ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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事件の予感

 

 困ったことになりました。ボクが溺れ掛けてからというもの、ご主人さまが離してくれないのです。よほどショックだったみたいで、今も膝の上でガッチリと抱きしめられています。

 

 うざったいけど助けてもらったし、申し訳ない気持ちもあるので無理矢理振りほどく訳にもいきません。

 

 砂浜に敷いたシートの上、木陰でぼんやりしているだけで変なことはされないですし、別にいいといえばいいんですが……微妙に気持ち悪いのです。

 

「お嬢様、飲み物は?」

 

 ご主人さま謹製のクーラーボックスから、瓶詰めにした果実の搾り汁を取り出しながらユリアが大きな胸をたゆんと揺らします。果汁に水や蜂蜜を加えて味を調整したものをポーション用の瓶に詰めた自家製のドリンクですね。

 

 こういうのは普段からストック用に奴隷三人でせっせと作っているのです。

 

「レモンをください」

「はい」

 

 最近のお気に入りの、炭酸を加えたハチミツ入りのレモン水。それをちびちびと傾けながら賑わう砂浜をぼんやりと眺めます。

 

 海水浴場だけあって人の数も多く、人間族の女の子たちが色とりどりの水着を着てきゃーきゃーと歓声をあげて波打ち際で戯れていますね。

 

 ちょっと町から離れると魔物や野盗と人が殺しあい、都市では小さな子供や女性がさらわれて奴隷として売り買いされている世界……とは思えない平和さなのです。ここだけ抜き出すと日本の一風景と勘違いしてしそうなレベルでした。

 

 なおこの砂浜にいる全員がいわゆる富裕層にあたります、これが格差社会ってやつなのでしょう。

 

 世の中理不尽なのですよ……。

 

 

 そんな理不尽に目を塞ぎ、穏やかな一時を過ごしていると、岩陰の方に奇妙な動きをする人影を見つけました。ご主人さまの腕をたたいてそちらを指差します。

 

「ねぇ、あれって……」

「ん? ……何だあれ」

 

 岩陰に視線を向けたご主人さまの顔が一気に険しくなりました、人影は複数人で何かを押さえつけるような仕草をしていたので気になったのです。何か動物を捕まえているようにも見えますが、どうにも後姿が典型的なごろつきというか何というか。

 

 首を突っ込むのはよろしくないことなのですが、見て見ぬ振りをするのも寝覚めが悪そうなのです。偽善ですけど性分なのかもしれません。ユリアの一件以来ちょっとタガが緩んでいるのかもです。

 

「ご主人さま」

 

 振り返ってご主人さまを見上げます、視線に気づいたご主人さまは何も言わず憮然とした表情を浮かべました。しばらくすがるような視線を向け続けると、やがてあきらめたのかぽんぽんとボクの頭をなでます。

 

「さすがご主人さまなのです!」

 

 ため息を吐きながら立ち上がるご主人さまに賞賛の声をかけると、軽く睨まれました。む、むぅ……ちょっと調子にノリすぎましたか?

 

「様子だけ見てくる。ユリア、ソラを頼む、ルルは一緒に来い」

「了解しました……はぁ、せんぱいはお人よしなんだから」

 

 ぼやきながらもしっかりと短剣用のベルトを腰に巻きつけたルルと、ご主人さまが一緒に岩陰の方に向かいます。それでもちゃんと動いてくれるところは好きですよご主人さま。

 

 ワガママを言った以上、もう余計なことはしません。

 

 後はおとなしくご主人さまが戻ってくるのを待つとしましょう。ボクは足手まといでしかありませんからね。岩陰にふたりが消えていくのを見届けてから、ユリアと一緒にいつでも動けるようにしながら待機するのです。

 

 

 ……それから暫く経って、まだご主人さまは戻ってきません。普段ならそんなに経たず戻ってくるだろうに不思議なのです。

 

 時計がないので正確には分かりませんが、体感では一時間くらいは経っているように思えます。ご主人さまに限ってまさかとは思いますが何かあったのでしょうか……ちょっと不安になってきました。

 

「あれ、シュウヤは?」

 

 見に行こうかどうしようか。相談しているボクたちの下へ葛西さんがやってきたのは、ちょうどボク達が探しに行くことを決心したタイミングでした。

 

「実はあっちの岩陰に不審な人影を見つけて、ご主人さまに見に行ってもらったんですが……」

「半刻近く戻ってないんです、ちょっと心配で探しにいこうと思っていたんですよ」

 

 事情を説明するボク達に葛西さんは少し困ったような顔をして、分かったと頷きました。

 

「そういう事なら俺も一緒に行くよ、心配だ」

 

 彼はご主人さまみたいに何でもそつなくこなせるタイプではないみたいですが、やはり主人公体質というべきかかなりの強者みたいです。

 

 じゃないとこの世界で一人放り出されてここまで生きてこれるはずがありませんものね、少しでいいから分けてほしいです。

 

 とにかく、強力な味方は有り難いのです。

 

「お願いするのです」

「お願いします……」

 

 幸いというべきか、ボクも飛んだりはねたりはともかく普通に歩くくらいなら平気そうです。熱せられた砂浜を踏みつけ、葛西さんを先頭にユリアに手を引かれ岩陰へ向かいます。

 

 手でボク達を制すと、葛西さんは腰の剣に手をかけて岩陰の向こうを覗き込みました。

 

 しかしすぐに拍子抜けした様子で、こちらに向かって手招きをしてきます。ユリアと顔を見合わせて首をかしげ、できるだけ静かに動き葛西さんの背中越しに岩陰を見ます。

 

 そこには何もありませんでした。海へと続く無人の岩場が広がっているだけです。

 

 三人がかりでしばらく近くを探した結果、誰かが居た痕跡こそ見付かったものの、それだけでした。ご主人さまに限ってボク達を置き去りにして、勝手にどこか行くというのは無いと思うので、何かあったと考えるのが妥当でしょう。

 

 魔法使いならいろいろ調べる魔法もあるのですが、あいにくとこの中で魔法系はボクだけなんですよね。それも鍵開けとか細々したの特化。

 

 我が家ではご主人さまだけが複雑な魔法を使いこなせます。それはもう、ついこのあいだ上級に昇格した際、晴れてギルド本部から魔導剣聖というありがたい称号を頂くくらいには達人なのです。

 

 その称号は我が家では禁句ですけどね。その日に散々からかったらマジギレしたご主人さまによってひどい目にあわされました、実に大人気ないのですアイツ。

 

「お嬢様……旦那様は大丈夫なんでしょうか」

「大丈夫なのですよ、ご主人さまに何かあったら首輪になんらかの変化が起きるのです。ボクの首輪もユリアの首輪も何もありません、ご主人さまは無事なのですよ」

 

 話を戻しましょう。不安そうな声を出すユリアを慰めます。ボクは彼女の目を見て自分の首に巻きつけられたチョーカーを指先で突きました。これは迷子防止用とか防犯とかいろいろ機能がつけられていますが、同時に奴隷の身分を示す首輪でもあるので主人以外にははずせないもの。

 

 そしてご主人さまは前々から首輪に仕込をしていました。ご主人さまに万が一の事があった際に、ボクたちが路頭に迷うことがないようにです。

 

 例えば急事の時はそれを知らせる為に、色が黒から白に変化するとか色々な細工がされています。初めて聞かされたときは死を想定してることに動揺して、思わず泣いてすがってしまったのは思い出したくない黒歴史です。

 

 話を戻して、ユリアの首に巻かれているチョーカーは何の異常も示していないのでとりあえずご主人さまは無事なはずなのです。それよりも……。

 

「ルルもご主人さまと一緒でしょうし、問題はボク達なのです」

 

 見事に戦闘力高いふたりと分断されてしまったのですよ、しかも残ったのは揃って高級種族。

 

 ボクのドワーフというレッテルもどこまで通用するかわかったものじゃありませんし、ユリアだけでも狙う価値がある存在です。葛西さんも本当の意味で頼りになるかまだちょっと分かりません、どうすればいいのか……。

 

「そうですね……取りあえず荷物をまとめて動けるようにしておきましょう。カサイさん、手伝ってくださいませんか?」

「あぁ、任せとけ」

 

 ユリアの少し上目遣いのお願いに葛西さんが即答で答えます。さすがご主人さまと仲がよいだけあって視線がとても正直でした。まぁ扱いやすくていいんですけどね。

 

 

「あら、キサラギ君のとこのサキュバスじゃない。こんなところで会うなんて奇遇ね」

 

 荷物を片付けて、取りあえず一度宿に戻ろうとした矢先のこと。またしても思いがけない出会いがありました。

 

 ぎしぎしと首が音を立てそうなほどゆっくり振り返ると、紅い髪を潮風になびかせて貧相な胸部をワインレッドのビキニに包んだ女性の姿が眼に入ります。

 

 間違いでなければ、大魔導師(ストーカー)のクラリスさんでした。できれば間違いであってほしいのですが。

 

 最近は被害者(かれし)といちゃつくのに夢中で、街中とかで見かけてもお邪魔してはいけないとスルーしてたのですけどね。まさかリゾート地で会うとは思いませんでした。その格好からしてあちらもバカンス中なのでしょう。

 

「そちらは? ……キサラギ君はどうしたのかしら?」

 

 今カレに微妙に気を使っているのか、ファーストネームじゃなくてファミリーネームで呼ぶようにしているようです。話していると時おり冷やっとする部分はありますが、彼女は基本として悪人ではありません。

 

 それに破壊型とはいえ魔法の専門家でもありますし……もしかしたら何かわかるかも。

 

「こちらのはご主人さまのご友人で葛西さんです、実はですね……」

 

 事情を説明するに連れて次第に真剣な顔になったクラリスさんは立ち上がると薄い胸を張りました。

 

「そういう事なら私に任せて、コリンズもきっと協力してくれるわ、優しい人だもの」

 

 どうやら被害者(かれし)も来ているようです、結ばれてから多少落ち着いているのですがまだこの手の話になるとひやっとする要素は十分ですね。気をつけないといけません。

 

 何はともあれ心強い味方が得られたのは嬉しいです。被害者(コリンズ)さんは間違いなく善人でしょうし、クラリスさんも彼氏の前で地雷さえ踏まなければ善人カテゴリの中で大人しくしてくれるはずです。

 

「まずはコリンズを拾って、それから現場にいきましょうか」

「はい!」

「お願いします」

 

 さて……ご主人さまを見つけにいきましょうか。

 




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.50】
◆【ユリア Lv.15】
◇―
================
ソラLv.47[509]
ユリアLv.15[157]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>33
[MAX BATTLE]>>33
【PARTY】
[ソラ][Lv50]HP30/50 MP220/420[軽疲労]
[ユリア][Lv15]HP1040/1040 MP60/60[正常]
[クラリス][Lv40]HP230/230 MP732/732[正常]
[コリンズ][Lv42]HP640/640 MP40/40[正常]
[マコト][Lv20]HP450/450 MP102/102[正常]
================
【Comment】
「ご主人さまを見つけるのですよー」
「……お嬢様、あまり気に病まれてはいけませんよ?」
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