DIE HARD 3.5 : Fools rush in where angels fear to tread.   作:明暮10番

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Run Rudolph Run 2

 シェンホアを倒した後、二人はすぐにロッカールームから出る。

 しかし銃声を聞き付けてやって来たラッセルらが、廊下の奥から発砲を開始。

 

 

「ひぃっ!?」

 

「こっちだ!」

 

「だから私は殺されないんじゃなかったの!?!?」

 

 

 ジェーンを伏せさせながら、マクレーンもまた発砲して牽制しつつ、この建物からの脱出を目指して廊下を走る。

 

 その内追手の一人が、彼らが出て来たロッカールームを覗き込んだ。

 そこには無惨な状態で倒れ伏している、シェンホアの姿が。

 

 

「あ?……クソ。あいつら、シェンホアをやったのかよ……」

 

「どうした!? 誰かいんのか!?」

 

 

 後から来たラッセルもまた、ロッカールームのシェンホアを確認する。

 すぐにラッセルは大袈裟に声を張り上げた。

 

 

「おぉ!? おいおいおい!! なぁにやられてんだ中国女ぁ!?」

 

 

 憎まれ口を叩きながら、ぴくりとも動かないシェンホアの元に駆け寄る。

 

 

「ギリギリ生きてんな……おぉーい! こいつを医者んとこ連れて行け!」

 

「はぁ? てめぇ頭沸いてんのか? そいつに必要なンは医者じゃなくて墓掘り人(アンダーテイカー)だろ」

 

「レスト・イン・ピースにはまだ早ェ! ほれ、金次第ってんなら出してやるから、とっとと運びやがれ!」

 

 

 ラッセルが金を提示した事で、殺し屋たちは渋々ながらシェンホアの搬送を請け負い始めた。

 ゆっくりと支えられながら立たされたシェンホアが意識を取り戻し、朦朧としながらもラッセルに話しかける。

 

 

「……なにしてるか。手負いは放っておくおいて、仕事行くがよろしいよ」

 

「馬鹿野郎! 俺たちゃチームって言っただろぉ!? 協調性ってのが大事だろうが協調性がッ!」

 

「…………おたくやっぱり、この街合うないよ。とっととネバダ帰るが良い……」

 

「フロリダだっつのッ!!」

 

 

 虫の息のシェンホアを運ばせた後、すぐさまラッセルはマクレーンの逃走方向へ向かう。

 その先には廊下の真ん中でたむろする、マクレーンらを追っていたハズの殺し屋たちの姿。さては捕らえたのかと期待し、ラッセルはすぐに彼らの元へ駆け寄る。

 

 

「やったか!?」

 

「いいや」

 

 

 殺し屋の一人から否定を食らい、ラッセルは怒鳴る。

 

 

「んじゃあ、女とクソッタレのジョン・マクレーンは!? どこだッ!?」

 

「この先だぜ」

 

「だったら追わねぇかッ!?」

 

「追えねーからこうなってんだろうが」

 

 

 殺し屋が顎で示した先を見ると、そこにはシャッターが降ろされた、隣の倉庫への出入り口があった。

 一応壊そうと努力はしたのか、弾痕やへこみが多く出来ている。

 

 

「奴らシャッター降ろしてから、向こうからロック掛けやがった」

 

 

 それを聞いてラッセルは、悔しそうに叫びながらシャッターを蹴飛ばした。

 

 

「チキショーッ!! だったらチンタラしてねぇで、さっさと回り込みやがれッ!?」

 

「あまり詳しくねぇんだよこの辺りは」

 

「知るかッ!! 俺だってフロリダ以外に詳しくねぇんだよッ!!」

 

 

 ズンズンと殺し屋たちを押し退け、来た道を戻るラッセル。

 その後を殺し屋たちもまた、呆れ顔で着いて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャッターの向こうへと逃げ切り、暗い倉庫内を直走るマクレーンとジェーン。

 二人の硬い足音は、広い倉庫の隅々まで反響している。

 

 

「クソぉ……ここぁどこだぁ!?」

 

「ここがどこかってよりも出られるのかって方を心配して貰えないかしら……!?」

 

「その点に関しちゃァ安心しろぉ! 絶対に出られる!」

 

「その自信はどこから来てるの……?」

 

「経験だ! 俺の活躍知ってんだろぉ!?」

 

 

 走りながらジェーンは天を仰いだ。

 

 

「確かにナカトミビルと空港の奴は物凄かったけどねぇ! あれだって他の仲間とかいたんでしょ!? この街にはそんなのはいるの!?」

 

「一人しか……いや、まぁ、そいつは銃をぶっ放せるような奴じゃない。タイプで言りゃあお前と同じ、ホワイトカラーだ」

 

「じゃあいないのね! やられる寸前に『私が来た(I am here)』とか何とか言いながらやって来て、そんで全部解決してくれるヒーローはいない訳ね!?」

 

 

 半ば自棄気味に捲し立てるジェーン。ここに来て疲労とストレスがピークに達し、悲観的になってしまっているようだ。

 そんな彼女にうんざりしながらも、マクレーンは出口はないかと必死に辺りを見渡す。

 

 

 

 

 

「──待て」

 

 

 途端、倉庫内にこだまする、若い男の声。

 その声を聞き、すぐに二人は足を止め、マクレーンは銃を構えながら索敵をする。

 

 

「誰だッ!?」

 

「上だ」

 

「ッ!?」

 

 

 言われるがまま、二人は揃って見上げた。

 荷物を積んでおく、巨大な鉄製のラックが壁際に立てられていた──わざわざよじ登ったのか、声の主はそのラックの一番上に立っていた。

 

 

「……待ちくたびれたぞ」

 

 

 男はそう言って、マクレーンらを見下す。

 立っていた刺客は、白人の青年であった。

 

 

 

 ジェーンの追手だと言う事は明白だ。マクレーンとしてはすぐに発砲するべきだろう。

 

 

 

 

「…………ありゃなんだ?」

 

 

 しかし銃口をこちらへ向けず、二挺の大きな銃をそれぞれ右手は上へ、左手は下へと構えてポーズを取る彼を見て、引き金を引くのを忘れてしまった。

 

 しかも高そうな黒いロングコートを靡かせた上、指輪やブレスレットでジャラジャラした手に、気障なサングラスまで掛けている「イタイ」風貌。持っている二挺拳銃も「マウザー」と言う、何だか気取ったチョイス。

 

 警戒より先に「なんだコイツ」と言う当惑の感情が湧くのは仕方ない。

 

 

「……嘘だろ……マウザーなんざ、七十年代の映画でしか観た事ねぇぞ……」

 

「てかなにあのポーズ……え?『ブレイド』? ヴァンパイア?」

 

 

 彼は銃口を尚も二人に向けず、ポーズを決めたまま台詞を吐く。

 

 

「俺の名はウィザード……『ロットン・"ザ・ウィザード"』……」

 

「おい。ありゃオタクだぞ。おめぇの仲間か?」

 

「あんなイタイ奴は身内にいない」

 

 

 二人からの冷ややかな視線には気付かず、ロットンと名乗った青年は続ける。

 

 

「仔細あってこの狩りへ馳せ参じた。お前たちに恨みはないが──」

 

 

 途端、倉庫内に激しいモーター音が響く。

 何事かと身構える二人の視線の先、壁の向こうからチェンソーの刃が飛び出した。

 

 

「うおぉッ!?」

 

「今度はなんなの!?!?」

 

「ジェイソンかぁ!?」

 

「ジェイソンはチェンソー使わないわよっ!! 悪魔の生贄よコレはっ!?」

 

 

 長く伸びたガイドバーの溝内を、鋭い小さな刃を乗せたソーチェーンが高速で走る。

 火花を散らしながら何者かが操るチェンソーは勢い強く、削り取るように、薄い壁を斬り進む。

 

 

「──お前たちの命、」

 

 

 

 

 

 

 そしてその刃は、ラックの支柱を切り取ってしまった。

 

 

「貰い受けッ」

 

 

 ラックはボキリと折れるようにして、一気に破壊されて崩れる。

 勿論、その上に立っていたロットンも巻き添えだ。

 

 

 台詞の詠唱を途中で止められた上、埃を巻き上げて崩れたラックと積み荷と一緒に、真っ逆さまに落ちて行ってしまった。

 

 

 マクレーンとジェーンは、盛大に崩れて起きた衝撃風を受ける。

 睨むようにして向ける視線の先、巻き上がった埃の中、モーター音と耳障りな金属音を響かせたチェンソーをぶら下げて、何者がふらりふらりと佇んでいる。

 

 

 

「次から次へと……一体誰だぁ!?」

 

「絶対顔に人の皮のマスク付けてるヤバい奴よ……!」

 

 

 ベレッタを向け、名乗るようにと怒鳴るマクレーン。

 返事代わりに響いたのは、リコイルスターターのヒモを引っ張る音と、直後に轟く活性化したモーターの唸り声。さすがのマクレーンも「ヤバそうなのが来た」と慄いてしまった。

 

 

 埃煙の中、じりじりとこちらへ寄る新たな襲撃者。

 マクレーンもジェーンを庇いながら、後退りで距離を取る。

 

 

 次第に煙が晴れて行く。

 その頃になってやっと、襲撃者から声が発せられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オト、なし・ク」

 

「……ん?」

 

「オン・なを、渡シ…………」

 

 

 発せられたのは、機械的な声。しかしマクレーンには聞き覚えのあるものだった。

 煙が晴れ、お互いに姿が見えるようになる。

 

 

 

 

 

 

「…………エ……?」

 

 

 途端、襲撃者は驚いたような声を漏らし、向けていたチェーンソーの刃を下ろした。

 

 もう片手に持った人工声帯を喉に当てるその襲撃者とは、マクレーンが昼頃に助けてあげたあの、パンクな格好をした女だった。

 衝撃的でまさかの再会に、マクレーンは眉間に皺を寄せて唖然とした表情となっていた。

 

 

「……お、おめぇ……確か、港で……」

 

「え? なに? また知り合いだった?……あのチャイニーズアサシンにしたり、危ない知り合い多くない?」

 

「…………掃除屋ってそう言う意味かぁ〜……」

 

 

 向こうもまさかこの場に彼がいるとは思っていなかったようで、目を丸くしてひたすら当惑していた。

 

 

「…………エ……なんデ……恩人…………え……?」

 

 

 あまりの驚き故か、ハンドルにある制御装置を握ってモーターを止めてしまった。

 

 攻撃するのなら今だろうが、マクレーンとしても一度は朗らかに会話した相手だ。チャンスだからと撃つ事は出来ない。

 そこで警戒心は残したまま銃を下げ、まずは対話を試みた。

 

 

「……あー……名乗ってなかったが、俺がジョン・マクレーンだ」

 

「…………え」

 

「その、なんだ……今はこの娘っ子を、訳あってボディー・ガードしてやってる最中で……あー……」

 

「エ……」

 

「…………出来るなら、見逃してくれって言いてェんだけど……」

 

 

 これには彼女も困らされた。マクレーンに対する恩義はあるようだが、引き受けているのが三万ドルの仕事なだけあって迷いが強い。

 終いには喉に機械を当てる事も忘れ、何か呟くように口をはくはく開閉させては目を泳がせている。

 

 

「…………」

 

「……許してくれない?」

 

 

 ぎこちないが、何とかニコッと笑ってみせるマクレーン。

 対する彼女は目を閉じ、首を捻り、身体を左右に揺らしながら、歯を見せて顰め面で悩む。恩義か仕事かを天秤にかけているようだ。

 

 

 

 

 

 

 最終的に踏ん切りが付いたのか、サッと横に退き、さっき自身が開けた壁の穴へと二人に道を開けてやる。

 

 

「…………ジュっ・ぷん……待ッ、たゲル……じゅっ分、ダ・けね」

 

「いよぉぉーしッ! 愛してるぜベイビーッ!……んじゃあ、とっとと行くぞぉジェーン!」

 

 

 渋い顔をしている彼女の横を抜け、マクレーンとジェーンは足早にその場を去ろうとする。

 穴の前に散らばったラックや積み荷の破片の上を歩きながら、ジェーンはこちらに背を向けたチェンソー女を気にしながら尋ねる。

 

 

「……え……ど、どう言う関係……?」

 

情けは人の為ならず(親切は失われない)って言うだろぉ? そう言うこった!」

 

「あー……あなた、意外と友達多いのね。なんかごめんなさい」

 

「気にすんな」

 

 

 壁の穴を目の前にした時、マクレーンはふと、自身の足元で伸びていたロットンに気付く。

 

 

「……あ?」

 

 

 そのまま跨いで先に行こうとするも、何かが目に入り、そしてまた何かを思い立ったようだ。

 

 

「……おっ。これはこれは……」

 

「? ちょっと、どうしたのよ?」

 

「あぁ悪ィ。先に出といてくれ。すぐに行く」

 

 

 ジェーンを先に行かせてから、彼はロットンの近くにしゃがみ込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二人の気配が消えた事を悟ってから、チェンソー女──こと、「ソーヤー」は振り返る。まだ少し未練のある表情をしていた。

 丁度その時、地面に伸びていたロットンが目を覚まし、むくっと身体を起こした。

 

 

「…………見てた? 決まってた?」

 

「見テない」

 

「……それは残念だ。しかし僕も運がない。まさかラックが壊れるなんて……」

 

 

 どうやら足場にしていたラックは勝手に壊れたものと勘違いしているようだ。

 壊したのは自分ではあるが、ソーヤーは黙っておく事にした。

 

 

「……因みに今の、(Rack)(Luck)で押韻してみたんだけど」

 

「…………」

 

「……ところで」

 

 

 ロットンは立ち上がりながら、自分の周りを見渡して何かを探していた。

 

 

「……僕の装備、知らない?」

 

 

 立ち上がった彼は、なぜか上裸だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 倉庫から外に出たマクレーンとジェーン。

 マクレーンはロットンから剥ぎ取ったロングコートを着ていた。

 

 

「……なんでそれ着てんの?」

 

「臭いだの何だの言われ続けりゃあ気にすんだろぉ!?」

 

「あなたナーバスなの? そうじゃないの? どっちなの?」

 

 

 何とかこの袋小路から出るべく必死に駆ける二人。

 しかし殺し屋は、建物の外の方がうじゃうじゃいる。すぐに二人の前に二台の車が停まり、乗っていた殺し屋たちが一斉に銃口を向けた。

 

 

「うわー!? 終わった──」

 

「くたばれーーーーッ!!」

 

 

 マクレーンが取り出したのはベレッタではなく、さっきロットンからくすねて来たマウザー。

 銃口を向け、引き金を引いた途端、ピストルとは思えない連射性で7.63x25mmマウザー弾が吐き出される。

 

 銃弾は車体を突き破り、殺し屋たちを蜂の巣にして行く。

 まさかのマシンピストルだと思わなかった殺し屋は、射撃は打ちやめて車の影に逃げようとする。

 

 

 その隙にマクレーンはジェーンを連れ、走り出す。

 

 

「なに今の!? それマシンガン!?」

 

「ヤッホーーィッ!! こりゃ『マウザーM712』様だぁッ!!

 

 

 マウザーM712、またの名を「シュネルフォイヤー」。一秒間に二十発の弾丸を発射可能な、まさに拳銃型小銃。

 弾幕を張って敵を攻撃可能な一方、反動が馬鹿にならない代物。先ほどもマクレーンは両手撃ちでマウザーM712をぶっ放したものの、倒せたのは二人ばかりだった。

 

 

「あいつこんな銃で二挺拳銃やるつもりだったのかぁ!?」

 

「もう一挺あるわよね!? ちょーだい!」

 

「馬鹿野郎ッ! 素人が扱えるもんじゃねぇよぉッ!!」

 

 

 遠くから一台の車がフェンスを突き破り、こちらへ方向を変えた。

 ハイライトのビームに当てられて慄く二人目掛けて、車が全速力で突っ込んで来た。

 

 

「危険運転だバッキャロぉぉぉーーいッ!!!!」

 

 

 すかさずマウザーを撃ちまくるマクレーン。

 銃弾を受け、車はドリフトをして横腹を見せた。

 

 

 マクレーンのマウザーの弾が尽きる。

 そのタイミングを見計らい、車のドアが開いた。

 

 

 

 現れたのは微笑み顔を絶やさない、ポロシャツ姿の太った男。

 その男が向けている物と背負っている物を見て、二人は肝を冷やす。

 

 

 

「放火魔野郎だッ!?」

 

「嘘ォ!?」

 

 

 男はドリフトで横滑りしている最中の車内から、火炎放射を開始。

 点火器から真っ直ぐ放たれた炎が、マクレーンらに覆い被さろうとしていた。

 

 すかさずジェーンを押し倒し、二人とも地面に伏せる。

 すぐ足元を車が通り抜け、そしてすぐ頭上を赤い炎が覆う。

 

 

 炎が消えたと同時に、二人は再び走り出す。

 止まった車から銃持ちの殺し屋が発砲するが、それはマクレーンのマウザーが処理する。

 

 

「死ねぇぇーーッ!!」

 

「うごぉッ!?!?」

 

 

 無数の銃弾を浴びた男は、車体に身体をぶつけてから倒れ伏した。

 その死体を踏み付け、更に殺し屋たちが大挙する。騒ぎ過ぎてしまったようだ。

 

 

「……駄目だッ! そこの建物に逃げろッ!!」

 

「また結局屋内に逃げんのね!?」

 

 

 フェンスドアをジェーンが蹴破り、二人して倉庫と思われる建物の敷地内に入る。

 倉庫は三階建て、広さは一つの屋敷ぐらいはある。背後から飛んで来る銃弾に慄きながら逃げ込んだ。

 

 

 

 その倉庫に、続々と殺し屋たちが入り込んで行く。ラッセルもいた。

 

 

「よぉぉーしッ!! 今度こそ今度こそデッドエンドだッ!! 追い立てろーッ!!」

 

「私もすぐに向かいます」

 

「いやお前はここにいろトーチッ!! それは危な過ぎんだッ!!」

 

 

 火炎放射器を持ち込もうとするトーチに命令するラッセル。

 言われた通りにその場で立ち止まっていたトーチだったが、ラッセルが屋内に行ったと同時に何食わぬ顔で後を追った。

 

 

 

 

 

 その倉庫には、「花火倉庫につき火器厳禁」とタイ語で注意書きがされていた。

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