天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
警察に事情話してる最中にモノリス崩壊してて草。
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縦に一.六一八キロメートル、横に一キロメートルもあるモノリスの崩壊音と衝撃は、数キロ離れたこちらまで届いた。伝ってきた激震は建物を大きく揺らし、瞬く間に警察署内はパニック状態に陥った。
転びそうになりながらも署を飛び出すと、案の定逃げ惑う市民の姿と悲鳴に迎えられる。砂塵が巻き上がり、あちこちにどこからか飛ばされてきた瓦礫や看板が散乱している。
「おい、おいおいおい……モノリスの崩壊まであと一日はあるって言ってたじゃねえかよッ?」
声音が震えていることに気付き、奥歯を嚙み締めることで冷静さを取り戻す。
モノリスが崩壊したということは、アルデバランの軍勢が動き出しているとみて間違いないだろう。一刻も早く現場に向かわなければならない。
しかしこの非常事態に交通手段は限られている。タクシーは全て三十二号モノリスから遠ざかるように散ってしまったし、電車の運行は絶望的だろう。
俺は署内に引き返すと個室トイレに駆け込んだ。バッグの中には着替えが入っている。司馬重工製──というか司馬未織に直接頼んで用意させたオーダーメイド品だ。
肩甲骨のあたりから下にかけてファスナーが付いており、服を破かずとも翼を広げられる仕様となっている。
俺は外に出て飛び立つと、スマートフォンを取り出した。指先の翼のみを消してロックを解除、素早く番号を入力する。相手はキャンプにいるであろう木更だ。
──天童木更は通話中のため応答することができません。
無慈悲にも表示される文字列に眉をひそめる。
ふ、ふ〜ん? いいよじゃあ蓮太郎に掛けるから。
──里見蓮太郎は通話中のため応答することができません。
さては通話中だな、オメーら。
勝手に疎外感を感じていると、今度は着信音が流れた。ふたりの通話が終わったのだろうか。
ちら、と確認すると相手は夏世だった。
「もしもし」
『なぜ最初に電話するのが私じゃないんですか?』
…………ごめんね?
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前線基地が見えてくると同時に翼を消すと、勢いそのままに着陸。だいぶスピードが出ていたはずだが天童の受け身があれば問題ないっぽいです。ホントなんなの天童。
多少人目に付くのは覚悟していたのだが、誰もこちらに気が付く気配がない。ここでもパニックかよ使えないな。
アジュバントメンバーが集う分隊用テントに駆け込むと、既に全員が揃っていた。
「紅蓮さん、どうやってここまで?」
通話中おおよその現在地を伝えていたため、夏世は怪訝な顔をしていたが、説明している暇はない。
「保脇はッ?」
「既に避難しています」
ティナちゃんが答える。
「──よし、俺たちも行こう」
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突発的なモノリスの崩壊。
それは日本政府の予想よりも一日早く、現場の民警たちを大混乱に陥らせるには十分な事態だったが、『団長』我堂長正の手腕は凄まじいもので、民警軍団は三時間ほどで布陣を完了させていた。『知勇兼備の英傑』の二つ名は伊達じゃないらしい。
千人強からなる民警軍団は、小隊ごとに固まり、横に広がって並んでいた。
小隊の上には十個単位を統率する中隊長、そのさらに上に我堂さんという構成となっている。
小隊長である俺の前方にも、我堂さんと似たような(趣味の悪い)外骨格を纏った中隊長の姿が見える。神経質そうな男だ。神経質そうな男とは総じて相性が悪い(和光兄さんとか保脇とか櫃間息子とか)ため不安しかない。というか既に訓練時に何度か対立している。
嫌だな、いまからでも蓮太郎と同じ隊に移れないものだろうか。
現実逃避気味に空を見上げると、舞い上がった白化モノリス灰でできた分厚い雲があった。
時刻は午後七時。この時期ならまだ太陽が顔を出していてもおかしくないのだが、これでは戦闘が始まるころには真っ暗闇だろう。
「ことごとく悪い方に向かってねえか、これ?」
「モノリス倒壊が早まったのも風のせいですしね」
俺が独り言ちると夏世が反応を示す。
そこでやはりというか突っかかってくる男もいるわけで。
「天気ばっか気にしてんじゃねぇよ、気象予報士かテメエらは」
「うっせえ絡むな御天気屋」
「誰が御天気屋だッ⁉」
将監本当にウザイ。里津だけ残して別行動してくれないかな。
王監さ~んと助けを求めると、覆面マスクの大男は呆れた様子で説教タイムに入った。これでしばらくは大人しくしているだろう。
「ガストレアが現れたぞッ」
部隊の誰かが声を上げる。
瞬時に場の空気が張り詰めて、殺気立った。
視線の先にはアルデバランの軍勢。
ついに、倒壊したモノリスを迂回して、モノリス内に侵入してきたのだ。
次の瞬間、砲火は上がった。
自衛隊の遠距離武器の数々が火を噴き、ガストレアに殺到していくのが見える。
噴き上がる火焔を眺めていると、十年前の大戦を想起させる。大戦中は天童の屋敷に籠っていたため直接目にしてはいないのだが、当時の映像をモザイク修正無しで視聴したことがある。
吹き飛ばしても吹き飛ばしても湧き出るガストレアの軍勢に気圧されそうになりながらも、俺たちは自衛隊の勝利を願っていた。
「それにしても、煙いな」
ゴソゴソと腰に提げたポーチを漁ると、中から防塵マスクとゴーグルを取り出した。
「なんでそんなもの持ってきてるんですか」
「喘息なんだよ」
ふしゅこー……久々に着けたなコレ。
「わざわざ買ってきたんですか?」
「いや、大学の実習で使ってたやつ。ちなみに防毒マスクもあるぞ」
「邪魔……」
「映画のガスマスク着けて刀を振るうシーンにロマンを感じるんだよな」
「聞いてませんよ」
イニシエーターズには不評だった。えー、カッコいいじゃん。昔、怪獣映画かなんかで観たんだよな。砲弾持ってこなきゃ勝てなさそうな怪獣の映画。
あの手のガストレアを想起させる映画が放送されることはほぼ皆無なため、たしか菫先生の研究室で観たのだったか。
──こうして気を紛らわすことで、俺は絶え間なく襲う頭痛に耐えていた。
戦闘が始まる前はまだ痛みはなかった。民警たちの緊張と不安程度では、
しかし自衛隊から絶えず聴こえてくる断末魔は、俺の精神をゴリゴリと削っていく。
そのまま五時間が経過し、時刻は午前零時を指す。
──支援要請はまだ来ないのかよッ。
街頭一つない外周区。空は白化モノリス灰に覆われ月明りもない。
戦闘の様子を窺うことは出来ず、断続的に響く轟音だけが自衛隊の安否を証明していた。
しかし五時間前と比べて〝声〟の数は激減、戦況は絶望的だ。
自衛隊は何を考えている。武勲だとか、プライドだとか、そんなくだらないものは早く捨ててしまえ。
それからまた数時間が経過した頃。徐々に銃火が小さくなっていき、ガストレアの声も小さくなっていく。
戦闘の終わりを察して、民警たちの間に動揺が広がった。
「自衛隊の勝利……でしょうか……?」
ティナちゃんが震える声で呟いた。
「常識的に考えれば、自衛隊の勝利でしょう」
夏世が答える。
たしかにそうだろう。統率もクソもないガストレアが、物音を立てずにいるというのはあり得ない。
しかし、これは──
「お前ら、戦闘用意はしっかりな」
短く指示してその場を離れる。
久留米リカの番号をタップすると、一コールで胸焼けするほど甘ったるい声が聞こえてきた。
『はい、こちらハミングバード』
「こちら
『ああ、それなら──』
「誰か来ますッ」
弾かれるように顔を上げる。リカの声を遮るように叫んだティナちゃんが暗闇を指さしていた。
見えるのか、と疑問に思うも、それはすぐさま氷解した。ティナちゃんはモデル・オウルのイニシエーターだ。梟の瞳は僅かな光量を増幅するのだったか。
軽く能力を熾すも誰も引っ掛からない。何かがおかしいと思いながらもティナちゃんの五感とリンクさせることでようやく人影を捉えることができた。
一人や二人じゃない。横一列になって五十人ほど。迷彩服の人影がフラフラと歩いていた。
民警たちの緊張が緩むのを感じながらも、俺の心臓は早鐘を打ち、脳と翼は警鐘を鳴らし続ける。
──嗚呼、クソ。ここまで来ればもうわかる。
こちらの状況を知ってか知らずか、リカが紡ぐのと俺が叫ぶのは同時だった。
『全滅よ』
「無指向性・
構えろおおおおッ! そいつらはガストレアだああああッ!」
能力に乗せた咆哮が伝播して、民警たちの緊張が即座に高まった。
次の瞬間、一斉に隊員の体が内から弾ける。
サソリ型のガストレアだ。
大きく跳躍したガストレアを後衛組が油断なく撃ち落としていく。撃ち漏らしにトドメを刺すころには照明弾が打ち上げられて夜の闇を払っていた。
そうして──
──三キロ先の無数の真っ赤な双眸と目が合った。
事前に知らされていた二千体の倍以上のガストレア軍。
消失した自衛隊の転職先は、容易に想像できた。
お久しぶりです。
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