「団長が人のために動くなんて……」
「なんなの? 白兎は俺に殺されたいの?」
「まあまあまあまあ」
こんな調子だといつまで経っても話が進まないので、そうなる前に阿伏兎が間に入る。神威は納得がいかないと言わんばかりの顔をしているが、自分を落ちつかせるためかふうっと息を吐いた。
「俺だって白兎が処分されるならなんとも思わないけど、猫に罪はないからね。人って言うより猫のために動くんだよ、俺は」
「ふーん?」
「あと暇だし」
「それが一番の理由ですよね」
懲りずに煽ってくる白兎に対し、「だったらなに?」と神威は開きなおった。
「だ、団長。本当に捜してくれるのか?」
「いいよ。そのかわり報酬はたっぷりいただくけどね」
にやりと悪い笑みを浮かべる神威。
やはりタダでは動かないか。阿伏兎と白兎はそんな気がしていたので、あまり反応を示さなかった。
云業は「もちろん!」と元気よく返事をしている。
話はまとまったようだ。
「よし、俺は仕事に戻るとするか。頑張れよ、団長」
「は? 殺しちゃうぞ」
「なんで!?」
「誰が仕事に戻っていいなんて言ったの」
「いやいや……」
まずい、この流れは非常にまずい。このままでは巻きこまれてしまう。
いやいや、あれだけ仕事仕事と言ってアピールしていたのだからこちらの気持ちを汲みとってくれてもいいのでは?
そんな淡い期待を持ったが……
「阿伏兎も一緒に捜すんだよ」
「やっぱりか! 仕事あるっつってんだろ!」
「仕事と俺どっちが大事なの!?」
「悪いが今は仕事だ」
変な口調で絡まれても惑わされず、阿伏兎はきっぱりと言いきった。ものすごく殺気が込められた目で睨まれてしまう。
「そんな目で見られても困るんだが。つーか白兎連れていきゃいいだろ」
「ちょいちょいちょい! なに勝手なこと言ってるんですか、絶対嫌ですよ団長と行動するなんて」
「またお前さんはそういうこと言う……」
ああ、言わんこっちゃない。
光の速さで掴みあいになった二人を見て、頭が痛くなるのを感じた。ちらりと云業を見てみれば、なにやらそわそわしている。
早く捜してほしいのだろう。気持ちが痛いほど伝わってきた。
「あー、もう。わかったわかった。云業のためだ、つきあうよ」
「まじで?」
白兎に馬乗りになって拳を振りおろそうとしていた神威だったが、阿伏兎の返答に満足いったのかぴたりと手を止める。
阿伏兎は諦めたように数回頷いた。
「阿伏兎さんが行くなら私行かなくていいですよね」
「白兎も行くんだよ」
「どええ……なんでですか」
「なに、文句あるの」
なんだかんだで白兎のこと好きなんだよなあ、団長。喧嘩するほど仲が良いってこういうことを言うのかね。
そんなことを口にしたら、神威はどんな反応を見せるのだろう。きっと重たいパンチが阿伏兎の顔に落とされる。それはごめんだった。
「白兎、俺からも頼むよ」
「云業さん……」
云業の悲しそうな顔。そんな目で見られたら断れない、白兎は困ったように眉を下げる。
猫を助けたい気持ちは山々だが、あの神威と一緒に行動するというのがどうも……。
神威のことは嫌いではない。ただなぜか毎回喧嘩になるので、少し疲れてしまうのだ。
「そんなに嫌か?」
「え? ……いや、大丈夫です。行きますよ」
嫌だと言いづらい空気だったので、仕方なく了承した。白兎の暗い表情を前にして、神威はなにか言いたげに目を細める。
視線に気づいた白兎が顔をあげるが、それと同時に目をそらす。眉をひそめている白兎に構わず「早く行こう」と指揮をとった。
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神威、阿伏兎、白兎の三人は部屋を出て廊下を歩く。云業はあまりにも元気がなさすぎるので、猫の特徴だけを聞いて置いてきた。
「黒猫かぁ」
「そう簡単に見つかりますかね」
「ていうかどこ捜したらいいの?」
「いや私に聞かないでくださいよ。自分から言いだしといてノープランですか……」
こればかりは阿伏兎も同じ気持ちだ。言いだしっぺなのだから、なにかひとつでも案があるのかと思っていたのだが……期待するだけ無駄だったらしい。
神威はアホ毛をぴょこぴょこと揺らしながら、にこにこ微笑んでいる。
「俺は早く済まして仕事に戻りたいんだがな」
「さっきから仕事仕事って……ノイローゼになるよ?」
「誰のせいだ、誰の」
「あ、そうだ!」
神威と阿伏兎が話をしていると、一歩前を先に歩いていた白兎が立ちどまった。急に止まるものだから、阿伏兎は軽くだが白兎にぶつかってしまう。
「悪い、大丈夫か?」
「は、はい。私も急に止まっちゃってすみません」
「気にするな。それよりなにか思いついたんだな?」
阿伏兎と話すときは普通だ……。
神威はじーっと白兎を見つめる。それに気づいているのかいないのかわからないが、白兎は話をつづけた。
「食べものでおびき寄せませんか?」
「ああ、なるほどな。いい案じゃねえか」
「やったー、褒められ──いたたたた」
なぜか神威に両頬を引っぱられてしまう白兎。頬はびよんと伸びて餅みたいになっている。
限界まで伸ばしたあと手を離せば、びたんっと音を立て元ある場所に戻っていった。白兎の白い肌が、引っぱられたことにより赤くなってしまった。
「な、なにするんですか! 地味に痛かったんですけど!」
「なんかむかついたんだよね」
「そんな理由で!?」
「で、なにで釣るわけ?」
白兎の案に反対するわけではないようで、神威はそう問いかけた。猫がなにを好むのかよくわかっていない白兎は、「うーん」と首を傾げている。