天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
あと保脇が変わった理由は機会があれば書きます。まあ彼はクズなのでロクでもない理由なのですが。
まあ飯食って寝てしまえば絶望していたことさえ忘れてるんですけどね。全快ではないけど。
■
ロクに休む暇もなく朝が来て、一日が始まった。
東京エリアはその日雨に見舞われていた。不気味なことにそれは『黒い雨』だ。
大量のモノリス灰を含んだ雨。空を見上げれば、濃い鉛色の雲が浮かんでいる。
まだ昼前だというのに地上は真っ暗で、七月とは思えないほど肌寒い。
モノリス倒壊時に巻き上げられた灰を含んだ雲は東京エリアを三日ほど覆いつくすそうだ。
ガストレアの軍団が撤退してから、まだ数時間しか経っていない。
支給された携帯食料を少量口にして、戦場となった平野からほど近いゴーストタウンで仮眠を取った。
全快とはほど遠い体調と精神状態。それでもゆっくり休んでいる暇はない。
のろのろとした動作で廃ビルを出ると、死体袋片手に自衛隊が陣を張っていた平野を目指す。
寝起きで回らない頭には早々に見切りを付けて、何も考えずに人の流れに歩みを委ねていると、いつの間にか目的地まで来ていた。
俺は戦場を見渡し、手を合わせた。お疲れさまでした。助けられなくて、ごめんなさい。
自衛隊の施設は壊滅していて、あちらこちらにガストレアにならなかった遺骸が転がっている。この惨状で、果たしてどれだけの人間が救助を必要としているのか。
与えられた任務は生存者の捜索と救助と説明されていたが、それは名目上のもので、本来の目的は
バラバラになったパーツまで丁寧に集める作業を繰り返しながら、思考は昨晩のガストレアの進行に割いていた。
致命傷を受けてなお止まらない軍団。まるでゾンビ映画のようにも思えたが、どちらかと言うと五翔会の
より戦闘に特化した
もしくは身体に大きな負荷を与える瞬間強化剤なども考えられる。
一部は五翔会子飼いの研究員による技術だったが、教授が手がけた兵士には遠く及ばないうえ、非人道的な扱いに人体が耐え切れないと判明され計画は頓挫した。
それはさておき、そんな連中が思い浮かんだということは、軍団の不可解な様子もなんとなく察しはつく。
例えばコカイン。疲れや痛みを一時的に感じさせなくなると聞いたことがある。もしも、事前に服用していたとすれば。
ガストレアウイルスの影響で未踏査領域には十年前の日本に無かった植物まで生えている。依頼で訪れたバラニウムの非合法採掘場のチンピラが野生のコカインを見たと自慢げに話していたのを思い出す。
ガストレアがそれほどまでの知識を有しているとは考えにくいが、
──
俺と同じく作業中であるはずの蓮太郎の姿を探していると、顔見知りの民警に声をかけられた。
「なあアンタ、天童紅蓮で合ってるよな? アンタを呼ぶように言われたんだけど……あれって聖天子付護衛官だよな?」
男の視線の先には、純白の隊服を纏った保脇がいた。
露骨に嫌そうな顔をして、しかし無視するわけにもいかずその場を離れると、男は俺が詰め終わった死体袋を運んでくれていた。モブのくせに名前も知らないが良い人だ。
「何しに来たんだよ」
保脇は避難したのではなかったのか。そもそも自ら危険な場に来るような男ではないはずだ。
「監視の続き……いや、貴様らの様子を見てくるよう、聖天子様直々に仰せつかってな」
「聖天子様のわがままを聞いたってのか? お前が?」
冗談だろ、と鼻で笑った。それも聖天子が俺を気にかけていると分かった上で従ったというのか。そんなはずがない。コイツはもっとネチっこくて、ドロドロとしていて、俺を嫌っているはずだろう。
無理矢理聖天子直属のイニシエーター部隊の企画に参加させた時だって、ずっと嫌がっていたではないか。
リンクを用いた洗脳まがいの差別意識の矯正を行ったとはいえ、それ以外の部分には手を加えていないのだから。
周囲を見渡した保脇は呟いた。
「ひどいものだな。これが戦争か」
なんだコイツ、本当にどうしてしまったんだ気色悪い。
「様子見なら済んだだろ、ならさっさと帰れよ」
「僕にできることはないか?」
思いもよらぬ発言に、驚かされる。
そしてそれが本心であることは、異能がある俺にはわかる。
呪われた子供たちと関わり続けて、彼女たちの現状を知って、戦場を見て。仲間と権力を失って、逆恨みする暇も無く仕事を押し付けられて、それだけでこうも前向きになるものだろうか。訳が分からない。
俺は保脇の顔面目掛けて死体袋を投げつけた。
「言っとくけど、この程度でお前がしてきたことが許されると思ったら大間違いだからな」
「そのくらい、言われなくともわかっているさ」
彼は服が汚れることに躊躇しながらも、作業に参加した。
「あ、あとティナちゃんは木更とペア組めるように何とかしてやってくれ。今日中な」
「ここぞとばかりに無茶を言うな」
不満気にぼやきながらも聖天子相手に電話で交渉を始めた保脇から目を離す。
──さて、次は蓮太郎の命令違反の件も何とかしなくちゃだな。
■
我堂の呼び出しを受けた蓮太郎は、廃墟となった中学校を訪れていた。
仮設本部は中学校の職員室だと聞いていたが、いざ入るとなると、夜の校舎はなかなかに不気味だった。
ドアをノックして中に入ると、我堂以下、彼のアジュバントメンバー、そして何故か義兄である紅蓮の姿もある。
「掛けたまえ」
兄の存在に気を取られ呆けていると、芯のある太い声を掛けられてビクリとする。声を発したのは我堂だ。
コの字型に配置されたスチール机の上座の我堂を正面に、中央に置かれた椅子に腰かけた。
そこでようやく、我堂の左太腿から下が無くなっていることに気付く。
我堂ペアがアルデバランと交戦、引き分けたという噂は本当だったのか。
蓮太郎の視線に気付いたのだろう、我堂は力強く笑って、左ひざを叩いた。
「この足はな、奪われたのではない。あのガストレアにくれてやったのだよ」
蓮太郎は不躾だったなと己を恥じて謝罪した。
「ここにいる全員でアルデバランと戦ったのか?」
「いや、敵の分厚い密集陣形を抜けられたのは、私と朝霞だけだ。敵のあまりにも水際立った動きにいいように翻弄されたよ」
「統率が取れていることに、合理的な理由があるとしたら?」
「どういうことだ?」
「アルデバランのベースとなっているのは、多分ハチのガストレアだ」
蓮太郎は考察した内容を余すことなく我堂に伝えた。
飛行ガストレアによる背後からの奇襲。モグラ型ガストレアによる地中からの戦車の排除。撤退の際は全ガストレアがアルデバランを守っていた。
異常なまでに統率の取れた
それはフェロモンによるものではないか。
よく知られているのは『性フェロモン』。それとは別に、フェロモンというのは千六百種以上が解明されている。
撤退の際に使われたのはおそらく『集合フェロモン』。
既知と未知のフェロモンを使い分けて、完璧に群れを統率しているのではないか。
それだけのフェロモンを使い分けているとなると、ハチか何かのガストレアだろう。
それが蓮太郎の考えだった。
我堂は顎に手を当て、思い当たる節があったのだろう、納得する様子を見せた。
「言われてみれば、退化した翅のようなものがあったな」
続けて紅蓮を見る。
「先ほど君の兄君に聞いた話によれば、不死と見紛えるほどの軍団の初列、彼奴らは薬物のようなものを摂取しているのではないかとのことだった。それもアルデバランの仕業かね」
「薬物? そんなものどこで」
そこでようやく紅蓮が口を開いた。
「昔未踏査領域の鉱山を根城にしていたチンピラが、野生のコカの葉を見たとか言ってたんだ。この辺りに生えててもおかしくはないだろ? アルデバランがそこまで狡賢いってんならありそうじゃん」
「そんな、アルデバランはそこまで知能が高いガストレアだってのか……?」
コカはコカインの原料となるアルカロイド物質が取れる木だ。南米原産の植物だが、蓮太郎は蛭子影胤追撃作戦の際に熱帯雨林にしか生えないような植物を目にしていた。無いとは言い切れない。
「さて、大変参考になる意見だったよ。私も君が知らない情報を提供しよう。里見リーダー、アルデバランは不死身のガストレアだ。倒す方法はない」
そこからの話は信じがたいものだった。
ガストレアの弱点である脳と心臓。そのどちらもを潰しても、アルデバランは死ななかったという。
蓮太郎は助けを求めるように紅蓮を見るが、紅蓮の表情はやや暗い。
「アルデバラン軍団の切り札はそれだけではない。君は『光の槍』を見たかね?」
「五キロ先から高圧水銀を撃ち出すガストレアのことか? イージス艦から発射したトマホークミサイルを撃墜して、ヘリと戦闘機を堕としたとかいう」
「その認識で正しいのだが……高圧水銀だと?」
「ああ、被害者は皆『水俣病』に似た症状が出ている。モデルは多分、テッポウウオのガストレアだ」
軽く説明して、その脅威度を共有した。
「なるほどな……我々は今朝方、日本国家安全保障会議と協議の上、このガストレアをアルデバランと並ぶ脅威と認定して、『プレヤデス』のコードネームを冠することに決めた」
我堂は懐をあさると、チェスの駒、キングとクイーンを取り出した。
「アルデバランを倒せばこの
「そこは将棋じゃねーのかよ」
茶々を入れる紅蓮に殺気が向けられる。
たしかに我堂は極度の戦国趣味だそうだ。あえてチェスを選んだところに突っ込みたくなる気持ちはよくわかる。わかるがそこは耐えてほしかった。
我堂のアジュバントは、彼を妄信する親戚縁者が占めている。
紅蓮としては小粋なギャグのつもりでも、それで首を撥ねられたら目も当てられない。
我堂はニヤニヤと笑う紅蓮を見てから、気を取り直すように咳ばらいをひとつ。蓮太郎に向き直ると眦を鋭く細めた。
「しかし我々には、もっと目先の懸念材料があるのだよ」
ピリ、と周囲からの圧が強まるのを肌で感じた。
「どういう意味だ」
「私が今日、君をここに招いたのは、作戦行動中に陣を離れ、アジュバントの単独行動をしたことの責を問うためだ」
「待ってくれ、それは──」
「奇襲ガストレアの死体は確認済みだ。だが建前は建前、命令違反は命令違反。この二つは分けて考えなければならない」
「ふ、ふざけんな!」
椅子から立ち上がり我堂に詰め寄ろうとした瞬間、蓮太郎の横を凄まじい速度で何かが通り過ぎた。
恐る恐る隣を見れば、いつ近付いたのか、我堂のイニシエーター朝霞と、彼女の首元に手を添えた紅蓮がいる。
朝霞は蓮太郎を止めるためか拳を構えていて、それを察知した紅蓮が止めたということだろうか。
「蓮太郎に手出したら殺す」
紅蓮の声は、絶対零度の如く冷ややかで、その言葉が本気であることが窺える。
その様子を見た我堂はさきほどまでの冷ややかな声はどこへやら、呆れ混じりのため息を吐いた。
「とまあ、さっきからこんな調子でね。本来なら極刑ものなのだが、『そんなことすれば民警軍団は一人残らず殺し尽くすぞ』などと脅されてはできまいよ。まったく、この情報もどこから漏れたのか……」
庇われたはずの蓮太郎はうすら寒いものを感じていた。
この人なら、本当にやってしまえるかもしれない。彼にはそれだけの力がある。
我堂もそれを察してか苦い顔だ。
「そこでだ里見リーダー。君に一つ、頼みごとをしたい」
我堂は杖を片手に立ち上がる。
「君に頼むのは、敵地への潜入と正体不明のガストレア、プレヤデスの撃破だ」
無茶だ。蓮太郎は言葉が出なかった。
撤退したガストレアは倒壊したモノリスの向こう側──未踏査領域の森の中だ。二千七百を超える配下が集う森に単身乗り込ませるなど、死ねといっているようなものだ。
「勘違いしないでくれたまえ、君に拒否権は無いが、民警軍団外の同行者の用意はある」
「そんなの数人いたところで、敵うわけが──ッ」
いつになく真剣な表情で、蓮太郎を諭すのは味方のはずの紅蓮だった。
「蓮太郎──いや
「なんだよ紅蓮兄ぃ、ハム太郎みたいに言うんじゃねえよ」
「大好きなのは──なんだ?」
何を言っているんだアンタは。自分が来る前に頭をしこたま殴られて脳に問題でも生じたのだろうか。
「いま失礼なこと考えただろ」
「読むなよ、心をッ」
「いいから答えて、早く」
急かされた蓮太郎は、我堂とアジュバントの面々をチラリと見た後、恥ずかしそうに呟いた。
「ヒ、ヒマワリのタネか?」
「残念不正解! 大好きなのは──」
身内の恥も相まって顔を覆ってしまいたい気分だったが、そこから先の展開は常軌を逸していた。
「──ヒルコカゲタネでした」
「え?」
「蓮太郎、これからお前には、蛭子影胤と共にプレヤデスの撃破に向かってもらう」
だーいすきなのはーひーるこかげたねー
ブラブレ二次の投稿作品に関することでご報告があります。興味のある方は紅銀紅葉の活動報告をご覧ください。