天童一族の養子として転生したけど技名覚えられなくて破門された。 作:紅銀紅葉
『機械化兵士』製造のノウハウを持った四人の天才、『四賢人』。
蛭子影胤は知る由もないが、彼の執刀医であり『四賢人』を統括していたアルブレヒト・グリューネワルトは、『呪われた子供たち』の出現によりプロジェクトが解散された後も、新たなコンセプトを元に新プロジェクトを立ち上げていた。
『新世界創造計画』
文字通り、新たな世界を作り上げるための尖兵の創出。
その計画の前段階で産み出された兵士たちが
──ただ一人の男を除いて。
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「パパを、いじめるなぁぁぁぁッ!」
悲鳴をあげたのは小比奈。素早く弾き飛ばされた小太刀を回収しての特攻。地面を砕かんばかりの踏み込みに警戒し、瞬時に防の型に切り替える。直後、小比奈の姿が掻き消えた。
衝突音。
訪れない衝撃に混乱しかけるも、それは小比奈も同様だった。
「不思議か? ただの人間に投げられたことが」
衝突の寸前、横合いから伸びた手が、彼女を地面に叩きつけたのだ。宙を見る小比奈は目を回し、状況の把握に時間を要しているようだ。
「いかん小比奈、戻れッ」
その隙を見逃す序列千番台ではない。すかさず翠ちゃんが普段は収納してある爪を開放。自身の指の一.五倍はあろうそれを、小比奈に振りかざす。
だがそれが直撃する前に俺は翠ちゃんに飛びついた。直後に翠ちゃんが立っていた地面が抉られる。影胤の援護射撃だ。
彼女は目を回していたが、すぐに俺の意図に気付いたらしい。俺の腕をトントンと突き、落ち着きを取り戻したことを合図した。
「すみませんッ。躊躇しました」
「大丈夫、次来るぞッ」
翠ちゃんを降ろすと同時に加速。猛追する弾丸が足元を粉砕していく。あまりにも的確に迫る銃弾に、俺は内心舌を巻いていた。初撃でもう一つの拳銃を破壊できたのは大きかった。
弾を撃ち尽くすタイミングを測り、彰磨がハンドガンで撃ち込むが、全弾がイマジナリーギミックによって防がれてしまう。
これではキリがない。
「二人とも! 奴を倒そうと思わなくていいッ。隙を見てケースを破壊しろ!」
「私たちがそれをさせるとでも?」
彰磨の叫びを影胤は否定する。再び動き出した小比奈に俺は、ピンを抜いた
「目と耳塞げぇぇぇッ!」
斥力フィールドでは防ぎようのない攻撃手段。敵方の足止めに成功する。奴らが目を開いた時には、意図を理解していた翠ちゃんが全力で戦線を離脱していた。
「パパッ、小っちゃいの逃げたッ!」
「ぐ……。追え! 行かせるなッ」
遅まきながらこちらの意図に気が付いた彼らは痛恨の表情を浮かべるが、もう遅い。いくら蛭子小比奈の『呪われた子供たち』としてのスペックが高くても、すでに遠く離れてしまったスピード特化のイニシエーターに追いつけるはずがない。
序列元百三十四位の怪人が初めて露にする焦りの声。戦闘中だというのに思わず笑みがこぼれる。
「
「貴様ッ」
「お前の相手は俺だ。翠の元へは行かせん」
「ッ。弱いくせにぃ!」
俺と彰磨は、翠ちゃんが走り去った教会への道を阻むように立ち、型を取る。さあ、仕切り直しといこう。
「なあ兄弟子。あの装甲割れるのは蓮太郎くらいだと思うんだけど、あいつ来るまでに小比奈倒せてたら恰好良くね?」
「偶然だな弟弟子。俺も同じことを考えていた。では弟弟子、お前には蛭子影胤の足止めを任せようか」
「は? え、ちょ、待、おいこら」
返答も聞かずに飛び出していきやがる。クソ、昔から蓮太郎や木更の前では徹底して年上ぶるくせして、俺しかいない場では年相応の言動しやがって。
「あとで覚えとけよッ」
がなり立てながら脱力し、身体を前方へ滑らせるように落とす。影胤の奇襲にも使った速攻。本来天童式は免許皆伝となるまで技の創出は禁じられている。技じゃないですの一点張りで誤魔化し続けた俺だけの攻の型。
一回目よりもなお早い、ましてや並のイニシエーターにも匹敵しかねない速度の突撃に影胤は目を剥く。
イマジナリーギミックでの防御は間に合わないと判断したのか、胸の前で腕をクロスさせ防御の姿勢を取っていた。
「ぶっ飛べッ!」
見よう見真似の下法の拳。渾身のアッパー。彰磨と比べて未熟なそれは、影胤の腕を爆発四散はさせずとも確実にダメージを残していた。
「『マキシマム・ペイン』! 潰れろ!」
「あッ、クソ、ズリィ!」
扇状に膨らんだ斥力フィールドを身をよじって抜け出し、銃口を影胤に向けた。
喉を鳴らして短くなされる呼吸を強引に整えようとする。天童の技のみで戦うのであれば、疲れにくい動きを意識して足止めに専念できたかもしれないが、それのみで渡り合えるような相手ではなかった。やはり俺の能力は長期戦に向いていない。銃弾が掠った箇所もいくつかあるし、前回の対峙で刻まれた傷も痛む。
しかし相手にも確実にダメージはある。影胤はいくつか被弾しており、若干息も上がってきている。先ほどの拳には確かな手応えがあった。
仮面越しに影胤と目が合う。瞳の奥には黒い炎のような憎悪が揺れていた。
「何故だ、何故君は私の邪魔をするッ! 私の前に立ちはだかるッ! 我々は殺すために造られたッ。戦争のために生み出されたッ。モノリスが崩壊し、ガストレアが雪崩れ込めば、我々は再び必要とされるッ。今の人類に本当に必要なのは私たちだッ」
「そんなことのためだけに、今回のテロに加担したっていうのか⁉」
「だとしたらなんだ? 私は君たちと違い、このエリアになんの思い入れもない。『呪われた子供たち』だと露見したときの周囲の反応を思い出せ! 藍原延珠はッ。
「ふざけんなよ怪物が。俺はお前とは違う。戦いなんて望んじゃいない」
「冗談だろう? それほどの力と才覚を有しているんだ。考えたことくらいあるはずだ。気に食わない奴を殺したい。女を力で犯したい。『俺の中にはお前等を簡単に挽肉にできるほどの力があるんだぞ』と」
「ああ、それは思う」
「私はそれを実行してきた。だから君は──今、なんと?」
「あ? なんだよ急に。だからあるって。突然学校にテロリストが押し寄せてきて、『俺はそんな奴らを一瞬で挽肉にできるほどの力があるんだぞ』って。毎日講義中に思ってる」
「……一緒にしないでくれたまえ」
「はッ、一緒だろ。自分の殻に閉じこもって、共生の道を選択しなかったお前はただの怠惰だ怠慢だ、クソイキリ陰キャが。何度でも言うぞ蛭子影胤。俺はお前とは違う。俺は正義のために戦うと誓った。なにより──」
俺は銃口を下げ、逆の手で中指を立てる。
「俺は、蓮太郎にッ。木更にッ。彰磨にッ。
精一杯の嘲笑。影胤の殺意が膨れ上がる。
「もういい、それ以上口を開くな。ここで死ね、天童紅蓮」
後ずさろうとして、脚に力が入らないことに今更気が付く。死んだかなこれは。
「『マキシマム・ペイン』! ──潰れろおおおおおッ!」
斥力フィールドが大きく膨らみ、俺めがけて殺到する。恐ろしい勢いで地面に叩きつけられ肉が潰れ、骨が砕ける。遠くから彰磨の悲痛な叫びが聞こえたが、もう間に合わないだろう。意識が薄れ、死を覚悟したその時。影胤の怒号に重なる声があった。
「──天童式戦闘術一の型八番『焔火扇・
爆速の拳が、影胤の斥力フィールドを貫通。勢いそのままに殴り飛ばし、何度もバウンドしながら転がり、民家の壁に激突させた。
待ち望んだ存在の登場。圧力から解放された俺は顔を上げる。
果たして視線の先には、中肉中背の少年の姿があった。超バラニウムからなる真っ黒い右腕と右足。左眼の義眼は解放されていた。
「──遅ぇよ」
「ごめん紅蓮兄ぃ。あとは、任せてくれ」
予想外の参戦者に、影胤は今度こそ驚愕をあらわにした。
「てめぇに礼儀を通す義理はねぇが、俺も名乗るぞ。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』里見蓮太郎──これより貴様を排除する」