「俺が期待してた話が聞けたよ」
「え? なんですか、それ」
団長の言葉に食いついたのは白兎だった。
面白い話が聞けそうとか言ってたもんな。予想通り面白かったってことか。帰ってきたとき上機嫌だったのはそれが原因だったんだな。
団長の言う面白いことなんて嫌な予感しかしないが、ぜひ聞かせてほしいもんだね。
「ま、白兎には教えてあげないけどね」
「ええ!? なんでですか!」
「俺と阿伏兎だけの秘密」
「ひどっ! 団長ひど! 阿伏兎さんもひど!」
突然仲間はずれにされた白兎は、涙目になりぎりぎりと歯を鳴らしながら俺と団長を交互に睨みつけている。
おいおい、俺はまだなにも知らねえぞ。
「阿伏兎にはあとで教えるよ。白兎が寝たあとにね」
「まじで傷つきますよ? 私」
「まあまあまあまあ、そのうちわかるから」
そのうちわかるなら今教えてやってもいいだろうに。ま、そんなこと団長に言ったところでなんの意味もないがな。白兎も不機嫌そうではあるが、諦めたのかそれ以上はなにも言わない。
俺も気になるが夜まで待つとするか。
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時間って経つの早えなあ。
船内はすっかり静まりかえり、白兎も自室で眠りについている。そうそう、子どもは規則正しい生活を送らないとな。
どちらかといえば団長も子どもっちゃ子どもなんだが……寝る気配はなし。さっきの団長会議について俺と話をするためなんだろうけど。
「さあ、白兎も眠ったことだしお酒でも飲みながら話そうじゃないか」
「おいコラ未成年。絶対飲ませんぞ」
「父さんか」
「誰が父さんだ」
などというくだらないやりとりを交わしたあと、団長は本題に入った。
今日の会議で聞かされた話を、団長は楽しそうに頬杖をついて話している。
──全て聞きおえた俺は、正直困惑した。
「なあ、団長。それはまじか?」
「まじだよ。少し前から噂されてたしね」
「なにも知らなかったんだが……」
まさかなあ……あいつが帰ってくるなんて。想像もしてなかった。これはまた厄介なことになりそうだ。
ああ。あいつっていうのは簡単に説明すると白兎の兄貴だったりする。今は簡単に、な。
しかしそれがまじだと言うなら……。
「白兎に教えてやったほうがいいんじゃないか?」
「なんで? 黙ってたほうが楽しいじゃん」
本人は絶対楽しくないだろうな。
団長はにやにやしながら頭のアンテナを揺らしている。いつも以上に悪い顔してやがるぞ。
俺的には白兎に教えてやりたいところだが……そんなことしたらあとが怖い。
すまん、白兎。俺は生きることを選ぶ。
「で? いつ頃帰ってくるんだ?」
「予定では明後日だって」
これまた急だな。
「ってことで、当日の迎えよろしく」
「なんで俺!?」
「阿伏兎が行ったらあの人も喜ぶと思うよ」
いや、それはないだろ。
あー、もう。わかった。わかったから拳振りかざすのやめてもらっていいですか!
……あいつややこしいから苦手なんだがなあ。
「いやあ、白兎がどんな反応するか楽しみだなあ。数年ぶりにお兄さんと再会して泣いちゃうかな?」
かもな。いろんな意味の涙だとは思うが。
つーか団長。やたらとご機嫌だった理由がそれとはな。相変わらずいい性格してるぜ。
明後日、ね。心の準備くらいしとくか。それすらできない白兎には申し訳ないがな。
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