****視点変更。
「ケルベロスゥウ!!」
数分後。云業は涙を流しながら、そう叫んで猫に飛びついた。顔を見たら真っ先に一発殴ってやろうかと思っていたのだが……そんな気も失せてしまった。感動の再会を邪魔するわけにはいかないからな。
「いやいやいやいや」
云業たちの再会に涙ぐんでいると、白兎が納得いかないといった感じで俺の隣に立った。
なにか言いたいことがあるらしい。いや、わかるけども。ここは目をつぶってだな……。
「猫なのになんでケルベロス? 意味わかってんですか、あの人」
たしかケルベロスはギリシア神話に登場する冥府の犬だ。猫ではない。さすがに意味はわかっているはずだが、云業はどこか抜けてる部分があるからなあ。なんとも言えん。
そう思っていると未だに唾液まみれの団長が云業に近づいていく。いや、もう戻ってシャワー浴びたほうがいいんじゃないか。
「ねえ、それ本当に猫なの?」
「なに言ってんだ団長! 誰がどう見ても猫じゃねーか」
「じゃあなんでケルベロスなんだよ」
「ケルベロスのように立派な番犬になってほしいからさ」
「番犬って言っちゃってるからね、もう。犬って言っちゃってるから」
団長から的確なツッコミを受けても、こいつは猫だの一点張り。もうどっちでもいい。見つかったんならいいじゃねえか。
だからもう部屋戻っていい?
「思ったんですけどこんな猫なら元老も喜んでここに置いてくれそうですよね」
「ん? ……ああ。たしかにそうかもな」
「阿伏兎さん、元老にお願いしにいってあげたらどうですか?」
「なんで俺? 仕事残ってるっつってんだろ、そんな暇はねえよ」
云業には悪いがな。
──いや、もう遅かったらしい。云業の野郎、期待の眼差しをこっちに向けてきやがった。なんなら横にいる団長もだ。なんでお前が期待してんだ!
「いやいや、こういうのは団長が行くべきだろ」
「無理だね。俺あのおっさんと馬が合わないんだ。おっさん同士なんとかしてよ」
「誰がおっさんだ!」
おじさんと言え、おじさんと。そのほうがまだ許せる。
ちくしょう、どうやらまだ仕事に戻ることができないらしい。なんでこいつらはみんな人使いが荒いんだろうなあ。夜兎か、夜兎族だからなのか。おじさん夜兎族だけどそんなことしないよ?
そんな思いも虚しく、俺は元老に直接話をしにいくことにした。
****
「いやー、めでたいね」
あれから数日。云業の飼い猫のケルベロスは正式に春雨団員として迎えられた。ただの猫じゃないということで元老に気に入られたようだ。
最近では云業が堂々とケルベロスを散歩に連れている光景を見かけるようになった。
テーブルいっぱいに広げられた豪勢な料理を頬張りながら、団長は「めでたい」と一言。
「報酬がお金じゃないのは残念だけど、云業の料理はうまいからこれはこれでアリだよね」
そう。この料理はみんな云業が手づくりで用意してくれたもの。たしかにうまいが、量が多すぎる気がするぞ。
まあ団長と白兎の手にかかれば一瞬か。云業もそれを考えてこの量にしたのだろう。
「云業さん、幸せそうでしたね」
「だな」
たまには人助けもいいもんだな。宇宙海賊春雨が人助けなんて、笑ってしまうが。
「考えたんだけど」
食事をする手を止めて、団長が口を開く。団長がろくなこと考えないからな、あんまり聞きたくないんだが……そういうわけにもいかねえか。
白兎とアイコンタクトを取ったあと、団長に目を向ける。
「万事屋やらない?」
「……は?」
万事屋っていうと、なんでも屋みたいなもんか?
なんでまた急に……。ああ、そういや暇だとか言ってたなあ、この団長さまは。
今でこそ仕事も落ちついたが、俺は暇じゃないぞ。
「人のために働き報酬を得る。どう? 楽しそうだろ。ていうか今日楽しかったし」
「うっわ、あまりにも団長らしくない発言すぎてうっわ」
「うるさいなあ、噛むよ」
「ぎゃあ! やめてください!」
腕を噛まれそうになった白兎が、慌てて引っこめる。白兎よ、団長がなにがきっかけで怒るのかそろそろ学んでくれ。
「団長、言っとくが春雨は遊びじゃないんだぞ」
「わかってるさ。遊びじゃないからこそ息抜きが必要なんだよ。これ以上文句があるなら阿伏兎の仕事増やすよ?」
「だー! 待った待った! べつに文句なんざ言ってねえよ。やりたきゃやれ、勝手にな」
団長の言いたいことはわからなくはないが、いちいちこんなのにつき合ってられん。
云業の手料理も十分味わったし、さっさと自室に戻ろう。重たい腰をあげると、団長と目が合った。
なんだよ、なんなんだよ……。
「言っとくけど阿伏兎と白兎は強制参加だからね」
「はあ!?」
俺と白兎の声が見事にかぶる。
そんな気はしていたが、まじで言いだすとはな。頼む、団長。俺はあんたの尻拭いでいっぱいいっぱいなんだ。これ以上面倒ごとに巻きこむのはやめてくれ。やるならひとりでやるこった。
──とは言えなかった。言える空気じゃなかった。