天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
UAも伸びて、日間ランキングに入る機会が増えました。ガストレアにならないよう、更新頑張ります。
紅蓮が何やら神妙な顔つきで帰ってきた日の深夜。
夏世は里津に呼び出されていた。
いまの夏世は少々機嫌が悪い。
慣れない学校から帰ってきて、お世辞にも寝心地が良いとは言えない寝袋で、ようやく眠れたところで起こされたのだ。誰だって怒るだろう。
それに、道を先導する里津との仲は最悪だ。
反逆的な人間であると見られたいのか、小学生には似つかわしくないパンクロッカーのようなファッションは全く趣味が合わないし、性格や態度も自分とは正反対。
そのくせ紅蓮相手には分かりやすく少女然とした態度をとるのがたまらなく不快だった。
いや、決して自分が嫉妬しているとかではなくて。誰が聞いているわけでもないのに内心否定して首を振る。
「里津さん、いったいどこまで行くんですか」
返事はない。もしや自分はこれから始末されるのではないか。これが延珠さんが言っていた修羅場というやつか。以前里見家にて起こったという、木更と未織の修羅場(?)は、じゃれ合い以上殺し合い未満というところまで発展したそうだ。
里津はいつも携帯している
そこまで考えてくだらない妄想だなと思考を中断させる。テントを出た段階で紅蓮からの制止が無かったのだ。彼女がその気なら、二人だけで外出などさせないだろう。まあ、こんな夜更けに女児二人の外出を許している時点で保護者失格なのだが。
やがて里津が歩みを止めると、そこは少し小高い丘になっていた。誰かが近付いてくればすぐにわかる場所だ。それだけ聞かれたくない話ということなのか。
「ここまでくればアイツにも聞かれないでしょ。盗み聞くつもりがなければの話だけど」
ようやく声を発した里津は何故か盗聴を気にしているようだった。夏世は首を傾げる。
「あの、里津さん」
「アンタさ、アイツから何か聞いてないの?」
遮られる。一々癇に障る態度をとってくる少女だ。夏世はなるべく相手を刺激しないよう、小さく深呼吸した。
「何か、とは?」
「帰って来てからずっと様子おかしいじゃん。一緒に学校行ってたんでしょ」
「いえ、紅蓮さんは里見さんと共に出かけていました。私たちとは別行動でしたよ。聞いてませんか?」
我慢したつもりが、少し挑発してしまった。らしくもない、気を付けよう。
「じゃあ何も知らないってこと? イニシエーターなのに?」
「まあ、そうですけど……」
思いもよらぬカウンター。完全に自業自得のため顔には出さない。
「気になるなら直接聞いてみては?」
「それ本気で言ってる?」
夏世としては純粋な疑問だったのだが、里津には気に入らないものだったらしい。目は細められていて、明らかに不快そうだ。
里津と紅蓮がペアを組んでいたことは知っていたが、彼らが序列を剝奪される経緯までは知らなかった。
様子を見ている限り、(残念なことに)仲が悪いようには見えないし、紅蓮の人柄的に、序列剝奪処分を受けるほどの罪を犯すとは考えにくい。
考え込んでいるうちに里津は気持ちを切り替えたらしい。普段のこちらを見下すような表情に戻った後、真剣な表情となる。普段とのギャップに、夏世は少なくない動揺を見せた。
「アタシさー」
「え、あ、はい? なんでしょう?」
「ねえ、聞く気あんの?」
訂正。こちらを見下している事実は変わらない。
「アイツ、さっき帰ってきたとき、アタシが序列剝奪されたときと同じ顔してたんだ」
モノリスを眺めながらどこか寂し気に話す里津。図らずもそれは、夏世が知りたいことに繋がる話題だった。
「アタシが人を──民警でも何でもない、普通の一般人を殺したときと同じ顔をさ」
「え……?」
咄嗟に言葉が出ず、場に静寂が訪れる。
遠くから民警たちのカウントダウンだけが、やけに大きく聞こえてきた。
──モノリス崩壊まで、残り一日。
■
夏世と里津がテントから出ていくのを見送って、俺は素早く出かける準備に取り掛かる。
不良娘を放置するのは、保護者としてどうなのかとも思うが、二人のことはティナちゃんと王監さんに任せておけば問題ないだろう。いまは何よりも優先すべきことがある。
起きているメンバーに一言告げてテントを出ると、足早に物陰に隠れた。
身に纏うもの全てを脱ぎ捨てバッグに詰めると、翼を全身に巡らせた。影胤戦の頃は翼の量が少なく、シースルーというか全身タイツのコスプレ感が否めなかったが、いまでは
慌ただしく支度を済ませると、時刻は既に零時を回っていた。
モノリス倒壊までの、最後の一日。そんな日くらいゆっくりさせてほしい。
翼を広げて飛び立つと、俺は三十九区を目指した。
■
いつも俺たちが青空教室として使っている場所に息を潜めること数時間。
この辺りに住宅地は無いため、何か目的を持って訪れたことは間違いない。そうでなくとも、適当にリンクした男からはナイフのような感触が伝わってきているため、歓迎される団体ではない。
俺は翼を身体に巻き付けるように畳んで外套状にし、顔周りもマスクのように翼で覆った。研究施設にいた頃、仲間のセラフたちが狭い通路を通る際にしていた姿を模したもの。俺は彼らを『子泣き爺みてえ』と馬鹿にしていたが、夜目の効かない一般人なら『子泣き爺のコスプレ』くらいに勘違いしてくれそうだ。
辺りを探る男たちの前に姿を現すと、一斉に敵意剥き出しの視線が集まった。
総勢五人。比較的若い者が多い中、一名中年の男が混じっている。暗くてよく見えないが、リンクしてすぐに気が付いた。昨日、歩道橋で盲目の少女を襲っていた男だ。
「誰だ、お前は」
向こうは俺に気付いていない。しかし警戒しているのは確かだった。これから彼らが行おうとしていることは、きっとロクでもないことなのだろう。
「アンタたちこそ何者だ、さっさと帰れ」
忠告したつもりが、俺が敵対者であることを理解したのだろう、男たちはあろうことか拳銃を取り出していた。五名中四名は、立ち方や筋肉の付き方から戦闘経験があるとは考えにくい。しかし一人は民警なのだろうか、バラニウム製らしき
「お前、ここが『赤目』の住処だってこと、知ってんだろ。ガストレア化する危険性に加え、人間を襲っているんだぞ。東京エリアから駆除しなければ、被害者が増えるだけだ」
やはり彼らは、『呪われた子供たち』を害するために集まったのだろう。昨日の嫌な予感は的中したわけだ。
「『呪われた子供たち』が事件を起こすケースなんて、たかが知れてるだろ。窃盗はともかく、直接的に人を襲うケースなんて、最近じゃほとんど起きていない。
つまるところ、アンタたちは怖いんだ。現在の東京エリアは無法地帯みたいになってしまって、犯罪率も上がっている。いつ子供たちが優位に立とうと暴走するかわからない。これまで虐げてきた子供たちに、いつ牙を向けられるかわからない。アンタたちに正義なんてものはない」
「黙れッ」
中年の男が怒鳴ると、全員が戦闘態勢に入った。一般人がそう簡単に発砲するとは考えにくい。警戒すべきは斧槍の男。二メートルを超えるその武器は、穂先に斧頭、反対側に刺突用の突起が付いている。その重量から繰り出される攻撃は、ステージⅡガストレアの外殻程度なら容易く破壊するだろう。
天童流を使って身元が割れるのは避けたいので、身体を前方に倒れこませるようにして速攻を仕掛ける。
そのとき咄嗟に中年の男が発砲したが、無防備な頭部ではなく、厳重に翼で覆われた胴体に向けられていたため効果なし。発砲の衝撃か俺への恐怖か、男は拳銃を落としてその場にへたり込む。
続けて他三名からも武器を取り上げて無力化した。
「民警だ。大人しくしろ」
縛り上げながら冷たく言い放つ。男たちの表情は、絶望に染まっている。
「離せッ、離せぇ! ガストレアは殺さなくちゃいけないんだ!」
暴れる中年の男。涙を流しながら女性の名を叫んでいる。妻か娘かわからないが、きっとガストレアに殺されてしまったのだろう。
だからといって、『呪われた子供たち』を襲っていい理由にはならない。同情的に思ってしまう自分は、彼らへの真っ黒い憎悪が上書きしてしまう。
「──ッ。黙れ、アンタが殺すべき相手はガストレアだ。復讐が望みなら民警になればよかったんだ。
「お前ッ、お前に人の心はないのかッ? 我々の絶望が何故わからない⁉」
「わかってたまるかクソ野郎。彼女たちは人間だ。俺とも、アンタとも変わらない」
「──人間? あんな化物が、人間だとッ?」
男は狂ったように笑い、激しく唾を飛ばす。
「何が可笑しい」
「俺はつい昨日、赤目を殺そうとした。アイツ、何度刺されても、顔の肉を抉られても、ずっと笑ってやがったんだ。言動も、顔も、髪も、瞳も、声も、力も──化け物としか思えないじゃないか……」
「…………」
「どうせ東京エリアはお終いだ。俺たちはシェルター当選表も貰えなかった。なら一匹でも多くの害虫を駆除して国の役に立って、死んだ妻に会いに行くんだ」
取り付く島もない。
警察は呼んだ。しかし大した罪にはならないのだろう。この様子なら、いつか本当に、『呪われた子供たち』を殺してしまう。
クソッ。思わず舌打ちして、俺は男の胸倉を掴んでいた。
「聞け、オッサン。アンタたちもだ」
俺は黙りこんでいる若い男たちを睨みつけた。
「『呪われた子供たち』の大半の行動は至ってシンプルなものだ。生き抜くこと。それ以上を望む奴だって、イニシエーターになって稼ぎを得ている。
普通の『無垢の世代』と比べて、東京エリアの『呪われた子供たち』は、極めて理性的な子供が多いと思うぜ。少なくとも、感情に任せて人を傷つける子は少ない。当然だよな、教育さえ行き届いていれば彼女たちの中身は、ごく普通の女の子なんだから。
彼女たちは、団結して都市部や居住区を襲撃することはなかった。まだ幼いから、知能が低いから、自分の境遇を理解できていないから。色々理由はあると思う。でもそれだけじゃない。〝普通〟に生きたいからだ。アンタたちみたいな一般人との、共生を望んでいるからだ。
勿論、アンタたちが恐怖したように、もう少し大きくなったら、反社会的勢力に成り得る可能性は大いにある。
でも、彼女たちをそうさせたのは──間違いなく
奪ったのは──奪われたのは──果たしてどちらなんだろうな?」
一方的に捲し立てたところで、能力が警察官らしき気配を捉えた。付近まで来ているようだ。
俺はそそくさと物陰に隠れると、翼を戻して服を着る。変身する機会が増えてから、着替えるのが早くなったような気がする。おっと、一応マスクも付けておこうか。
警察を迎える準備が整ったため、男たちの元へと戻った。
まだ目を覚まさない民警と、黙りこくる男たち。
項垂れる男たちに、もう一度声をかけた。翼をしまっていると感度は低いが、多少の効果はあるだろう。
「アンタたちも、そこの民警も、もう諦めてるみたいだけどさ、『呪われた子供たち』も、自衛隊も、俺たち民警も、まだ諦めてないよ。邪魔さえ入らなければ、俺たちは絶対に負けない」
俺は最後にもう一度男たちの表情を確認すると、顔を逸らして、警察の到着を待つ。
ふと、昨日の蓮太郎との問答が脳裏を過った。『呪われた子供たち』は人間なのか。
男たちは言った。『人類を脅かす化け物』だと。
『至天教』は言った『人類とガストレアとのメッセンジャーを務める神の代理人』だと。
千寿夏世は言った。『私たちは道具だ』と。
里見蓮太郎は言った。『彼女たちは人間だ』と。
ならば俺は蓮太郎を信じよう。
彼女たちが俺たちとの共存を願っている限り。
『奪われた世代』の誰かが彼女たちを『人間』だと言ってくれるように。
俺は全身全霊で、蓮太郎の期待に応えてみせよう。
決意を新たに、三十二号モノリスの方角に視線を向ける。
──モノリス崩壊まで、残り数時間。
紅蓮の目的は『家族が暮らしやすい世界』を作ることです。
差別を無くそうとするのも、和光を利用するのも、そんな理由からです。
木更を殺人犯にしないための行動だけではなく、木更に『和光兄さんには利用価値があるんだよ。だから殺さないでね』と思わせることで彼を庇っています。神様転生の経験から『どうせ死後に裁かれるし』という余裕があるのかもしれません。
『呪われた子供たち』の支援も、紅蓮が思い描く『暮らしやすい世界』に差別意識が邪魔だっただけで、子供たちへの同情はあっても、子供たちそのものへの救済意識は薄かったようです。
しかし長い間子供たち(里津含む)と関わることで、彼女たちも守るべき対象に。蓮太郎が延珠と暮らして変わったように、彼もまた成長したのです。
己の欲望に忠実で、欲しいものは何としてでも買ってもらう。
『家族に愛される』チートを利用してクズっぽさクソガキっぽさを出している彼ですが、基本的には優しい子です。
知らない誰かが死ぬのは構わないけど、顔見知りが死ぬのは許せない、普通の人です。ちょっと頭おかしいけど。
そして流されるがままに民警になった彼ですが、なんだかんだ言ってこの仕事を気に入っています。何てったって車の免許証としても使えますからね。