「なに?」
俺たちがアイコンタクトをとっていたのが気に食わなかったのか、それとも白兎のため息が気にいらなかったのかはわからないが、団長は声のトーンを下げて言葉を投げかけてくる。
団長、頼む。今白兎は頑張ろうとしてんだ。あんまり刺激してやるなよ。
「あの、団長」
「ん?」
やはり言葉にするのに時間がかかってしまうのか、白兎は無言でプリンが入った買い物袋を団長に差しだした。団長はそれを不思議そうにしながらも、受けとると中身を確認する。
あ。団長の頭のアンテナが動いた。
「白兎」
「な、なんですか」
「まだプリン食べたりなかったの?」
「だからなんでそうなるんですか!」
俺と同じボケをかまされた白兎は、そう怒鳴る。けど団長はけたけたと楽しそうに笑うだけ。
あれはちゃんと理解してる笑いだな。そこはもうボケずに受けとってやれよ。
「じゃあなに、これ」
「うっ……」
わかっているくせになぜ言わせようとするのか。団長の性格の悪さを痛感した白兎は、ぎゅっと下唇を噛みしめた。
わかってたさ、団長が一筋縄ではいかないことくらい。
白兎はしばらくなにも言えずにいたが、ようやく重たい口を開いた。
「……ぷ、プリン。食べちゃってすみませんでした」
「……」
「お詫びに買ってきたんで食べてください。以上です」
やっぱり団長相手だと声色に棘があるな。
団長のことだから受けとったプリンをどうこうするのでは、という不安が押しよせてきた。いや、いくら団長でもそんなことはしないよな? 大丈夫だよな?
「……い、いらないなら私が食べます!」
なにも言わない団長に耐えられなくなった白兎が、がしっと買い物袋を掴んだ。
これ放っておいたらまた殴りあいになりそうだな。どうしてそんなに不器用なんだい、二人とも。
「いらないとは言ってないだろ?」
「だったらなにか一言くださいよ!」
「……」
なるほど。白兎は「ありがとう」と言ってほしくて、団長は言うのが恥ずかしいと。そういうことか。青春してんなあ。……俺は春雨でなにを見せられてんだ。
団長は笑顔を浮かべたままだが、言葉にする様子はない。言うつもりがあるのかどうかすらわからない。
そんな団長を白兎は睨みつけている。
ここは男の団長がばしっと決めるところだとおじさんは思うけどな。
思うだけだから、思ってるだけだからこっちに殺気を向けるな団長!
「あー」
「あー?」
団長と同じような声をあげ、首をかしげる白兎。それは言葉のつづきを待っているようだった。
どうやら団長も頑張ろうとしてくれているようだ。頑張れ、頑張れ団長。あんたならやれるさ!
団長はふうっと息を吐いたあと、両手を伸ばして白兎の耳を覆った。突然耳を塞がれた白兎は困惑している様子だったが、構わず団長は呟くように一言。
「──はい、言った」
白兎からぱっと手を離し、満足げに言う。白兎は「はあ!?」と女の子らしからぬ厳つい反応を見せた。
いや、そうなっちゃうのはわかるけど。
「いやいや、私なにも聞こえなかったんですけど!」
「そりゃ耳塞いでたからね」
「それでも全く聞こえないことはないでしょ!? ほんとに言ったんですか?」
おっと、ここで俺に聞きますか。しかたねえな。団長にしては頑張ったほうだしここは味方してやるとするかね。
「ちゃんと言ってたぞ」
「ええー……まあ、阿伏兎さんが言うならそうなんですかねえ」
あまり納得いってないようだが、これ以上食いさがるつもりもないらしい。やっと落ちついてくれたか。
団長、俺は助けたはずなんだがなぜ睨まれているのでしょうか。
「ほんと、阿伏兎に対しては素直だね」
「それは……団長には関係ないです」
「ふーん」
ちょっと落ちついたかと思えばすぐこれだ。俺が悪いのか?
すぐ掴みあいになるかと思ったが……意外と今回はそうはならなかった。団長は買い物袋からプリンをふたつ取りだして、そのうちのひとつを白兎に手渡した。
「団長?」
「一緒に食べよう」
「……はい」
白兎があの団長に対して、頬をぽっと赤く染めるという反応を見せた。レアだ。つーか団長。今のセリフお礼を言うより恥ずかしくないか?
二人とも座ってプリンを食べはじめたし……とりあえずは一件落着ってことでいいんだよな。
ったく、一時はどうなることかと思ったぜ。
「そういや団長。会議はどうだった?」
解決したということは次の話題にいってもいいということだと思ったので、実は気になっていたことを聞いてみた。すると団長は「待ってました」と言わんばかりの眩しい笑みをこちらに向ける。