ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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旅は道連れ

 

「魚が食べたいから海へ行こうと思うんだ」

 

 夕飯を終えてお風呂に入っている最中、ご主人さまが唐突に宣言しました。ココらへんは周囲に湖も海もないので、あまり新鮮な魚介類が入ってこないのですよね。日本人からすると海の物が食べられないのはちょっと寂しくあります。

 

「お魚ですか?」

 

 泡塗れの身体をご主人さまに押し付けながら、料理担当であるユリアが反応を示しました。ルルは湯船に浸かりながらあまり興味が無さそうな顔をしてます。彼女達は山育ちですから魚にあまり馴染みがないのでしょう。

 

「たまには思いっきり海のダシが効いた食い物が食べたい……」

 

 ご主人さまはちょっとうなだれてます、こっちの料理も別に不味くはないのですが、ダシって概念が弱いのですよね。食べ物の味を組み合せることはあっても、その中にある旨味というものを認知していないのです。

 

 だからでしょうか、和食に馴染んだ舌だと何か一味足りなく感じてしまうのです。醤油だとか味噌汁だとか贅沢は言いませんので、ボクもダシの効いたスープが飲みたいです。

 

「うぅ、ボクまで食べたくなってきました」

 

 ボクが泡だらけの身体をご主人さまのやや筋肉質な胸板に押し付けると、さっきまでふとももを撫でていた手が背中に回されてきつく抱きしめられます。相変わらず変態なのです。

 

「ちょっと長旅になるだろうからなぁ、留守番はさせたくないんだがどうする?」

 

 ちょっと悩みますね、ここ半月ほどずっとお風呂のある生活です。旅に出ると暫くは入れないでしょうし、かといって置き去りにされるのは不安です。しかし海の幸の独り占めは許されません。

 

「ボクは行きます、美味しい物独り占めはずるいのですよ」

「私もご一緒します、旦那様と離れるなんて耐えられません!」

「私も当然っ!」

 

 みんな置いてけぼりは嫌なのですね、諸手を上げて追従する彼女たち。こうして全員の参加が決まりました。

 

「じゃあ全員参加で決定だな。観光地でもあるみたいだし、暫くは仕事を休んで海で休暇と洒落込もうか」

「おぉ~!」

 

 うぅん、旅行はやっぱりテンションが上りますね。依頼と違ってお仕事ではないみたいですし久しぶりのお外なのです。遊び倒してやりましょう!

 

「ふふふ、私、観光旅行が出来るなんて夢にも思いませんでした」

 

 基本的に遊び目的の遠出は上流階級の人間のする楽しみです。こっちでは旅をするのも一苦労みたいですから。旅行のまね事ができるからと言う理由で冒険者になる人もいるくらいには、憧れが強いようです。

 

「シュウヤ様のとこの子になってよかったにゃぁー」

 

 ルルも例にもれなかったみたいで、尻尾がぱちゃぱちゃと湯船の中で暴れています。楽しい旅行になるといいですねぇ。

 

「皆が乗り気で良かったよ」

 

 ご主人さまも家族サービスを意識してたのか、喜んでる様子を見て嬉しそうですね。こうしてみるとほんとに優良物件なのですよ。……えろくて変態な所を除けばですがね。

 

 お尻に移動しようとする大きな手を石鹸で滑る手で必死に止めながら、僕は内心でため息を吐くのでした。

 

 

 目的地は潮風の町"ポート・デーナ"、そこはペテシェの南に馬車で一週間ほどの距離にあります。旅行というのはひとりでサクサク移動するのは稀でして、普通は隊商(キャラバン)に便乗する形をとります。

 

 お金を払ったり護衛という形で同乗させてもらうのですよ。今回ボクたちは乗車賃と護衛代の一部を払う形で乗せてもらうことになりました。お客様待遇なのです。

 

 奴隷とはいえ女の子三人ですからね、ご主人さまも色々を気を使ってくれたようです。……何でボクは今"女の子"カテゴリーに自分を含めたんでしょうね。まぁ置いておきましょう。

 

 出発当日、町の南にある合流地点でボク達は他の同行者の方々と顔合わせを行なっていました。

 

 ご主人さまは黒地に蒼のラインが入った服に外が黒、裏地が赤のマントをまとっています。旅の剣士様って感じでカッコよくみえますね、ムカツキます。最近ではランクも上級にアップしまして、最上級も視野に入ってるという噂も流れているようです。巷では"黒耀の魔剣士様"とか呼ばれて町娘達に人気みたいです。中身はド変態なのに。

 

 その変態性もうちのメス二匹に言わせると「アッチが強いのも雄の魅力」「雄として優秀な証拠です」らしいです。動物に意見を求めたのが間違いだったのでしょう。ケッ。

 

 ボクは夜空色のワンピースに真っ白いマントを羽織り、魔法の媒体となる腕輪を付けてます。普通の装備に見えて刻夢鳥と呼ばれるかなり上位の魔物の羽から作られたものらしく、結構なお値段がしたみたいです。

 

 ルルは上半身と下半身で分かれている露出度の高い、いわゆるビキニアーマーに腕甲脚甲を付けたような格好。際どいですし動けば揺れるのですが、さほど気にしていないようです。

 

 ユリアはメイド服に似たエプロンドレスに手甲と胸当てを付けて、紫水晶を刃にした戦斧を背負っています。露出は少ないのですが、整った容姿と否が応なしに中身のサイズを想像させられる起伏を持つ胸当てのおかげで清楚さとエロさを併せ持っています。

 

 隊商の男衆が鼻の下を伸ばした情けない顔を披露してるのですよ、ほんと、男は馬鹿な生き物なのです。その点ボクには一切視線が来ないので安心ですね。見た目は良いみたいなのですが、ハーフゴブリンって紹介されると一気に人が近寄らなくなりました。

 

 こんな反応されるハーフゴブリンって……。ボクとしては複雑ですが親しくない相手にはそっちで通した方が良いとご主人さまは思っているみたいです。

 

 今回の旅路には他の冒険者の方が同乗するようです。人のよさそうな青年にお淑やかそうな僧服の女性のペア。ルルをぼんやりと眺めていたかと思えば、急にご主人さまを強く睨みつけるようになった茶髪の少年、少年と懇意に話していた慣れた様子の男性冒険者チーム。

 

 人数の多さ的に何とも波乱の予感を覚えますが、無事な旅になる事を祈りましょうか。

 

 

 予感は所詮予感ということか、思いのほか旅は順調でした。警戒は男性陣に任せる代わりにユリアを始めとした女性陣で料理を作る感じで役割分担です。ボクも手伝おうとしたのですが半ゴブリンに手伝わせるのは云々と思いきり嫌な顔されたので大人しくしております。

 

 こういう時にありがちな野盗とかモンスターの襲撃なんかも特に無く、旅の途中ってことでご主人さまもおとなしくしているし実に平和な旅路です。本日も無事に旅の行程は進み、割り当てられたテント内でボクとユリアはその、放っておくと胸部に溜まってしまう物の処理をしていました。

 

「あ゛ーあいつほんっとうっぜぇニャ……」

 

 テントの中に入って来たルルが珍しく悪態をつきながら、勢いよくクッションに腰を降ろします。ご主人さま謹製のテントは我が家ほどではないですが、それなりに設備が充実してます。野営の最中でも身体を拭いたり休めたり出来るように、様々な魔道具とかふかふかのクッションとか布団が備え付けられているのです。

 

 ワンタッチで開閉できる、ゲームのコテージとかテントシステムをヒントに作ったようです。完全にオーバーテクノロジーなのです。表に出す気はないので今のところボク達専用、役得ですね。

 

「何かあったの?」

 

 白い液体で一杯になった瓶をクーラーボックスにしまいながら、服を直したユリアが尋ねると、ルルは機嫌悪そうに「う゛に゛ゃー!」と頭を掻き毟りました。

 

「もう、ほんとアイツなんにゃの! ねちゃっとした目で人の胸をジロジロ見てくるし、シュウヤさまのこと馬鹿にするし人の話聞かないし!!」

「そんな格好してるのが悪いんじゃないのですか……」

 

 彼女の胸は中々にご立派です、今はビキニ状の革鎧だけで歩く度に揺れてるのです。男だったら目が向いてしまうのは当然だと思うのですが。それでニャ口調、彼女いわく田舎訛りが出るほど荒れるのはちょっと理不尽な気もします。

 

「んー……何ていうんですかぁ、見られるのはいいんですよ、スタイルは結構自慢ですから! でもアレの目線はなんというか……もう自分のモノ!みたいな感じなんスよ」

 

 よくわからないのですが、いやらしさのベクトルが違う感じなのですかね。単純にえろいとかいいなーとか、うへへーとか言うんじゃなくて、勝手に自分の所有物にした物を見るような?

 

 それにしてもよっぽどイヤだったのか、変な後輩口調になってます。

 

「あぁ……茶髪のあの人ですよね? 私にも色々言ってきたんですよ、私は旦那様の物なのでって言ったのですが、『あんな奴のところにいたらダメだ』とか言い出して……ほんと失礼ですよね」

 

 茶髪といえば……あぁ、ルルをぽ―っと見ていたあの少年でしょうか。人様の奴隷に何言ってるんでしょうね。この国では免許を持っている商人以外が奴隷を売買することを禁止しています。

 

 なのでご主人さまがボク達を奴隷商に売り戻さない限り、彼の手元に行くことはないのです。

 

 因みに奴隷の首輪の情報書き換え自体は、魔術師の実力が高ければ容易です。ですが奴隷は登録された時点で国の認める正式な身分として登録されます。だから例えボクが首輪を外そうが主人情報を書き換えようが、国では"自由民であるシュウヤ・キサラギの奴隷ソラ"としての扱いになるのです。

 

 ボクが首輪を外してひとりでうろついてたら脱走奴隷として捕まり、次は犯罪奴隷として扱われて、他人が申請無しに主人情報が書き換えていたら奴隷取引法違反という結構重めの罪に問われちゃうのです。

 

 そんな雁字搦めな奴隷なのですが、悪くない部分もあります。身分としては最底辺ですが扱いは主人に依るし、強い保護機構も働いています。主の許可なく奴隷に乱暴を働こうとすると窃盗罪、器物損壊みたいな罪で処罰されますしね。優しいご主人さまに飼われればペットとしては幸せになれるのですよ。

 

 あくまでもペットとしては、ですが。

 

 なお現代日本とは違って窃盗とかの罪は重いです。軽かったり反省が見られる場合は犯罪奴隷に堕ちるだけですが、悪質と判断された場合は指とか手首から先とかをズバーの上で犯罪奴隷です。恐ろしいですね。

 

 しかも奴隷持ちってのはそれなりの権力者だったり実力者だったりするので、基本的に手を出したらえらいことになってしまいます。反撃は合法なのです。

 

 俺たち盗賊悪いやつーと堂々と胸を張れるようなアウトローでも無い限りは、可愛い奴隷がいても眺めるだけなのが暗黙の了解なのです。

 

「何ですかそれ……」

 

 つまりその茶髪くんの行動はあんまりにもあんまりなのですね。空気読めてなさすぎというか何というか。

 

「もー、怖がらなくていいんだとか言って、いきなり頭撫でて耳とか尻尾を触ろうとしてくるしさ、寒気で尻尾の毛がぶわーってなったよ! ぶわーって!」

 

 耳と尻尾は獣人にとって相当にデリケートな部位です。恋人以外の異性が触ろうとしたらガチギレして武器を振り回されても、大泣きして逃げられても文句言えないのですよ。というか普通に考えて見てください、初対面で女性の耳とかお尻を触ろうとする男って。

 

「うえ、そんな事してたんですか?」

 

 ユリアもドン引きしてるのです。

 

 ハッキリ言ってしまえば間違いなく痴漢野郎なのですよ。出来ればご主人さまに頼んでガードしてもらわないといけないのですけど、何だかアイツの行動のパターンに既視感があるのですよね。

 

「ソラちゃんも気をつけないとダメだよ?」

「ボクのところには今のところ来てないので、大丈夫だと思いたいです」

 

 取り敢えずご主人さまに報告なのですよ……痴漢対策を練らないといけません。

 




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
BATTLE TOTAL 3
◆【ソラ Lv.42】+2
◆【ルル Lv.15】+1
◆【ユリア Lv.12】+1
◇―
================
ソラLv.44[449]→Lv.45[451] <<LevelUp!!
ルルLv.17[172]→[173]
ユリアLv.15[153]→[154]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>30
[MAX HIT]>>30
【PARTY】
[シュウヤ][Lv55]HP772/772 MP1380/1380[正常]
[ソラ][Lv42]HP50/50 MP420/420[正常]
[ルル][Lv15]HP602/602 MP32/32[正常]
[ユリア][Lv12]HP1040/1040 MP60/60[正常]
================
【Comment】
「痴漢!」
「死すべし!」
「慈悲はないのです」

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