万事屋神威くん   作:吉村でこ

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「え、えーっと……これなんてどうでしょう」

 

 

考えたはいいが答えが見つからなかった白兎は、どこから取りだしたのかわからない菓子パンをちらりと見せた。

これには先ほど褒めた阿伏兎も困惑。

 

 

「いや、だめだろ」

 

「ですよね! そうですよね! すみません」

 

 

パン案を却下された白兎は、自分で処理をしようと包装を破いて食べようとした──ところを、「待って」と神威に止められる。

あーんと口を開けていた白兎は、まぬけな表情を神威に向けた。

 

 

「ワンチャンあるよ」

 

「わん……なんですか?」

 

 

聞きなれない言葉を耳にした白兎は、困ったように首を傾げる。そんな白兎から、神威はパンを取りあげた。

それをやりとりを見ていた阿伏兎は、なにやら慌てた様子を見せる。

 

 

「ワンチャンねーよ!」

 

「あ、あのー、わんちゃんってなんですか? 私たちが捜してるのって猫ですよね」

 

「ワンチャンであってわんちゃんではない」

 

「わー、全然わからなーい」

 

 

白兎は考えることを放棄した。白兎に構うことなく阿伏兎は話を続行する。

 

 

「団長、猫にパンはだめだ。食物アレルギーを起こす可能性があるぞ」

 

「それくらい知ってるさ。べつに食べさせようってわけじゃないよ。においで寄ってくることだってあるだろう?」

 

「ま、まあそうだが……って団長にしてはまともな考──」

 

 

阿伏兎は最後まで言いきることができなかった。

言葉にするのも恐ろしいやり方で、神威に言葉を遮られたからだ。

危うく命を落としそうになった阿伏兎は、今は神威を刺激するようなことを言うのはやめた。

 

 

「でもクリームパンか。あんぱんないの?」

 

「そのあんぱんに対する執念はなんなんですか……ないですよ。あとはジャムパンとチーズ蒸しパンの盛りあわせくらいです」

 

「だからどこから出してんの、それ」

 

 

いつのまにか両手いっぱいに菓子パンを抱えていた白兎に、神威は冷静にツッコミを入れる。

「まあいいか」と気持ちを切りかえて、神威は歩きはじめた。どこに向かうのかはわからないが、二人は互いにアイコンタクトを取ったあとその後ろをついていくことに。

 

 

 

やってきたのは甲板だった。ここは見通しがよく、今の時間帯は人も少ない。そう考えると捕獲には最適な場所なのかもしれない、と神威以外の二人は納得した。

それにしても、仕事もこれくらい真面目に取りくんでくれたらいいのに。

それが阿伏兎の本心だった。命が惜しいので絶対に口にはしないけれど。

 

 

「とりあえず三つくらい置いときましょう」

 

 

袋を開封して、そっと地面にパンをセッティングする。袋を開けるたびに香ばしいにおいが辺りに広がっていく。

 

 

「はあ……お腹減ってきました」

 

「さっき食ってたろ」

 

 

その小さい体になぜあれだけのパンが収まるのか……答えは簡単。夜兎族は基本、大食いなのだ。その中でも神威と白兎はやたらと食べる。

しかし、白兎が食すものはパンばかり。正直どうかと思う。

 

 

「さて、俺たちは身を隠すとしようか」

 

「なんかわくわくしてきましたね!」

 

 

いつのまにかノリノリになっている白兎。さっきまで不機嫌だったのが嘘のようだ。

いろいろ言いたいことはあったが、阿伏兎は二人につづき近くの柱に身を隠すことにした。

 

 

 

 

****

 

 

それから約三十分。ただひたすらパンを置いた場所を監視しているが、特に変化はない。たまに通りかかる団員が不思議そうにパンを見るくらい。

 

 

「飽きたなー」

 

「早いなおい」

 

 

もう少し粘れるだろ、と阿伏兎は一言つけ足す。

自分で言いだしたことだ。さすがに三十分で飽きるのは早すぎる。

「だってさあ」なんて神威は眠そうに言いわけをしようとしている。これはちゃんと聞かなくてもいいだろう。

 

 

「ん? そういや白兎のやつどこ行った?」

 

 

ずっと自分の後ろにいるものだと思っていた白兎がいなくなっていた。神威も今の今まで気がつかなかったらしく、二人してきょろきょろと辺りを見回して──見つけた。

 

 

「いやなんでお前がパン食ってんだ!!」

 

 

白兎の姿を視界にとらえた瞬間、阿伏兎は大きな声でつっこんだ。そう、いなくなったと思っていた白兎はパンをセッティング場所にいて、さらにそのパンを食していた。

もぐもぐと頬張っているその顔はとても幸せそうだ。

 

 

「あーあーあー、全部食っちまってるじゃねえか! アホか、お前さんアホなのか。こっち戻ってこい!」

 

 

阿伏兎にアホと言われても、平然とした様子で戻ってくる白兎。口のまわりがクリームやらなにやらで汚れている。

 

 

「すみません、パンのにおい嗅いでたら我慢できなくなって」

 

「お前さんが考えた作戦だろうが、真面目にやれよ」

 

「私はいつでも真面目ですよ?」

 

 

だとしたら大問題だぞ。

阿伏兎はため息をついたあと、パンもなくなったし神威にこれからどうするかと聞いてみた。あまり期待はできないが、自分一人で考えるのは面倒だった。

 

 

「そんなこともあろうかと思って、実は俺もお菓子持ってきてたんだよね」

 

「パーティー用の馬鹿でかい菓子をどこに隠しもってたんだ」

 

 

白兎と言い神威と言い、四次元ポケットでもついているんじゃないかと疑ってしまう。

しかしお菓子で猫を釣るなんて……。

 

 

「次はこれを──」

 

「まあなにもないよりはましか」

 

「食べます」

 

「いやなんでだ!!」

 

 

猫をおびき寄せるための道具にするかと思いきや、ばりばりと咀嚼音を立ててお菓子を食べだした神威に清々しいほどのツッコミが入った。

悲しいことに白兎も一緒になって食べはじめたではないか。

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