天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。   作:紅銀紅葉

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天童は技の名前だけでなく人の名前もややこしく人数も多い

 呻き声とともに目を覚ます。壁に掛かった時計を確認すればもう昼近い。痛む身体に鞭打ってベッドから這い出ると、携帯片手にリビングに移動した。

 一人暮らしの大学生にはいささか広すぎる三LDK。それでも比較的低い階層にあるこの部屋はそこそこに気に入っていた。

 

 身支度を済ませてから朝食兼昼食の用意に取り掛かる。そして気が付いた。数日前と比べてスムーズに身体を動かせるようになっている。痛みはまだあるが、戦闘に支障は出ないだろう。

 

 雑に扱えば呪われそうな怪人を殴ってみたら単位落とした(まだわからないけど多分落とされる)事件から数日。

 俺が内臓いたいいたいしている間にも、事件はさらに加速し続けていた。

 

 昨日、蓮太郎が『七星の遺産』を取り込んだガストレアの追跡中、外周区にて蛭子影胤と交戦。

『七星の遺産』が入ったスーツケースは奪い去られ、影胤の捜索は現在も続けられている。

 

 深手を負わされた蓮太郎が発見されたのは現場となった河の遥か下流。

 医者もさじを投げかけるほどの生死をさまよっていたが、それでもなんとか持ち直して、いまは延珠ちゃんが付き添っているはずだ。

 

 朝食を用意し終えたタイミングで携帯が鳴った。なんだよ、とぼやきつつも三コール以内に出ると相手は聞き覚えのある女性の声だった。

 

『紅蓮さん、私です』

 

「どなたですか」

 

『…………』

 

「いやだってアンタ、いつも俺のこと苗字で呼ぶだろ。やめてくれ心臓に悪い」

 

 驚くことに相手は聖天子。突然のことにドキドキしながら、それがバレないように軽口を叩く。

 

『私の周囲には天童の血縁者が多いものですから。あなたと菊之丞さんと、それから四人のお兄様とも面識があります。それに天童社長とも……』

 

「はいすみません聖天子様どういったご用件で」

 

 なんだかむず痒くなって、彼女の言葉を遮った。

 

『……蛭子影胤追撃作戦が始まります。多数の民警が参加する史上最大の作戦です。病み上がりで申し訳ありませんが、私はあなたにもこの作戦に参加してほしいと思っています』

 

「そういうことは高序列者に言ってくれ。アンタのほうで動かせる民警の中には、蛭子影胤より高い序列の者だっているはずだ」

 

 民間警備会社──略して民警は対ガストレア戦のプロフェッショナルだ。

 監督役(プロモーター)戦闘員(イニシエーター)。全世界で二四万組が登録される組織だが、この狭い東京エリアにも超高序列者は多数存在するはずだった。

 聖天子が答える。

 

『ここ東京エリアにおいて、天童紅蓮以上の戦闘力を有する民警がいるのであれば』

 

「いや、そりゃまあ相手が生身の人間なら百番台のイニシエーターでも勝てるかもしれないけどな。今回ばかりは相性が悪すぎる。なにせ国家が秘密にしてきた最強クラスのサイボーグだ」

 

『新人類創造計画』。

 身体の一部をバラニウム合金の機械に取り替えたデウスエクスマキナ。

 使用者に強大な力を与える半面、代償として多大な負担を強いることとなる。なりふり構っていられなかった、ガストレア大戦時代の汚点。存在するはずのない非人道的技術。国家が隠すのも当然のことだ。

 

 そして彼らの戦闘スタイルは人間の常識から大きく逸脱している。

 

 蛭子影胤の機械化能力は斥力フィールド。それを用いた絶対防御。

 奴の使うフィールドは、対戦車ライフルの弾丸を弾き、工事用クレーンの鉄球を止める。

 俺にはそれを突破できるほどの破壊力は生み出せない。

 

「作戦には参加する。弟を殺されかけたんだ、俺だって仇くらいはとってやりたいさ。でも俺にできるのは『七星の遺産』の回収まで。聖天子様が直接発破をかけるほどの価値はないと思うけどな」

 

 特筆すべき能力のない、純粋な攻撃特化能力者であればどれほど楽だったか。これだから機械化兵士を相手にするのは嫌なのだ。

 

「奴の潜伏場所、どうせ『未踏査領域』なんだろ? なら俺のことはどっか適当な民警ペアに同行させてくれ」

 

 ガストレアが嫌う特殊な磁場を発生させる鉱物『バラニウム』。その特殊な磁場はガストレアの再生能力を阻害し、衰弱させる。

『未踏査領域』とは東京エリアを覆うバラニウム製の結界──『モノリス』の外の世界。

 

 いまの俺は序列を剝奪され、頼れるイニシエーターも存在しない。その状態でガストレアが闊歩する死の世界に単身乗り込むのは心細い。というか、絶対に迷子になる。

 

『その点についてはこちらでも考慮しています』

 

 タイミング良く通知音。了承を得て耳から携帯を放すと画面を操作する。送り主は聖天子。中身はひとりのイニシエーターのスペックデータだった。

 ぱっちりとした目元は大変可愛らしく見えるが、十歳にしては理知的な表情というか、どこか冷めているというか。写真でもわかるくらい不思議な雰囲気を持つ少女だった。

 

「あれ、でもこの娘ってたしか……」

 

『ご存知でしたか』

 

 聖天子の声が聞こえて、耳元に携帯を戻した。

 

「知ってるも何も、この前防衛省にいたよな、このせん……せんじゅ?」

 

『──千寿夏世(せんじゅかよ)。先日防衛省の一件でペアを失ったイニシエーターです。『IP序列』は千五百八十四位。私と国際イニシエーター監督機構(IISO)は協議の結果、天童紅蓮の序列剝奪処分を取り消し、千寿夏世との契約が認可されました』

 

「はぁ⁉」

 

 俺の裏返った声など気にも留めず、これは決定事項だと言わんばかりに淡々と。

 

『紅蓮さん、国家元首として命じます。彼女とともに『七星の遺産』を奪還し、東京エリアを救いなさい。あなたにはそれを成し遂げられるだけの実力があるはずです』

 

 

 

 ■

 

 

 

 午後九時。

 

 俺は死んでいた。

 いや正確には死にかけているといったほうが正しいか。とにかく震えと吐き気が止まらない。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「……大丈夫に見える?」

 

 蛭子影胤追撃作戦。奴らはモノリスを超え、ガストレアの闊歩する未踏査領域に潜伏した。場所は元千葉県の房総半島あたりらしい。そのため作戦に参加する民警たちは、ヘリでの移動となったのだが。

 

「死ぬよこれ死ぬ死ぬ死ぬジェットコースター以来だよこんな怖いのステージⅤより怖いよ死ぬ」

 

 俺は重度の高所恐怖症だった。それはもう、兄たちから与えられた高層マンションに住めなかったくらいには。

 弟妹からは行方をくらませた理由を問い詰められたが、普通に怖かっただけなんです。というか行方をくらませたつもりもないんです。ただ忙しかっただけなんです。それでも見つからなかったというのなら、木更と俺の接触を避けたかった兄たちの仕業だろう。そうだ奴らが悪い。

 

 意識を他所に向けたためか少しだけ気分が良くなる。冷静になってみれば、随分恥ずかしい行動をとっていた事に気が付いてなんだか居た堪れない気持ちになった。

 

「天童さんは、未踏査領域での任務は初めてですか?」

 

 気を使われたのだろうか、視線をあげると傍らの少女がこちらを見つめていた。

 やはり不思議な雰囲気の子だな、と思う。第一世代(十歳)には似つかわしくない、異様に落ち着いた態度。あらゆる感情を放棄して吐き出されるような言葉には、諦めのようなものを感じる。

 俺が以前組んでいたイニシエーターとは性格も戦闘スタイルも全然違う。

 

 千寿夏世。防衛省の一件で両腕を失ったバスターソードの男──伊熊将監のイニシエーター。

 

 聖天子の計らいで俺は彼女と契約を結ぶこととなった。

 

「いや、結界の外には何度か出てる。鉱山の調査や採掘者の護衛、あとはヤクザに攫われて違法採掘させられてる連中の救助とかな」

 

「フリーの民警は色々と苦労してるのですね」

 

「超がつくほど大手の『三ケ島ロイヤルガーダー』さんからしたらそう見えるだろうよ。そういう夏世はどうなんだ、外に出るのは初めてか?」

 

 コクリと頷く。どうやら夏世は根っからの現代っ子らしい。モノリスの結界が閉じてから生まれたのだから当然と言えば当然か。『奪われた世代(俺たち)』からすれば懐かしい世界だが、『無垢の世代(彼女たち)』にとっては中の世界だけが全てなのだ。

 

「聖天子様も無茶苦茶言うよな。ペア組んで数時間で『国家の危機に立ち向かえ』かよ」

 

「民警もお上のある仕事ですから。百番以内の民警でも無い限り、末端の我々ではただ従うしかないですよ」

 

 夏世は相変わらず感情の浮かばない顔で答えた。ずいぶん大人びたことを言う。この頃の子供が知ったかぶって大人が言うことを真似るのは良くあることだが、夏世は自分で考え、言葉を理解した上で話している。

 

「不思議ですか? 私が」

 

「いや、ごめん」

 

 煩わしそうにされ、視線を外した。話を戻そう。

 

「『疑似階級』だったか? たしか序列の向上に伴って軍の階級が与えられるんだよな」

 

「あくまで民警社員は国の持ち物だと主張しているのでしょう」

 

「『民間』なんて付いてても結局は政府の犬だもんなー」

 

 うへーと身体を仰け反らせたところでヘリが小さく揺れた。気分の誤魔化しがきかなくなり、ビクリ撥ねたあと夏世にしがみついた。

 

「もうダメ、限界」

 

「無茶苦茶なのはあなたもでしたか」

 

 嫌そうな顔だ。ようやく見せた表情がこれかー……。軽くショックを受けつつ会話に意識を向ける。

 

「作戦前に確認しておきたいことはないか?」

 

「いくらでもありますが、この短時間で解決できるようなものではないでしょう。天童さんが前衛、私が後衛。当意即妙の働きが求められますが、天童さんの戦闘スタイルが将監さんに近かったのが不幸中の幸いでした」

 

「近い? アレとか?」

 

思い浮かべるは主張の激しい鎧のような筋肉。比べるまでもなく体格差がありすぎる。パワータイプとスピードタイプくらいの違いがありそうだが。

 

「ええ、前衛に出しゃばるところがそっくりです」

 

 何も言い返せなかった。というか聖天子はそれを理由にコイツとのペアを勧めてきたのだろうか。これも軽くショックだった。

 

「い、イニシエーターが後衛ってのも珍しい話だよな。前組んでた奴は完全な前衛だったし。後ろでバックアップしてもらうだなんて考えたこともなかったよ」

 

「最初は慣れないかもしれませんが、こちらでタイミングを合わせます。司馬重工での仮想戦闘訓練では問題なく動きを合わせられましたし」

 

「時間がなくて一度しかできなかったけど」

 

「十分です。司馬重工のVR訓練は民警だけでなく自衛隊や特殊警察も利用するため、予約は一年先まで埋まっていると言われていますから。東京エリア滅亡の危機でもなければ普通使わせてもらえませんよ」

 

「こればっかりは司馬重工(パトロン)様々だな」

 

 巨大兵器会社司馬重工。俺はそこから支援を受けている。

 俺たち民警と武器会社が契約することで得られるメリットは大きい。装備や訓練場の提供。代わりに広告塔としての役割があるわけだが。

 

「いくらパトロンだからといって、無茶ぶりにもほどがありますよ。『蛭子影胤レベルの機械化兵士のエネミーを用意しろ』とか『ステージⅤガストレアのエネミーを用意しろ』とか。後者は勿論のこと、国家がひた隠しにしてきた機密中の機密を用意できるはずないじゃないですか」

 

「あはははは」

 

 曖昧に笑う。

 

「まあ、あそこのご令嬢は蛭子影胤級の化け物二体と知り合いだから、もしかしたらって期待していたんだけどな」

 

「?」

 

 蛭子小比奈戦を想定したエネミーとの戦闘、ガストレアが多数潜む未踏査領域を想定したステージの戦闘は可能でも、そちらは無茶ぶりだったらしい。

 そこでふと思い出す。

 

「そういや蛭子親子のスペックデータも貰ったんだよな」

 

 携帯を取り出してデータに目をやる。横から夏世も覗き込んできたので、少し手を伸ばす形で見せてやる。

 

 プロモーター・蛭子影胤。蛭子影胤の機械化能力は斥力フィールド。フィールドは対戦車ライフルの弾丸を弾き、工事用クレーンの鉄球を止める。

 イニシエーター・蛭子小比奈。その身に宿すガストレア因子はマンティス(カマキリ)。刃渡りがある程度ある刀剣を持たせれば接近戦では無敵。

 そんな彼らに国際イニシエーター監督機構(IISO)が発行した『IP序列』は百三十四位。

 世界中に何十万と存在する民警ペアの中で破格の順位。なるほどあの滅茶苦茶な戦闘能力にも頷ける。

 

「これは勝てないよなあ、隙を見て『七星の遺産』を回収できればいいんだけど」

 

「ターゲットを見つける前に他の民警と合流できるといいのですが」

 

「それも難しいよな」

 

 どうやら政府の役人たちは人海戦術であぶり出すつもりのようで、作戦参加の民警たちはそれぞれに担当地区が割り振られていた。俺たちの担当は鬱蒼と茂る樹海。付近のペアの担当範囲を考えるに、合流しようにも時間がかかりすぎる。

 

「敵の目的がハッキリしていれば潜伏場所もある程度絞れたのですが……」

 

 夏世の言葉に頷いた。

 

「うん。でもどちらかと言うと、依頼人の目的かな。聖天子一派の動きがどうも怪しいし、内部で何かあったんじゃねーかな」

 

『七星の遺産』。ステージⅤガストレア──世界を滅ぼした十一体のガストレアを呼び出せるなんらかの触媒。

 ステージⅤガストレアはバラニウムの発する磁場の影響を受けない。サイズ、硬度、再生力、特筆性。その全てがステージIVガストレアを軽く凌駕する。

 その巨体でモノリスが一ヶ所でも破壊されてしまえば、崩壊したラインから周囲に生息するガストレアが雪崩を打って侵入してくるだろう。それに対抗するには、準備も人手も足りていない。

 そして遺産を知るのは聖天子一派のごく限られたものだけだ。だというのに遺産は何者かによって持ち出され、その何者かは道中ガストレアに襲われた。何者かはウイルスに感染したまま命からがら東京エリアまで逃げ帰ってきて、そのまま臨界点を突破。未曾有の大災害(パンデミック)に陥る寸前にまでなった。

 遺産は未踏査領域のどこかに厳重に封印されていたはずだった。それなのに持ち出されたとするならば、蛭子影胤の支援者はやはり聖天子一派の誰かだろう。それも遺産の封印場所まで知っているとなると、かなりの大物……菊之丞(ジジイ)かな? ジジイかもしれない。帰ったらシバく。

 

 しかし犯人が分かったところで目的までは掴めない。電話で聞いたところで答えてくれるはずもない。

 

「さすがにお手上げだ」

 

 夏世に降参ポーズを見せる。しかし夏世はこちらを見向きもしない。

 不審に思って顔を覗くと、ずいぶん暗い表情をしている。

 夏世はどうしたと聞かれてようやく顔を上げて口を開いた。

 

「……ステージⅤなんて、本当に呼び出せるものなんですか?」

 

 本当は不安なのだろうか。夏世は再度俯いてから呟いた。

 

「さてな。ただ東京エリアが最重要機密として封印していたくらいだし、出来ちゃうんだろうな。俺は映像でしかステージⅤガストレアを見たことがないけど、あれを呼び出されたら、そしてもし遺産にガストレアを制御する性質まであれば、いまの東京エリアに勝算はない」

 

 拳を握りしめる。

 

「だからいくら戦力に差があろうとも儀式の前に蛭子ペア(奴ら)を叩くしか道はない。俺たちで東京エリアを救うんだ」

 

 

 

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