天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
ブラブレ短編杯については紅銀紅葉の活動報告を見てね。
ちなみにサブタイトルはFAQネタです。
「アイツ最後までキョトンとした顔してて面白かったな……」
モノリスの向こう側に消えていく蓮太郎の背中を見送った。
蛭子親子を護衛に付けてプレヤデス討伐に向かったわけだが、それは蓮太郎にとって受け入れがたい屈辱だっただろう。
モノリスを出てすぐの場所にある廃工場を目印に合流する手筈となっているが、どうにも不安だ。任務と割り切って上手くやってもらいたいものだが。
俺はモノリスに背を向けて来た道を引き返した。そろそろ戻らなければ夏世に怪しまれそうだ。
歩きながら機械化兵士たちとの顔合わせを思い出す。
今回五翔会から派遣された機械化兵士は三名。
そして蛭子影胤。
そのどれもがグリューネワルトの機械化兵士だが、影胤が送られてきたのは想定外だった。
そもそも奴は組織の人間ではない。ジジイ──菊之丞の依頼を受けていたことから金と利害の一致があれば動かせはするのだろうが、今回の目的は何だ?
前回──『蛭子影胤テロ事件』での目的はわかっている。
『ガストレア新法』。『呪われた子供たち』の社会的地位を向上させ共生していくための聖天子の法案。それを潰そうと考えた天童菊之丞と、人間とイニシエーターの共生を屈辱だと感じるガストレアエリート主義の影胤の利害は一致していた。
『呪われた子供たち』の蛭子小比奈がテロに関わっていると知れれば法案に賛同するものはいなくなる。
証拠はないようだが、きっと事実なのだろう。
では今回は?
ガストレアとの戦争……だけなのだろうか?
巳継悠河も何か企んでいるようだし、やはり俺も着いていった方がよかったかもしれない。
「クソ……最初に顔合わせた段階で頭ン中漁っときゃよかった」
巳継悠河への懸念は俺の油断が招いたようなものだ。呼んでもいない組織の人間が現れたのだ。確実にグリューネワルトからの指示だろう。まったく、迂闊にもほどがある。
歩調を速めてキャンプ地に急ぐ。適当な廃ビルを掃除してアジュバントメンバーの拠点としているが、今ごろは全員寝静まっているだろう。
残念なことに弊アジュバントにリーダーが戻るまで心配で起きているだなんて殊勝な部下はいない。せいぜい夏世くらいだ。
十年放置されてひび割れた道路に出来た水たまりを上手く避けながら歩いていくと、ようやく拠点にたどり着いた。
会社のオフィスビルを一棟丸ごと拠点としているため馴れ合いを嫌がった将監の提案でそれぞれが別の部屋で寝泊まりしているため、俺が戻っても誰も気にしないだろう。
蓮太郎を見送る前、里見アジュバントのアットホームさを見てきたばかりなので少し凹んだ。
「ただいまー……いや、お邪魔しますか?」
しかし昨日は気にも留めていなかったが、深夜の廃ビルはなかなかにおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。俺はこの手の怪談に強いわけでもないので背後を振り返らないようにしながら自室に戻った。それでも元オフィスなだけあって無駄に広い部屋には恐怖心を煽られる。
気持ちを切り替え、デスクの上に我堂から奪い取った借り受けたガストレア軍団キャンプ地の地図を広げた。
俺は現在地からガストレアキャンプまでを一直線に指でなぞる。
倒壊したモノリスからガストレアキャンプまでは片道十キロ。往復で二十キロある。
蓮太郎一行が入り組んだ森を歩いていけば少なくとも十五時間は掛かる距離だ。
──飛んでいけば、プレヤデスの捜索に多少手間取っても二、三時間で戻ってこれるのでは?
そもそもアルデバランが傷を癒して戻ってくるまでに、それほど猶予は残されていないのだ。
蓮太郎を向かわせることで彼の罪は既に償われたようなものだ。俺が先回りして討伐し、あとは何食わぬ顔で戻らせれば英雄の誕生である。
「いや、いやいやいやいや、これは別に蓮太郎のことを信じていないとかじゃなくて」
誰もいない部屋で勝手に焦る俺の姿は酷く滑稽だろう。
「……サッと行ってサッと帰ればバレねーよな」
「なにがバレないんですか?」
「ぎあああああッ⁉」
横合いから声をかけられて悲鳴をあげ、電光石火の勢いで距離を取った。
「なんだ夏世か」
ほっと息をつくと、反して夏世は不満げな視線を送ってきた。
「女性に対してその悲鳴はどうなんですか」
「なにが女性だ、すっかり延珠ちゃんの影響受けやがって。お前を女性と呼ぶにはまだ早い、だから寝ろ」
「寝ていましたよ。物音が聞こえたため様子を見に来ただけです」
「俺のせいかよ、めっちゃごめん」
夏世は「いえ」とだけ呟いて俯くこと数秒、顔を上げた。
「我堂団長からはなんと?」
「我堂?」
そこでようやく思い出す。そういえば「呼び出された」とだけ伝えて飛び出したのだったか。出て行ってからは五時間以上が経過している。会議に参加するほどの権限は、俺には無い。何らかの処分を受けていると勘違いされても仕方がない。
「別に、アルデバランとプレヤデス──昨日のビーム野郎の対策について意見を求められただけだよ。これでも元超高序列者なんでね。特殊な能力を持つガストレアの知識もそれなりにはあるんだよ」
俺は嘘を伝えた。
「そうですか、お疲れ様でした。やはりアルデバランは戻ってくるのですね」
「まあ、それなりに深手は負わせたそうだから、猶予は二十時間……いや、十八時間くらいかな?」
予想を伝えると夏世の表情が曇る。
「で、もういいか? 俺ももう寝たい」
「あ、はい、すみません。おやすみなさい」
ぱたぱたと自室に戻ろうとする。夏世は最後に振り返った。
「そういえば何がバレないと思ったんですか?」
「恥ずかしいから内緒」
■
ハンドルを握ると性格が変わるという噂は事実のようで、俺も翼を纏うと気が大きくなっているらしい。
背中に収めた翼が蠢く感覚。次に全身に行き渡らせて外骨格を形成。
割れてしまって意味をなしていない窓を開けると、足をかけて身を乗り出した。
直後、飛び立つ。
翼の中に神経回路を伸ばしていくイメージで、それが端までいき渡ったところで体勢が整った。
猛スピードで廃墟スレスレを飛んで気分が上がっていく。
そこから一気に上昇、バラニウム灰を含んだ雲はあまり吸い込みたくなかったので、翼をヘルメット状にして顔を覆った。
雲を抜けると視界いっぱいに星の海。
つい数日前までは夏の日差しを鬱陶しく思っていたが、雲一つない空を懐かしく感じるのが不思議だった。明日の朝、余裕があれば太陽を見に来ようか。
「はああああ……最ッッッ高」
羽ばたきを止めると、自由落下。
この機会を逃せば、バラニウム灰を含んだ真っ黒い雲の中を飛ぶことなど叶わないだろうが、全身灰塗れになるのは避けたかった。
先に進もう。
翼の中には地図と飲料水、スマートフォンのみを入れている。後のことは考えない。
一直線にガストレアキャンプ地を目指す。
モノリスを超えたところで一度高度を下げた。
遮蔽物などなにも無い空中。いまプレヤデスに狙われたら確実に撃ち落とされる。
木々の間を縫うように飛行し、慎重に進む。
景色を楽しむ余裕もなく一時間。ふと、獣の気配を感じて林の中に着陸した。
手首の翼をサバイバルナイフ状に伸ばし、草木を搔き分けながら音の方へ接近。
「うっ……」
湿った空気とともに飛び込んできた獣臭が鼻を刺す。こうした場面では五感が鋭いと苦労する。戦闘になれば息苦しくなるのは必至だがどうしても我慢できず、鼻周りも翼で覆って臭いを誤魔化した。
視界の向こうには大小様々なガストレアで埋め尽くされていた。
猿の子供をそのまま巨大化させたようなもの、獅子の頭を持ちイヌ科の体を持つガストレアはどういった進化の過程をたどればああなるのか。
退化していない羽根を持つガストレアも多くいる。作戦決行後は逃げるのが大変そうだ。
まるで百鬼夜行だ。長時間いれば気が狂いそうだ。
「さて、プレヤデスちゃんはどこかな~?」
見渡す限りプレヤデスらしきガストレアは見当たらない。地道に探すしかないか。
移動を開始する前に、チンパンジーをそのまま巨大化させたようなステージⅠガストレアが目に入った。
俺はとっさの思いつきで、それを試した。
精神感応に特化したセラフは、力を扱いやすくするために能力にイメージを持たせることが多いらしい。
俺の場合は〝水〟。自分の足下を中心に薄く広げていくイメージ。
そのイメージで俺とガストレアを繋げ──
「あ?」
直後、酷い頭痛に襲われ、
──『襲い来る黒い銃弾』『自分を支配する大いなる力への恐怖』
これ以上の能力の行使は危険と判断。リンクを解除した。
「これ、いま、
膝をついて頭を押さえる。込み上げてきたものを吐き出し、背中にしまっていた水を取り出して口をゆすいだ。
何故だ、俺の
その時唐突に、長い咆哮。
それが響くと、見えるガストレアすべてが硬直、一斉に俺を向いた。
「なッ……⁉」
それは怒りの声だった。
敵対者を排除せよとの、命令だった。
「まだプレヤデスは見つかってさえいないってのに……!」
視線の先──戦闘態勢に入った軍団の奥。
アルデバラン──山のようなシルエットが蠢いていた。
■
天童紅蓮。
鳥使いっていう能力があるんですよ。鳥相手のリンク能力の。いいなー。いいのか?わからん。
あと明かせる範囲で紅蓮の設定を活動報告にアップしました。