天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
『天童紅蓮くん、大学中退おめでとう会』
俺は肩にかかったモールを払い落としながら、頭上で割れたくす玉と垂れ幕を眺める。菫先生の字だった。
勾田大学附属病院地下。熱烈な歓迎だ。こめかみを揉むのが精いっぱいだった。
「……菫先生、俺まだ中退してないから、休学──」
言い終わる前にパンと小気味いい炸裂音。
今度は顔面に金銀のビニール片が炸裂する。二段構えやめろ。
そしていつの間にやら前方に現れた菫先生は、パーティー用の鼻眼鏡と三角帽子を身に着け、ニッコリ……いや、そんなもんじゃないな、ニチャァって感じだ。汚い笑みを浮かべる。
仕上げに口にくわえた
「やあおめでとう紅蓮」
クラッカーを放り投げピロピロを吐き捨てると俺の背中に手を回しテーブル(作業台)に案内される。なに怖いんですけど。
「とうとう君も
「はっ倒すぞ」
「さて君の門出を祝うためにケーキも用意したんだ」
聞いちゃいない。
座らされた席にはケーキ(疑惑)が用意されていた。
ドロドロの粥のような一品。添えられたスプーンで掬ってみれば粘っこくボトボトと零れ落ちた。
「なにこれ」
「ケーキだ」
「これ腐ってねえか?」
「腐ってはいない」
「いやでもなんか酸っぱい臭いする……」
「早く食え。セラフは免疫系が強いんだ、死にはしない」
有無を言わさぬ圧力。突然呼び出されたと思えばこの扱いだ。
この様子なら俺が食うまで本題には入らないだろう。最悪機嫌をそこねて追い出されかねない。
俺は極力ケーキ(疑惑)を意識しないように目を瞑って丸のみにした。
「──クッソ不味いッ!!」
おー、と拍手を浴びながら出されたコップに口を付け、喉の異物感も纏めて流し込む。
「ふむ、この記念すべき日に我々二人だけとは味気ないな。さて、そこでスペシャルゲストの登場だ」
俺の向かいの席に掛かっていた布をはぎ取ると、そこには案の定、防腐処置が施された女の死体が椅子に座らされていた。
「じゃじゃーん、紹介しよう。彼女はエマ。私の恋人だ」
棒読みの登場コール。カオスが止まらねえ……。
「誰だよ」
「言っただろう? 私の恋人だ。補足するなら、君が食べたケーキのパティシエールだな」
「いつ作ったってんだ」
「勿論死後だよ。察しの悪い君でもわかるように言うなら、彼女の胃袋から出てき──」
俺は最後まで聞くことなく、涙を流しながら洗面台に駆け込んだ。
「クソッ! 流し込んだから吐けねえッ!」
菫先生から飲料水を受け取ると、嫌悪感を誤魔化そうとすぐに飲み干した。二杯目三杯目四杯目とあっという間に飲み干して、コーヒーを受け取ってようやく席に戻った。コーヒーの苦みが口に残った違和感を上書きしていく。
「で、何の用だよ?」
話の邪魔になりそうなエマを片付けた菫先生も席について、ようやく本題だ。
「いやなに、君の大学から連絡があってね。大学をやめたとかなんとか」
「休学だよ、別に諦めたわけじゃない」
「なら詳細を話したまえ。彼の話ではかいつまんでしか聞けなかったからね。どうせ大学側に事情なんて話していないんだろ?」
彼……というのは教授のことだろう。機械化兵士プロジェクトに義肢装具士として参加していたそうだ。
「先生には色々教えてもらってたからな、悪いとは思ってるよ」
「そんなことはどうだっていい。なにか相談に乗れることはないかね?」
「……」
菫先生は優しい。普段の言動はだいぶアレだが、いざとなれば頼りになる。人と接点を持つのを嫌うくせに持ってしまえば見捨てない。
俺はそんな菫先生に憧れていたし、周囲で一番子供が思い描く〝大人〟に近い存在だと思っている。
菫先生がこうして進路相談の先生みたいに俺を呼び出したのだって、単位数云々で休学したわけではないと知ってのことだろう。
俺は聖天子のプロジェクトや東京エリアの現状、『呪われた子供たち』や木更──『天童殺しの天童』など懸念材料が多すぎる。実習の多い学部に通いながらでは両立などできやしない。
『五翔会』のことは上手くぼかして伝えると、真剣な表情で考え込んでいた。
「木更のことはともかくとして、君がそこまでする必要はないんじゃないか?」
「俺だってそう思うよ。でもアイツらは学校なんて二の次で首突っ込むだろ」
「蓮太郎くんと木更……か。君は本当にブラコンでシスコンだな。復学する気なんてないだろ」
「そんなことはねえよ。いつかはする」
「そのいつかが来ないからこうしてここに招いているんだ」
真っ直ぐにみられて、言葉に詰まる。俺は菫先生から視線を外して頬杖をついた。
「いいんだよ、別に。大学行ったのだって特に目標なんてなかったからだし、義肢装具を選んだのだって……」
「蓮太郎くんがバラニウムの義肢を使い始めたころ、君は毎日リハビリに付き添っていたな。色々と思うこともあっただろう」
「……あいつさ、毎日泣いてたんだよ。自分はもう人間じゃない、存在しちゃダメなんだ~みたいにさ。だから俺は、いつか俺が人間に戻してやるぞ~なんて言ってさ。本当にそれだけだったんだよ」
しかしいまの蓮太郎は違う。自らを受け入れ、前に進むことを決意した。そしてもう、機械化兵士から戻るつもりもない。
それなら俺は、それをサポートしてやりたいと思うのだ。
「まあ、すべきことがわかったってだけだよ」
これ以上話すこともない。「もう行くよ」と席を立った。
「聖天子様によろしく伝えといてくれ」という言葉に、振り向きもせずに手を振った。
扉をくぐり、外に出たところで声が聞こえた。
──君はもう、人間でいることに見切りをつけたんだな。
扉の奥から、テレパシーめいた菫の声が伝わってくる。
菫先生なら決して表に出すことのない、心痛。
──ああそうだ。俺はもう、そちら側ではいられない。
頭痛がひどい。吐き気もする。いやまあこれはケーキ(疑惑)食ってからずっとだけど。
何故いまになってとも思う。覚醒してから数年がたつというのに、最近になってまた出力が上がってきた。もっと練習してコントロールできるようにならなければ。
また一つ能力が覚醒したのだろうか。最悪の場合、グリューネワルトに会いに行く必要がある。すげー嫌だけど。
■
五翔会生命科学研究所『新世界創造計画・
──彼の覚醒により、新世界創造計画は一気に上の段階に進んだ。我々は文字通り、新世界の入口までたどり着いたのだ。
今後作中で説明する予定ではありますが、BIRDMEN読んでないかた向けにザックリ解説を。
『セラフ』
全身を翼で覆った黒づくめ。普段は背中に翼の刺青みたいになって収納されている。詳しく説明するとキリがないのでそのうち。
紅蓮はセラフになってからも体中弄られているので強化人間でもある。
『
セラフ間での特殊なコミュニケーション(テレパシー的な)を人間とも行えるようにする能力。
セラフの特化能力は大きく三つの体系に分けられ、セラフ間のリンク能力の派生系、頭脳や肉体の変化や強化系、その二つの混合型となる。
繫ぐ者はこのうちどれにも属さないイレギュラー。
人間とセラフを繋ぐ能力です。
他にも色々用語出してるけど、BIRDMENの設定とは違う意味で使ってたりもするからごめんなさいって感じ。