私が就職先をこの霊能協会にしたのは給料がよかったから以外の理由などない。
周りの子の中に旅に出る人がそこそこいた中で旅に出ないこと、すなわちポケモントレーナーにはならない事を選択した私が研究職以外でつけそうな仕事があまりなかった。
ポケモンレンジャーやポケモン協会などはトレーナー経験が必須といってもよかったし、フレンドリィショップなどは給料が心もとない。半ば消去法で選ばれたのがここだった。
「とりあえず面接は受からないと…」
ここのことは求人サイトの下のほうに記載されていた。人目を避けるように作られたその広告の条件は破格のものだった。ポケモンレンジャーの平均を優に超える給与で完全週休二日、この条件で人を募集している企業が他にあるだろうか。まるで街灯の明かりに引き寄せられる虫ポケモンのように飛びついた私に届いたのは、協会本部への地図と面接の日時指定だった。
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「ここ…かな…?」
協会本部は思ったよりきれいな建物だった。そこまで大きくはないが、掃除が行き届いているのか白い壁には汚れがない。周りは森で囲まれており、誰が育てたのか花壇に花が咲いている。インターフォンの類はなく、そこそこの大きさの自動ドアがついている。それをくぐると、初老の男性が立っていた。
「初めまして。○○と申します。今日は御協会の入社面接を受けに参りました。」
「こちらこそ初めまして。私は霊能協会の人事部部長を務めております。△△というものです。といっても人事部なんて私含めて数人しか活動しておりませんがね。ささ、どうぞこちらへ。」
△△さんに先導され建物の奥に進んでいく。ここでの会話も面接に含まれているのだろうか。
「いやぁーありがたい。どうも我々は世間一般の方々から良くは思われていないようでね。新人が入ってくれなくてニャースの手も借りたい有様だったんですよ。」
「そうなんですか。」
「ええ。早速ですがいくつか頼まれていただきたい。何しろ我々の組織は少々成り立ちが歪でしてね。書類仕事ができる人が…」
「?…面接はなさらないんですか?」
「もう終わりましたよ。あなたは合格です。何でしたかな?…そうそう、書類を処理できる人が…」
「ま、待ってください!終わったっていつ!というかどうやって!……ですか?」
困惑する私を尻目に△△さんは据え置きのPCディスプレイを指さした。
「あそこに何が居るかわかりますかな?」
「…ロトム?」
「そうロトムです。彼にはここの電子機器の大抵の管理と制御を担当してもらっています。その彼が迷わずあなたを入れた。その事実だけで面接は終わりです。あなたは今日から我ら協会の一員です。わかっていただけましたかな?」
なんだそれは。私は自動ドア一枚をくぐっただけで就職できたのか。面接官の心はクレベースより冷たいという友人の力説を真に受けて面接の練習を頑張った私がバカみたいじゃないか。
「…不服そうな顔をなされているのでもうちょっと採用条件についてお話します。」
「…?…あの広告には事務仕事ができることぐらいしか書いてなかったと思いますけど…」
「それが条件です。あの広告を見ることが出来る―すなわち霊感と呼ばれるものが十分にあるということも採用条件の一つです。…失礼ですが、幼少期ゴーストタイプのポケモンを過剰に恐れた経験がおありでは?」
「……。」
ある。周りの人間にバカにされる程度にはビビり散らしていた経験がある。ヨマワルを見ては腰を抜かし、ヌケニンを見ては震えながら母を呼び、周りの人間たちがゴーストタイプたちに普通に接していることが信じられなかった。
私の沈黙を肯定と受け取ったのか、△△さんはご機嫌な口調で語る。
「そうです。そうですとも!その恐れこそが我々が求める人材!ガブリアス?メタグロス?ボーマンダ?最強の一体と数えられる彼らですら本当の恐怖というものは運んでこない!…なぜなら彼らが与える死は結果であって目的ではないのだから。」
「そこで我々は立ち上がった。幸いにしてゴーストタイプはゴーストタイプの攻撃を受ければ大きなダメージを受けますので。生殺与奪の権理を握るなんて生ぬるいこととは次元が違う、命そのものをその掌の上で遊ばせることが出来るゴーストタイプたちが人間に牙をむく前に―」
―上から捻りつぶすことにしました―
その話を聞きながら私はあることを思い出した。アルセウスの見えざる手という話だ。需要に対して供給が少なければ、価値が上がり値段も上がる。
『もう逃がさないぞ。』
△△さんの影に潜んでいたゲンガーに、笑顔でそう言われた気がした。
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ポケモンも人間も基本不殺を貫くポケモン協会が、どうしても命を奪わないといけないときに霊能協会を呼ぶらしい。
死刑宣告された犯罪者に、死刑を執行するのは霊能協会らしい。
ゲンガーと一緒に、陰で笑っている老人が勤めているらしい。
ムウマージの力を借りて、全てを忘れさせてしまう女が勤めているらしい。
ヌケニンに感情をあげた、笑わない男が勤めているらしい。
フワライドに乗って、あの世を見てきた老婆が勤めているらしい。
シャンデラの炎を、自分の命で燃やしている男性が勤めているらしい。
ギルガルドと共に、返り血の気持ちよさを知った少女が勤めているらしい。
ミミッキュの友達で、それ以外は敵の少年が勤めているらしい。
ポットデスとのお茶会に、死人を招いた淑女が勤めているらしい。
どれも噂。ただの噂。ホントかどうかは誰も知らない。