万事屋神威くん   作:吉村でこ

10 / 16
2-2

「うーん、バケツでぶっかけるのも物足りないなぁ」

 

「なんで塗料ぶっかける前提で話してんだよ」

 

「あ、そういえばいいの持ってたんだ」

 

 

なんて言いながら自分の懐をがさがさと漁りだす。見るからになにも入ってなさそうだが……いやいやいや。

 

 

「じゃーん」

 

 

そんな言葉とともに団長が取りだしたのは、馬鹿でかい水鉄砲だった。

待て待て、どこにそんなもん隠しもってたんだ。絶対今まで服の中に入ってなかっただろうが!

 

 

「え? 阿伏兎、俺が懐から取りだすとこ見てないの?」

 

「いや見てたけども! つーか心の中を読むな!」

 

「阿伏兎はだだ漏れなんだよ」

 

 

まじか。だから口に出さなくても団長にしばかれたりすることがあるのか。なに素直に納得してんだよ、俺。

それより水鉄砲を見た白兎が顔を引きつらせているではないか。わかる、わかるぞ。もう嫌な予感しかしないもんな。

 

 

「まさかとは思いますけど、団長……」

 

「うん。ナワバリバトルだよ」

 

「団長ぉぉ……!」

 

 

白兎は頭を抱えている。嫌な予感が的中したと言わんばかりの顔だ。正直塗料のせいで表情がよくわからないが、まあいいだろう。

しかしな、団長。あんまり際どい発言は控えてもらわないと困るぞ。

 

 

「心配しなくても二人の分もあるさ。はい」

 

「いやなんで私たちだけ百円ショップで売ってるような水鉄砲!? 不公平にもほどがありません!?」

 

 

プラスチック製の薄っぺらい水鉄砲片手に、白兎が叫ぶ。

団長はというと、馬鹿でかいだけじゃなくちゃんとタンクもついている。不公平と言われてもしかたない差だ。

 

 

「これくらいのハンデがないとね」

 

「ハンデの意味わかってないですよね、絶対わかってないですよね」

 

「ははは」

 

「笑ってごまかそうとしてる! ……もういいです。やってやりますよ」

 

 

はあ、やっぱりこうなるか。白兎は流されやすいからこうなることは予想していたさ。

ただ本来の目的をだな……という俺の言葉も虚しく、二人は戦闘態勢に入ってしまった。

おじさんも参加すんのか、これ。

 

 

 

 

****

 

 

数時間後。

辺り一面、綺麗だった。表現をさぼっているわけではない。ただただ綺麗だと思ったのだ。

そう、赤だけでなくオレンジ色や青、色とりどりの塗料がまるで花を咲かせているようだった。

 

 

「──ってなんで他の色も混ざってんだぁあ!!」

 

「阿伏兎さんが打ってるそれ紫色ぉ!!」

 

 

などとツッコミを入れてくる白兎が打っているのはピンクの塗料。団長は黄緑色だ。ナワバリバトルならそれぞれ決まった色に統一するべきなのに、なぜころころ変えていくのか。

答えは簡単である。そのほうが楽しいからだ。

 

 

「うおおお! くらえ団長! 死にさらせぇぇ!!」

 

「口悪いなオイ」

 

 

コンビネーションは最悪だが、白兎と手を組んで二人がかりで団長を狙っている。

あの団長が簡単にやられるわけもなく、ひょいひょい避けられてしまう。

つーかこれ、なにで勝敗決めんだよ、

 

 

「ふはは、甘いわ!」

 

 

あ、また団長がキャラ崩壊。

団長がなにかを白兎目掛けて投げつけた。そのなにかは白兎に当たるとぱんっと音を立てて割れ、白兎を黄緑色に染めあげた。

 

 

「あ、あれは……水風船に塗料を!」

 

「クイッ◯ボムだよ」

 

「なんかかっこよく言ってる!」

 

 

それリアルで言うとめちゃくちゃかっこ悪いやつだからな、団長!

団長の色に染められてしまった白兎を見ると、苦しそうに膝をついていた。

な、なんだなんだ?

 

 

「くっ、まさか、こんなところでぇ……!」

 

「あ、そんな感じなの? 相手の色にやられたらそうなるの?」

 

「あ、阿伏兎さん……あとは、頼みました……よ」

 

「いや頼まれても!」

 

 

俺の言葉が届いていないのか、白兎はがくっと倒れこんでしまった。嘘だろ。俺一人で団長と戦えというのか。二人でも当たらなかったというのに。

いや、そりゃあ百円ショップの水鉄砲だし勝てないわな。

 

 

「さあ阿伏兎、かかってきなよ」

 

「しかたねえな。さっさと終わらせて仕事に戻るとするか」

 

「阿伏兎と二人で殺りあうなんて何年振りだろうね、オラわくわくすっぞ」

 

「すまん、どこからつっこむべきだ?」

 

 

今のどこに合図があったのか、団長は地面を蹴って駆けだしたかと思えば急に距離を詰めてきた。

待て待て団長、これって塗料を使ったナワバリバトルなんだよな!? 肉弾戦じゃないよな!?

 

 

「うおおおお阿伏兎ぉぉ! 歯ぁ食いしばれ!!」

 

「殴る気満々じゃねーか!!」

 

 

団長の振りあげた拳は俺へと落とされたが、なんとか避けることができた。俺の代わりとなった床が一部破壊され、ぷすぷすと煙を立てている。

甲板の床の塗りかえ頼まれたのになんで壊しちゃってんの?

 

 

「ちっ、避けるなよ」

 

「いや避けるわ! なんでいきなり拳のぶつかり合いになってんだ!」

 

「阿伏兎見てたらメラメラしてきちゃって」

 

「こえーよ!」

 

 

にこりと微笑んでから拳を前に持ってくる団長。

まじで殺ろうとしてるときの顔じゃねーか。やめろよ、俺がなにしたってんだよ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。