天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。   作:紅銀紅葉

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「『き』と『ん』と『た』と『ま』が付くのは覚えてた」「『三陀玉麒麟』だ」

「久しぶりだな紅蓮、精進しているか?」

 

「人違いです」

 

「そうか。ところで紅蓮、お前イニシエーターも連れずひとりで作戦に参加しているのか?」

 

 聞けよ。相変わらず人の話を聞かないところは変わっていない。

 

 昔からコイツのことは苦手だ。

 睨みつける相手の名は薙沢(なぎさわ)彰磨(しょうま)。スラリとした長身に長いコート、目元にはバイザーとコンセプト不明のファッションセンスであるが、こんななりでも天童式戦闘術八段の兄弟子。

 まあ、俺のほうが段位高いんですけどね(重要)。

 

「他と比べてもかなり特殊な進化を遂げたガストレアと遭遇してな。はぐれたんだ。爆発物に関しては悪いと思ってるよ」

 

「先ほどのアレか。しかしお前のイニシエーターは近距離特化のパワータイプではなかったか? お前だって爆発物など使わないだろう」

 

「アイツとは音信不通だよ。今回は仮契約のイニシエーターのお試し期間中だ」

 

 なるほどと納得する彰磨。視線を外したところで彼のイニシエーターと目が合った。

 

 落ち着きなくソワソワしている少女。ロングパーカに鍔の広いとんがり帽子の中身は極度の人見知りのようだった。

 

「紹介する、この子は布施(ふせ)(みどり)。俺の相棒だ」

 

「ふ、ふせ、布施翠でっしゅ。よ、よろしくお願いします!」

 

 噛みながらも一生懸命に自己紹介を成し遂げた少女に内心喝采を送る。あ〜癒される〜。やはり夏世と元相棒には年相応の可愛げというものが欠如していると思うのだ。

 

「彰磨の幼なじみの天童紅蓮です。よろしくね」

 

 屈んで手を差し出すと控えめに手を握り返してくれた。かッッッわよ。はい握手。

 

「お噂はかねがね……」ポソリと呟いた翠に俺は首をかしげる。

 

 はて。俺ってそんな有名人だったかと。序列的にも立場的にも、天童紅蓮の情報は管制されているはずなのだが。

 

「彰磨さんからは大変お世話になった弟弟子だと……」

 

「……彰磨。お前、俺のこと大好きだよな」

 

「共に技を磨き合った仲だろう」

 

「やっぱお前苦手だわ……」

 

 何の恥ずかしげもなく言い放つその態度に呆れ返ってしまう。

 

 何はともあれ俺は、にっくき兄弟子と奇跡的な再会を果たしたのだった。

 

 

 

 ◼

 

 

 

「ところで紅蓮、先ほどの『三陀(さんだ)玉麒麟(たまきりん)』。見事な業前だった。昔は苦手としていはずだったが、強くなったな」

 

 基本無口な彰磨は放置して、翠ちゃんと談笑しながら道無き道を進んでいると、珍しく彼の方から話を振ってきた。焼きもちですか彰磨兄ぃ。

 

「たま……ああ弾きの技か。あれな、『き』と『ん』と『た』と『ま』が付くのは覚えてたんだが……」

 

「『三陀玉麒麟』だ」

 

「そうそれな。昔は武器とか苦手だったんだよな」

 

 本来俺は、戦闘術を習うはずではなかった。木更と共に抜刀術を習っていたのだが、手元が狂って刀でズッパリ。刃物に忌避感を持ってしまったため戦闘術に切り替えたのだ。とてつもなくダサい。

 あの時は助喜与師範にめっちゃ渋い顔されたな。

 戦闘術に切り替え三……三玉? なんだっけまあいいや、弾きの動作を習う時も長物を使った練習には集中出来なかった。

 今でこそ克服出来たが、彰磨と共に道場に通っていた頃は上手く出来なかったんだよな。

 

 ちなみに俺が彰磨よりニューフェイス(弟弟子)なのは戦闘術の方のみで、抜刀術の期間も含めればほぼ同期である。というか俺の方が早かった気さえする。

 

「そういうお前はなんだよあの技。俺にも教えろ」

 

 ステージIVガストレアの体を炸裂、四散させたあの技。

 天童流の本質は、剄力を用いての相手を打倒・無力化することにあって、内部破壊などの技は存在しない。

 そのためあの技は彰磨のアレンジが加えられていることは確実だった。

 

「……あの技は、お前には相応しくない」

 

 そう言って彰磨は歩調を速めて先に進んでしまう。

 なんか不味ったっぽい。

 翠ちゃんはオロオロしていて理由を聞ける雰囲気でもない。

 

 ひとまず俺は諦めて、彼の後を追った。

 

「なあ、このまま指定された地点を探ってるだけじゃ無意味だ。次に向かう場所話し合わねーか?」

 

「確かに埒が明かないか。俺も紅蓮に賛成だ。翠、どうだ?」

 

「わ、私も賛成です。誰だってこんな場所に長居したくはないと思うし……蛭子ペアも戦闘に備えやすい街中に潜んでいるんじゃないかと思います」

 

 なんでイニシエーターってこんな頭いいの? 俺より落ち着いた話し方するの何なの? 俺の問題? あっそうごめんなさいね。

 

「翠ちゃんが言う通り、常人ならこんなジメジメしたとこ、それもガストレアだらけのとこに滞在したいとは思わないよな。あいつ頑なに燕尾服着てたし。娘はドレスだし。こんなとこ留まってたら死ぬぜきっと」

 

「後半は知らないが、確かにこの辺りはガストレアが多いようだな。原生生物が全滅しているなんて事は有り得ないだろうに、息を潜めてしまって物音ひとつ立てない。これは異常だ」

 

「天童さんは以前の序列……えっと」

 

「気にしてないからいいよ、言ってみ」

 

「す、すみません、あの、序列剥奪前はかなり上位の民警だったと聞いています。それにご実家の立場上、かなり深いところまで東京エリアの機密情報に触れていると言っていましたよね? 『七星の遺産』についても何かご存知ありませんか?」

 

「あー、どうだろ。ステージⅤガストレアを呼び出すには何らかの儀式が必要ってことと……あ、そうか。呼び出すにしても、こんな森の中じゃステージⅤの姿は見えないのか……じゃああいつら、ステージⅤガストレアが現れた時に、ちゃんと出現を確認できる場所にいるんじゃ……?」

 

「それはどこだ? 大戦末期から姿を消しているステージⅤガストレアが瞬時に現れる場所なんて何処にも……いや待て瞬時である必要はない。儀式は既に始まっているはずだ。徐々にでも──今まさに気付かない内に東京エリアに近付いて来ているとすれば……」

 

 広げた地図に視線を落とす。

 視線は三人とも同じ場所に向かっていた。

 

 山のように大きなステージⅤガストレアが身を隠せる場所。

 そして周辺地域で、出現場所がよく見えるであろう場所は──

 

「──海辺の市街地か」

 

 

 

 ◼

 

 

 

 しばらく歩いて森を抜け、目的地に辿り着いた時には既に多数の民警ペアが集まって奇襲の準備がなされていた。

 といっても作戦自体は固まっているようで、今荒れているのは手柄の分配方法らしい。実にくだらない。

 

 まだしばらくかかりそうだったので、隙を見て無線機を使って夏世への連絡を試みる。

 

「もしもーし。もっしもーし聞こえますかー。おっかしいな使い方はこれで合ってるはずなんだけど」

 

「その無線機はお前のものではないのか?」

 

「相棒のだよ。一応持っとけってさ──おっ?」

 

『音信不通だったので心配していました。ご無事で何よりです』

 

 適当に弄りまくっていたら案外繋がったらしい。数時間ぶりに聞く相棒の声にひとまず安堵する。

 

「よかった夏世も無事だったか。早速で悪いんだけど、今キミの周りに信用できる民警いたりする?」

 

 迷っているのだろうか、しばし無言が続いた後、受話器を渡すと鳴るようなノイズが走った。

 

『天童民間警備会社の里見蓮太郎だ。こちらはアンタの相棒と俺たちペアの三人しかいない』

 

 弟で草。

 

 どうやら俺たちペアは相性がいいらしい。俺は兄弟子に、夏世は俺の弟弟子に保護されている。運命じゃんウケる。

 

「……蓮太郎、お前ウチの娘に変なことしてないでしょうね?」

 

『は!? ってまさか紅蓮兄ぃか!? じゃあコイツの新しいプロモーターって──』

 

『天童さんから連絡が来るまで、私は里見さんに押し倒されていました』

 

『デタラメ言ってんじゃねえよ!!』

 

「……帰ったらジジイ(菊之丞)と木更を交えてお話があります」

 

『この場には敵しかいねえ!!』

 

「里見、お前ついに……」

 

『『ついに』なんだよッ。てか誰だアンタッ』

 

「それは合流してからのお楽しみってことで。とりあえず蓮太郎、ちょうど良かった。地図はあるか? 急いで今から指示する場所に来てくれ」

 

 指示を終えると無線を切った。夏世とはぐれた地点を考えても、彼女の現在地からここまで来るのにそれほど時間はかからないはずだ。

 

 時刻を確認すると、いつの間にか午前四時近くとなっていた。

 夜明けまであと二時間ほどか。奇襲をかけるには今がベストといえる。急がなければならない。

 

 通信機を片付け終わる頃には、会議も落ち着いたようだった。

 この様子なら、まもなく作戦が開始されるだろう。

 

 

 


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