天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
「つーわけなんで君たちには陰でコソコソとガストレア殺しまくってもらいたいわけよ」
アルデバラン討伐のために組織から借りた機械化兵士が三名。俺は彼らに指令を出すため、民警軍団の前線司令部が置かれている拠点から数キロ離れた場所にある廃墟にいた。
「嫌ですよ、僕に命令しないでください」
食い気味で断ってきたのは巳継悠河。マジで腕折りたい。
「いやお前のことはそもそも呼んでないから。勝手に来て勝手に断るってなに? 暇なの?」
「教授に言われて仕方なくです。教授からは、貴方の邪魔にならなければ好きに動いていいと言われています。ここにいるのはまあ──ただの様子見です」
「あっそう冷やかしなら帰ってね邪魔になってるから」
すでに興味を失ったのか言われた通りに帰る巳継。なんなのあいつ、まさか覚醒したって聞いて見に来た感じ? 闇の深いストーカーだな。
「相変わらず陰気なやつ。教授の意識が自分以外に向いてるからって焦りすぎでしょ。ダサ」
中学生くらいだろうか。ぬいぐるみを抱えた長い髪の少女が、悠河の背に憫笑を向けていた。
「えーと、君は……ハミングバードだったか?」
「ええそうよ、私がハミングバード。よろしくお兄さん」
甘ったるい香水の匂いとメルヘンチックな格好、トドメにぶりぶりした猫撫で声。間違いない、地雷だ。
「はいはい久留米リカちゃんねよろしく……おえ」
「ちょッ、なんで名前……てかなによその態度はッ」
ぬいぐるみに手を突っ込んで威嚇してくるリカ。
リンク能力で彼女の触覚が伝わってくる。なるほど中にナイフ……怖ッ。
騒ぐリカを無視してもう一人の二枚羽根を見る。
今度は身長百九十センチを超える巨体の男。夏だというのに丈の長いコートを着込んで、丸いサングラスと短く整えられたヒゲが特徴的だ。どこに出しても恥ずかしい変質者が、そこにはいた。こっちも怖ッ。
「えーと、それでアンタが……」
「ソードテールだ」
「
「俺の名前までッ?」
驚愕する十五さんも無視して確認に移る。
「『新人類創造計画』を越えるために造られた『新世界創造計画』……ね。俺が知る限りでは対・『新人類創造計画』に特化しすぎててガストレア相手じゃイマイチなスペックのやつが多かったんだけど……アンタらはどうなんだ?」
俺の言葉に少なくない苛立ちを見せる二人。
『新人類創造計画』を越えるために作られた暗殺者というのもあって、彼らは自らの能力に絶対的な自信を持っている。ちょっと煽れば自身の能力をイメージしてくれるかも──よっしゃ成功。
──久留米リカ。詳しい仕組みはわからないが、ティナ・スプラウトと同じ
──鹿嶽十五。ナノマテリアルを埋め込んだ皮膚で、任意に光を捻じ曲げることを可能とする能力者。
「エイン・ランドのコピー能力者とアーサー・ザナックのコピー能力者ね」
ポカンと立ちすくむ彼らを見て楽しくなった。
我に返ったリカが話した。
「私たちを機械化能力だけで評価しないで。銃器の扱いは高序列者にも引けを取らないわ」
リカの言葉に十五さんが頷く。
「それに教授は大量の
「ネクロポリス・ストライダー?」
「そ、私の可愛い使い魔たち」
「アイタタタタタ!」
「さっきからなんなの⁉」
痛い、心が痛いよう……というか鳥肌がすごい。十五さんだって微妙な顔してんじゃん。
てか結局なんなの。ティナちゃんの『シェンフィールド』みたいな思考駆動型インターフェイスのことであってる?
「東京エリア相手に大っぴらにはできないが、我々には最高のパトロンが付いている。どうやら教授は、そうまでしてもお前に貸しをつくりたいらしい」
めんど。キモイなあのジジイ。
「ん、まあいいや。死なない程度に目立たず頼むわ」
「え? それだけ?」
「アンタら本来なら戦う必要なかったんだ。協力してくれるだけで感謝してるよ」
返事は聞かず、俺はその場を去った。
■
「紅蓮さん、遅いですよ」
「ごめんごめん」
拠点となるテントに戻ると、民警軍団へ登録に向かっていた夏世と合流した。
「問題なかったか?」
「あー、それがですね……」
なんでも、民警軍団で作戦行動を起こす場合の最小単位は分隊──アジュバント単位で動くため、アジュバントを結成していない人間の参加は認められないらしい。
アジュバントの最小必要人数は三ペア六人。嫌われ者の俺はアジュバント候補の民警全員に断られているため現時点では一ペアのみ。正直言ってヤバイ。
いざとなれば未織か聖天子あたりに相談すればなんとかなるかもしれないが……。
「とりあえずはスカウトだな」
「はい」
俺たちは民警たちが集う前線司令部に向かった。
■
東京エリア第四十区。三十二号モノリス十キロ手前。そこが民警軍団の前線司令部が置かれる場所だ。
普段はただの廃墟だったが、現在は祭りのような喧騒に包まれている。
酒を飲んでいる者、民警に銃火器を勧める商人、金貸し、飲食店など、露天みたいに連なっている。
恐ろしいほどの人口密度にたじろぎながらも先を目指す。
ここにいるのは民警だけではない。商売をしている者のほとんどは一般人だ。俺は彼らを見て、どうしても色々と考えてしまう。
昨日、聖天子サイドの報道官からも正式に、モノリス倒壊のシナリオがメディアを通じて公表された。
東京エリアはパニックの真っ只中だ。
さらには聖天子が用意した第一区のシェルターは、国民の三十パーセントしか収容できないとされ、その人員はすでにランダムで選出されて、その日のうちに通達されたという。
問題は選ばれなかった残り七十パーセントの国民だ。
行き場のない憤りは、聖天子に向けられることとなる。そして選ばれた三十パーセントの中に『呪われた子供たち』がいるとわかれば不満は爆発する。
デモやら集会やら……気分の悪い団体が組織され、あちこちで子供たちへの暴力が報告されている。
こうした被害が予想されていたため、紫垣や和光兄さんに頼んで『日本純血会』──日本に十万人近い会員がいるとする、反『呪われた子供たち』の秘密結社だ──をけん制しているのだが。
それでも暗躍(紫垣の前で『日本純血会何とかしなくちゃな~』と呟いた数週間後に日本純血会幹部の政治家や芸能人が揃ってニュースになるほどの問題を起こしたときはゾっとしたが)の効果もあってか取り返しのつかない事態にはなっていない。
そこまで考えたところで、夏世に袖を引かれて我に返る。そうだ。はぐれでもしたら大変だ。彼女の小さな手を握ると、少し恥ずかしそうにしながら握り返してくれた。
夏世は毒舌だし容赦もないが、俺との生活を楽しんでくれていることはわかる。
一緒に出掛ければ、見るものすべてが珍しという顔をしているし、プロモーターとイニシエーターを同等の立場で扱おうとする俺や天童民間警備会社の面々との交流では不器用な笑みを見せてくれる。
イニシエーターを道具と見なす伊熊将監の元にいたころよりずっと幸せだと、木更に零したこともあるそうだ。嬉しい反面、彼女の過去を考えると胸が苦しくなる。
だからこそ、この理不尽な世界を変えなければならない。それがたとえ、俺が嫌う間違ったやり方だとしても。木更や蓮太郎が、道を踏み外さないためにも。
俺は首を振って雑念を飛ばすと、脇道に退避し道行く民警を品定めする。
「なかなかいい人は見つかりませんね」
「そうだな、ここをうろついてるってことは、まだアジュバントに入れていない奴らだ。ってことは俺たちみたいな嫌われ者か、もしくは実力的に劣った奴らだろうぜ」
数十分程待ってみるが、こう……ビビッとくる民警は見つからなかった。もう蓮太郎のアジュバントに参加した方が早いんじゃないか。
移動しようか、と口にしようとしたところで背後に人の気配。
「天童紅蓮、千寿夏世ペアであっているかな? ぜひ俺とアジュバントを組んでもらいたいのだが……」
またとない好機、感じる〝圧〟も本物だ。俺は意気揚々と声の方を振り返った。
そこには──
「私は怪盗レンタル王。序列七百六十位のプロモーターだ」
身長百九十センチ近い巨漢に、パンツ一丁の半裸。おまけに顔を覆面で覆っていて、鬼の金棒みたいな武器を担いでいる。
──まごうことなき変態だった。
「ごめんなさい無理ですッ!!」
即座に夏世を引き寄せると、俺は涙目になりながら人ごみに飛び込んだ。
「い、いいんですか? 彼、ただものじゃないですよ」
「どんだけ実力高くても、あんなんに背中任せられるかッ⁉ていうか背後に立たせたくないッ」
「それはまあ、たしかに」
夏世が気まずそうに目をそらした。
「ま、まあ気を取り直して……いや、その前に昼飯にしない? 気持ち切り替えたい」
「丁度いい時間帯ですね。ではそうしましょうか」
引き返そうとしたところで、事件は起こった。
唐突に怒気をはらんだ敵意を察知、夏世を抱え、人を押しよけて飛びのくと、それまで俺の頭があった位置を拳が通り過ぎた。
「誰だッ」
イニシエーターの誰かが悲鳴を上げ、往来の人間が歩を止める。
「バァーカ、なに熱くなってるんだよ。挨拶だろ」
聞き覚えのある、苛立ちを隠そうともしない野蛮な声。
現れたドクロのフェイススカーフとバスターソードが特徴的な男。
「将監さんッ?」
夏世の元プロモーター、伊熊将監だった。
「なんだ、元気そうじゃねえかよ。腕はもういいのか?」
「あぁ? なんつったテメェ、斬りてぇ、マジ斬りてぇよ」
聖天子狙撃事件での情報提供と木更の保護、それで義肢装具士の紹介の件はチャラだと言っていた。しかし直後に俺が蹴り飛ばして気絶させてしまったので……いや、本当にすまん。
バスターソードを担ぎながらブツブツと呪詛を唱え始めた将監。まずい、コイツは人を殺すことに躊躇しないタイプの民警だ。その考え方をイニシエーターに強制までする、典型的なクズだ。衝突は避けられない。
「アンタ、イニシエーターも連れずに俺と勝負しようってのかよ? 俺一人にも勝てないのに」
「ンだとッ?」
「どうして煽るんですかッ」
「えッ? いや、これで諦めてくれないかな~なんて」
「将監さんは脳みそまで筋肉でできている上、堪え性がないんですよッ? 相手を見て発言してください」
「めっちゃ言うじゃん」
俺たちのやり取りを静観していた将監はさらに怒りのボルテージを上げていた。
やだ……これって
「チッ、言われなくても新しいイニシエーターは貰ってんだよ。おいガキ、とっとと来い!」
「うるさいな、そんな怒鳴らなくたっていま行くっての。だいたいアタシのほうが序列高いってのに、その態度はないでしょ」
将監の視線の先。いつの間にか俺たちを囲むようにできていたギャラリーをかき分けて、一人の少女が移動しているようだ。
──というかこの声、聞き覚えが……いやまさか。
そこで将監の新たなイニシエーターと思しき少女が姿を現す。
手にはバラニウム製の曲刀、耳についたピアスが揺れて、右目の下にはスペードのペイントが見えた。
「序列元五百五十位のアタシに対してさッ」
その姿は、俺の元相棒──占部里津そのものだった。
■
「序列五百五十位……⁉」
愕然と数字を復唱する夏世。しかし俺は頭が追いつかず、その場に黙って立ち尽くす。
「で? 相手は誰──」
気付いた里津も固まった。
「あ? おい、どうした」
なにこれ、本当になにこれ。どうしたらいいのこれ。どうするのが正解?
「紅蓮さん……?」
沈黙が痛い。もうおうち帰っていいかな?
そんな沈黙を打ち破ったのは、規格外の存在だった。
「む! やっと見つけたぞ天童紅蓮! さあ、俺と共にアジュバントをッ……」
変態だーッ!
さっきの覆面変態だ! もうダメだ! ツッコミが追いつかねえ!
俺は顔を覆って現実逃避を始めた。
しかし、その後の展開は誰にも予想できないものだった。
将監が震えた指先でレンタル王を差し──
「──まさか……兄貴?」
「──将監か」
……………………………………………………は?
書いたこっちも「は?」だよ