二千体! 冗談でしょッ」

 

「無茶だ、殺される。全滅だ」

 

 木更の驚愕に、蓮太郎が頷く。勿論俺だって同じ考えだ。

 

「それが起こらないように、私たちも全力で奔走しているのです」

 

 聖天子が言うと、蓮太郎は厳しい口調で聞いた。

 

「聖天子様、アンタ俺たちに何をさせたい?」

 

 聖天子は静かにお茶(木更が淹れたゲロ不味いやつ)に口をつけると、顔を上げた。

 

「紅蓮さんと里見さんにはそれぞれ、『アジュバント』を結成して欲しいのです」

 

 アジュバント──『アジュバント・システム』。政府は緊急措置として、民警を自衛隊組織に組み込んで運用することが可能であり、ようするに部隊を構成する民警の分隊システムのことだ。

 

「代替モノリスの制作と運搬にはどれだけ急いでもあと九日かかります。みなさんにはモノリス崩壊から代替モノリスの建造着手までの三日間、崩壊したラインから侵入してくるガストレアを一匹残らず迎撃して欲しいのです」

 

 聖天子は背筋を伸ばした。

 

「お願いします、国家のために、いま一度力を貸していただけませんか?」

 

 

 

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