ーー午後7時20分頃 ピオネールスカヤ付近 ソ連軍仮設空軍基地 滑走路付近
《各員、まもなく異世界からの客人がこちらに着陸をしてくる。情報によれば単翼機を開発出来るほどの技術力を持った国が来るそうだ。現在格納庫から出ている航空機は異世界への技術漏洩を防ぐため速やかに格納庫へと収納し、万が一の事態に備えて最低限の武装をするように!》
仮設空軍基地にあるスタッフ達は管制塔からの指示にしたがい、総動員で格納庫から出ている戦闘機をトーイングトラクターなどを使い急いで格納庫への収納を始めたのと同時に、滑走路前には旧式のT-55戦車やソ連兵が基地に攻撃をしてきた時に備えて装填済み状態で待機していた。
そして全ての戦闘機の格納庫への収納が終わってから数分後、遠くから5つの機影が滑走路に近づいてきた。真ん中には連合王国空軍の戦闘機『ウィラ』が見える。
《こちらプラーミャ3、滑走路への着陸を許可してくれないか?》
《プラーミャ隊へこちら管制塔、滑走路のコンディションクリア、滑走路への着陸を許可する。》
そしてプラーミャ隊とウィラは滑走路へと着陸をする。まずMiG-23戦闘機4機が先に滑走路に着陸をし、それに続くようにウィラも遅れて滑走路へと着陸をした。
着陸をして数分後、ウィラのコクピットから二人の男性が顔を見せる。一人は明らかに戦闘機のパイロットの服装をしていたが、もう一人は操縦士とは程遠い格好をしており、ソ連兵達はこの人間が一体誰なのかと謎めいていた。
(ついに来てしまったな…あのカーキ色をした軍服にヘルメットをまとっている人間全員が、ソビエト連邦の兵士なのか?…彼らが手にしているのは…形も色も自分達のとはだいぶ違った構造をしているが、アレは間違いなく銃だ!ソビエトは自国で銃を造れる技術を持っている!)
さらにジョルイルは周りに目を向けると、T-55戦車を見てさらに驚愕する。
(え?ちょっと待て…ソビエトは戦車も造れるのか!?しかもかなり多いぞ!ソビエトはもしや陸軍大国じゃないのか…?)
「あなた方はどこの大陸から来てどういった目的でここソビエトへ来たのですか?」
一人のソ連軍の将校がジョルイル達に質問を投げ掛ける。ジョルイルはハッと我に帰ると、動揺しながら将校に答える。
「え、えっと…ですね…。えぇ…わ、私はリルヴァイン連合王国の…が、外務ぅ…大臣の、ジョ…ジョルイル…ダルセンと言います…。」
「そうですか…ではその隣にいる貴方は?」
「わ、私はリルヴァイン連合王国空軍所属パイロットのテューリ・エルギです!ど、どうか我々に向けて攻撃をしないで下さい!」
将校を含む一部のソ連兵達はコソコソと話し合いをしていたが、それでも相変わらず警戒を解かずにジョルイル達に鋭い眼差しを向けていた。
ジョルイル達は下手をすればいつ攻撃をされてもおかしくない状況に立たされており、冷や汗が滝のように流れている。すると…
「すいませんが、この事を上層部にお伝えしないといけませんので、この場で少々お待ちいただけないでしょうか。」
「わ、分かりました…。」
「ご理解頂きありがとうございます…。」
そう言うと将校らは急ぎ足で基地本部へと向かっていった。
ーー同時刻 ソビエト連邦異世界統治局
ジリリリリリ…ジリリリリリ
電話のベルが鳴り出し、受話器をすぐに手に取るスーツ姿の一人の男性。
「はい、こちらグロムイコ外務大臣。」
《これはこれは同志グロムイコ殿、この時間帯にお呼び出しをしてしまい申し訳ございません。》
「まあ気にするな。それよりも電話から出るのがこの声ってことは…さてはまたなのか?」
《はい、また出てきましたよ…。今度はレシプロ戦闘機に乗って来ました。》
グロムイコは舌打ちをする。
「チッ、ったく…戦争が終わったらすぐにこれだ、一体これで何回目なんだよ全く…。まあいい、せっかくわざわざ遠くから来たんだ、そちらに来てやろう。」
《毎回ありがとうございます!》
「ああ、もう少ししたら到着するからしばらく待っていてくれ、それじゃ。」
そう言うとグロムイコは受話器を置き、愚痴を吐きつつも車でジョルイル達のいる基地へと向かった。
ーーソ連軍仮設空軍基地 基地本部
基地本部内にある専用の特別な部屋にあるソファにジョルイルとテューリはいた。差し出された水を手に取って飲もうとするが、手が震えていて上手く口まで運ぶことが出来ない。なぜなら彼らの周りには銃を持ったソ連兵がたくさんいるからだ。
(な…何か分からないが、とりあえずソビエトの外務担当との接触が出来そうだな…さて、ここからだ…ここから…。)
(俺は…ただの空軍パイロットだぞ…外交官でもなんでもないのに…な、何で俺までもがこの場所に連れてこられたんだ…?もしやソビエトの人々は俺を外務大臣の『補佐官』か何かと勘違いされている…?ちゃんと自己紹介したはずなのに…。)
「どうかしましたか?顔色が悪いですが…?」
近くにいた兵士の一人がずっと無口で手が震えているジョルイル達を心配する。
「い、いえ。だ、大丈夫ですよ!はい…。」
「おっと、これは失礼しました。」
すると、近くにあるドアからノックが軽く鳴り出す。それに気付いたソ連兵はドアに移動し、そのドアを開けた。
ガチャッ
「どうもお待たせしました。私はソビエト連邦外務大臣のアンドレイ・グロムイコと申します。遠路はるばる良くおいでくださいました。」
ドアから姿を見せたのは、ジョルイル達が想像していたよりもずっと清潔な印象を受ける年配の男性だった。
キッチリと整った黒スーツ姿で登場したグロムイコ外務大臣を見ていたジョルイル達はハッとなった。
(ヤバい…こんな乱れた格好じゃあ何言われてもおかしくない…)
「それがリルヴァイン連合王国の正装なのでしょうか?」
「あ、いやぁこれは、あの…その…。」
「あ、言わなくても別に結構です。私はこの世界に転移して以来様々な国々の正装や礼儀等を体験してきましたので、変に気を遣わなくても大丈夫ですからご心配なく。」
「は、はい…。」
ジョルイルは訂正出来なかった。あまりの緊張と動揺で服装を上手く説明が出来そうにもなく、さらに今着ているこの服がそもそも正装ではないとでも言ってしまった暁にはなんと無礼な国な事かと思われるに違いない。
「それで…なぜあなた方はここソビエト連邦へとおいでになさったんですか?」
「あ!はい!えっとですね…我々リルヴァイン連合王国とソビエト連邦との友好関係を築くために、国交を結びに参りました!突如として何の予告も無しの来訪と無礼極まりない行為はこちらも承知の上です!今すぐでなくとも、その礎を築くための一歩として今回の会談で実現したいと思います!」
「ほぅ…国交ですかぁ…。」
グロムイコの顔はすぐに厳しくなる。それを見たジョルイルはドキッとする。無理もないだろう。何の予告も無しに勝手に領空侵犯をしておき、なおかつ戦闘機で領空侵犯をするというソ連側からすれば極めて不愉快な事をしておいて国交を結ぼうなど…そんな国と国交締結する国は一体何処にあるのだろうか。ジョルイルは半ば諦めた気持ちで、これからソビエト連邦が自国に対する批判や抗議を覚悟しながら対処法を考える。
「我々ソビエトと貴国によるお互いの発展を願い、そのために危険を顧みずここへと…実に素晴らしいですね…ただ運良く我々の空軍が貴方達が乗ってきた戦闘機を撃墜しなかった事がせめてもの幸いでしょうね。ですが国交を結びたいというあなた方の要請を信用する事は、残念ですが出来ませんね。実は我々ソビエトはこの大陸以外の国から来た人間が国交を結びたいと言ってきたのは貴国も含め3ヶ国目なんですよ。」
(ま、まさかエルナヴィア共和国とバーネングが!?いや、あの国とこことの距離はかなり遠いから有り得ないはず…。だとすればロストーラ大帝国なのか…?あの秘匿主義な国家がまさかもうここまで到達しているとでも…?)
思っていたよりも批判や抗議の言葉が無かったことに意外に思っていたが、それよりも気になったのが、ジョルイル達よりも先にソビエトにコンタクトしに来た国が2ヶ国もいたという事実だ。
もしジョルイルが考えている最悪のシナリオ通りのパターンになってしまえばかなりマズイ事になる。
「その2ヶ国が確か…『ビルシュ王国』と『ツァスタ帝国』という名前の国でしたね…この2ヶ国は一時的でしたが、ここピオネールスカヤを通じて我々と国交締結する為の準備をしていました。」
「そ、そうだったのでしたか…。」
(ふぅ良かった…まだ来てなかったのか…。)
ジョルイルはエルナヴィアやバーネング、それにロストーラがここまで動き出していない事に少し安堵した。しかし、ソビエト連邦が他国との国交をなぜこれほど拒むのはどうしてか疑問に思った。
確かにさっきの2ヶ国は文明圏外国家なのだが、ソビエトのような軍事大国ならそんな国を余裕で蹴散らせる事なんて朝飯前なはずだ。
「最初は我々も前向きに検討していたのですよ。ですがね…その準備期間中にある事が発覚したんですよ。両国から来た派遣隊がピオネールスカヤの住民を拉致したのです。幸いその人達は拉致されずに済みましたが、国の使者という立場を使った堂々とした愚行…後の調べで、両国の犯人は共通して国からの指示で行動していた事が判明したんです。」
「えっ!?」
「その人達の話によれば、どうやらここは多種多様な亜人族が混在しているようでしてね…高価な商品がピオネールスカヤに集まってるからその『商品』を国を挙げて売りさばけばかなりの富を得られる、ソビエトには富を山分けすれば黙って了承するだろうという事でしたよ…その国の連中は馬鹿だと思いません?」
「まぁ…。」
奴隷売買を主な生業とする国は少なくない事をジョルイルは知っていたが、このような陰湿なやり方をすればどんな国でも国交を断絶したくなる気持ちは当然だと思った。
「無論、その2ヶ国との国交締結は白紙になり、断絶を一方的にしつこく突き付けましたよ。まぁ連中もかなり焦ってましたからねぇ…数日後にはまたその連中が血相変えてやって来て、『その犯人達は奴隷にして構わない、だが国交の断絶はやめて欲しい。』ですって、冗談じゃないですよ。我々の国民を拉致しようと計画した国が何を偉そうな口を叩くんだと…連中はすぐに追放させましたね。」
この時ジョルイルは気付いた、生半可なやり方ではソビエト連邦はまともに国交を締結しようとはしない…そう思ったジョルイルは、いっそのこと全部をさらけ出すつもりで話す事に決めた。
「…ではこちらは包み隠さずに話していこうと思います。我が国が貴国と国交を結びたい理由は…『この世界の破滅を止める』ためで、貴国と国交、願わくば同盟を結びたい所存です。」
「『この世界の破滅』…ですか?」
グロムイコはその言葉から大体どういったものなのかを十分に理解していた。なんせ冷戦という核戦争が起きて人類滅亡するのもおかしくない時代に、ソビエトはアメリカと核競争を繰り広げつつもその脅威を感じていたのだから分かって当然だ。
「貴国が知っているかどうかは分かりませんが、今の七大列強国は一部列強の影響で均衛が崩壊しつつある状態なんです。もし下手をすれば『世界大戦』が勃発します。」
この言葉にグロムイコはやっぱりかと言わんばかりにジョルイルの話す事に頷いていた。
「『世界大戦』が起きれば、世界中で大勢の人々が戦火に巻き込まれて死んでしまいます。勝つためには味方…というよりかは『手駒』を増やして他の列強国に対して牽制し合っているのです。まぁそれ自体は元からあったのですが、近年は特に緊張が高まっているのです…。」
「…何故そのような事態に?」
「それは…七大列強国の一角であるフォーランツ連邦で『新型の大量破壊兵器が開発されている』という情報が出てきたからなんです。確証はありませんが…前々からフォーランツ連邦は前の戦争以来少しずつですが軍備拡張をやっているとの報告はありましたから…。」
「大量破壊兵器…!」
(それってもしかしてこの世界にも核を持ってる国があるとでも言うのか…?)
グロムイコは大量破壊兵器を異世界の列強が所有しているという噂に少し驚いており、異世界でもまたもや面倒くさい冷戦が始まるのかと呆れていた。
「この事は前回の七大列強国会談で話題に上がりました。それを議長がフォーランツ連邦に、これに何か弁明はありますかと聞いたんです。するとフォーランツ連邦は『貴方達のご想像にお任せします。ですが、もし我が国に何かしらの措置を与えるとでもいうのなら…その時は容赦しませんよ。』って答えたんです。」
「…フォーランツ連邦か。」
「これ以降、毎年必ず行われるはずだった七大列強国会談は今年に来るまでおよそ4年間も会談は行われませんでした。理由は様々ですが、主な理由としてはフォーランツ連邦が何かしでかさないかを軍事を中心にマークしていて、それどころじゃ無かった…という訳です。」
「そうなんですか…ですが何故今年になってその会談を催したんですか?今更過ぎません?」
「それなんですけど…なんとフォーランツ連邦が会談を提案し出したんですよ。『そろそろいがみ合いはやめて平和と融和の時代を築こうじゃないか』…と。」
「なんかその言葉には何かしら裏があってもおかしくなさそうですね…。」
「ええ、きっとフォーランツ連邦はそう言っておきながら何かしらの極秘計画を進めているのでしょう…それしか考えられません。」
「…なるほど、つまり貴方が我が国へと来た理由は、我が国を貴国の傘下に入れる為なのですね?」
「…いや、違います。我々は貴方達ソビエト連邦に七大列強の『一角』になってもらいたいと思い来たのです。」
グロムイコはこれまたとんでもない回答だとギョッとするが、平然を装い話を続ける。
「それは驚きましたな…しかし、もし仮に我々が列強に入ったとすればその時点で七大列強の意味は成さないのでは?」
「ご心配無用、現状は七大列強国というだけあって実は数字は列強という概念が出来て以来コロコロと変わっています。」
「突然新参者が列強に参加しようとでもすれば他は認めないのでは?」
「その様な常識はもう数十年前には消えましたよ。」
「では我々が列強に参加する事で一体何の利益があると言うんですか?」
「まず他の国がソビエト連邦に戦争を起こされる可能性は無くなります。列強に戦争を仕掛ける国はまず存在しないと言っても過言ではありません。それに、先程貴方が話した拉致しようとした国家ぐるみの組織は列強に参加すれば今後起こりません。」
「うぅむ…それで、貴方が我々の参加を推薦するその理由は?」
「ソビエト連邦には、この荒れ果てている七大列強を根本的から作り直すために今起きている問題を鎮めて欲しいという事です。」
グロムイコは異世界で始まっている冷戦を沈静化出来るのならば、むしろそれを選びたかった。しかし、ソビエト率いる東側諸国の主な思想は社会主義だ。帝国主義や資本主義の国家の集いの列強国とかいう組織に参加でもすれば、間違いなく国民の国に対する士気は落胆し、社会主義の方が資本主義よりも退廃的だと思われてしまう。
「はぁ…しかし、そんな事をすればソビエト国民を戦争の危機に立たせるようなもの、いくら我々でも戦争は出来るだけ勘弁してもらいたいですよ…。」
「貴国の気持ちは分かります。ですが遅かれ早かれ、結局は列強国との戦争は避けられないのですよ。」
「それは…どうしてなんですか?」
「他の列強国は、ソビエト連邦が持っている全てが『未知の技術の宝庫』に見えてるんです。なので一部列強は貴国を自国の傀儡国家にしようと動き出しています。」
「なんと…こんな短いうちにそんな事が…。」
「あまり信じがたい事でしょう…以前の列強だったらそんな事はしませんでした。それくらい今の七大列強は荒れているんです…。」
グロムイコは悩んだ。社会主義プロパガンダを重視して列強国なんかには参加しないと強く伝えるのか、いっそのこと社会主義という鎖を砕いて異世界の列強と共存共栄の道を歩むのかの二択だった。
「貴方が言いたい事はよく分かりました…。ですがこれほど重要な件は私一人では決められません。一度この事を政府にお伝えして、最終的な決定は後日にお伝えします。」
「は、はい!それでも構いません!」
「それは良かったです…あのぉ単刀直入に聞きますが、七大列強国の中で警戒すべき国は何でしょうか…?」
「『エルナヴィア共和国』や『フォーランツ連邦』ですね…あと最近行動が怪しいのは『バーネング皇国』です。この国はフォーランツ連邦がライバルで急な軍備拡張をしていて、対抗出来る技術のためならどんな手段も問わない国です。」
「なるほど…肝に銘じておきます。」
こうして二人は互いに握手をした。自国に迫る脅威を知らせてくれた事に、二人はとても感謝をしていた。
「では私達はこれで──」
「お待ちください、せっかくこちらに来たことですから、少し『ピオネールスカヤ』を観光しては如何では?我々がご案内しますので。」
「で、では言葉に甘えて…。」
その後二人はパイロットの存在に気付かぬまま部屋を退室し、多数のソ連兵を率いながらピオネールスカヤ市街地へと向かうのだった。