天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。   作:紅銀紅葉

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「ろ、ろく、かぶと……むし?」

 里見蓮太郎にとって彼は、憧れの存在だった。

 天童式戦闘術の有段者であり、蓮太郎にとっての高弟であり、一番歳の近い義兄。

 

 天童(てんどう)紅蓮(ぐれん)

 

 彼の想い人の木更と並んで、かけがえのない大切な存在だった。

 

 だから彼が天童の屋敷を出ていったあの日、最初こそ『またくだらないことを言い出したな』と呆れていたが、義兄たちの密会を偶然盗み聞いてしまい蓮太郎は天童家への不信感を募らせることとなる。

 

『奴は大切な弟であるがいかんせん甘すぎる。なにより正義感が強い。我々の計画が表沙汰にでもなれば……』

『だから言ったではないか、あのとき親父殿とまとめて始末しておけば──』

『ふ、ふざけるなッ! 血の繋がりは無くとも、アイツはかけがえのない弟なのだぞッ!』

『口を慎め和光、あまり紅蓮に深入りするな』

 

 こうして蓮太郎は兄が家を出ていった真の理由を察した。

 元より蓮太郎は天童家に期待していない。幼少期に仕向けられた明確な悪意に命を脅かされたあの日から、蓮太郎は天童家を信用していない。

 それでも天童には身寄りの無かった自分を拾い育ててくれた恩義がある。なにより、いまは亡き両親が友人だと言った当主・菊之丞を信じたい気持ちが残っているのは確かなのだ。

 木更に事情を伝えるべきか迷ったが、自分ひとりではどうすることもできない。『天童』の名を持つ彼女にしか動かせないツテもあるだろう。

 

 後日菊之丞を問い詰め、義兄たちが用意したという紅蓮の新居を訪ねたが既にもぬけの殻だった。

 

 紅蓮が行方を晦ませてから三年。未だ彼の消息はつかめない。

 

 

 

 ■

 

 

 

 防衛省庁舎の会議室。

 突如響き渡るけたたましい笑い声に、その場に招かれていた蓮太郎は緊張を高める。

 

『誰です』

 

私だ

 

いや誰だよ

 

 直後、燕尾服の怪人は吹き飛ばされた。

 

 

 

 ■

 

 

 

 追記。いま見つかった。

 

 

 

 ■

 

 

 

 やっべ、なんか勢いでよくわからん仮面殴っちゃった。呪われてないよね? 

 

 平日の昼下がり、自宅で楽しく提出期限本日十八時までのレポートを作成していたら防衛省から呼び出しを食らった。

『単位やべーんすわ』と断ったら、今度は聖天子様(国家元首)から直接電話かかってきて体育館裏来いオラァ! みたいなノリで呼び出された。

 わけがわからないよ。この講義、奇跡も補講もないんだよ? 

 

 会議室にたどり着いてそうそう(遅刻)、きんもち悪い長身の男がテーブルに足乗っけてたから思わず殴り飛ばしてしまったが、俺は悪くないと思う。

 

『ごきげんよう、天童さん』

 

 静まり返った会議室に凛とした声が響く。礼儀正しい挨拶だったがなんだか棘を感じる。

 声の方、特大パネルに映る銀髪の少女と目が合った。どうやら依頼人である彼女は別の場所にいるらしい。背後に映る高そうな絵画や天蓋付きのベットを見るに居所は聖居内にある彼女の私室だろうか。

 

「ごきげんよう、聖天子様。ところでコレ、何の集まりだ?」

 

 ぐるりと首を回し会議室全体を眺め渡す。

 広い会議室の中央には細長い楕円形の卓、その周りには民間警備会社の社長たちと、彼らの傍らでプロモーター(大人)イニシエーター(十歳ほどの少女)が警戒していた。

 

 聖天子は一切表情を崩さない。それに反して彼女の後ろに控える老人の顔は怒りに染まっている。天童菊之丞。聖天子付補佐官にして、俺の養父。気まずくなって彼とは極力目が合わないようにしつつ、聖天子に疑問を投げた。

 

『天童さん……天童紅蓮さん。わたくしはあなたに、直接聖居に来るようお伝えしたはずですが』

 

 聖天子は俺の名を呼んでから菊之丞と木更を見て呼び方を改める。そうだね、みんな天童だね。

 

「いや~、最初の電話だと、防衛省がどうのとか言ってたし──」

 

 ──あんまりジジイと会いたくなかったし。

 

 言外にそんな意思を込めた。

 仮面男を殴り飛ばす際に使った右手をプラプラさせて具合を見る。うーん手首痛いからって言えば提出期限伸びたりしないかな。

 

 俺がパネルから視線を外すと、国家元首の話を邪魔しないよう黙っていた民警たちがざわめいた。

 

「アレ、天童紅蓮か?」

「あああの頭のおかしい」

「東京エリアの『一緒に仕事したくない民警ランキング』一位の奴か」

 

「おい待て、何だそのランキングは」

 

 俺の頭のどこがおかしいというのか。イニシエーターがいないいま、そんな噂を立てられたら仕事無くなるだろうがふざけんな。

 

 陰口を言っていた連中の所属会社を確認しようと卓上の名札を確認していると、「おい」と声を掛けられ振り返る。相手の顔を確認すると、俺は一瞬目を見開いて、すぐに表情を引き締めた。

 少年は表情を険しくして歩みを止めない。俺は構えるでもなくただその場に立って待つ。

 

 俺たちの距離が互いに手を伸ばせば届くほどまでになった時、周囲のざわめきはピークに達し、少年の腕が跳ね上がる。

 そして──

 

 ──俺は迷うことなく少年の腕を捻った。

 

「ぐあああああ! 何すんだッ?」

 

「わお、ごめん」

 

 パッと手を放し両手を上げると、不幸面の少年は腕をさすりながら恨みがましそうに睨みつけてくる。

 

「普通腕を組む流れだってわかるだろ」

 

「俺にそういうのを求めるなよ、わかるだろ」

 

「俺が悪いのかッ?」

 

「久しぶりだな蓮太郎。元気か?」

 

「たったいま元気じゃなくなったところだよ、紅蓮兄ぃ(ぐれんにぃ)

 

 呆れ混じりのため息を吐きつつも、声音は弾んでいる。険しい表情だったのは不格好に笑いそうなのを堪えていたのだろう。かくいう俺も目元に力を入れていなければ笑ってしまいそうだ。

 

「それにしてもいままでどこに……いや、それより今の技、『轆轤鹿伏鬼』か? 凄まじい威力だな」

 

「ろ、ろく、かぶと……むし……?」

 

 そんな長ったらしい名前の技は知らない。蓮太郎は「相変わらずみたいだな」と笑った。

 

「というか木更は? お前が来てるってことは社長であるアイツもいるんだよな……っと」

 

 蓮太郎がさっきまでいた場所を視線でたどって、件の少女の姿を見つける。

 

「なんだいるんじゃねーか。挨拶くらい──アイツ何見てんだ?」

 

「──まさかッ⁉」

 

 蓮太郎がなにかに感付くと同時、木更の視線の先で仮面の男が体を反らせて跳ね起きた。

 俺と蓮太郎は即座に木更の元へ移動して、彼女の前に並び立つ。

 なんかすんごいパンチ(名前忘れた)の衝撃でぐるりと回転した頭を奴は力任せに正面に戻すと、しっかりとした足取りで卓の上に飛び乗った。

 

「お見事、兄弟揃ってなかなかに優秀なようだ」

 

 わざとらしい拍手と共に少しばかりの興味を向けられ、今度は蓮太郎に体制を向ける。

 

「元気だったかい里見くん。我が新しき友よ」

 

 絶対呪い系のあれじゃん。妖怪だよ妖怪。いまの確実に首折れてたもん。しかも目付けられたやつじゃん。

 

「蓮太郎、友達は選んだほうがいい。俺的には菫先生がギリギリ許容範囲内」

 

「奴が勝手にそう言ってるだけだッ。紅蓮兄ぃ気を付けろ、並の民警じゃ歯が立たない」

 

 蓮太郎の握った拳が震えている。僅かに体が強張っていることから、彼らの間に因縁めいたものを感じる。

 この場には数十人と優秀な民警たちが集っているというのに、誰もが唖然として動けないでいた。

 

『名乗りなさい』

 

 沈黙を破ったのはパネルに映った聖天子だ。

 

「これは失礼」

 

 男はシルクハットを取り優雅に礼をする。

 

「私は蛭子影胤。これから世界を滅ぼす者だ」

 

 怖気が走り、咄嗟に銃を抜いた。それにつられるようにして、周囲の民警たちが一斉に、影胤を囲むようにして戦闘態勢に入る。

 

「貴様、なんのようだ」

 

「今日は挨拶だよ。私もこのレースにエントリーすることを伝えておきたくてね」

 

「エントリー? 今回の依頼と関係あるのか?」

 

 なにそれ俺知らない。遅刻したから聞いてない。

 キョドっているのがバレたのか、背後の木更が耳打ちしてきた。

 

「昨日東京エリアに侵入したガストレアの排除と、そのガストレアに取り込まれているスーツケースの回収が今回の依頼よ。中身は──」

 

「──『七星の遺産』は我々がいただく」

 

 影胤の聖天子を煽るような発言に、彼女は観念したように一瞬目をつぶった。それもそのはず『七星の遺産』に関する情報は一介の民警には開示されていない。聖天子一派しか知らない東京エリアの最重要機密。

 そこで疑問が一つ解消される。俺を聖居に招いたのは『遺産』の存在を知っている俺を警戒してか。

 

「おや? 君たちは本当に何も知らされずに依頼を受けさせられようとしていたんだね、可哀想に」

 

 一方民警たちは、聞き覚えのない単語が飛び出したことで困惑していた。

 

「諸君ッ、ルールの確認をしようじゃないか! 私と君たち、どちらが先に『七星の遺産』を手に入れられるかの勝負といこう。掛け金(ベット)は君たちの命でいかが?」

 

「黙って聞いてればごちゃごちゃと」

 

 くぐもった声の主は、バスターソードを構えたドクロのフェイススカーフの大男。

 

「ぶった斬れろや」

 

 そう呟いて男は踏み込んだ。速い。バラニウム製の漆黒の巨剣が影胤の首に迫る。しかし突如横合いから走った凄まじい斬撃に、大男は為す術なく吹き飛ばされた。

 

「ぐあああああ!!!」

 

 バスターソードごと両腕を失った男は、夥しい量の血を流してその場に蹲る。

 

「ざーんねん!」

 

 なにが楽しいのか、影胤は愉快そうに嗤う。

 

「丁度いいタイミングなので私のイニシエーターを紹介しよう。小比奈、おいで」

 

「はい、パパ」

 

 バスターソードの男を斬った犯人が姿を現す。ウェーブ状の短髪、黒いワンピースの少女の手には二本の小太刀。腰の鞘から血が滴っていることから、彼女が会議室(ここ)にたどり着くまでに何人もの職員が犠牲になったことを察して怒りがこみあげてくる。

 少女は影胤の横に並び立つと、スカートをつまんでお辞儀した。

 

「蛭子小比奈、十歳」

 

「私のイニシエーターにして娘だ」

 

 あのイニシエーター、ウチの元相棒より数段は格上だ。少なくとも、序列三百位以内の実力は有しているだろう。そしてそれを従える影胤も……。

 

「では諸君。私はこの辺でおいとまさせてもらうよ」

 

 ハ、と我に返る。逃がすか。

 

「君もしつこいね。それではお返しだ──『マキシマム・ペイン』」

 

 飛びかかった矢先、影胤を取り囲むように青白い燐光が見える。

 直感的に危険を察知したときにはもう遅い。青白いフィールドが大きくふくらんだかと思うと、直後衝撃に襲われる。あっけなく弾き飛ばされた俺は、壁に叩きつけられ血を吐き出した。

 

「紅蓮兄ぃッ!」

 

「なんだいまのはッ」

 

「斥力フィールド。私は『イマジナリー・ギミック』と呼んでいる。

 改めて名乗ろう。私は元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤だ」

 

「……機械化兵士だと? 実在するわけが……」誰かが掠れた声で呻く。

 

「信じる信じないは君の勝手だよ。ところでそっちの君、なかなかやるね。名前は?」

 

 品定めでもするかのように目を細める影胤。テロリストに名前を覚えられるのは嫌だな……。

 

…………薙沢……彰磨だ

 

天童紅蓮くんだね。またどこかで会おう、紅蓮くん、そして里見くん」

 

「おい! 薙沢彰磨だっつってんだろ! 薙沢彰磨! 職業プロモーター、副業探偵の薙沢彰磨をよろしくお願いしますッ!!!」

 

「やめろ紅蓮兄ぃ手遅れだッ!」

 

「そっちの名前で呼ぶなァ!」

 

 一瞬「え? 彰磨兄ぃって民警やってるの?」みたいな空気になりかけたが無視する。

 

「さて、今度こそ失礼するよ。絶望したまえ民警の諸君。滅亡の日は近い」

 

 蛭子ペアは白けた空気に完無視キメて、窓を突き割りそこから飛び降りる。

 

 静まり返る室内。脅威は去った。しかし誰もがその場から動けず、追いかけようとはしなかった。

 

「う、ぐ……」

 

「紅蓮兄ぃ! 無事かッ?」

 

 思い出したかのように訴え始める痛みに俺が呻き声を上げると、我に返った蓮太郎と木更が駆け寄ってくる。

 全く無事ではない。さっきから震えが止まらない。ハナから無理だったのだ。勝算など、あるはずがなかったのだ。

 

 思い出すのは数時間前の電話。

 

『お願いします教授! レポートの提出期限、明日……いや、今日の二十四時まで延ばしてもらえませんか! どうしても外せない用事なんです!』

 

 身体の具合を確かめる。骨にヒビが入っていそうだ。この傷ではまともにパソコンに向かうことは叶わないだろう。

 

「終わった……」

 

「お兄様⁉︎」「紅蓮兄ぃ⁉︎」

 

 ちょ、やめて揺すらないで。痛い、やめて、やめ……やめろ! 

 あまりの痛みと絶望に、俺は意識を手放した。

 

 

 




ネタバレすると主人公の転生特典は「家族に愛される」です。スーパーエリート一家だとある意味チート。
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