「うーん、バケツでぶっかけるのも物足りないなぁ」
「なんで塗料ぶっかける前提で話してんだよ」
「あ、そういえばいいの持ってたんだ」
なんて言いながら自分の懐をがさがさと漁りだす。見るからになにも入ってなさそうだが……いやいやいや。
「じゃーん」
そんな言葉とともに団長が取りだしたのは、馬鹿でかい水鉄砲だった。
待て待て、どこにそんなもん隠しもってたんだ。絶対今まで服の中に入ってなかっただろうが!
「え? 阿伏兎、俺が懐から取りだすとこ見てないの?」
「いや見てたけども! つーか心の中を読むな!」
「阿伏兎はだだ漏れなんだよ」
まじか。だから口に出さなくても団長にしばかれたりすることがあるのか。なに素直に納得してんだよ、俺。
それより水鉄砲を見た白兎が顔を引きつらせているではないか。わかる、わかるぞ。もう嫌な予感しかしないもんな。
「まさかとは思いますけど、団長……」
「うん。ナワバリバトルだよ」
「団長ぉぉ……!」
白兎は頭を抱えている。嫌な予感が的中したと言わんばかりの顔だ。正直塗料のせいで表情がよくわからないが、まあいいだろう。
しかしな、団長。あんまり際どい発言は控えてもらわないと困るぞ。
「心配しなくても二人の分もあるさ。はい」
「いやなんで私たちだけ百円ショップで売ってるような水鉄砲!? 不公平にもほどがありません!?」
プラスチック製の薄っぺらい水鉄砲片手に、白兎が叫ぶ。
団長はというと、馬鹿でかいだけじゃなくちゃんとタンクもついている。不公平と言われてもしかたない差だ。
「これくらいのハンデがないとね」
「ハンデの意味わかってないですよね、絶対わかってないですよね」
「ははは」
「笑ってごまかそうとしてる! ……もういいです。やってやりますよ」
はあ、やっぱりこうなるか。白兎は流されやすいからこうなることは予想していたさ。
ただ本来の目的をだな……という俺の言葉も虚しく、二人は戦闘態勢に入ってしまった。
おじさんも参加すんのか、これ。
****
数時間後。
辺り一面、綺麗だった。表現をさぼっているわけではない。ただただ綺麗だと思ったのだ。
そう、赤だけでなくオレンジ色や青、色とりどりの塗料がまるで花を咲かせているようだった。
「──ってなんで他の色も混ざってんだぁあ!!」
「阿伏兎さんが打ってるそれ紫色ぉ!!」
などとツッコミを入れてくる白兎が打っているのはピンクの塗料。団長は黄緑色だ。ナワバリバトルならそれぞれ決まった色に統一するべきなのに、なぜころころ変えていくのか。
答えは簡単である。そのほうが楽しいからだ。
「うおおお! くらえ団長! 死にさらせぇぇ!!」
「口悪いなオイ」
コンビネーションは最悪だが、白兎と手を組んで二人がかりで団長を狙っている。
あの団長が簡単にやられるわけもなく、ひょいひょい避けられてしまう。
つーかこれ、なにで勝敗決めんだよ、
「ふはは、甘いわ!」
あ、また団長がキャラ崩壊。
団長がなにかを白兎目掛けて投げつけた。そのなにかは白兎に当たるとぱんっと音を立てて割れ、白兎を黄緑色に染めあげた。
「あ、あれは……水風船に塗料を!」
「クイッ◯ボムだよ」
「なんかかっこよく言ってる!」
それリアルで言うとめちゃくちゃかっこ悪いやつだからな、団長!
団長の色に染められてしまった白兎を見ると、苦しそうに膝をついていた。
な、なんだなんだ?
「くっ、まさか、こんなところでぇ……!」
「あ、そんな感じなの? 相手の色にやられたらそうなるの?」
「あ、阿伏兎さん……あとは、頼みました……よ」
「いや頼まれても!」
俺の言葉が届いていないのか、白兎はがくっと倒れこんでしまった。嘘だろ。俺一人で団長と戦えというのか。二人でも当たらなかったというのに。
いや、そりゃあ百円ショップの水鉄砲だし勝てないわな。
「さあ阿伏兎、かかってきなよ」
「しかたねえな。さっさと終わらせて仕事に戻るとするか」
「阿伏兎と二人で殺りあうなんて何年振りだろうね、オラわくわくすっぞ」
「すまん、どこからつっこむべきだ?」
今のどこに合図があったのか、団長は地面を蹴って駆けだしたかと思えば急に距離を詰めてきた。
待て待て団長、これって塗料を使ったナワバリバトルなんだよな!? 肉弾戦じゃないよな!?
「うおおおお阿伏兎ぉぉ! 歯ぁ食いしばれ!!」
「殴る気満々じゃねーか!!」
団長の振りあげた拳は俺へと落とされたが、なんとか避けることができた。俺の代わりとなった床が一部破壊され、ぷすぷすと煙を立てている。
甲板の床の塗りかえ頼まれたのになんで壊しちゃってんの?
「ちっ、避けるなよ」
「いや避けるわ! なんでいきなり拳のぶつかり合いになってんだ!」
「阿伏兎見てたらメラメラしてきちゃって」
「こえーよ!」
にこりと微笑んでから拳を前に持ってくる団長。
まじで殺ろうとしてるときの顔じゃねーか。やめろよ、俺がなにしたってんだよ。