万事屋神威くん   作:吉村でこ

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****

 

 

白兎の兄貴は宇宙海賊春雨第五師団団長で、実働部隊の一員。しかし悲しいことに、春雨の中で第五師団は「最弱部隊」と呼ばれている。

そう、俺たち第七師団と正反対なのだ。

 

白兎の肉親ということは、当然夜兎族。だが、かなり弱くて戦力にならないらしい。本人曰く平和主義なんだとか。

なぜ俺が曖昧な感じで話しているのかというと、兄貴が戦っている姿を実際に見たことがないからだ。周りがそう言っていたのを聞いただけ。

 

三年前。兄貴は元老からとある星の調査を任され、部下を残して船を降りた。それに対し「あの男は追放されたんだ」と嘯く連中もいた。

そんな噂が立つくらい弱いのかね、あの兄貴は。

 

 

 

さて。迎え用の船を下っ端に操縦させてから約一時間といったところか。ようやく目的地に着いたらしい。横になっていたら下っ端に起こされた。

というか俺より兄貴の部下に行かせるのが妥当なんじゃないのか? なんてさすがに今さらすぎるか。

 

 

一度大きく伸びをして、下っ端に声をかけたあと俺は船を降りる。

土も空も植物もみんな樺色という、なんとも不思議な星だった。しかも空気が粉っぽい。なんだここは。こんなとこに長時間いたら確実に体調崩しちまうぞ。

 

さっさと帰りたいところだが、肝心の兄貴がいねえ。ったく、こっから捜せってか?

少し歩いた先に森がある。ここは見通しがいい。ここから見えないってことは、森の中か……。勘弁してくれよ、マスク持ってくりゃよかったぜ。

 

 

 

森の中に足を踏みいれてどれくらい時間が経過しただろう。三十分? いや、もしかしたらそれ以上かもしれないし未満かもしれない。ま、時間なんてどうでもいいか。

俺は他よりほんの少し背が高い一本の木を見あげた。

この上から人の気配がする。これだけ無人の星なんだ。きっと勘違いじゃないだろう。

 

しばらく考えた結果、俺は木の幹を軽く叩いた。

軽いつもりでいったのだが木は大きく揺れ、何枚もの葉が降ってきた。

 

そして──

 

 

「のわあああ!」

 

 

という叫び声とともに人も一人降ってきた。俺はそれを慌てて受けとめる。

間一髪。なんとか落下事故を防ぐことができた。

俺が落ちてきた人物をしっかり受けとめたのには、理由がある。あの兄貴だったからだ。そうじゃなかったら普通に落としてたね。

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「アホか。夜兎が木から落ちたくらいで死ぬかよ」

 

「は! その声はあぶちー!?」

 

 

いや、もろ顔が見えてんだから顔で気づけよ。つーかその呼び方やめてくんない? おじさん、もういい歳なんだけど。

とりあえず受けとめたままは恥ずかしいので、兄貴を地面に降ろす。

 

久しぶりに見た兄貴は……うん、あんま変わってないな。背は伸びたかもしれない。といっても団長より数センチ高いだけだが。白兎と同じ色の髪も健在だな。

身につけている服がぼろぼろなのが、少し気になるところだが。

 

 

「久しぶりだな、あぶちー」

 

「おう、久しぶり。思ってたより元気そうだな」

 

「そうでもないぞ?」

 

 

そうでもないのか。たしかにこんなとこに三年もいたらエネルギー全部持っていかれそうだしな。

 

 

「つーかなんで木登りしてたんだ?」

 

「ああ、そろそろ迎えがくるかと思ってな。高いところに登って船を探そうとしてたんだが……」

 

「だが?」

 

「木の枝に引っかかって降りられなくなってたんだ。助かったよ」

 

 

ああ、だから服がぼろぼろでところどころ血が滲んでるのか。見たところ傷は塞がってるみたいだな。兄妹揃って回復が早いんだもんなあ、羨ましいぜ。

船探すなら見通しのいい場所があっただろう……というツッコミはやめておくか。かわいそうだし。

 

 

「……よし、それじゃあ戻りながら話すか」

 

「ああ、そうだな」

 

 

実はそろそろ苦しくなってきてたんだ。本当に空気悪いよな、ここ。

 

俺は来た道を兄貴と戻ることにした。


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