【完結】最強の聖騎士だけど聖女様の乳を揉みたいので魔王軍に寝返ってみた   作:青ヤギ

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──改稿後──
【急募】寝返るはずだった魔王軍をつい壊滅させちゃったときの対処法


 人が寄りつかない険しい渓谷に魔王城はある。

 人の足ではもちろん、馬ですら走破するのに困難を極める土地だが、聖騎士のチカラさえあれば無事に目的地に辿り着くことができる。

 さっそく交渉をと思いきや……俺の話に魔王の部下たちはまったく聞く耳を持たないので、力ずくで城内に侵入を決行。

 なんとか強行突破して魔王の座する部屋まで来れた。

 

 部屋の中には「俺が魔王です!」と言わんばかりに人間のイメージどおりのおっかない姿をした魔王が、バカデカイ椅子にふんぞり返っていた。

 「よくぞここまで来た聖騎士よ……」とお決まりの文句もスルーして、俺は「かくかくしかじかの理由から魔王軍に入れて欲しい!」と交渉を持ちかけた。

 しかし……

 

「やっちまった……」

 

 魔王の部屋でひとり、俺は途方にくれていた。

 なぜって?

 だって……

 

 

 

「勢いで魔王倒しちゃったよ! やっべー!」

 

 どうしてこうなった。

 俺が悪い?

 うん、そうだね。

 でも、しょうがないじゃないか。

 聖女様の乳を揉みたいという切なる悲願を魔王すらも鼻で笑って『まるで意味がわからんぞ!』とか言うもんだから、思わずプッツンしてしまったのだ。

 気づけば必殺の一撃をたたき込んでしまっていた。

 

「しかし、魔王っていうわりには随分あっけなかったような……」

 

 決着は一瞬だった。

 復活して第二形態になる素振りもない。

 まさに見かけ倒しそのもの。

 本当にあんな魔王に、人類は何年間も苦しめられていたのか?

 

 ……なんにせよ。

 

「魔王軍との戦いは、これにて人類の勝利で幕を閉じたということか……」

 

 魔王の部下たちも強行突破の際にほとんど倒してしまった。

 魔王さえいれば蘇生できたのだろうが、もはやそれも望めまい。

 文字どおり、壊滅と言っていいだろう。

 だが……

 

「それはまずいな……」

 

 戦いを終わらせて聖女様を聖女の任から解放する。

 それだけなら聖都の決まりに刃向かって魔王を倒せばいい。

 そういう選択肢もとうぜん考えた。

 しかし、それではダメなのだ。

 だって人類の勝利で終わったら……絶対に神官の老害どもが調子にのるじゃん!

 

 きっと俺の手柄なんて無視して「これも何もかも聖神様と、その加護を受ける聖女様のおかげである!」とかなんとか言って、さらに信者を増やすことに専念するだろう。

 そして、いま以上に聖女様を神格化させて、より不可侵な存在として祭り上げることが容易に想像ができる。

 そんなことになったら、ますます乳を揉むチャンスが遠のいてしまう!

 

 だからこそ魔王軍に入って、人類の敗北というシナリオが必要だったのだ。

 勝者の特権で好き放題するつもりだったのだ。

 だというのに魔王軍を壊滅させてしまった!

 どうすんべ!?

 

「まいったなー……ん?」

 

 所在なさげに部屋をうろうろしていると、宙に浮いている巨大な水晶玉が光を発したのに気づく。

 水晶玉の中には、こことは異なる場所を映し出していた。

 恐らく外敵の接近を知らせる魔道具なのだろう。

 水晶玉には魔王城に向かって進軍する聖騎士の軍勢が映し出されていた!

 

「げげ!? アイツら来ちゃったのか!?」

 

 よく見ると《十二聖将》のメンツも勢揃いじゃん!

 まさかアイツらが神官の決まりに刃向かって魔王城を攻めてくるとは!

 

 困った。

 俺が裏切り者になったことは、あの簡潔かつ完璧な書き置きで周知されているに違いない。

 だが所属する予定だった肝心な魔王軍は壊滅してしまっている。

 

 いかん。いかんぞ。

 このままでは人類の勝利でハッピーエンド。凱旋コースまっしぐらじゃないか。

 そして俺は単なる裏切り者として捕縛されてしまうだろう。

 そうしたら聖女様の乳を揉むことは二度とできまい!

 それはまずい!

 

 くっそ! こうなったら覚悟を決めて聖騎士たちと戦うしかない!

 絶対に捕まるものか!

 そう思った矢先、

 

 ――チカラを貸そうか?

 

「ん?」

 

 ふと、脳に直接語りかけるような声が聞こえた。

 引き寄せられるように、ある一点に視線が向く。

 

「あ、あれは……」

 

 魔王が座っていた椅子の背後……俺の攻撃によって穴が穿たれた壁の向こう側に何かが光っている。

 

 それは、剣だった。

 漆黒に輝き、禍々しいオーラを放つ剣が、まるで使い手を待っていたかのように台座に突き刺さっていた。

 

「……」

 

 その剣を見ていると、なぜだか「抜かなくてはならない」という気分になってくる。

 意思とは無関係に手を伸ばしてしまう。

 

 ――そう、手を伸ばすんだ。ぼくには君が必要だ。君にもぼくが必要だ。

 

 また声が聞こえた。

 その声は剣から発せられているように思えた。

 

 ――君のような存在をぼくはずっと待っていた。さあ、この窮地を脱したければ、ぼくを握るんだ。

 

 声に導かれるままに俺は……剣の柄を握った。

 

「お……おおおおおォォオオォォ!」

 

 瞬間、漆黒のエネルギーが俺の総身を包み込んだ!

 

 ――おめでとう選ばれし勇者よ。今日からぼくらは一心同体だ。

 

 声の主は、まるで無邪気な少女のように、くつくつと笑っていた。

 

  ◆

 

 聖騎士たちが魔王城の門前に辿り着き、いざ突貫しようとした矢先――ソレは現れた。

 

「き、貴様は何者だ!」

 

 とつじょ門前に立ち塞がった存在に対して、聖騎士のひとりが尋ねた。

 

 全身を覆う漆黒の鎧。顔は兜に隠されていてわからない。ただ兜の隙間から漏れる赤黒く燃えた眼光は、奮起してやってきた聖騎士たちの心を萎縮させるほどに禍々しかった。

 ひと目見た瞬間、聖騎士たちは理解した。

 ただ者ではないと。

 

「よく来た聖騎士たちよ。我こそは魔王様の右腕――暗黒騎士、ブラック!」

 

 くぐもった不吉な声色で漆黒の騎士はそう名乗った。

 

「暗黒騎士、ブラック……」

 

「魔王の右腕だと!?」

 

 聖騎士たちの間に動揺が広がる。

 魔王の右腕……その肩書きだけで眼前の騎士の実力が相当なものであることを告げていた。

 

「遠くはるばるここまで来てもらってすまないが……お前たちが魔王城に入ることはない。このブラックが貴様ら全員を葬るからだ」

 

「なんだと!?」

 

「お、おのれ! なめおって!」

 

 単騎の相手にここまで言われては歴戦の聖騎士たちも黙ってはいられない。

 各々が未知の敵に対する恐怖を捨て、戦意をむき出しにする。

 

 その中でも特に鋭い戦意を向ける者がいた。

 フェインの義妹、《十二聖将》のひとりであるシュカ・エスプレソンである。

 

「貴様! 兄上は……《剣将》フェインをどうした!?」

 

 その問いに、他の聖騎士たちもハッとした。

 聖都最強の《剣将》、フェイン・エスプレソンがこの場にいない。

 それが意味することは……

 

 暗黒騎士は一度、不思議そうに首を傾げたが、すぐにまた不気味に笑い出した。

 

「くくくっ。聖都最強も大したことはないな。ワケのわからん世迷い言を口にするものだから、その場で斬り捨ててくれたわ」

 

「っ!?」

 

 聖騎士一堂は息を呑んだ。

 

「あの程度の相手、魔王様のお手を煩わせるまでもない。ふふふ、安心しろ。すぐに貴様らもヤツと同じ場所に送ってやる」

 

 聖騎士たちは絶望に陥った。

 

 負けた?

 あのフェインが?

 

「な、なんということだ……」

 

「あのフェイン殿でも勝てない相手だと!?」

 

「しかもヤツは魔王の右腕……」

 

「その主である魔王は、どれほどの強さだというんだ!?」

 

「か、勝てるわけがないっ!」

 

 聖騎士たちが混乱するのを見て、暗黒騎士ブラックは不敵に笑い続けていた。

 

 ――計画通り、と。

 

  ◆

 

 よしよし、みんな信じ込んでいるな。

 

 しかしラッキーだった。

 この黒い剣を抜いた瞬間、気づいたらこの黒い甲冑を纏っていた。

 とつぜん姿が変わっていたのは驚いたが……これは利用できると思った。

 

 このまま素性を隠し《魔王の右腕》という嘘の肩書きを名乗っていれば、ひとまず魔王軍は健在と思わせることができる。

 ついでに聖都の裏切り者である俺は『交渉が決裂して殺された』ということにする。

 この先、自由に行動するためにもそのほうが都合がいいだろう。

 聖騎士たちや聖都そのものを震撼させることにも繋がるしな。

 魔王どころか、その右腕にすら『聖都最強』は敵わなかった。

 その情報に人類はパニックになり、隙が生まれるに違いない。

 

 そうして俺は予定どおり魔王軍として人類を負かす。

 聖女様を戦利品として頂戴。

 乳を揉む。

 昇天。

 完璧だ。

 

 

 まあ魔王城は実質もぬけの殻なわけだし、いずれはこんなハッタリもバレることだろう。

 しかし所詮、聖女様のおっぱいを揉むまで通じればいい虚偽だ。

 目的を成し遂げれば、あとはどうなろうと構わん。

 俺はとにかく乳を揉めればそれでいいんだ!

 

 ……というわけで。

 このまま俺は暗黒騎士として聖都に向かう!

 フェイン・エスプレソンは死んだ!

 ここにいるのは、おっぱいに命を賭けるただ一匹のオスよ!

 

 

 

 さて、どうやら聖都は魔王城に総攻撃を仕掛けるため全軍を集めたようだが……どう出るかな?

 未知の脅威を前におののいて撤退してくれたほうが、俺としては楽に済んでありがたいのだが……

 

「うあああああ! 兄上の仇ぃぃぃぃぃ!」

 

 どうやら、そうもいかないらしい。

 義妹のシュカが号泣しながら、こちらに向かって突っ込んできた。

 

「よくも兄上をぉぉぉぉお!」

 

 愛らしい顔立ちをした少女がするべきではない恐ろしい形相を浮かべて、双剣を抜くシュカ。

 その背中に《翼将》と呼ばれる所以(ゆえん)である光の翼を生やして、高速機動で迫ってくる。

 

 おお、シュカよ……たったひとりの妹よ……。

 裏切り者の兄のために泣いてくれるのか……。

 さっきも真っ先に俺の身を案じてくれたな。兄妹とはいえ国を裏切った者を心配してくれるとは、お前は本当に心優しい妹だ。

 いつのまにかこんなに大きくなって……特に胸が。

 

「その首っ! もらい受ける!」

 

 聖女様ほどではないが大きく実った膨らみ。

 育ち盛りの妹のその成長を、この先も見ていきたかった。

 ……だが許せ。

 

「ふんっ!」

 

「がはっ!?」

 

 相手を攪乱させる動きを見せ、的確にこちらの首を狙って刃を振り下ろそうとしたシュカだったが……その前に俺の剣のほうが先に届いた。

 一閃をモロに喰らったシュカは彼方へと吹っ飛んでいく。

 

 妹だからといって容赦はしない。

 シュカも自らの意思で騎士の道を選んだのだから、覚悟はしていたはずだ。

 

「シュカ様がやられた!?」

 

「《十二聖将》がいとも簡単に!?」

 

「なんだあの剣は!? なんとおぞましい剣だ!」

 

 聖騎士には攻撃を防ぐ不可視の障壁があるため、恐らく死んではいない。

 だが、どうやらこの黒い剣は俺のチカラを増長させているらしい。

 たった一振りの斬撃で、シュカは完全にダウンしていた。

 

「くっ……私は、負けるわけには……かふっ」

 

 あの負傷なら戦闘続行は不可能だろう。

 

「なんて、不甲斐ない……ぐすっ、ごめんなさい、兄上……兄、さん……」

 

 そのままシュカは気を失った。

 

 ……さらばだ妹よ。

 どの道、人類の裏切り者となった俺はもう兄として戻れない。

 お前をひとりにするのは心苦しいが……俺は自分の信じた道を突き進む!

 

 さて、残りの聖騎士たちは……

 

「怯むな! 相手はひとりだ! 全員でかかれば勝機はある!」

 

「そうだ! フェイン様とシュカ様の仇を取るぞ!」

 

 どうやらシュカの行動を見て闘志を燃やし始めたようだ。

 それぞれが愛剣を抜刀して向かってくる。

 

 ……いいだろう。相手になってやろう。

 この新たな剣と共に、この試練を突破してみせる!

 すべては聖女様の乳のために!

 

「来るがいい聖騎士ども! 我が剣の錆にしてくれる!」

 

「うおおおお! 負けるものか!」

 

「聖神よ、我らにチカラを!」

 

「聖女様万歳!」

 

 うおおおおおおおおおおお!! 聖女様(のおっぱい)万歳!

 

 

 魔王城がそびえ立つ大地で、激しいチカラの奔流が激突した。

 

  ◆

 

 その様子を、聖女ミルキースは見ていた。

 聖女のチカラのひとつである精神波を飛ばすことで、遠くの出来事をその場にいるかのように把握できるのだ。

 ……すなわち、暗黒騎士が語った内容も耳にした。

 

「そんな……フェインが……」

 

 ミルキースは顔面を蒼白にして膝をついた。

 

「フェインが、もう、いない……そんなの……いや……いやっ!」

 

 頭を振り回しながら泣き叫ぶミルキース。

 

 聖女ならば、この場で泣き崩れるべきではない。

 すぐ気持ちを切り替え、いまもこうしている間に激戦を繰り広げている聖騎士たちを支援すべく《強化の祈り》を行うべきだ。

 わかっている。

 わかっているが……

 

「あぁぁっ……嘘だと、嘘だと言ってフェイン……」

 

 少女としての心が耐えられない。

 思い人の死を受け入れられない。

 

「フェイン……んっ」

 

 一種の防衛本能だったのだろう。

 心を落ち着かせるべく、ミルキースの手は自然と巨大な乳房に伸びていた。

 感情を鎮めるべく、いつも以上に激しく揉みしだいたが……

 

「うぅ……ぐすっ……」

 

 快感の波は訪れなかった。

 いつか思い人がこの膨らみに触れてくれるかもしれないという、ありえない妄想。

 ……その妄想が、本当にもう二度と実現しない、ありえないものになってしまった。

 

「フェイン……あなたがいたから、私は今日まで……」

 

 聖女として人々を救いたかった。

 その気持ちは嘘ではない。

 だが自分がここまで頑張ってこれたのは、他でもない。

 

 フェインという特別な異性に、生きて欲しかったからだ。

 

 だというのに……

 

「フェインがいない世界だなんて……そんなの……」

 

 いまの彼女は明らかに冷静さを欠いていた。

 聖女としての意識を強く持っていれば、きっと()()()()()は決して思わなかっただろう。

 だが所詮、彼女も年端もいかない少女。

 カラダはどれだけ立派で、いやらしかろうと、まだ心は未熟な少女なのである。

 

 だから、一瞬でも思ってしまったのだ。

 愛する存在がいない世界。

 そんな世界に……

 

 

 

 守る価値があるのか? と。

 

 

 

 それが、鍵となった。

 

 

 

 

 ――その通りだミルキース。こんな世界に守る価値などない。

 

「……え?」

 

 自分に語りかける声に反応して、泣き崩れたミルキースは顔を上げる。

 

「このお声は……」

 

 もしやと思い、ミルキースは眼前を見上げる。

 神殿の屋根を貫くほどに伸びた、水晶のように輝く巨大な柱を。

 

 天に届くほどに伸びた光り輝く柱。

 これこそが聖都を象徴する――《聖神柱》。

 そして、聖女が聖神のお告げを聞くための神造物に他ならなかった。

 

 その聖神柱がこれまでにない光を発している。

 

 ――感謝するぞミルキース。そなたの心の変動が、我をこうして地上に降臨させたのだ。

 

「もしや……聖神様なのですか?」

 

 聖神のお告げはこれまで何度も聞いてきた。

 だがそれは脳に直接言葉が浮かぶようなものであって、こうしてはっきりと声として聞こえたのは初めてのことだ。

 

 ――忌々しい魔族どもはようやく消えてくれた。もう我々を脅かす存在はいない。

 

「え? 魔族が消えたって……どういうことですか!?」

 

 ――ミルキースよ、お前はもう何も考えなくても良い。後はこの我に身を委ねるだけで良いのだ。

 

 いったい、何の話をしているのか?

 いったい、何が起きているのか?

 ただ、ミルキースは感じ取っていた。

 

 この声に、耳を傾けてはならないと。

 

 ――なぜ拒むミルキース! そなたを幸福にできるのは、この我において他ならぬ!

 

「ひっ!?」

 

 ミルキースは気づく。

 いつのまにか、自分のカラダが聖神柱に吸い込まれていることを!

 それだけではない。

 柱に触れた先から徐々に、カラダが結晶化していくではないか!

 

「きゃ、きゃああああああっ!?」

 

 結晶特有の美しさも忘れてしまうほどの不快感と恐怖。

 痛みはない。

 それが逆に恐ろしかった。

 ゆっくりと、ミルキースのカラダが人のものからかけ離れていく。

 

 ――さあ、我が祝福を受け入れよミルキース。そなたこそ、そなたこそ我と共に生きる存在に相応しい。

 

「い、いやっ! 誰か、助けて! ……助けてフェイン!」

 

 ――そなたの心を乱すものも、我がすべて忘れさせてやろう。

 

「あっ……アッ……アァ……」

 

 消えていく。

 人の形どころか、心まで。

 いちばん大切な人の記憶まで……

 

(いや、お願い、消さないで。それだけは……助けてフェイン……フェイン……ふぇ、いん……って、ダレ、ダッケ?)

 

 自分は何をこんなにも悲しんでいるのか?

 その理由すらもわからなくなっていくと……ミルキースの肉体は完全に聖神柱の中に吸収された。

 

 より輝きを増す聖神柱。

 高圧の光は神殿ごと破壊するほどの衝撃波となり、地響きを巻き起こした。

 聖神柱の異変に聖都の住人たちが「何事か!?」と慌てふためく。

 

 その住人たちのカラダに等しく――焼き印のような刻印が浮かび上がった。

 すると……

 

「があぁっ!? な、なんだカラダが石にっ……」

 

「く、苦しい!」

 

「あ、アァッ、溶ける! カラダが溶ける!」

 

「た、たずげでグレエエエ!」

 

 人々のカラダに次々と異常が起こる。

 肉体が石になっていく者。

 肉体が膨張し破裂する者。

 肉体が焼き爛れる者。

 

 人類にとって、たったひとつの救済地である聖都。

 その聖都が、一瞬にして阿鼻叫喚の地獄と化した。

 

 

 ――偽りの信仰などいらん。信仰を道具に腹を肥やす豚どもはもっといらん。真に清き者だけが、この世に生きていれば良い。

 

 声は厳かに語る。

 

 ――さあ、始めよう。この大地を浄化し、真に美しい世界にするために。ミルキース、そなたを完璧な聖女にするために。そして……

 

 声は憎悪を込めるように、どこか嫉妬を混ぜて宣言する。

 

 

 

 ――フェイン・エスプレソン……貴様こそ、この世で最も不要な存在だ!


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