天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
あと何がとは言わないけど焔火扇です。
十年前、ガストレアの侵略から東京エリアを守り抜いた英雄たちの敗北。
その絶望は計り知れず、民警たちは本来の実力を発揮できずにいた。
団長の合図を機に一斉射撃するもビクともせず、戦闘不能となってもおかしくないダメージを与えているというのに進行は止まらない。民警軍団のパニックは加速する。
何かがおかしいとまごついている間に、ガストレア軍との距離は約二百メートル。近接戦闘を余儀なくされ、小銃部隊と近接部隊が入れ替わった。
その様子を見て、紅蓮は首を傾げていた。
「なーんか既視感あるんだよな」
乱れのない統率の取れた動きに自衛隊の壊滅要因の一つを察するも、違和感の所在はそこではない。
まるで痛みを知らないかのように迫ってくるガストレアたち。
そうだ、これではまるで──
「距離、百メートル! 紅蓮さんッ」
夏世の大声に、ハっと現実に引き戻される。ともかく、いまは別に考えるべきことがある。
迫りくる大群から目を離し、背後の仲間たちを振り返った。
「……俺の予想では、ガストレア軍の数は三千五百から四千ほどだ」
気の利いた言葉など欠片も持ち合わせてはいない。自分には自分なりのやり方があって、幸いなことにそのやり方はこのアジュバントメンバーの最適解だ。
「対する俺たち民警軍団は千人強」
一部、紅蓮の考えに適していない数名が暗い顔をする。
「つまりひとり四体討伐で依頼達成だ」
「小学生ですか?」
途端に残念な生き物を見るような目を向けてくる幼女三人を無視。やれやれ、大人を見習ってもらいたい。伊熊兄弟はたしかにと納得している。
紅蓮は大きく息を吸って──〝声〟を届けた。
「──問題ない。俺たちなら力を合わせれば絶対に倒せる」
──奴らを、殺せ。
妙に説得力のある雰囲気に、メンバー全員が息を飲んだ。
そしてついに民警部隊が、ガストレアの前線と正面からぶつかった。
■
前線基地テントよりもさらに後方、民警軍団の背にある森に、悠河はいた。
彼の目的──グリューネワルトから言い渡された主な任務は、組織から支給された機械を使っての天童紅蓮の監視と、脳波の記録だった。
「ダークストーカー、いまハミングバードから報告があったのだが……」
付近で待機していたはずの十五が姿を現す。悠河はパソコン画面から目を離し、苛立ち露に十五を睨んだ。
「邪魔しないでいただけますか、ソードテール。あなた方と違って、僕には教授から賜った大事な仕事があるんです」
十五のことを露骨に見下した発言。思わず言い返しそうになるが、悠河はグリューネワルトのお気に入りで四枚羽。対して自分はどうかというと、末端も末端の二枚羽。逆らっていい相手ではない。
内心『こんな若造に』と歯噛みしながらも、彼の機嫌を損ねないよう注意を払う。十五は組織に忠実な男だった。
「教授の見立てでは、
その呟きに、十五は疑問符を浮かべた。
たしかに天童紅蓮は第二特化能力に覚醒、あるいは覚醒しかかっているのではないかと言われていた。しかし悠河が言ったそれは、聞き覚えのない能力だった。
「『
「ああ、同じ指揮系ではありますけど、一応別種ですよ。『
興奮交じりに話す悠河に、十五は眉をひそめた。
「それは強いのか?」
「セラフ間では結構なチート能力みたいですよ。指揮系特化は大概逸脱したカリスマがありますけど、『
そこまで聞いて、ようやく納得する。
組織が『
そんな夢のような能力の代替となり得る能力に覚醒しているかもしれない、そうなれば組織は必ず動く。
「だが違った。彼は裏表のない純粋な言葉を器用に伝えているだけで、人を動かしている。ほら、さっきの観測データ。a波はそこまで高くないでしょう?」
パソコン画面を見せられた十五だったが、彼はそちらの知識は皆無だった。
「よくわからんが、それなら肉体強化系なんじゃないのか」
「いや、彼の特化方面は〝セラフ間のリンク能力の派生〟。そう極端に変わることは無いと思うのですが……」
口元に手を当てて考え込む素振りを見せてから、悠河は顔を上げた。一旦考えることをやめたらしい。
「そういえばソードテール。さきほどハミングバードの報告がどうとか言っていましたよね、それはどうなったんです?」
「む、そうだったな」
十五はようやく話せることに解放感を覚えつつ答えた。
「
「……は?」
直後聞こえてくる落下音と、大型の獣の気配。
固まった悠河を見て、十五の溜飲は多少下がった。
■
リカからの報告で現状を把握する。
上空からの奇襲ガストレアにいち早く気付いた蓮太郎アジュバントが現場を離れて討伐に向かったらしい。一アジュバントが丸々抜けたことで、蓮太郎の所属部隊は崩壊。
結果こちらにまでしわ寄せが来ていた。
組織だった陣形は崩壊し、戦場は民警キャンプ地まで押しやられている。
あちらこちらで叫声が上がり、敵味方綯い交ぜの乱戦になっている。
蓮太郎たちが討伐に間に合わなければ、民警軍団は挟み撃ちにされ全滅していただろうが、それを知らない連中からしてみれば超高序列者の裏切りでしかない。
現場の士気は最悪だ。そしてこれは、我堂団長が一番恐れていたものだ。
「またアイツは自分の立場を悪くするようなことを……」
ため息を吐いて、後方の森に視線を向けた瞬間、背後にて斬撃音。
振るわれたバスターソードがガストレアを叩き斬る。
「よそ見してんじゃねぇクソガキ」
「は~? ちゃんと気付いてましたけど~? アンタと違って素手でもガストレア倒せるんで」
そう言うと将監の動きが格段に向上した。修羅の形相で小型ガストレア次々と斬り捨てる。
味方としては頼もしい限りだが、進行が落ち着いたら俺を殺すつもりなのかもしれない。
内心ドキドキしながらその他の仲間の姿を確認すると、王監さんの奇行が目に飛び込んできた。
ボールのようなガストレア──多分ダンゴムシのガストレアを、何を思ったのか金砕棒で打ち飛ばす。
進行先には蜥蜴のようなステージⅢガストレア。パァンという破裂音とともに頭部を失った蜥蜴が倒れ伏すと、俺は思わず「ホームラン!」と叫んでしまった。
そして欠かせないのが献身的なまでにサポートに徹する夏世と、元超高序列者ティナちゃんによる遠方ガストレアの排除。彼女たちが駆け回ることで、俺たちのアジュバントだけが組織的な動きを維持していた。
里津? アイツはなんか「序列元五百五十位のアタシの手にかかれば余裕だったね!」とか「序列元五百五十位、占部里津。相手が悪かったね」とか叫びながらステージⅢと戦ってる。ガストレア相手にイキるなよ。
負けじと俺も脚に力を入れて、戦場を駆ける。
影胤戦時とは比べ物にならないほど翼の量が増えたため、翼を広げていなくとも、超人的な運動能力を発揮する。
地面をのたうち回る大蛇型ガストレアに狙いを定めると、殺気を向けられたガストレアもこちらを獲物として狙いを定めた。
地下鉄トンネルほどはある胴回りがテントを潰し、敵味方関係なく吹き飛ばす。
息を吸い、丹田に気を巡らせる。
天童式戦闘術──
「
突き出された拳がめり込むと、大蛇の体が膨張、破裂する。
噎せ返るほど血霧が立ち込める中、残心。
見ていた周囲の民警たちから爆発的に歓声が上がった。士気向上。いけるぞ、勢いこのままに敵の殲め──思考を中断、危険を察知して伏せた。
──一閃。
真上ギリギリを銀色の光線が擦過し、遥か後方までを巻き込み横薙ぎに切り裂いた。
足元にボトリと落ちたそれは、先ほど救助したイニシエーターの上半身だった。
「ビーム出すとか聞いてねえぞ……!」
これがガストレアによるものなのか。幸いアジュバントメンバーは無事だったが、民警軍団の被害は甚大。せっかく上がった士気は消えうせて阿鼻叫喚の地獄と化す。
突然の出来事で発信源は不明。しかし一刻も早く見つけ出し、排除しなければ。
そのとき唐突に、戦場に長い咆哮がこだました。
威嚇、雄叫びとは違うそれは、苦痛によるものだ。
全てのガストレアが動きを止め、悲鳴の方を注視したかと思えば、一斉に移動を開始する。
向かう先には小山のようなシルエットが蠢いており、アレこそがアルデバランだと直感した。
すぐに奴周辺の人間を探し、リンクを試みる。いた、この感じは……我堂さんか? 彼と繋がった瞬間、左足に激痛。恐らく左足を失っている。
激しい動揺と、絶望に飲まれそうになりながらもなんとか視覚のリンクに成功。
視線の先では──小山のようなガストレアが撤退していた。
長い尻尾。四つん這いになった背中にはアルマジロのような甲羅。そこから無数の触手が伸びている。数日前に、モノリスに取り付いていたガストレアで間違いない。
しかし恐るべきはそこではない。おそらく我堂さんによって頭は切り捨てられ、心臓部分には巨大な斬撃の跡が見える。
ガストレアの弱点、脳と心臓。この二つは再生阻害のバラニウムが無くとも、基本再生不能の急所である。
だというのに、アルデバランの傷跡はゆっくりと再生し始めているではないか。
追いついてきたガストレアたちが、アルデバランを守るように殺到したところでリンクを解除。
やがて全てのガストレアが去った戦場で、俺は力なく呟いた。
「再生レベルⅣのガストレア……」
生き残った民警たちが互いを称えあう中、俺だけが腕を抱いて震えていた。
他のブラブレ物書きさんがあとがきにTwitterユーザー名を貼っていたので紅銀紅葉も貼ってみる。
@darakutensi
10歳児以下の下ネタと夜泣きの合間に設定や進捗状況、更新報告などをしています。
作者の痴態と作品を完全に分けて読める人は覗いてみてください。