天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
エタりそうだったから紅蓮闇落ちルートをやめてネタに走ります。
没ネタはあとがきに書いておきます。
「待て!」
体当たりするように部屋を出ようとした蓮太郎を止める。
〝近く〟といっても、勾田町内での事件ではない。向かうには電車に乗る必要がある。
しかし、変身してもいないのに、そんな長距離から〝声〟が届いたということは、それだけ少女が死に瀕した状態ということになる。生への渇望が強ければ強いほど〝声〟は大きくなるため、今回の大きさから考えて、そんなに悠長にしている暇もない。
「──ああもう、仕方ねえなッ」
俺は覚悟を決めると同時にシャツを脱ぎ捨てた。
「みんなには内緒だよ」
「えっ」
蓮太郎は尻を隠した。
■
生温い風が頬を叩き、風圧に抗いながら目を開けると、そこはもう空中だった。
「う、おお……」
蓮太郎からそんな呻き声が漏れるのも無理はない。蓮太郎はいま、紅蓮に抱きかかえられるようにして空を飛んでいる。
眼下に広がる見慣れた住宅街はあっという間に過ぎ去っていて、たしかに電車を使うよりずっと速く目的地に着きそうだ。
蓮太郎はもう一度薄目を開けて紅蓮の姿を見た。
バラニウムにも似た漆黒のボディースーツに、まるで物語に出てくる悪魔のような翼。
これが紅蓮が言っていた
不安を誤魔化すように、蓮太郎は悪態をついた。
「高いとこ、苦手じゃなかったのかよ」
「いや~、変身してなければ怖いけどな。でもほら、ハンドル握ると性格変わるやついるじゃん。こんな感じに──」
「いや、それちょっと違──」
途端に蓮太郎に掛かる負荷が強くなったかと思うと、それまで周囲のビルの少し上を飛行していた紅蓮が高度を下げていた。
「おい、アンタまさか……待て待て待てやめろ紅蓮兄ぃッ」
「スレスレ飛行、いっきまーす」
紅蓮に安全運転という概念はなかった。
■
物陰に着陸するとすぐに服を着る。
避難が始まって外出する人も減ってはいるが、地上で見られて騒ぎになるのはまず間違いない。
俺が現場を教えるまでもなく、すでに蓮太郎は駆けだしていた。思えばティナちゃんが蓮太郎と共に『片桐民間警備会社』の片桐兄妹をスカウトにいった際、近くに『呪われた子供たち』の物乞いがいたと話していた。たしか彼らの事務所もこのあたりだったはずだ。
片桐兄妹は『こいつら序列高いくせになんでそんなにお金ないの?』ランキング(同業者の中で勝手にささやかれているランキング)トップ3に入る猛者(?)なので、事務所の場所くらいは知っている。ちなみに一位は里見ペア。
現に蓮太郎が目指す方角は間違っておらず、俺は無言で後に続いた。
やがて五差路に差し掛かり、歩道橋の上に人だかりができているのが視認できた。
駆け上がって視界が開けると、蓮太郎は怒声を上げた。
「なにやってんだ!」
うつぶせに倒れたケープの少女の周りに、八人の大人が群がっている。付近にはゴザと小銭を入れるための鉄鉢が見えるので、蓮太郎の様子も含めてティナちゃんが言っていた〝盲目の少女〟とは彼女で間違いないだろう。
少女に駆け寄ると、意識を失っているようで反応がない。顔を覗き込むと、頬の肉が大きく抉られている。それでも彼女の顔には微笑みが張り付いていて、胸が苦しくなる。咄嗟に顔を庇ったのだろうか、両腕の切り傷も酷い。執拗に顔を狙われたのがわかる傷ばかりだった。
「クソッ、気色悪ぃガキだな!」
がなる年配の男の手元には、血の滴るバラニウム製のナイフ。『呪われた子供たち』を傷つけるためのもので間違いない。俺はすぐに蓮太郎と男の間に割って入った。
集団のうちひとりが憤怒の表情で一歩踏み出す。俺は男の腕を捻るとそのまま腕を釣り込んで足を払う。
──天童式合気術一の型六番。
「『
地面に叩きつけられた男が潰されたカエルのような音を漏らした。一般人相手なので加減はしたが、しばらくは立ち上がれまい。
周囲の緊張が高まり、蓮太郎が意外そうな顔で俺を見る。
なんだよ、俺だって木更にボコられる前に習った技なら覚えてんだよ悪ぃか。
「傷の治りが遅い。止血頼む」
「紅蓮兄ぃは?」
「ちょっとお話」
男たちを睨む。
「どけ! そいつは何食わぬ顔で俺たちに混じって、スキを見て人間を襲ってるんだぞ。ガストレアよりタチが悪い!」
「なにそれ自己紹介? 僕は巳継悠河、よろしくね」
スキを見て幼女襲ってるオッサンが何を言っているんだ。
俺にまるでゴミを見るような目を向けてくる男たちにゆったりと、喧嘩を売るようにダラダラとした口調で尋ねる。
「で、オジサン。そんな怒ってどうしたの」
「どうしたもこうしたもない! こいつらは危険だ、東京エリアから駆除しなきゃいけないんだッ!」
男の言に周囲はヒートアップして賛同する。
「こいつらは東京エリアのゴミだ」「赤目は死ね!」「気色悪ぃガキが、俺の家族を皆殺しにしやがって」「東京エリアに足を踏み入れるな!」
話の通じない相手との会話──ではない。多分ひとりひとり根気よく聞きだせば、落ち着いて話せる普通の人たちなのだと思う。
蓮太郎や保脇でさえ、根気よく『呪われた子供たち』と関わっていけば、考えを変えることはできたのだ。この人たちだっていつかは分かり合えるはずだ。問題は時間と人数。そして東京エリア滅亡が現実味を帯びてきた恐怖と、そんな不満をぶつけてしまえる社会的弱者がここにひとり。こればかりは、俺一人ではどうしようもない。
彼らが過去に経験した地獄を思えば、気持ちはわかる。
ある日突然大切な人を失うと、それがたとえ事故だったとしても、『誰かに殺されたのではないか』などと行き場のない絶望を何かに向けてしまうのだ。自分たちでは全く敵わない化け物と比べたら、たしかに復讐心を向けるには都合がいい。
まあ、それを見て黙っていられるほど俺も大人ではないのだが。
俺は背中から利き手にかけて薄く翼を伸ばし、刀剣状にする。
天童式抜刀術一の型六番──
「『
ヒィン、という音と共に、無数の斬線が空中に飛び散り、遅れて男たちが後ずさる。
「民警だ。次は斬るぞ」
一般人には携帯が許可されない、殺傷力の高い武器を見せられ、意気が萎えた男たち。俺は蓮太郎の肩を叩くと少女を抱きかかえた。
「蓮太郎、いくぞ」
俺がスタスタと歩き出すと、蓮太郎は俺と男たちを交互に見てから後を追う。
俺たちが階段の前まで来たところで、さきほどナイフを持っていた男が吐き捨てるように呟いた。
「やっぱりアンタらが守ってるのは、そいつらガキ共なんだな」
背中に暴漢たちの粘つく視線を感じながら階段を降りる。
そして──
「馬ァ鹿が! なにカッコつけて悪者ぶってんだ! 社会的に死ねッ」
「え?」
突如、背後からヒィンという聞き覚えのある斬撃音が響き、束の間、世界が静まり返った。
次の瞬間、けたたましい悲鳴が聞こえてきた。
蓮太郎は顔を青くしてゆっくりと振り返る。ソレを見て、蓮太郎の総身が強張るのがわかった。
そこには総勢八人の男たちの、一糸纏わぬ姿があった。
足元にはスッパリと斬られた衣服が散乱しており、男たちは風に流されていく服を必死になって追っていた。
俺は笑いを堪えながらその場から逃げ出した。
「僕の名前は巳継悠河でゲスwww額狩高校二年の巳継悠河をよろしくお願いするでゲスwww」
■
少女を菫先生のもとで治療した後、蓮太郎が彼女を住処に送り届ける役を買って出たため、俺は先にテントに戻った。代わりに蓮太郎の荷物は俺が持って帰っている。
蓮太郎のアジュバントのメンバーと自己紹介を交わし終えるのと時を同じくして、女性陣が帰ってきたので、延珠ちゃんに着替えの入ったバッグを渡してその場を後にした。
テントに戻る途中、暴漢たちの粘つく視線が頭を過った。
『やっぱりアンタらが守ってるのは、そいつらガキ共なんだな』
あの場では有耶無耶にしたが、決して無視できない国民の不満。
なぜ、怖がられるのか。東京エリアを守っているのに、なぜ投げられるのは侮蔑と恐怖の視線ばかりなのだろうか。
いまこそ国民が一丸となって国を守る必要があるというのに、俺たちにとっては中も外も敵だらけではないか。
差別はなくならない。ガストレアが人を殺す存在である限り、『呪われた子供たち』も人殺しとしか見られない。
それでも彼女たちにはアルデバランを倒すことが期待される。
この戦争に勝って、東京エリアが救われれば、何人かの人間が『呪われた子供たち』に向ける目を変えてくれるだろうか。憎しみを捨てて、共に戦ってくれるだろうか。
好きでもない神に縋りたくなるくらい、先は見えない。
「
白化したモノリスを眺めながら、溜まった淀みを吐き出した。
紅蓮闇落ちルートですが、今回の事件のあと、青空教室の子供が傷害事件(ほぼ正当防衛)起こします。結果その一人だけ集団リンチで殺害されます。紅蓮がコネ総動員で暴漢たちを皆殺しにします。悲しいねっていう話から紅蓮を苛め抜く予定でした。ごめんね。いいよ。
オリキャラはサンドバックじゃねぇ。
あと作者は感想と高評価が貰えないとすぐにガストレアになっちゃうので定期的に構ってくださると幸いです。