戦姫絶唱シンフォギア 〜歌姫と6人の転生者達〜   作:財団K

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…………本当に申し訳ございませんでした。


第5話 救済と黒

―数ヶ月後―

 

季節は春、俺は中学2年の春休みを迎えていた。

あの夏の日のたこパから8ヶ月近くの時間が経過している事になる。

あのたこパで手に入った情報はイリヤのフルネーム(イリヤ・スフィアードと言うらしい)と俺らと同じ時期に転生したこと、そして俺と同じくここの世界の知識を持っていないという事が分かった。結局めぼしい情報は手に入らず、後に残ったのはクロウとイリヤの電話番号と

 

「すぅ……すぅ……」

 

ちょくちょくイリヤが遊びに来るという結果だけだった。

 

「……おかしい、確実に何かがおかしい気がする。」

 

あの後から暇を見つけては俺の家に入り浸っているイリヤは、俺の部屋を探索したり冷蔵庫の中身を勝手に飲んだりとまさにやりたい放題だ。

いや、それはまだ良い。やましい物は俺の部屋には置いてないし、神様のアフターケアのお陰で金は有り余っているので一本や二本盗られたところでそう対して問題ではない。問題なのは……

 

『?こちらを見つめてどうかしましたか。ま、まさか!イリヤさんに発情して…』

「してるか!」

 

そう、今も現在進行形で熟睡中のイリヤの顔面に落書きをしているこのアホステッキ(ルビー)。こいつは俺の事をおもちゃか何かだと思っているらしく、結構な頻度で俺にちょっかいをかけてくる。アホステッキ曰く、『マスターには冗談が通じないので誰かでこの沸き上がる思いを発散したいんですよ!』…だそうだ。製作者まじで出てこい。

 

「つーかアホステッキ。お前イリヤにそんな事して後でどうなっても知らんぞ。」

 

額に肉の字を書き始めた所で忠告しておく俺だが、ルビーは悪そうな声で答える。

 

『大丈夫ですよ、イリヤさんこう見えてもぬけてる所があるので。それにどうせバレたってそんな対した「対した……何?」』

 

ルビーがまるで動力の切れたロボットのように固まり、ゆっくりと声の発生源を見る。

 

『あは……イリヤさん、起きていらしたんですね。』

「こんな事して、覚悟………できてるんだよね?」

 

ガシッとルビーを掴み、逃げられないようにするイリヤ。ルビーは必死に抗うが拘束が緩むことはなかった。

 

『ちょっ!タンマ!タンマ!です!そ、そうだ!実はその落書きは晴矢さんに命令されて…』

 

と、ルビーが俺を巻き込もうとするがジオウⅡの力により擦り付けられた未来を予知していた俺は一足先に家を出ていた。

因みに予知で見た光景については触れないでおく。

 

「あの様子じゃ暫く家には帰れないよな。どうしたもんか……。」

 

背後から聞こえてくる恐ろしい音をできるだけ聞かないようにしながら時間を潰す方法を考える…が、中々良い方法が思い浮かばない。

 

 

「(ありきたりだけど…ゲーセンにでも行くか。)」

 

これといった案が無かったので隣町のゲーセンに行くことにした。

シャカリキスポーツガシャットを起動し、自転車を出した俺は住宅街を走り抜ける。

 

「免許取れたら爆走バイクも使ってやれるんだけどな。守れる法律は守らんといけないからしゃあなしだけど。」

 

高校は自由に免許を取れる所にしようと誓う俺。因みに平成二期ライダーのほとんどのバイクは中型バイクなので免許はちゃんと取れる。

 

そんなこんなで数分自転車を走らせると、道端に人だかりが出来ているのを見つける。

 

「……ん?」

 

その光景がどうにも気になった俺はブレーキをかけて自転車を回収し、人だかりの方へ歩く。

人だかりに近づくにつれ何か叫ぶような声や怒鳴り声が聞こえてくる。俺は何か嫌な予感を感じ大急ぎで駆け寄る。

そして、見えた光景は予想を遥かに越える物だった。

 

「この犯罪者め!死ね!」

「お前のせいで何人が死んだと思ってるんだ!」

「この悪魔!」

 

会社員、主婦、学生……様々な人物が一人の女の子を囲み、よってたかって罵詈雑言を浴びせかけていた。

中には言葉だけじゃ飽きたらず手を出している者までいた。

 

「なっっ?!……何がどうなって……」

 

あまりの光景に俺が固まっていると、俺の存在に気づいた髭が伸び放題の清潔感のない男が話しかけてくる。

 

「へへ、お前も混ざるか?結構なストレス発散になるぜ。なにしてもうずくまったままだしよぉ、まるでサンドバッグだよ。ほら、おめえも…」

 

俺は最後まで聞くことなく、その男を突き飛ばした。

 

「ぐおっ!?」

 

男はよろめき、囲んでいた集団にぶつかる。

それに気づいた奴らが一人、また一人と俺の方を向いてくる。

 

俺は心の中で煮えたぎる感情のまま、叫ぶ。

 

「何やってんだよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜Hibikiside〜

 

 

「(痛いよ…辛いよ………)」

 

彼女……立花響はありとあらゆる罵詈雑言を浴びせかけられながら、胸中で悲痛な思いを綴る。

コンサートの事件で大ケガを負った響は、大規模な手術が行われ無事一命をとりとめた。

後遺症等もなく、元気よく家に帰った彼女は家族に温かく迎えられた。

しかし……地獄は直ぐに始まった。

マスメディアにより、死亡した人々の大半が人の手によるものだと報道されたのだ。

そこから世論は生存者に魔女狩りの如く苛烈な対応をし、それは響も例外では無かった。

彼女の学校には将来有望なサッカーのキャプテンが居た。しかし、彼はあの惨劇により命を落とす事となる。

何故、彼が死んで対した取り柄の無い彼女が生き残ったのか……その疑問は、やがて憎しみへと代わり一人の少女へと惜しみ無く注がれていった。

そして彼女の父もまた、同じような事が原因で会社でトラブルが起き会社を辞め、あまつさえ家族をも捨て家を出ていった。

残った母親と叔母は、彼女の事を守ろうと決意してくれているが、流石に目の届かない場所へは駆けつけられないようだった。

 

「このゴミめ、お前みたいなのがいるから…っ!」

 

そう言われ、泥を投げつけられる。

 

「気持ち悪い…そんなに自分が生き残りたかったか!」

 

そう言われ、体を蹴られる。

 

「気色悪いんだよこの人殺し!」

 

そう言われ、髪を引っ張られる。

 

「(大丈夫……大丈夫………)」

 

それらのどんな仕打ちにも、決して彼女は涙を出さない。

 

「(この人達は誤解してるだけ…今は興奮してるだけだから……)」

 

すべての苦痛を飲み込み続け、彼女は耐える。

 

「(だから…へいき……へっちゃら…)」

 

しかしそれでも、心の奥でドス黒い何かが渦巻いていくのが分かる。

何故何もしてない自分が攻撃されるのか

どうしてこの人達は冷静に話し合ってくれないのか

どうして……今この場に、彼女の陽だまりが居ないのか。

 

「(助けてよ……未来………!)」

 

心の奥底で叫んだその言葉はしかし、誰にも届かず。

 

「この犯罪者め!死ね!」

「お前のせいで何人が死んだと思ってるんだ!」

「この悪魔!」

 

代わりに聞きたくもない言葉が、響に届く。

 

「…助けて……誰か………」

 

声にもならない言葉を絞り出した…その時

 

 

「何やってんだよ!!」

 

「……えっ…?」

 

彼女の言葉は、誰にも届かないかった。

しかし、彼女の祈りは確かにその男に届いていた。

 

 

 

 

 

 

〜Haruyaside〜

 

 

「お前ら……何してんのかわかってんのか?」

 

今にも心の中で嵐のように渦巻く罵詈雑言をこいつらに浴びせたくなったが、流石にそれは理性が止めた。

まず、冷静に彼らの言い分を聞こう…そう思っていたが

 

「何してるか?」

「俺らは人殺しを成敗してるだけだぞ。」

「ってか、何?君ヒーローにでもなりたいの?止めときなって。」

「てっめぇ!よくも殴りやがったな!!」

 

誰一人として、まともな答えが帰ってくる事は無かった。

 

「っっだから……この女の子をそこまで追い詰めるに足る理由が、お前らにあるかどうか聞いてんだよ!」

 

俺はこの場に漂う濁った雰囲気を切り裂くように、鋭い言葉を彼らに投げつけた。彼らはそこで初めて、自分達の行為に疑問を持ち始めた。

 

「いや…だってそいつはあのコンサートの生存者だし…」

「で、でも、ここまでやる必要ってあったのかな?」

「そ、そんな事言うなよ!お前だってノリノリでやってただろ?!」

 

どんどんとざわめきが大きくなる。お互いがお互いに罪を擦り付けあう醜い光景を見て、俺は再び拳を握りしめる。

 

 

「その子がどんな境遇なのかは俺には分からない…でもな、例えそれがどんな理由だったとしても!今の状況を肯定する理由になんか絶対ならないからな!」

 

そう言って勢いよく一本踏み込み、そいつらを睨み付ける

 

「この世で一番醜い事は、己の目で何も見ようとせずに盲目の正義を振りかざす事だ!お前らは、その目でちゃんっとその子を見たことがあるのか!俺には他人に害を及ぼすような悪女じゃなく、年相応の女の子にしか見えねぇよ!」

 

俺の言葉が響いたのか、これ以上絡まれるのが面倒になったのかは分からないが、その場にいた奴らは次々と解散していく。

 

「これで終わったと思うなよ……」

 

一人、あの清潔感のない男は俺を睨みながらそう言い捨てた。

 

「どっからでもかかってこいってんだ。」

 

思わず中指を立てながらそう言うと、俺は女の子へ駆け寄る。

 

「大丈夫か?怪我してる所とかない?」

 

そう言って手を伸ばす。

 

「っ!……あ、ありがとう。」

 

一瞬怯えたようなリアクションをした彼女だったが、直ぐに俺の手をとり立ち上がる。

 

「自己紹介…といきたいけど、先にお風呂とか浴びた方がいいね。家まで送ろうか?」

 

「あっ……その…た、立花響です!!」

 

服や皮膚についた汚れが酷かったので、お風呂を浴びに家に行くことを提案する俺だったが、まさかの自己紹介をされてしまった。

 

「あ、すすすすいません!ちょっと気が動転しちゃって…」

 

アハハハと苦笑いする立花。

 

「いや、いいよ。そんじゃ家に行きながら俺も自己紹介しようかな。」

 

そう言い、彼女の案内に着いていきながら俺も自己紹介をする。

 

「俺の名前は桐生晴矢。なあ、どうしてあんな事になってたんだ?」

 

俺の言葉に、彼女はゆっくりと口を開く。

 

「数ヶ月前に起きたコンサート会場の事件……知ってますか?」

 

「コンサート会場の事件つったら…ツヴァイウィングのか?」

 

その言葉に頷いて肯定する立花。

 

「私…あの事件の生き残りなんです。ほら、今の世論ってその……あの事件の生存者にすっごく厳しいじゃないですか。だから私、あんな目に…。」

 

「い、いやいやいや。だからって普通あんな事になるか?」

 

生存者が迫害されてたのは俺も知っていた。だがそれでも現実世界であんな目に遭うなんて聞いたこともないぞ?

 

「でも、本当にそれくらいしか心当たりが無くて……。」

 

そう言ったまま、顔を伏せてしまう立花。

…彼女が何か隠しているようには見えない。少なくとも、俺が見た限りで立花は間違いなく被害者だ。だったら、俺がやる事は一つ!

 

「んじゃ、こんな暗い話はそこらに置いといて、何か楽しい話してくれよ。俺お前の事全く分からないからさ。」

 

立花は最初、俺のそんな言葉に戸惑っていたが、積極的に話をふるとポツポツと自分の話をしてくれた。

事故が起こる前の学校の話や自分の両親の事。そして、過去の失敗談等様々な話を俺にしてくれた。

特に立花が嬉しそうに話していたのが親友だという未来という人物の話だ。未来の話をする立花の顔は太陽のように晴れやかで、数分前と同じ人物とは到底思えないくらいだった。

 

「それでね、その時未来が……」

 

と、話の途中で立花の動きが真正面を向いたまま止まる。

俺は家に着いたのかと思いそのまま正面を向く…すると

 

「なんじゃこりゃ…」

 

立花の家は多くの心無い言葉が書かれた紙が貼り付けられており、家の前には大量のゴミが捨ててあった。

 

「アハハハ…恥ずかしい所見られちゃったね。」

 

笑ってはいるが俺には分かる。それが悲しみを押し殺した上での笑いだと言うことに。

 

「……辛いときは無理して笑うな。頼れる友達がいるときは尚更な。」

 

そう言い、俺はスマホを取り出す。

そしてクロウとイリヤに一言ずつ、今から言う住所に掃除用具を持って来てくれと話す。クロウは二つ返事で了解してくれ、イリヤはまだオシオキの最中だったのか機嫌が悪そうだったが、俺の真剣な声を聞き了承してくれた。

 

「今のは…」

 

と、立花が不安そうな顔でこっちを見る。

 

「大丈夫、俺の友達だ。立花は風呂でも入っててゆっくりしといてくれ。」

 

家の扉の前に置かれたゴミをどかしながら俺はそう言う。立花はその言葉にまだ何か言いそうになったが…

 

「響…?っ!どうしたのその格好!」

 

外の話し声が聞こえたのか、家から母親らしき女性が出てくる。

その人は立花と俺を交互に見た後、険しい表情で俺に近づく。

 

「貴方が……家の響をこんな目にあわせたんですか!」

 

そう言って凄い目で睨み付けてくる。

俺は慌てて否定をし、止めに入ってくれた立花と一緒に今までの経緯を話す。

 

「響を助けてくれただなんて……そうとは知らず失礼しました。」

 

事情を全て聞き、俺が助けた側だと分かると直ぐに謝罪をしようとする立花の母親を俺は必死に止める。

 

「いやいやいや!好きでやった事だし別にいいですよ!それより立花を風呂に入らせてやって下さい。見ての通り汚れだらけなんで。」

 

そう言うと、立花の母親は直ぐに了承して立花を家に上げる。

 

「すいません、お礼は後日しますので…」

 

立花を家に上げた後、再び頭を下げそう言う立花の母親を止める。

 

「お礼というなら一つ頼みたい事があるんですけど…」

 

そう言って俺は外のゴミを指差し

 

「掃除…してもいいですか?」

 

遠慮がちにそう言った。

 

 

 

 

 

「っつう訳だ。掃除するぞ。」

 

「……ほんっと、貴方お人好しね。」

 

今までの経緯を全て言い、俺は箒を持ちながらクロウとイリヤに笑顔でそう言う。

 

「まあ別に断る理由も無いし、同じ転生者仲間として手伝ってもいいけど。」

 

不機嫌そうながらも渋々了承してくれるイリヤ。

ルビーの姿は見えないが…まあ触れないでおこう。

 

「僕も別にいいよ。どうせ暇だったし、何より生存者の一人として見過ごせないしね。」

 

そう言って人懐っこい笑顔を浮かべるクロウ。お前は本当優男だな。今の状況だとすごい助かるが。

 

 

「あんがとな。お礼は立花の母親がお菓子とお茶くれるみたいだから、それを貰ってくれ。」

 

そう言って始まった掃除は、かなりのハイスピードで行われる事となる、

クロウは屋根まで飛んでゴミを片付けてるし、イリヤは粗大ゴミを魔法で消滅させている。

そう言う俺もメモリガジェットやフードロイド、使い魔等の力を借りてすいすいとゴミを片付ける。

 

「もう3/2くらいまで片付けたか。これなら13時までには終わりそうだな。」

 

そう言って額の汗をぬぐっていると、立花の家の扉がガチャっと開く。

 

「ごめんなさい!私も手伝いに来ました!」

 

そう言って、風呂に入り汚れを落としてきた立花が掃除を手伝いに来た。

 

「お、立花か。助かる。」

 

口では助かると言ったものの、立花の前で能力を使う訳にもいかず、ガジェット達を立花の死角に移動させる。

当然、イリヤとクロウにも能力を使わぬよう目配せをする。

 

クロウは直ぐに意図に気づき、飛ぶのを止めて掃除をしてくれている。

イリヤもめんどくさそうな顔をしたものの、魔法を使うのを止めて掃除してくれている。

 

「うわわ!もうこんなに片付けちゃったんですか?」

 

と、立花は比較的きれいになり始めた家を見てかなり驚いていた。

 

「あ、あぁ。楽そうな奴から片付けたからな。こっからが大変だぞ?」

 

「任せてください!」

 

そう言ってやる気まんまんの立花も加え掃除を再開する。

 

途中クロウとイリヤの自己紹介を挟みながらも着々とごみを片付ける俺達。立花は最初こそ怯えながら二人に接していたが、何回か接するうちにフラットに接する事ができるようになったらしく、今も掃除しながらイリヤと談笑している。

 

「それにしても、運命ってあるもんだね。」

 

と、いつの間に隣にやってきたクロウが気味の悪い笑顔を浮かべながら聞いてくる。

 

「なんだよその笑みは……。つうか運命って何の事だ?お前占いでも始めたのかよ。」

 

壁にピッチリ貼られている罵詈雑言の紙を剥がしながら答える。クロウはぽかん…と間抜けな顔をした後呆れた表情で俺の事を見てくる。

 

「な、なんだよお前さっきから。」

 

「もしかして…まだ気づいてないの?てっきりもう気づいてるもんだと……」

 

「はあ?お前何言ってるんだ?」

 

急にそんな事を言われ頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ俺。クロウはそんな俺を放置して掃除をしている。

何の事なのか非常に気になる所だが、クロウは喋ってくれそうにない。となると、自力で思い出すしかないのだが……

 

「(駄目だ、全く分からん。まじで何の事だ?)」

 

そんな事を考えていると、いつの間にかゴミが全部片付いていた。

 

「やっと終わったわね。それじゃ、褒美とやらを貰おうかしら?」

 

「うん!今お母さんが作ってるから早く行っちゃお!」

 

そう言って、イリヤはそそくさと家の中へ。立花も俺らを手招きしながら家の中に入る。

 

「ほら、僕も先に行ってるからね。」

 

そう言って、クロウも家の中に入っていく。

 

「ちょっ……ま、待てよ!」

 

そんなクロウを追うために、俺は思考を一旦停止させて皆を追いかけて家の中に入っていった……。

 

 

 

 

 

 

〜???side〜

 

 

「糞が!あいつ絶対に許さねぇぞ!」

 

ガンッ!…と、先ほど晴矢と相対していた清潔感のない男は、足元にあった空き缶を蹴飛ばし吐き捨てるようにそんな言葉を言う。

 

「(俺はあぁいう無駄な正義感をかざしてる奴がいちっばん嫌いなんだっつうの!)」

 

空き缶を蹴飛ばしても怒りは収まらないようで、道端に健気に咲いていた花を踏み潰しながら、男は通りを歩いていた。

……気づけば、男の周囲からは人の気配が微塵もなくなっており、辺りからは異様な雰囲気が漂っていた。しかし、清潔感のない男はそんな事に構う事なくズンズンと道を歩いていき、一人の目付きの悪い男とぶつかった。

 

「ってぇ!…てめぇ!どこみて歩いて……」

 

と、男が胸の内にあるイライラをぶつかった目付きの悪い男に当てようとして

 

「黙れ」

 

容赦ない右ストレートが、清潔感のない男の左頬に突き刺さった。

 

「ぐべっ!」

 

突然として頬を殴られた清潔感のない男は、くぐもった声をあげながら地面へと倒れる。

 

「あ〜わりぃ、つい何時もの癖で殴っちまった。まあいっか。」

 

そう言うと、殴った方の男は懐から禍々しいデザインの時計を取り出し、ボタンを押す。

 

『リュウキ』

 

低い男の声がその時計から発せられたかと思うと、男は倒れている清潔感のない男の胸元に……その時計を捩じ込んだ。

 

「ひっっ!……ぎゃぁぁぁぁ!!!」

 

男は紫色の光に包まれ、その異様な光景と自らの体におこっている未知の感覚に恐怖し、悲鳴を上げる。

 

「ハハッ!感謝しろよ?お前はこの俺の野望を叶える為の駒になれるんだからなぁ!」

 

男の体はどんどんと変異していく。

体は刺々しい鎧に包まれ、顔には変形した鉄仮面のようなものを被り、左手には龍の頭部を模した手甲を、右手には上半身程の大きさがある巨大な剣を装備していた。

 

「はァ……ハぁ……こ、コの姿ハ?」

 

ノイズがかかったような声で、変異しきった男が喋る。

すると、目付きの悪い男はニタニタ笑いながらその質問に答える。

 

「その姿の名前はアナザー龍騎、てめぇの欲望を叶える事のできる姿だ。」

 

「ヨ……欲望?」

 

アナザー龍騎は首を傾げて目付きの悪い男に聞き返すと、男はゲハハハ!と下品な笑い声をあげながら言う。

 

「ほら、いるんだろ?お前のその手で復讐してやりたい奴がよ?」

 

復讐……その2文字を聞いてアナザー龍騎の脳裏に浮かんだのは、今朝の光景だった。

 

「うグぅぅゥぅゥ………いル…………」

 

「けはっ!その力ならそいつに簡単に復讐できるぜ?ほら………さっさとやっちまえよ。」

 

男の言葉はアナザー龍騎を意図も簡単に動かした。アナザー龍騎は本能で力を理解したのか、近くにあった鏡の中に入っていった。

 

「くくっ………そうだ……復讐しろ………この俺、黒真 獄の為にな……」

 

その場に残された男……黒真 獄は、そんな言葉を漏らしながら

その姿を、銀色のカーテンに沈めていった。

 

 

 




これからも細々と続けていこうと思います…………

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