万事屋神威くん   作:吉村でこ

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「もういいからさ、もういいよ。あんぱんはもういいんだよ」

 

「なあ、白兎も来たことだし俺もう仕事戻っていいか?」

 

「だめに決まってるだろ。殺しちゃうぞ」

 

 

だめだった。神威のことだから殺すと言ったらまじでやりかねない。

神威の性格をよく知る阿伏兎は、向かい側のソファにどかっと腰かけた。頭の中は仕事のことでいっぱいだったけれど。

立ちっぱなしの白兎に「早くお前も座れ 」と、目で促す。それに気づいた白兎は、阿伏兎の隣に腰を下ろした。

 

 

「よし、みんな揃ったね」

 

「ん? 第七師団は俺たち三人だけじゃないだろ」

 

「いいんだよ、あいつら全員モブキャラだから」

 

「部下の扱いひどくない?」

 

 

今に始まったことじゃないけど。とは言わなかった。言ったらきっと辺り一面血に染まってしまう。それだけは免れたかった。

 

 

「俺はさ、退屈してるんだ。なにか楽しいことがしたいんだよね」

 

「楽しいことってなんだよ」

 

「それをこれから三人で考えたいと思います!」

 

 

眉毛をきりっとあげて、蒼い瞳を見せる神威。すでにキャラが崩壊してしまいそうな勢いだ。

阿伏兎は「落ちつけよ」と声をかけるが、神威には届いていない。

 

 

「白兎、なにかいい案ない?」

 

「げっ、私ですかー? そんな急に言われても……」

 

「いいからひねり出しなよ。この中じゃ一番若いんだから」

 

「年齢関係ないですよね!?」

 

 

なんていうツッコミを入れたあと、メロンパンを咀嚼しながらうーんと唸る白兎。一応ひねり出す努力はしているみたいだ。

神威は腕を組み、じろりとした視線を白兎に送っている。お世辞にも人の話を聞く態度とは言えない。

 

 

「あ! それじゃあ今からみんなでババ抜きでもしませんか?」

 

「はああああ……これだから若いやつはよぉ」

 

「だから年齢関係ないですよね!? せっかく考えたのにひどくないですか?」

 

 

と、ここで阿伏兎に同意を求める白兎。たしかに神威の対応はよろしくないが、ババ抜きという案もどうかと思った。

白兎には悪いが、ババ抜きが決定したらなにがなんでも仕事に戻ってやる。そう心に誓いを立てる。

 

 

「白兎、俺は刺激を求めてるんだ。ふざけてたら殺しちゃうぞ」

 

「殺しちゃうぞの安売りはやめてください! ていうかふざけてませんし!」

 

「白兎に聞いた俺が馬鹿だったよ」

 

「そうだよ、あんたが馬鹿なんだよ。腹立つなドチキショー」

 

 

ついに白兎は暴言を吐いてしまった。この短時間の会話でストレスのパラメーターがいっぱいになってしまったようだ。いっぱいどころか爆発したんじゃないかと思うほど、殺気のこもった目で神威を睨みつけている。

 

 

「え? なに、やるの? 俺とやる気なの?」

 

「売られた喧嘩は買いますよ?」

 

 

「待て待て待て待て」

 

 

互いに睨みあい火花を散らしている二人の間に、阿伏兎は割って入った。このままじゃ喧嘩勃発。船内で暴れられたらまた書かなきゃならない始末書が増えてしまうではないか。

それだけはなんとしても避けたい阿伏兎。

 

 

「一旦落ちつけ。団長も、白兎なりに考えてんだから煽るような言い方はしてやるな」

 

「阿伏兎って白兎には激甘だよね、ロリコンなの?」

 

「誰がロリコンだ!」

 

 

ほんの少し庇っただけでロリコン扱いとは、世知辛い人生である。

もうさっさと自室に戻って仕事に取りかかりたい……。額に手を当ててため息をついていると、また扉が開いた。一旦会話を中断して三人は部屋に入ってきた男、云業に注目する。

 

云業の顔色はどこか暗く感じた。寂しいという感情がぴったり合う表情。そして、わかりやすく深い深いため息をつく。

云業の登場したことにより、どんよりとした重たい空気になってしまった。

 

 

「云業さん、なにかあったんですか?」

 

 

気まずい雰囲気を打破するため、白兎はそう問いかけた。云業は白兎たちを一瞥したあと……

 

 

「はあああああ」

 

 

神威や阿伏兎とは比べものにならないほどの長いため息を吐いた。そんな云業の反応に対し、白兎はささっと身を縮めて阿伏兎に耳打ちする。

 

 

「ちょっとなんなんですか、あれ。やばくないですか」

 

「俺に言われても……」

 

「かなり落ちこんでますよ。阿伏兎さんの相棒ですよね、ちゃんとなにがあったのか聞きだしてくださいよ」

 

「いやいやいや」

 

 

今の云業の反応、見ただろ? と目で訴える。

あの様子だとなにを言っても無駄な気がする。きっと今はそっとしておくべきなのだ。

自己解決した阿伏兎は「うんうん」と一人で頷いた。もちろん、白兎からは冷ややかな視線を送られている。

 

 

「ああああああ」

 

 

驚いたことにまだため息はつづいている。あれから一呼吸もついていない。このまま死んでしまうのではないか、白兎はちらりと云業を見る。

……心なしか先ほどよりも生気が失われているように見えた。白兎は「ひっ」と小さく悲鳴をあげる。

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