ーー二重帝国 帝都オーブルにあるとある通り
通りには、一匹の『地竜』と呼ばれる飛竜の翼を無くしたような容貌の竜が引いている竜車の中に、マルテヴァダ帝国の外務卿ジョルイル・ダルセンはそこに乗っていた。
ジョルイルは窓から眺める風景を眺めながら資料を読んだりしていた。
「…ジョルイル外務卿、本当にあのソビエト連邦に強襲を仕掛けるつもりでしょうか?」
ジョルイルの隣に座っている従者がおそるおそる質問をする。
「強襲を仕掛けるのは当然の事よ!!あんなソビエト連邦なんぞ『連邦』という名だけが飾りなただの文明圏外の蛮人国家なんかに取るに足らんわ!!」
「な…なるほど…分かりました!至急本国へ──」
従者が向かい側にいる魔伝兵に本国へ連絡を取るように指示を出そうとすると、ジョルイルは鼻で少し笑った後に従者に指示を止める。
「って、そんな訳にはいかないだろ?」
「へ?…え?あのぉ…えぇ!?」
「いいから落ち着け、そして座ってくれ。ちょっと確認するが、ソビエト連邦が文明圏外国家の中では強いアルテガシア王国と戦争をして、その戦争の結果がソビエト連邦の圧勝で終わったていうのは聞いていたよな?」
「えぇ…そうですが。」
「そうか…なら話は早い。その事なんだが…実は私は会談でソビエト連邦の一連の話を聞いて、この国は恐らく強いのではないかと思ったのだよ。」
この発言に従者はあまりに予想外過ぎて頭が真っ白になっていた。
「ど…どういう事なのですかジョルイル外務卿?ソビエト連邦は強いというのは…。」
「…いいか?まず新興国であるはずのソビエト連邦は、文明圏外国家の中では強いアルテガシアに勝てたということからおかしい、本来新興国なら文明圏外で強い国家なんかに潰されるのは当然な結果のはずだ。」
「はぁ…」
「だがそれを相手にソビエト連邦はなんと圧勝という結果で終わってしまったのだ。圧勝だぞ、新興国がアルテガシアのような国家に勝利したのはこれが初めての事例だ。」
「ですが──」
「あの連中はこれほどの差がある戦争をたった3日だけで終わらせたのは知っているか?」
「ッ!?」
「それだけの日数で、ソビエトはアルテガシア王国の主要都市を壊滅的な被害に喰らわせたあげく、アルテガシアの飛竜のほとんどを無力化…こんな事が出来る武器や兵器は、我が国はおろか、フォーランツ連邦でも持っていないだろう…。」
従者は呆気ない表情をしながら冷や汗を垂らしていた。あの会談の最中に、彼も会談を見に来た客人に紛れて会談を聞いていたが、アルテガシア王国との戦争で使われたソビエト連邦の武器や兵器に関する情報が全く話に出てこなかったのだ。
だがソビエト連邦が戦争の時に使った武器や兵器に関する情報は全く無いという訳ではなく、ソビエトの軍隊を見かけたアルテガシア人から直接聞いた話に過ぎないものの、その情報は少しだが判明はしていたのだ。
実際この世界の様々な国のマスメディアはこの事を取り上げており、その影響で異世界中に『ソビエト』という名が知れ渡る事になったのだ。
「……そこまで詳しくあのフーギン議長は…教えていなかったですよね?」
「それは『わざと』そう伝えなかったんだ。」
「わざと?」
「ああ。多分俺がさっき教えたやつの他にも、ソビエトについてまだ分かっている事は少なからずあるだろう。なのに会談で話さなかったのは、きっと我々列強国の勢力バランスを崩してしまいかねないような事が見つかったのかも知れない。もしそうだとしたら、ソビエトは確実に我々列強を凌駕する力を持っているだろう…。」
「な…なんてこったぁ…。」
「…まあとにかく、今は少しでも多くの戦力が必要なんだ。たとえソビエトが新興国だったとしても、あのアルテガシア王国を短期間で滅亡させた国だとすれば相当な力を持つ国だ。」
「なるほど…。」
「あの報告書に書かれていた文書なんかは、所詮分かっている情報のほんの一握りしかないだろう。あと言わせてもらえば、表向きではお互いに良い関係を持っているように見えて、実際は相手の弱みを常に探っているのさ。」
「では我が国は…」
「とりあえずソビエト連邦に向けての強襲作戦の下準備をしているという『演技』だけしていろ。」
「はっ!」
従者はすぐさま魔伝兵に向けて報告の指示をした。そしてジョルイルは窓から見える景色を眺めながらボソリと呟く。
「今回の会談で、またもや冷たい戦争が始まりそうな予感がするな…。」
ーー帝都内の別の通りにて
多数の近衛騎兵による護衛の元、快速で通りを走るバーネング皇国の馬車。
「ルドミラ局長、我が国傘下のルミーニカ王国、イルーレ帝国、サノリア王国からの報告書がたった今届いて参りました。」
「ご苦労様…。」
報告書を手に取り眺めるルドミラ、その顔は報告書を読んでいくにつれて段々と表情が難しくなっていった。
「えっと…ルドミラ局長?どうかなさいましたか?」
「ソビエト連邦は…私が思っていたよりも随分と高度な技術を持っているっぽいね。あの議長はその事を知っていて伝えなかったのかしら?…」
「な、何が書かれていたのでしょうか?」
ルドミラは従者に対して報告書に書かれている事を簡単に説明を始めた。その中身は、マルテヴァダ帝国のジョルイルが言っていた事とほぼ同じだった。
「…という事よ。」
「そ、そうだったのですか…。それにしても新興国のソビエト連邦が、まさか我々列強の勢力のバランスを崩壊させるようなものを保有しているだなんて…。」
「そう言うのも無理はないわ。あの国は新興国の割に文明圏外の強い国と戦った日数がたったの三日だもの。常識的に考えてみればまず可笑しいレベルだわ。それに、たったこれだけの日数でアルテガシアに甚大な被害を及ぼすだなんて、いくらあのフォーランツ連邦でも流石に難しいわよ。」
「…それで、我が国はどういたしましょうか?」
「多分、マルテヴァダ帝国は動かない筈よ、あの国は決め事になると少し慎重だもの。だから我が皇国も少しぐらいは慎重にならないと…。」
「そうですよ!そうです!ここは下手に手を出さずに、様子を見──」
するとルドミラは眉間にしわを寄せながら、従者を睨み付ける。
「あら、貴方は一体何を言っているのかしら…?」
「へ…?」
そう言うとルドミラは、いきなり無邪気な子供のように笑いながら従者の意見を否定しだした。
「ウフフ…キャハハハハハ‼︎キャハッ!キャハハハハハッ!んな訳ないでしょお!?」
「え、えぇ!?」
「ウフフ、これはむしろもらうには最高のチャンスよ。だって美味しい『ご馳走』をわざわざ力ずくで奪い合う必要が無くなったんだもの。」
「という事は…まさかあのソビエトを?」
「そうよ!あの国は必ず我が皇国の手に収めてやるわ!だってあの国は兵士がかなり多くて、おまけに銃とやら大砲とやらの類いもあるのでしょ!余計に欲しくならない!?あの連邦を手なづけることが出来たら…間違いなく皇国は生まれ変わる!」
「…は、ハッ!」
「だけど…まともにソビエトに戦おうとでもすれば多かれ少なかれこっちも被害を受けるわ…。そうなってしまえば他が好き放題に我が皇国を『取り込み』始める。それは何としてでも避けなければならない…でもこのチャンスを外す訳にもいかないッ!『国力』を得なければ、遅かれ早かれ皇国は他の列強に『遊ばされる』。」
「マルテヴァダ帝国は、それを回避した…という事ですね。」
「フフ…いつの時代でも物事には多少なりともリスクは付き物よ。何もしなければリスクは起きない、しかし何も得ることは出来ない…。」
「では一体どのようにしてソビエト連邦を手なづけるつもりで?」
「それは軍の上層部に任せるわ。私はあのジョルイルみたいに軍人の出じゃないし。それに、今仕掛けるのはやめたほうがいいわねぇ…タイミングが悪すぎる。」
「それはなぜなのですか?」
ルドミラは自分のそばに置いてあった二重帝国の新聞を従者に手渡した。従者はそれを受け取り内容を読むと、その理由に気が付いた。
「な、なんとッ!?そういう事ですか!」
「ね?分かったでしょ?この新聞には、どうやらソビエト連邦に主要亜人国家や、一部文明圏外国家の長が、ソビエトが占領した元アルテガシア王国の王都『グラスティン』へと向かっているらしいわ。目的は…ソビエトとの国交締結かしらね。」
ーー別の通り 自動車の中にて
周囲を圧倒するように通りすぎていく、黒色の塗装をした古めの高級車の車列。その車列の中にあるボンネットの両側に小さな国旗がある真ん中の車に、フォーランツ連邦の外交長官オーソン・ヴェールとその護衛が搭乗していた。
「外交長官、今回行われた会談の感想は如何ですか?」
側近の一人がオーソンに感想を聞いてきた。
「ううむ…まあ正直言って、どこの列強国も平和に共存していく事をかたくなに否定してるように思えたな。一部は私欲に走り過ぎていて笑えないくらいだ。」
「そうですか…ではどういった点が否定しているように思えたのですか?」
オーソンは葉巻をふかしながら言った
「…ソビエト連邦の件についてだな。」
「ソビエト連邦ですか…。あの国って確か最近までアルテガシア王国と戦争をしていて、結果ソビエト連邦が圧勝して、今世界中が注目している国ですよね?」
「ああそうだ。ソビエトは我々のように銃や大砲の類いを持っていて、更に我が国の空軍の主力戦闘機よりもかなり速い速度を出す事が出来る戦闘機があるそうだ。」
「それは…すごい国ですね。」
側近は、予想外なソビエト連邦の軍事力や技術力の高さに言葉を絞り出せなかった。
「ちなみにそれってどこからその情報を手に入れたんですか?」
「運悪くソビエトの領土と化してしまったアルテガシア王国の元国民さ。そこにいたマスメディアは、アルテガシア人に聞き出した情報を段々と周辺諸国にばらまいて、こんなに注目されたんだ。一部は既に新聞やニュース等で大衆に伝えられている。」
オーソンは側近にそれらに関する新聞を見せた。新聞には、ソ連軍の戦車の列が写っている写真に、ソ連軍のMiG-25戦闘機2機が飛んでいる写真が一面を飾っていた。
「にも関わらずだ、他の列強はソビエトが持つ膨大な軍事力の欲しさに目をつけたせいか、マルテヴァダやバーネング、それにエルナヴィアどもはソビエトを自国の傀儡国にしようと必死になってるのだ。本当笑えないよ。」
「…でもソビエト連邦って詳しい情報があまり分からない国でもありますよね?多分その三国は興味本意でソビエトを知りたいからそんな事をつい言ってしまったのでは?」
「それもあり得るかもな。だがあの会談で三国はお互いにソビエトを占領していこうと思ってるように見えて、実際はそれに参加しなかったり、あるいはまた別の野望か何かが芽生えたりしていて、正直どういう動向をしてるのかが理解しづらいのだよ。」
「はぁ…なるほど。」
「ただ、バーネングの奴等だけはどうしてソビエトを傀儡国にさせようとしている理由は分かる。」
「それは一体…なんでしょうか?」
「ハッ、軍備拡張だよ。奴らは好条件な国を見つけだすとすぐに傀儡国にさせようと動きだす。いつもの事じゃないか。」
「なんと…」
「それに、バーネングの奴らはどうやら生物兵器を散々開発しているらしく、その中には家畜を改造したのもあるらしい。一体どれほど強いんだろうね全く。」
オーソンはバーネング皇国がソビエトを傀儡国にさせる理由が軍備拡張の為と決め付けれたのには理由があった。
実はフォーランツ連邦とバーネング皇国は、互いに国境と接している部分が多いのだ。
これは元々フォーランツ連邦に対する対フォーランツ包囲網だった、今は無き準列強国連盟に対する戦争によってこの結果になったのだが、運悪くフォーランツ連邦と国境が隣り合わせになってしまったバーネング皇国はそれを恐れた結果、常に身の丈に合わない軍拡競争をしなければならなくなり現在に至っている。
だがフォーランツ連邦はあの戦争以来、戦争自体に対する積極的な意欲は失っていたのだが、かといって隣国の立場からすれば安心できるものでもない軍拡の波から避けたくても避けれなかったのだ。
そのためバーネング皇国は、フォーランツ連邦と少しても渡り合えるような技術や軍事力を持っていそうな国々はとことん向かっては傀儡国にし、その技術を使って生物兵器を多々生み出しているのである。
「…では話は変わりますが、我々はソビエト連邦に対してどう対応していきましょうか?」
「まあ国交締結ぐらいはしておこうじゃないか。私としては、謎の国『ソビエト連邦』と少しは仲良くやっていきたい所だな…。」
「そうですね。でもソビエト連邦と会談をするときにあの三国列強が戦争をおっ始めないといいですが…。」
ーー帝都上空 連合王国政府専用機
複数の連合王国空軍のレシプロ戦闘機『セミティス』による護衛の元、帝都上空を飛行する連合王国政府専用機。その機内にあるソファで深い溜息を吐くリルヴァイン連合王国外務大臣のドニー・ランバート。
「はぁ~全く……あの三国列強は馬鹿なのか…?ただでさえ我々列強に対する世論の反応は酷いというのに、三国列強はそんな事も気付かずに言っているのか?…でもまあ、それくらい必死って事なのかもな…あのやたらと馬鹿みたいに大きい連邦がこの世界にいる限りは…」
するとドニーは、机に置いてあったタイプライターを使い書類を作成し始める。
「悪いが…君達の思い通りに…させるわけにはいかないよ…。…まずは…ソビエトと…リルヴァインと共に…友好条約を結ぼう。…急がなければ…時間がない。…最も最悪なパターンとしては、『ソビエトとフォーランツが国交を結び技術提供』をすることだ…。それだけは何としてでも避けたいッ!」