第12話 七大列強国会談
ー新天暦1812年 11月25日 午後8時00分頃 オーデマニア=ガルーシャ二重帝国 帝都オーブル とある居酒屋にてー
異世界に名だたる七大列強国の中でも、二重帝国とかいう変わった体制を持っている国家、オーデマニア=ガルーシャ二重帝国。
この国は第一次世界大戦並みの技術力、そして軍事力を持っている国家であり、更にフォーランツ連邦、エルナヴィア共和国、リルヴァイン連合王国の次に航空機の開発に成功しており、空の主力を飛竜から複葉機へと変えた国でもある。
実はこの国、七大列強国に比べ複雑な民族分布をしている地域を二重帝国の領土としている事や、度々他の民族とのにらみ合いが起こる事から、人々は二重帝国を『民族の市場』や、民族のにらみ合いから単に『爆薬庫』と呼ばれる事もしばしばあるのだ。
そんな二重帝国の中心地でもある帝都オーブルは、文化的価値の高い都市として有名であり、その都市から出る特別なオーラは、他の列強国にも負け劣らないとも言われている。
その文化的価値の高い都市のオーブルの中心地から離れた地区にある居酒屋では、一日の疲れを少しでも癒そうと男達が酒を飲んでいた。
居酒屋内は酒くさい匂いで充満しているが、男達は気にすることなく楽しげに会話をしていた。
「ぷはぁ!やっぱこいつは美味いな!」
髭を生やした中年の男性が麦酒を飲んでそう言いながら、周りの男達は会話をする。
「なあ、知ってるか?こいつは俺の知り合いの外国人から聞いた話なんだが、最近俺らが住んでる国から離れた文明圏外でな、とんでもない国が現れては近くの国を侵略したらしいぜ。」
「それはマジなのか?そいつは聞きたいな!で、どういう国なんだ?そのとんでもない国っていうのは?」
「まあまあ落ち着けよ、確か名前がソビエト連邦とかいうなんか強そうな連邦国家だった気がするな…。」
「ソビエトか?聞いたことがない名前だな。」
「そりゃ当たり前だ、俺だってそれ聞いたとき嘘か本当か疑ったさ。でもまあ情報源はあるみたいだから本当だと思うぜ。あ、言い忘れてたんだが、ソビエトは社会主義とかいう他にない独特の体制そうだ。」
「しゃかいしゅぎ?何だよそれは。俺そこら辺全く分からないから説明してくれよ。」
「はいはい。社会主義っていうのは確か…格差の無い社会を目指して元から階級という差を消して、平等にするといった政治体制だったと思うな…。」
「へぇ~、俺らが住んでる国なんかより案外良い体制してるじゃないか。」
「しかもソビエトの前は帝国だったらしく、革命で帝国やその代わりの政府が倒れてソビエトが出来たらしいそうだ。」
「流石は情報屋!最新の情報を手に入れるの早いな!だったら俺達働いてる人間も革命起こせば社会主義が出来ちまうって事か?」
「ああ…まあ一理あるな。ただもし社会主義になったら俺達はここで酒を飲みながら国に対して批判なんかが出来なくなるぞ。」
「はぁ!?どうしてそうなるんだよ!」
「ソビエトにはどうやら秘密警察というのがあるみたいでな、そいつらが国を批判する人間を取り締まったりするらしい、下手したら極刑に処されたりするみたいだ。まあこれはちょっとした噂話に過ぎないんだがな。」
「うわぁ…そいつは最悪だな。せめてちょっと位の批判は許してくれないのかよ…。」
「さあな、自分はそこで育った訳でもないから分からないが、とにかくソビエト連邦は甘く見ないほうが良いとは思うな。」
「そうか?文明圏外国家の一国を倒したごときで、ソビエトが列強並みに強いとは言い切れないだろ。文明圏外の大陸の一つを統治したわけじゃあるまいし…おい!もう一杯くれ!」
「まあ、そうやって侮れるのも、もしかしたら今だけなのかもな。」
「はぁ…戦争になって俺らを巻き込むのは勘弁してもらいたいよ。」
居酒屋の賑わいは、深夜まで続いた。
ー11月27日 午前9時30分頃 オーブル中心街ー
二重帝国の帝都オーブルの中心部に位置している区域、中心街。
ここには二重帝国皇帝が住まう緑に囲まれた王宮が位置している事から、王宮の表玄関へと続くオーブル大通りには政治関連の建物がまるで商店街のように並んでいるのだ。そんなオーブル大通りでは、王宮を除いて一つだけ周りを圧倒するかのような規模が大きめな建造物があった。
それはまるで、ギリシャにある神殿の幅を横長にしたかのような建物だった。
その建物は、二重帝国議会議事堂という列強国会談には相応しくない建物である。なぜ議会議事堂が選ばれたのかというと、開催一週間前に唐突の会場変更で新しい会場の建設が間に合わないがために、広い帝国議会議事堂を会場にしたのだ。
帝国議会議事堂の入り口へと続く少し傾斜のある道路は二つに小分けされており、その挟まれたスペースにある女神らしき像が載った噴水や、その間にそびえ立つ二つの二重帝国国旗、ギリシャ様式の柱がある美しい入り口のファザードは、見る者を圧倒するような雰囲気だった。
そして入り口から、一人の初老の男性と護衛の近衛兵らが現れた。そして初老の男性は周囲を見渡しながら静かに呟いた。
「このオーブルが列強国会談の会場になるのは実に4年ぶりだな……さて、今回の会談でこの世界は一体どうなるのやら…ん?遂に来たか?」
通行規制により路面電車や一般車の通行が全くない大通りからやってくる七つの黒い影。それらが女神らしき像がある噴水前で止まると、そこから現れた六人の人影は会場の帝国議会議事堂へと向かって来ていた。これを見ていたオーブルの住民はどよめきが起こった。
「おぉ…世界を統べる七つの代表者達が今揃ったぞ…。」
「流石は我らの列強!やっぱ我々は神からの手厚いご加護を受けてるんだな…。」
「さてと、結果はどうなるんだろうかね…?」
ーー帝国議会議事堂 帝国総会議場
きらびやかな装飾に、入り口のファザードを模した壁、その壁の近くにある一つの大きなテーブル。議場の客席が予想より足りず、一部の議員席を客席代わりにしているこの会場では、大きなテーブルを囲うかのように七人の代表者らがそこに座っていた。
◇エルナヴィア共和国
外務大臣 ニリヤ・ステルナーク
◇マルテヴァダ帝国
外務卿 ジョルイル・ダルセン
◇オーデマニア=ガルーシャ二重帝国
外務大臣 ルカーチ・イシュトバーン
◇リルヴァイン連合王国
外務大臣 ドニー・ランバート
◇フォーランツ連邦
外交長官 オーソン・ヴェール
◇バーネング皇国
外務局局長 ルドミラ・トーシャ
◇ロストーラ大帝国
外交部代表 フェスト・ラコニー
「ゴホンッ…それではただ今より、第44回七大列強国会談を始めます。私は今回の会談の議長を務めさせて頂くフーギン・ラドュスと申します。お久しぶりの方はお久しぶり、初めましての方は初めまして。」
「数年ぶりですね…フーギンさん。しかし、随分と年をとりましたね、白髪が生えています。」
「生きる者は必ずその時期を迎えます。ドニー殿も大きくなられましたなぁ…今は…29歳ですかな?」
「えぇ…あと少しすればもう三十路ですよ。」
フーギンとドニーのやり取りに客席からは微かに笑い声が聞こえる。しかし、そんな中で一人表情を全く変えない女性がいた。
「フーギン殿にドニー殿、久方ぶりの再会にこの場で喜ぶのは構いませんが、今は会談中でございますよ。あとここにはわざわざ文明圏外から来た人間もいるという事をお忘れなく。」
優しげな声でそう注意している銀髪の女性、彼女はルドミラ・トーシャ。バーネング皇国の外務局局長である。
「こ、これは申し訳ございませんルドミラ殿、つい…」
彼はリルヴァイン連合王国の外務大臣のドニー・ランバート。右目に金色の片眼鏡をしている男性である。
「我々がここオーブルに集結したのは仲良しごっこのためでしたでしょうかね?ルドミラ殿。」
マルテヴァダ帝国外務卿ジョルイル・ダルセン。彼はこの中で一番血気盛んな男で、七大列強国の中の一国でもある自国に誇りを持っている。
「いいえ、違いますわジョルイル殿。」
「ならいい。こう見えて我は忙しいのだ、早く終らせようじゃないか。」
ジョルイルのこの発言に苛立ちを見せる一人の男がいた。ニリヤ・ステルナーク…エルナヴィア共和国の外務大臣である。
「ジョルイル殿……もしやあなたはこの会談を安く見ているのですかな?今の発言は聞き捨てなりませんぞ。」
「…申し訳ない…少し言い過ぎてしまった。」
「いえいえ、お気になさらず。」
今までのやり取りを見ていたロストーラ大帝国の外交部代表のフェスト・マコニーはクスクスと笑っていた。緑色の長髪が特徴的な女性である。
「えー話が脱線してしまいましたな…では本題に戻しましょう。本日の議題は主に三つです。一つ目は『クスティオ王国に対する食糧支援について』。二つ目は『領土拡大を続ける準列強国のノーデナル教国に向けての制裁について』。そして最後は…『文明圏外に誕生した新興国ソビエト連邦について』です。」
ソビエトという単語に会場全体が一体何の国なのかどよめくが、察したのかすぐに静まり返った
「ではまずクスティオ王国の件についてです。この王国は元々食糧自給率が低いですので、各地で飢饉が発生しています。そのため我々七大列強国を含む高度文明圏国家による無償の食糧提供に、自給率を向上させるための支援金も送っていますが、未だにこれといった成果は出ていません。」
「…本当に支援金を自給率向上のために使っているのか?上層部が自分の財布に入れてるんじゃないのかね?」
「実は…極秘裏に調査団を送ってみた所、まさにその通りの事が起きていました。上層部が住まう地域周辺は発展してはいるものの、それ以外の地域は相変わらずの飢餓地獄です。こちらがその証拠資料です…。」
代表者達は証拠資料に目を通す。そこには支援金の無駄遣い、使用記録の改ざんや隠蔽、また定期的にクスティオ王国に訪れる調査団に対しての賄賂による口封じも行われていた事などが書かれていた。
難しい顔をする者、深い溜め息を吐く者、怒りのあまり足が震える者、嘆き悲しむ者、何とも思わず資料を眺める者など反応は様々だった。
「さて、如何いたし──」
「クスティオ王国に向けての食糧支援や支援金の送付を即刻停止させよ。皆様もこの意見で賛成でしょうか?」
「「「賛成です。」」」
「了解しました。では会談終了後そのように手配します。」
「では次に……」
ーー30分後
「…ではノーデナル教国に対しては経済制裁等を加えることで間違いありませんね?」
フーギンの言葉に全員が頷く。
「分かりました。では次に…『文明圏外の新興国ソビエト連邦について』なんですが、今現在この国に対して『どう対処』していくべきかを決めようと思います。」
すると今度は、さっきの資料とは変わって別の資料が代表者達に配られた。代表者達はその資料も同様すぐに目を向ける。
「資料を見ての通り、これには現在分かっているソビエト連邦に関する情報が載せられています。先ずこの国は連邦国家であり、社会主義というこの世界にはない独自の政治体制だということ。更にソビエト連邦と同じ社会主義の国家を複数の衛星国としており、ついこの間まで文明圏外では一番目に強いアルテガシア王国という文明圏外の大陸で強い国と戦争していたことぐらいしかありません。」
「ほう…アルテガシア王国と戦争をしていたのか…。あの連中は何か野望を企てるとすぐに実行に移す奴らの国だというのに、余程恐怖心の無さげな国なんだろうな。」
「ククククク…私としてはソビエトを応援したいですねぇ…。あの国は気の狂った考えをしてそうです…。」
「マルテヴァダ帝国としてはアルテガシア王国に一票ですな。あいつらは少々厄介ですが、そこを利用すれば良い戦力になりそうだ。」
「……可哀想な国だな。文明圏外国家同士じゃアルテガシアが勝つに決まってる。」
その場にいる全員がアルテガシア王国の勝利を確信しており、その国と戦ったソビエト連邦を哀れんでいた。
「その戦争の結果なんですが…実はソビエト連邦の圧勝で勝利した模様です。」
「「「ッ!?」」」
この結果に一同は目を疑った。なぜなら新興国が文明圏外国家で一番強い国に勝った事例はこれまでないからである。
「そいつは驚きだな…。」
「フフ…本当に驚きましたわ…。まさか新興国が勝つだなんて。」
何故?どうやって?皆がその事で頭がいっぱいだった。そしてフーギンが全容を伝えると、今まで無口だったフォーランツ連邦代表が口を開いた。
「ソビエト連邦って本当に文明圏外国家なのでしょうかね?もしかしたら新手の列強国という可能性もあり得るかと。」
この言葉に一瞬その場の空気が固まった。
確かに列強国だとすればアルテガシア王国との戦争は圧勝という結果でも別に可笑しくはない。
「実は我々リルヴァイン連合王国も同様の意見です。ソビエト連邦は間違いなく高度文明圏国家かと思われます。」
するとバーネング皇国のルドミラ・トーシャが口を出す。
「フフフフ…でも文明圏外国家の一番強い国を倒したぐらいで必ずしもソビエトがかなり強いとは限らないでしょ?」
それに続くかのようにマルテヴァダ帝国のジョルイルも口を開く。
「…実は我がマルテヴァダ帝国も同じ考えなのですよ。ですが多少は厄介な国なのは間違いありません。なのでこうしませんか?戦争で疲れきっている内にとっとと『手なづける』というのは?しかも分割統治で。」
「エルナヴィア共和国も賛成だ!それではどうやる!?我が国最新鋭戦闘機の『ラースチ』を出撃させるか?だったら空は任しておけ!」
「私も賛成です。我が国最強の闘竜騎士団『アルーダ』を出撃させますか?ソビエトは戦争で疲れきっている…丁度良いです。」
バーネング皇国、マルテヴァダ帝国、エルナヴィア共和国はソビエト連邦を屈服させるためにかなり好戦的な態度だった。しかし…
「リルヴァイン連合王国はこの事に反対します。何故戦争してまで解決しようとするのか理解に苦しみます。本来ならもっと平和に出来る筈なのでは?」
この言葉にジョルイルは冷たい視線を向けて話す。
「さては恐れているのだな?ドニー殿。」
「いいえ、恐れていませんが。何故?」
「平和的に解決するのも良いことだ。しかし我々は七大列強国、常に世界中に力を誇示しなければ文明圏外の連中に嘲笑われる。それに怯えれば守るべきものは守れなくなる、分かるかね?」
「……とにかくリルヴァイン連合王国は戦争に反対です。」
この会談で一番無口な二重帝国のルカーチは黙って聞いたまま状況を把握する。
(やはりか…何となく分かっていたがリルヴァインはいつも通り反対か。)
「二重帝国やフォーランツ連邦、そしてロストーラ大帝国は如何ですかな?」
これに先に答えたのはフォーランツ連邦で、薄目をしながら答えた。
「フォーランツ連邦側としては…傍観の立場とさせていただきます。」
「に、二重帝国もです!我が国は民族間の問題がまだありますので…。」
「ロストーラ大帝国もフォーランツ連邦と二重帝国と同じ意見です。」
「そうですか…ではソビエト連邦に対する処置は、マルテヴァダ帝国の提案通りに則る事でよろしいですか?」
そう言うと代表者達はうなずいたが一部は少しうなずいた。
「ソビエト連邦に対する処置は可決されました。ではこれにて会談は終了とします。皆様お疲れ様でした。」
七人は席を立ち、互いに労をねぎらいながら握手する。
(やれやれ…相変わらずどういう考えしているのかが分からない国だ。しかし、フォーランツ連邦が反対しなかった事には正直ホッとした…。)
実は七大列強国の間で、フォーランツ連邦以外では『暗黙の了解』があった。
ー『フォーランツ連邦を絶対に敵にしてはいけない』ー
実はフォーランツ連邦は元々準列強国に囲まれていた国家なのであり、それらが対フォーランツ包囲網を形成し、宣戦布告をしてきたのだ。
だが結果はフォーランツ連邦の勝利。
フォーランツ包囲網は大打撃を与えられぬまま大敗し、戦争期間はたった一ヶ月で終戦したのだった。
各国の代表者達が二重帝国議会議事堂から外へ出ると、オーソン・ヴェールはこう思うのだった。
(やれやれ…今回もとんでもない結果になってしまったな…。ひとまず傍観の立場としたが…さて、ここからどうなるかだな。)
ソ連は異世界でも相変わらず人気ですね(笑)