天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。   作:紅銀紅葉

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本当です。


べ、別に保脇のことなんか好きでも何でもないんだからねっ!

 晴れてアジュバントとして認められた俺たちは、十人が寝泊まりできる広さのある分隊用テントに集まっていた。

 

「ティナ・スプラウトです。よろしくお願いします」

 

 俺に背中を押された新メンバ──―ティナちゃんが、ペコリとお辞儀したところで、将監が暴れ出す。

 

「あン時のクソガキじゃねえかッ」

 

 夏世と王監さんが二人がかりで押さえつけて、なんとか怒りを鎮めようと説得している。

 そういえばアイツ、以前ティナちゃんのことを「ぶっ殺してやる」とか言っていたな。

 

「あ、あの……」

 

 俺の背後から体の片側だけを覗かせるティナちゃんは、申し訳なさそうに俺の顔を見上げていた。

 

「ああ大丈夫、アイツちょっとおかしいんだ」

 

「オイッ!」

 

 やべ、聞かれてた。

 

 もー、面倒臭いなー。

 話が進まないので、いつかと同じように将監の頭部めがけてハイキックを放つも、同じ手は通用しないとばかりに首の動きだけで躱される。

 ほう、やるじゃないか。スカーフ越しにニヤリと笑うのがわかる。しかし俺は素早く足を踏みかえると続けて回し蹴りを繰り出す。二人がかりで押さえつけられている将監が躱せるはずもなくヒット。床に転がって悶絶する彼を放置。

 将監はまあいいとして、ティナちゃんに紹介が必要なのは……里津と王監さんか。俺は二人に視線で訴えた。

 

「IP序列七百六十位、伊熊王監だ」

 

「IP序列元五百五十位、モデル・シャーク。占部里津」

 

 王監さんは流石というべきか、ティナに目線を合わせるため屈んで話している。見た目はアレだが中身は紳士だ。

 そんな彼とは対照的に、里津は相手を威圧するような獰猛な笑みを浮かべている。十歳で既にマウンティング女子とは恐れ入る。女子怖い。

 しかし今回ばかりは、相手が悪かった。

 二人の名乗りに、ティナちゃんはかしこまって応えた。

 

「序列元九十八位、モデル・オウル。ティナ・スプラウトです。皆さん改めてよろしくお願いします」

 

 王監さんが感嘆の声を上げ、少し間をおいて里津がかすれた声で「え?」と呟いた。

 俺は面食らった里津を見て小さくガッツポーズする夏世を見逃がさなかった。このメンバーでアジュバントとして機能するのだろうか。不安だ……。

 

 俺は呆れ混じりのため息をついて、テントの入り口に立つ男を見る。神経質そうな眼鏡の男は、さっきから居心地悪そうに腕を組んで、ひたすら人差し指で二の腕をタップしている。

 

「で、アンタは何しに来たんだよ、保脇?」

 

 問われた保脇は、憤怒の形相で答えた。ただし将監や王監さんが怖いのか、ボリュームは抑え気味だ。

 

「そこの『赤目』の監視だ。テロリストを野放しにするわけにもいかんのだよ。聖天子様も何をお考えなのか……」

 

「アンタや俺みたいのを雇い続けている時点で変わり者なのは確かだけどな」

 

「無礼なッ。というか僕を貴様と一緒にするなッ」

 

「ごめん、俺の方がマトモだったな」

 

「そういう意味で言ったわけではないッ!」

 

 以前と変わらないようにも見えるが、これでもだいぶ改善された方で、『呪われた子供たち』の認識も〝害虫〟から〝危険動物〟くらいには変わったと思う。ちなみに俺のことは〝寄生虫〟くらいに思ってるそう死ね。初めて意見があったね殺す。

 

「でもいつまでいるつもりさ。モノリス倒壊前には戻るんだろ?」

 

「当然だ。倒壊予測の前日には撤退するさ、後は貴様らの好きにしろ」

 

「好きにってアンタなぁ……」

 

 モノリス崩壊は四日後とされている。それまでコイツと寝食を共にしろというのか。無理無理絶~ッ対に無理。聖天子様も何をお考えなのか。今日はやけに気が合いますね。

 

 何はともあれ、これでアジュバントプラスアルファの完成だ。嬉しくないといえば嘘になる。

 痛みに悶える将監、子供に囲まれて幸せそうな王監さん、自信喪失したのか片膝を抱えて椅子に腰掛ける里津、それに憫笑を向ける夏世、立ったまま寝落ちしそうになり慌ててカフェイン錠剤をボリボリと嚙み締めるティナちゃん、おまけに保脇はキレ気味だ。

 あんまり嬉しくないかもしれない。

 

 絶望しているとテントの外から「失礼」と声がかかった。外に出て確認すると自衛官だ。

 

「作戦に参加するすべての民警は、一九三〇(ひときゅうさんまる)時に、前線司令部前に集まるよう我堂長正団長から召集がかかりました」

 

 

 

 ■

 

 

 

 集合前に蓮太郎に電話をかけて、合流することとなった。ティナちゃんも同僚たちといた方が安心だろう。決して俺が気まずかったわけではない。

 

「紅蓮兄ぃ!」

 

 目的地少し手前で声をかけられる。

 蓮太郎と延珠ちゃんだけでなく、何故か木更の姿もある。

 

「おいおい木更、まさか戦闘に参加するってんじゃ……」

 

「あーッ、ちょっとお兄様! ウチのティナちゃん取らないでよッ」

 

「あー、聞こえませ~ん」

 

 今日の俺、出会い頭にキレられすぎではないか。

 

「こういうのは早いもん勝ちなんだよ。序列剝奪処分だって取り消してもらえたんだし文句言うなよ」

 

 木更は耳まで真っ赤にして睨んでくる。

 

「で、お前本当に参加するんじゃねぇだろうな」

 

 木更の腰に『殺人刀・雪影』があるのを確認して、自然と声が低くなる。

 

「私だって民警のライセンスくらい持っているもの。申請も済ませてきたわ」

 

「アホ、ダメに決まってんだろ。自分の体のこと考えろ」

 

 木更は過去の事件のショックで腎臓を悪くしており、透析治療を余儀なくされている。そんな状態で無茶はさせられない。

 

「お兄様も里見くんと同じことを言うのね。でも、その話はもう済ませてあるから」

 

 蓮太郎に視線を向けると、諦めろと言わんばかりに首を振られてしまう。

 

「蛭子影胤との戦いでは、お兄様たちの戦いをお祈りしながら見ていることしかできなかった。聖天子様の暗殺未遂のときなんて、役に立たないどころか足手まといになっちゃった。もう、見ているだけはイヤなの」

 

「木更……」

 

「お願いお兄様。私にも、お兄様を守らせて」

 

 説得は……無理か。俺は木更の肩に手を置いて彼女の大きな瞳を見据える。

 

「いいか? 多少無理してでも透析治療にはちゃんと通え。体調が悪くなったら隠さず蓮太郎に伝えろ。危なくなったら周りのことは気にせず逃げろ。あとは……その、なんだ……蓮太郎! しっかり守れよ」

 

「ああ、任せてくれ」

 

「あら、お兄様は守ってくれないのかしら?」

 

 いたずらっぽく笑い、挑発するように口元を歪める木更。俺はそっぽを向いた。

 

「……アジュバントが違うだろーが。ああそうだ、そういうことならティナちゃんは木更のとこに……」

 

 そこまで言って保脇に止められた。

 

「待て! 許可できるはずがないだろうッ。これ以上僕の仕事を増やすな」

 

「台無しだよアンタ」

 

 木更と共にジト目を向けるが、意見は変わらなさそうだ。

 そこで木更が何かを思い出したように両掌をパンと合わせて表情を明るくさせた。

 

「そうだわ、お兄様に会わせたい人がいるの」

 

「お兄ちゃん、結婚はまだ早いと思うな……」

 

「なに言ってるのよ、違うわよ。彰磨くん、こっち来て!」

 

「久しいな紅蓮」

 

 ──前方に身体を落下させながらの超速速攻。地面を踏み砕いて走り去る。

 

「ああッ、逃げた! ちょっと里見くん、追いかけなさい!」

 

「うるせぇ追うな! 翠ちゃんだけ置いて帰れッ!」

 

 

 

 ■

 

 

 

 ふええ、天童流有段者三人からは逃げきれなかったよ……。

 

 場所は変わって前線司令部前。日は落ちて、あたりはすっかり闇の中だ。前方のひな壇だけが篝火で照らされている。

 俺と蓮太郎のアジュバントで固まってはいるが、集まっている民警は千人を超えている。気を抜いたらはぐれてしまいそうだ。私服のアウトドアウェアに着替えた保脇も、場の空気に目を回していた。

 

 しばらく待っていると、一組のペアが壇上に上がってきて、場が大きく盛り上がる。

 ──我堂長正と壬生(みぶ)朝霞(あさか)。序列二百七十五位。今回揃った民警の中で、一番序列の高いペアだった。

 我堂さんは禿頭に口髭を生やしていて、鍛え上げられた肉体は、司馬重工製の鎧タイプの外骨格(エクサスケルトン)に覆われている。意識しているのだろうか、戦国時代の武将みたいだ。歳はたしか、五十四歳。

 朝霞ちゃんは黒髪ストレートで寡黙なイニシエーターだが、話してみると少し天然が混ざっていて、可愛らしいところもある。彼女も我堂さんと同じく司馬重工製の外骨格(エクサスケルトン)を身にまとっている。

 

「よくぞ集ってくれた勇者諸君ッ! 私が団長を努める我堂長正だ。諸君等は東京エリアを救う、えらばれし者たちだ。君たちと共に戦えることを、私は誇りに思うッ」

 

 荒くれ者揃いの民警たちですら、我堂に一目置いているのがわかる。皆、真剣な表情だ。

 対照的に俺はあくびを噛み殺して、両脇腹を木更と夏世にどつかれる。俺は片手を上げて謝罪のポーズを取りつつも、頭の中では校長先生の朝礼を思い出していた。普通にダルい。

 そうこうしている間に、我堂さんのスピーチは締めに入る。

 

「──勝つぞ! 勝って我々が歴史の創造者となるのだッ! そして我々は歴史書に書こうではないか。我々はガストレアを圧倒し、一歩も引くことなく戦ったと。国民に、子孫に、死んでいった護国の英霊に誇ろうではないか! ──奴等を殺すぞッ!」

 

 地を震わせる大歓声。その場にいる民警すべての心に火が灯っていた。

 しかし疑問がないわけではない。現在、モノリスを挟んで、ガストレア軍団と自衛隊プラスアルファ民警軍団が睨み合っている状況だ。前衛を自衛隊が、前衛を務める自衛隊の要請に従って後詰めの決戦兵力として、ガストレアを蹂躙するために民警軍団は使用される。

 しかしそれにしては──

 

「距離が離れすぎている」

 

 蓮太郎が目を細めて呟く。あ、まずい。

 

「木更、蓮太郎を止めろッ」

 

 木更は俺が言わんとすることを察して、上がりかかっていた蓮太郎の腕を掴んだ。

 

「お、おい、木更さん、いま遊んでる場合じゃ……」

 

「させないわよ里見くん。里見くんは偉い人見ると突っかからずにはいられないのッ?」

 

 よくやった木更。

 まあ、たしかに蓮太郎の気持ちもわかる。

 まるで自衛隊が意図的に民警軍団を遠ざけているようにしか思えない現状。距離は一キロや二キロでは済まないほど離れている。

 民警は全国どこでも嫌われ者。自衛隊のみならず、警察からも『縄張り荒らし』として嫌われている。きっと自衛隊は、自分たち抜きでカタをつけるつもりなのだ。

 そのことに気付かない我堂さんではないだろう。平静を装ってはいるが、僅かに熾した繋ぐ者(リンカー)能力を通して、怒りのような感情が揺れているのがわかる。

 しかしここで会議を荒れさせるわけにはいかないのだ。俺は早く帰って寝たい。

 

 蓮太郎と木更の攻防に俺も加わる。ふぅ、危なかったぜ……。

 

 しかし俺は失念していた。この場には蓮太郎以外にもう一人、この空気に物怖じせず突っかかる空気の読めないクソ野郎がいることを──。

 

「質問、いいだろうか」

 

「彰磨テメェこの野郎ッ!」

 

 会議は長引いた。

 

 

 




なんだこのアジュバントは……。
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