宇宙海賊春雨。
それは天人によって構成される銀河系最大のネットワークを持つと言われている犯罪組織。
麻薬の売買や取引斡旋、人身売買などなんでもござれ。
実働部隊は十二の師団で構成されており、その中でも第七師団は最強部隊と呼ばれている。
そんな第七師団を率いるのは……
「はあ、暇だなあ」
ソファに寝転がりだらだらと過ごしているこの男、神威だ。別名「春雨の雷槍」とも呼ばれている……はずなのだが、だらけているせいか全くそんな風には見えない。
テーブルの上に広げたパーティー用のお菓子に手を伸ばし、それをぼりぼりと頬張る。
そして次に喉を潤そうとコップに目をやった。
「あー」
コップの中は空っぽだった。先ほどまで甘ったるいジュースが入っていたはずなのに。気がついたら飲みほしていたらしい。
気だるげな声をあげたあと、神威はなにか考えているらしく黙りこんだ。かと思えばすぐに口を開き、ある人物の名前を口にする。
「阿伏兎ー。おーい、阿伏兎ー」
阿伏兎。それは第七師団のメンバーでもあり、 副団長でもある男の名前。
神威は空になったコップを掲げながら、阿伏兎の名前を連呼する。
しばらくして奥の部屋から一人の男が出てきた。この男が阿伏兎だ。
「ったく、さっきからなんだってんだ」
ぶつぶつと文句を言いながら神威のそばまでやってきた阿伏兎は「どうした」と声をかける。
神威は阿伏兎に目をやることもなく、ただただ黙ってコップを掲げたまま。
ここからなにかアクションを起こすのかと思い待ちつづけてみたが、そんな様子はない。
薄々気づいてはいたが、認めたくなかった。阿伏兎は重たく閉じていた口を開けて、こう問いかける。
「まさか、おかわりか?」
「うん、そう」
「はああ……」
わざわざ呼びだした理由がそれだと。
「早くして」と言わんばかりに空のコップをふりふりと振る神威。
言うかどうか迷ったが、溜めこむのはよくないと思い阿伏兎はしっかり話をすることにした。
「あのな、団長。俺今仕事中なんだよ」
「へえ、なんの?」
「どっかの団長さんが船内で暴れまわったから、副団長の俺が始末書を書く羽目になったのをもうお忘れですか?」
嫌味っぽく敬語を使ってみるが、そんなもの神威には通用しない。なんなら船内で暴れまわったことすら忘れている。
神威は阿伏兎の言葉に対してなにも返さず、ただひとつため息をついた。
「な、なんだよ」
嫌な感じのため息だ。空気が一気にどんよりとし始める。今日はいつも以上に機嫌が悪いらしい。
癪ではあるがおとなしく言うことを聞いておいたほうがいいのかもしれない。
「俺はさあ、阿伏兎。退屈なんだよね」
「そうかい。なら仕事を手伝ってくれてもいいんだぞ」
「退屈なんだよねぇ」
ああ、仕事については聞く耳を持たないようだ。
体を動かす仕事じゃないとやる気が出ないのだろう。神威らしいといえばらしいが、正直困る。めちゃくちゃ困る。
今度は阿伏兎がため息をつく番だった。
「人が話してるのにため息つくって失礼だよ」
「その言葉そのまま打ちかえすわ」
「もういいや。阿伏兎、あいつ呼んできて」
ここでようやく体を起こし、だんっとテーブルを叩いて「あいつ」と強調する。
それが誰を指しているのか、阿伏兎は瞬時に察した。こういうときに神威が言う「あいつ」は一人しかいない。
「あいつなら昼間出ていったきり帰ってきてねえよ」
「どこ行ったの?」
「俺が知るかよ」
阿伏兎が面倒くさそうに返したあと、狙ったかのようなタイミングで部屋の扉が開いた。二人は開いた扉のほうに目を向ける。
そこには大量の菓子パンを抱えた少女が一人。二人の視線が突きささり、少女は不思議がるように首を傾げた。少女の腰まで伸びた長い花萌葱の髪が揺れる。赤い大きな目が、二人の姿をとらえた。
少女の名前は白兎(はくと)。真っ白な肌に桃色のチャイナ服を着用している。白兎もまた、夜兎族の生きのこりで第七師団のメンバーだった。
「やあ、ちょうどお前の話をしてたんだよ」
「いやいや団長、まずは菓子パンについて触れるべきだ」
二人の言葉を聞きながら、白兎は持っていた菓子パンをテーブルの上に置いた。神威が貪っていたお菓子の山が下敷きになる。「あーあー」と神威は声にならない声をあげた。
「こんなにどうしたんだ?」
「購買でタイムセールやってたんですよ! 菓子パンの!」
春雨戦艦内に購買があるなんて……と思われるかもしれないが、ここでは当たり前のことなので触れないでおく。
白兎は菓子パンの山の中からメロンパンを手にとって、びりっと袋を破き一口食べた。
「おいしー!」
「あんぱんは?」
「やっぱりメロンパンが一番おいしいですよね!」
「ねえ、あんぱんは?」
神威のあんぱんコールを無視して、幸せそうにメロンパンを口いっぱい頬張っている白兎。
不満なのか神威はじとっと白兎を睨みつけ、頬を膨らませた。