「めちゃくちゃ怖いんですけど……団長、自分の部下ですよね? 話聞いてきてくださいよ」
阿伏兎が無理だとわかった今、今度は神威に願いを託す。しかし、阿伏兎よりも望みは薄い。
思っていたとおり神威は面倒くさそうに頭をぽりぽりってかいている。
「どうせ自分の死期が近いことに気づいて落ちこんでるんだろ」
「ええ!? 云業さん死んじゃ──」
慌てて白兎の口を塞いだのは阿伏兎だった。手のひらで口を押さえつけられ、「んんんー!」と白兎は息苦しそうに呻きにも似た声をあげている。
「縁起でもないこと言うんじゃありません!」
「ぷはっ! い、今のは団長のせいですよ!」
解放された白兎は、びしっと神威を指差す。神威はその人さし指を手に取り、迷わずぽきんと心地いい音を立てて折った。
「ぎゃああああ!」
唐突に襲ってくる激痛に耐えきれず、白兎は床をのたうちまわる。しばらく転げまわっていたが、どこかに頭をぶつけたらしく一瞬にして大人しくなった。すすり泣くような声だけが聞こえてくる。
「俺に指をさすからそうなるんだよ」
「指さしの代償でかすぎない!? 大人げないですよ団長!」
「俺まだ子供だもーん」
「そうやって都合が悪いときだけ子どもぶりやがって!」
云業のことなどすっかり忘れて、言いあらそいを始める二人。これはどこかで止めないと、そのうちどちらかが手を出すだろう。神威に至ってはすでに白兎の指の骨を折っているが。
仲裁に入るのも億劫だなあ、なんて思い現実から目を背けるように云業の様子を伺う阿伏兎。やはり元気がないし、ため息もつづいている。
馬鹿二人の相手をするよりはましかもしれない。喧嘩を止めるよりも先に、云業に話しかけることにした。
「云業、なんかあったんなら聞くぜ」
「阿伏兎……」
「だから今にも死にそうな面すんじゃねえよ」
聞いてやるからこっち来い、と云業を手招きする。神威の隣が空いているのでそこに座ってもらうのだ。……と、その前に。
「おいコラ、いい加減喧嘩はやめろ」
いつのまにか胸ぐらを掴みあうところまで来ていた二人を止める。回復力が凄まじいのか折れたことを忘れているのかはわからないが、白兎の涙はすっかり乾いていた。
阿伏兎に止められ、白兎は不満そうな顔を見せるも神威から離れる。神威は手をひらひらとさせたあとに、ソファに座りなおした。
その隣に云業も座る。三人は云業が話しはじめるのを待ったが、云業は俯きがちになり口を重たく閉ざしてたまま。
云業がこんな風になるなんて……。
阿伏兎は自身の腕を組み「どうしたものか」と悩んだ。
「まったく、いらいらするなあ。なに? かまってちゃんなの? メンヘラは白兎だけでお腹いっぱいなんだけど」
「誰がメンヘラ!?」
ちょっとでも隙があるとすぐ喧嘩に走ってしまうのは、お互いまだまだ子どもだからだろうか。
これじゃあ云業だってさらに話しづらくなるだろうに。そう阿伏兎は思っていたが、意外にもこのタイミングで云業は口を開いた。
「猫がよぉ……」
「え、猫?」
「飼ってた猫がよ、朝起きたらいなくなってたんだ」
「……云業さん猫飼ってたんですか!」
動物が好きなのか、白兎は猫という言葉に食いついた。云業は一度だけ小さく頷く。
云業と長年共にしている阿伏兎も、猫を飼っていたなんて知らなかった。
「あれ? でも春雨ってペット飼うの禁止してるよね」
思いだしたかのように神威が言う。それを聞いた白兎も「そういえばそうでしたね」と一言。
云業の話によると以前仕事で降りた星で拾ってきて、ずっと隠れて世話をしていたらしい。
話をしながら、云業は何度か泣きそうになっていた。
「どこ行っちゃったんですかね、猫」
「他のやつらに見つかったらきっと処分されちまう」
「そ、そんな。処分って……ねえ?」
たしかにペット禁止ではあるが、果たして処分までするだろうか? 元いた場所に返すとかではだめなのか。そんな意味を込めて、白兎は阿伏兎と神威を交互に見やる。
二人は無言で首を横に振った。
第三者に見つかり元老に話がいけば、必ず処分されるに違いない。そういう男なのだ。
「そんなの絶対だめですよ!」
「だよな! 白兎もそう思うよな!」
「当たり前です! 団長が処分されようが知ったこっちゃないですが、かわいい動物だけは守らなきゃ──」
言いおわる前に、白兎は顔をテーブルに埋められてしまった。もちろん神威の手によって。
今さらだが女の子に暴力を振るうのはいかがなものか。今のは白兎が悪かったけども……。
いろいろ思うところはあったが、阿伏兎たちは口には出さない。
「決めた」
「ん?」
なにを? と三人は神威に注目する。白兎の顔面は血だらけだった。
「猫、捜してあげるよ」
「ええええ!?」
神威の発言に驚いたのは、阿伏兎でも云業でもなく白兎だった。あの神威の口からあんな言葉が出るとは思わなかったようだ。口をぱくぱくさせている。
阿伏兎も阿伏兎で驚いてはいるが、白兎のリアクションはややオーバーに見える。これはまた煽っているんだろうなあ、と阿伏兎は呆れた。