「嘘だろ……。」
俺の目の前に突然現れたイリヤという名の少女は、その姿を魔法少女に変えグール達に立ち塞がる。
グール達と乱戦状態のクロウも、その姿を見つけ立ち止まる。
「派手に行くよ、ルビー!」
『了解です!さあ張り切っていきますよ!!』
そう言うと、イリヤはステッキを振りかぶる。ステッキの先端には、桜色の光がまばゆく煌めいていた。
「
そう言って振り下ろしたステッキから、軌道上に幾つもの光弾が放たれ、その光弾に当たったグール達は火花を散らしながら消滅していく。
「もういっちょ砲撃!」
今度は先ほどの倍近くの光弾を作り出して残っていたグールを殲滅しようする。
「ウルァアアア!!」
しかし、見かねたアナザーウィザードが巨大な魔法陣を目の前に出現させ光弾を防ぐと、知性を感じさせないうなり声を上げながらイリヤの方へ手を翳す。
すると、その手から灼熱に燃える炎が直線上に噴射された。
「っ!避けろ!」
咄嗟に叫んだ俺だが、イリヤは避けるどころかその場に留まった。
そして、炎がイリヤを焼きつくそうとしたその刹那、イリヤの目の前にピンク色の障壁が現れ、炎を四方八方に分散させてイリヤを守った。
「うおっ危な!」
こちらに飛び火してきた炎に髪を軽く撫でられた俺は、非難する目でイリヤを見る。
「おい!弾く場所くらい考えたらどうだ!」
「あ……ごめん。」
髪の一部分がチリチリになった俺を見て、やっちゃったといった風な顔で謝ってくるイリヤ。
と、よそ見をしている間にアナザーウィザードは炎を出すことを止め接近戦をしようと走り寄ってくる。
確かに格好からして接近戦が弱そうに見えるのでその選択は普通ならば正しいと言える。
「ウルガァァ!」
そうして、叫びと共に大振りの拳で殴りかかるアナザーウィザードだが
「接近戦なら勝てると思った?」
その拳をイリヤはしゃがむ事で避け、さらにカードのような物をステッキに翳した。
「クラスカードランサー…
すると、カードとステッキが光に包まれて一体化し、深紅の細身な槍へと変化してイリヤの手に握られる。そして、胴ががら空きのアナザーウィザードへ、その槍を振るった。
「
「〜〜ッッ!!」
アナザーウィザードの体を易々と突き破ったその槍は、声にならない悲鳴をアナザーウィザードに叫ばせ、役目を果たしたかのようにカードに戻る。
そして、アナザーウィザードは数歩ヨロヨロと歩いた後断末魔の悲鳴を上げる事なく爆散した。
「……彼女凄いね。晴矢の知り合いか何か?」
いつの間にか残りのグールを全員蹴散らしてこちらに戻ってきていたクロウが俺に対して聞いてくるが、勿論そんな訳がない。俺は黙って首を横に振る。
「!そうだアナザーウォッチは…」
アナザーウィザードが爆発した辺りを見ると、素体として使われたであろうグールの傍らにそれらしい砕け散った破片が散らばっていた。
「……嘘だろ?」
アナザーウォッチを破壊するにはそれに対応するライダーの力を行使しなければならない。無論例外もあることにはあるが、それでも目の前で起きた事は異常だと言わざるを得ない。
彼女の変身した姿にカラクリがあるのか、それとも止めを刺したあの槍に何か仕掛けがあるのか…と、俺が考えていると倒れていたグールを踏んづけ止めを刺していたイリヤがこちらを向いて口を開いた。
「今ので全部だよね?」
「え?あ…うん。そう……だな。」
急に話しかけられたのでキョドる俺。
「(つーかそんなコスプレみたいな姿誰かに見られたらまずいんじゃ…)」
と思ったが周囲には不思議と人の気配がせず、一人くらい居てもいい筈の野次馬さえ見当たらない。
「あ、ルビー。もうそろそろ結界解除しちゃってもいいよ。私も転身解くから。」
『了解しました!』
やかましいくらいに元気な声が響いたと思うと、イリヤの姿はフリフリの魔法少女姿から私服の女の子へと戻っていた。
さらに、結界とやらが解除されたからか辺りから人の声がポツポツと聞こえ始める。
「なるほど……人払いの結界って奴か。どうりで堂々としてた訳だね。」
いつの間にかクロウも変身を解除しており、彼女の対応に腕を組ながら感心していた。
「えっと……イリヤで良いんだよな。さっきそのヘンテコがそう呼んでたし。」
イリヤは俺を見ながらコクリとうなずく。ヘンテコと呼ばれたルビーは俺に体当たりしようとしてきたがイリヤが鷲掴みにして止めている。
「助けてくれたのはありがたいんだけど、何で助けてくれたんだ?」
イリヤは俺達の事を転生者と分かっていた上で助けてくれた。それはつまり、自衛手段を俺達が持ってると分かった上でわざわざ手助けしてくれた訳だ。
俺の言葉に対するイリヤの答えは、至極シンプルなものだった。
「なんでって、同じ転生者でしょ?貴方達いい人そうだし。」
「……まじ?」
俺は昨日目の前で女の子が襲われそうになるまで何もできなかったというのに……なんて肝が据わってやがる。
隣では、イリヤとクロウが楽しそうに談笑していた。
何かプリヤだとか宝具だとかよく分からない単語が飛び交っていて内容はよく理解出来なかった。
「とりあえず、ここに居たら逃げてた奴らが警官引き連れてやってくるかもだから何処かに場所を移そう。」
粉々に砕けてたアナザーウォッチをコネクトの魔法で転移させながら、俺は二人に言った。
「あぁ…まあそうかもね。何処か落ち着ける場所に行きたいね。」
クロウも少し考えるそぶりをしてからそう答える。
俺らの言葉に何度か相づちをうっていたイリヤは、閃いたような顔をして
「じゃあ貴方の家にしましょうか。」
と、俺を指しながら言った。
「ちょ、おいおいそれは流石に…」
と、笑い飛ばそうとするが
「あ、それ良いね。それじゃあ折角だしカレーパでもする?」
「(何かノリノリなんだけど?!)」
その提案に乗っかるようにクロウがうなずき、さらに余計な事もいいやがった。
「カレーパか……それだと手間がかかるからたこ焼きにしない?」
「たこ焼きいいね!丁度僕たこ焼き器持ってたんだよね。」
「あれ?何か話が進んでるけど俺一言も許可してないねぇ!おかしくないか?!」
すっかりたこ焼きの気分になった二人が具材を買いに行くのを追いかけに行く。
ふとそこで、疑問が浮かんできた。
「あれ?そう言えば結局アナザーウィザードを送り込んできたのって誰なんだ……?」
と、そもそもの謎を頭の中に浮かべた俺だったが…
「っておい!ちょっと待てお前ら!」
エスカレーターを下りながらたこ焼きの中の具について話し合ってる二人を追いかけるべく、俺はその疑問を一旦忘れ、二人の事を追いかけるのであった。
「あぁ…まじか。」
結局、俺の家でたこ焼きパをする事で話が固まってしまい、あの二人は買い物をしている。
そして俺はと言うと、家で準備をしてろと先に帰らされている最中だ。
『いや〜、それにしてもまさか私も貴方に付いていくよう言われるとは思いませんでした。』
「それはこっちのセリフだアホステッキ。」
俺の頭の上には、先ほどまでよりいくぶんかスマートになったルビーがため息をつくようなジェスチャーをしながら居座っていた。
「お前のご主人様はどういう意図で俺らを一緒に帰らせたんだよ……」
『そんな事私に言われましても…というか、私はアホステッキではありません!』
と、体当たりしてくるルビーを避けながら夕日が落ち始めている空を見る。
『それにしても、貴方ってもしかして魔法使いですか?』
「何でそう思うんだ?」
確かに俺は一応魔法も使えるが、こいつの前で見せたのはアナザーウォッチを回収した"コネクト"の魔法のみだ。そんな一発で見抜けるものか?
『いえ、貴方から多くの魔力を感じたのでもしやと思ったのですが、その反応からすると…」
「まあ、一応そうだな。」
別に隠すような事でもないので、俺はウィザードライバーをルビーに見せる。
「ほら、これが俺の力の一つだ。」
『ほうほう、これは凄い魔術礼装ですね。特にこの手形のデザインが…ぷぷ………センスがあって……』
よく見ると、ルビーは必死に笑いを堪えているように細かく震えていた。
「てんめ!笑ってんじゃねえよ!こういう仕様なんだからしょうがねぇだろ!」
『アハハハハ!だって誰がどうみてもこのデザインはおかしいですって!』
愉快そうに俺の周りをグルグル回るルビー。
俺はその様子を青筋立てながら眺め…
「あれ……ここら辺こんなに人通り少なかったっけ。」
ルビーと会話しながらで気づかなかったが、明らかに静かすぎる。この時間帯なら人はまだしも鳥の鳴き声くらい聞こえてくる筈だ。それだと言うのに全く音が聞こえない。昼間の人払いの結界とよく似ているが、今の状況はまるでそっくりな別の世界に迷いこんでしまったようで……
その事に気づいた瞬間、俺の目の前にオーロラのようなカーテンが出現した。
『ッ!!敵襲です!』
その言葉を聞くと同時、俺は素早くバックステップして腰のドライバーに指を翳す。
そしてそれと同時、カーテンから三体の異形が現れる。
一人は全身が緑色の、カメレオンのような怪物。その隣にハットを被った青色の怪物。そして最後に巨大な斧をふりかざすミノタウロスのような姿をした怪物が、俺らの前に立ち塞がった。
「カメレオンゾディアーツにソルティバグスター。おまけにミノタウロスか。どうやら昼間の犯人の仕業らしいな。」
バックルのドライバーを起動状態にし、三体の怪人を冷静に観察する。
『やばいですね。外部との情報が完全に遮断されています。恐らく結界の一種……ですが魔力のような物を一切感じ取れません。』
ルビーも今置かれている状況を分析し、俺に伝えてくれている。
「となると、あの三体を倒さないと出れないとかそう言う感じか?」
三体の怪人は無言でジリジリと迫ってくる。ルビーは俺の頭を小さな羽でペシペシと叩きながらわめいてくる。
『はーやーく!どうにかしてくださいよ!』
「ちょ、痛い痛い!分かったって。」
叩いてくるルビーを掴んでそこらに放り、俺は怪人達と向き合う。
「悪いけど俺はこの後たこ焼きパなんだよ。手短に決めさせてもらうぜ。」
そう言って、俺は腰のリングホルダーから一際輝いている指輪を一つ取り出し、指にはめる。
そしてドライバーのレバーを動かし、待機状態にさせる。
シャバドゥビタッチヘンシン!シャバドゥビタッチヘンシン!シャバドゥビタッチヘンシン!
『ちょっと!そのベルトうるさすぎじゃないですか?!』
「(お前が言うな。)」
ルビーの言葉を無視し、俺は深呼吸をする。相手は異形の敵、しかも敵意ビンビンでこちらを睨んでくる。正直、そんな奴らと戦うのは怖い。
「(でも、俺はもう…立ち止まらないって決めたんだ。)」
「変身!」
穏やかに、しかし力強くその言葉を口にして、指輪をドライバーの手形に翳す。
インフィニティ!プリーズ
怪人達も何か悟ったのか、一斉に飛びかかってくるが…もう遅い。
俺の魔力が具現化した半透明の煌めく龍が怪人達を吹き飛ばし、俺の周りを何周かしてから俺と融合する。
ヒースイフードーボーザバビュードゴーン!!
そして、全身が白銀の鎧に包まれて変身が完了する。
この姿こそ、俺の魔法使いとしての最強形態。仮面ライダーウィザード、インフィニティースタイルだ。
「本当はもうちょい感動的な場面で使いたかったんだけど……まあそう都合よくないよな。」
吹っ飛ばされた怪人達は既に態勢を整えこちらの様子を伺っている。
俺はそんな奴らを挑発するよう、指を曲げて挑発する。
すると、憤怒の雄叫びをあげながらミノタウロスが突撃してくる。
「ウラァァ!」
そして、全力で振り下ろされた一撃を肩に喰らう……しかし、俺を攻撃した筈のミノタウロスは大きく後退し、その腕に持つ刃こぼれした斧を驚愕の目で眺める。
「ナ……ナニィ!」
「ボケッとしてんじゃ……ねぇよ!」
棒立ちのミノタウロスに右ストレートをぶちこみ、さらに回し蹴りを頭部に決める。
「グガアァ!」
ミノタウロスは大きく吹き飛び、壁に激突する。
追撃しようと一歩動いた所で、急に何かに引っ張られるような感覚がする。
よく見ると、何かが右足に絡み付いているようだ。
「ふん!」
俺は右足を思いっきり前へ動かす。すると、何かの悲鳴のような声が近づいてくるのを感じた。
「こい、ドラゴン!」
俺は悲鳴を上げる何かを倒すため、体から剣と斧が一体になったような武器、アックスカリバーを出現させる。
「チェストぉぉぉ!!」
そして、一見何もない虚空を真っ二つに切り裂く。
「ギェヤァァァ!」
すると、切り裂いた部分からカメレオンゾディアーツが透明化を解除して現れ、すぐに爆発した。
「き、貴様!その力は一体……!」
と、ソルティが自身の拳を構えながら俺に聞いてくる。
「魔法だよ…一応な。」
「(魔法というより魔法(物理)のような気もするが、まあ魔法は魔法だしいっか。)」
仮面の中で微妙な顔をしながら、俺はそう答える。
「く……うぉぉぉ!」
と、明らかに無策で突っ込んでくるソルティにカウンターパンチを腹に決め、さらに通りすぎ様に背中を斬りつける。
「グ……キサマァァァ!!」
壁にめり込んでいたミノタウロスが復活し、俺に激昂しながら火炎弾を撃ち込んでくる。しかし、全てが白銀の鎧に弾かれる。
「ここらでフィナーレだ。」
俺はアックスカリバーを逆さにし、アックスモードにしてから手形部分をタッチする。
ハイタッチ!!シャイニングストライク!!
俺は段々と大きくなるアックスカリバーをクルクルと回して構え、敵を見据える。
「グラァァァ!!」
と、突進してくるミノタウロスを一刀両断し、そのまま高くジャンプする。
「わわわわ!」
ここから逃げようとするソルティの姿を確認した俺は、その背中へ向けアックスカリバーを振り下ろした。
「ウガァァ!」「いぎゃぁぁ!」
と、断末魔の悲鳴を同時に上げ、2体は大爆発を起こした。
『うわ……何だか弱いものイジメを見ていたようでした。』
と、隠れていたルビーがそんな事を言いながら目の前へ出てきた。
「しょうがねぇだろ、てっとり早く倒すには最強フォームになるのが一番なんだからよ。それより、どうだ?」
『……ダメですね。まだ閉じ込められたままです。』
ダメか…と肩を落とす俺。
しかし、別にここから出る手が無くなった訳ではない。
俺はアックスカリバーに魔力を通し、輝かせる。
『ちょ…何をするつもりですか?』
「なに、ちょっと空間を斬るだけだ……よ!」
と、空間を一閃する。すると、ガラスが割れたかのように空間にヒビが入り、一気に砕け散った。
目の前に広がっていたのは、数瞬前と同じ風景…一つ違うのは、辺りから人の喧騒が聞こえてくるという点だ。
「何とか成功したか。」
ふぃ〜と一息つく。
ルビーも外との情報が取れるようになったようで、俺の周りをクルクルと飛んでいる。
『いやぁ助かりました。危うく貴方と一生を共にする所でしたよ。』
「そりゃこっちのセリフだっつうの。」
ほんと口が減らねぇなと思い、変身を解除する。
「ッッ!」
しかし、変身を解除した瞬間強烈な疲労と共に体がだるくなり、片膝を地面につく。
『?どうかしましたか。』
「いや……何でもない。」
何とか歩ける程度の疲労ではあったが、それでもここまで疲れるのは異常な事だった。
「(そういや…昨日ジーニアスになった後も無茶苦茶疲れたような…)」
その時は初陣という事もあり、気張りすぎてそうなっただけだと思っていたが、今回は気張るほど緊張していた訳でもない。
「(となると…最強フォームが原因か?)」
強大過ぎる力を無理矢理行使し、それで体が疲労したというなら辻褄は合わないでもない。
仮面ライダー自体に変身したせい…という可能性も捨てきれないが、とりあえずそれは次の機会に検証する事にしよう。
「ほら、さっさと帰るぞ。」
『了解です!』
そうやって、俺とルビーは自宅へと向かっていった。
〜???〜
「あの三体が瞬殺か……おまけにアナザーワールドも割られちまうしよぉ。」
晴矢とルビーが去った後……近くの電柱のてっぺんから、一部始終を目撃していた男が晴矢の力を見定めていた。
「(だがま、奴らの大体の力は分かった。今の俺なら充分殺れる。だがまだだ。奥の手を残してる可能性もあるからな……まだ動けねぇ。だが、手数を全部引き出したその時は………)」
「けけ、精々余生を楽しめよ、転生者共。」
男はひとしきり笑った後、銀色のカーテンの中に消えていった。