ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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時には忘れたいこともある

 

「……やらかしたのです」

 

 新しく完成したぷち我が家、その一階にあるフェレ用に充てがわれたプールエリア。

 

 外の湖から浄化して温水にした水を引き込み、部屋の半分をプールのようにしたちょっとおしゃれな空間。ご主人さまが妙なこだわりを見せて、海の入り江まで再現してしまったその部屋の中。

 

 ボクは浅瀬の部分で"裸"のままで頭を抱えていました。

 

 隣では肉食魚が捕食を終えて満腹になったような顔で眠っています。妙につやつやしてるのはきっと気のせいじゃありません。

 

 何があったのかというと……お酒は怖いとだけ言っておきましょう。

 

 

 建築作業を始めて半月ほどで二階建ての家と、隣に建てられた2LDKほどの間取りの小さな家が完成しました。

 

 因みに小さい方の離れは葛西さんの家になってます、これは別にハブッてるわけじゃなく、これからはまぁ……家の中で危険な事も起きるでしょう。彼にはちょっと毒がすぎるということで、本人同意のもとで彼専用のお家を作ることにしたのです。

 

 この話をした時にホッとしていたあたり、彼からしても辛い環境だったのでしょう。ここ最近は体力に余裕が出来てきたおかげか夜中にもぞもぞしたり、気配を殺してトイレに行く回数がちょっとだけ増えてましたしね……かわいそうなことをしました。

 

 何はともあれ新居が無事完成したということで、その日の夜は家の落成祝いで秘蔵のお酒を取り出して、飲めや歌えやの大騒ぎになったのです。

 

 喧騒に浮かれたボクは、ジュースと勘違いして口にしてしまったのです。禁断の飲み物を……。

 

 そこからは妙なテンションになってフェレと一緒に歌いながら、宴は大盛り上がり。その時点で完全にぶっ壊れていたボクはご主人さまやユリア、ルルにちゅーして周り、最後にフェレにもぶちゅっとやらかして、ボクの酒が飲めねーのかーをやらかしました。

 

 この時点で立派なアルハラです、現代なら訴えられても文句は言えません。

 

 二人して見事な酔っぱらいと化したボク達は散々歌ったせいで眠くなってきていたので、ご主人さまたちに断り、へろへろになっていたフェレを出来たばかりの彼女の部屋へと送りました。

 

 そして大きな温水プールを見たボクは一体何を思ったのか、フェレを専用ベッドに寝かせると服を脱ぎ捨ててプールへダイブ、泳ぎ始めました。自分でも酔っ払った時の自分の行動が理解できません。

 

 途中で多少酔いが醒めたフェレもプールへインして一緒に泳ぎ始めて、その間に揃って変なテンションが加速して。どちらともなく手を取り合って、そしてとうとう――オールナイトカラオケに雪崩込んだのです。

 

 全裸で。

 

 酔っ払いのテンションって怖いです。今思い返しても何故そうなったのか理解できません。一周回って取り返しのつかないことになった気分です。

 

 以上で回想はおしまい……現実逃避はそろそろやめて脱出しましょうか。

 

「ん……」

 

 寝返りを打ったフェレを起こさないように音を立てず、抜き足差し足で浅瀬を抜けると、備え付けのタオルで手早く身体を拭いて服を着ます。

 

 歌いすぎて喉がひりひりします。寒いし疲れたしさっさと自分の部屋に戻って二度寝しましょう。

 

 念のため周囲の気配を伺いながらそそくさと部屋を出ます。幸い廊下には誰も居ないみたいですね、今のうちに二階にあるボクの部屋へ。

 

「ソラ」

 

 そう思って一歩踏み出した時、廊下の奥の方から声がかかりました。とても聞き慣れた声です、可能ならいま一番聞きたくなかった声でもあります。これが機械なら錆び付いた擦過音をさせてもおかしくない緩慢な動作で背後を見ると、いつもより三倍くらいは優しそうな笑顔を貼り付けたご主人さまが立っていました。

 

 見た瞬間、脳内で警報がけたたましく鳴っているかのような錯覚を覚えます。確かに凄く優しそうですけど、奥にあるものはもっとドス黒いのが解ります、解ってしまいました。

 

「ひっ……」

 

 返答は言葉にならず、くぐもった悲鳴のように漏れました。ご主人さまはゆっくりとした足取りで近付いて来ます。それはさながらホラー映画の怪人が迫ってくるような緊張感を伴って、ボクの恐怖を激しく煽ります。

 

 だけど逃げることは出来ません、脚がすくんで動きません、涙で視界がにじみます。というかボク悪いことしてないのです。喉が乾いてうまく喋れません。

 

 背中が壁に触れました。ボクを見下ろすご主人さまが優しく髪の毛を撫でながら、壁にそっと手をついて見下ろしてきます。逃げ場なんてないぞってことですねわかります。

 

「朝までフェレの部屋で何してたんだ?」

 

 いきなりドストレートでした。全裸カラオケですって言って信じて貰えるでしょうか。

 

 信じてもらえたらそれはそれでとってもいやなのですが。でも言わなきゃ収まらないですよね

 

「あ、の……ぜん、らけほっ、か」

「ほう?」

 

 ご主人さまの表情は変わりません、プレッシャーが増しました。最後まで聞いてください途中です。歌いすぎて喉が枯れたんです聞いてください、歌じゃなくて話を!

 

「全裸で声が枯れるまで何やってたんだ?」

「それ、けほっ、ちが、はな……けふっ」

 

 みるみるうちに温度が下がっていきます。ボクは悪くないのです、全部お酒ってやつのせいなのです。あああ早く弁解しないと、へんたいがたいへんなことに!

 

「うた、けふっこほっ、だけ……お、おーる、でからおけ、して、のど、かれ」

「…………」

 

 枯れた喉に気合を入れてきちんと現状を伝えると、ご主人さまは目に見えて微妙そうな表情に変わりました。

 

「……全裸でカラオケしてた?」

「ッ!」

 

 何度も頷くと、しばらく考え込んだ後ゆっくり額に手を当てます。

 

 同時にプレッシャーが消えました、な、なんとか生き残れましたか……?

 

「………サイレンの求愛行動って知ってるか?」

「?」

 

 そういえば知りません。水棲妖怪としか認識してませんでした。そういえば一緒に歌うことに妙に拘ってましたねフェレのやつ。

 

「歌だよ」

「?」

 

 首を傾げたボクに、ご主人さまは静かに息を吐きます。

 

「サイレンという種族は歌で互いの愛を確かめ合うんだそうだ」

 

 なるほど、それでフェレはデュエットに拘ってたのですね。さすが異種マニアの変態、他の種族についても博識です。というかこれはアレですね、3周くらい回ってのアレですね。

 

「で、全裸で夜通し一緒に歌ってたって?」

「…………てへ?」

 

 可愛く小首を傾げてみると、ご主人さまは優しく微笑みました。 

 

「ひゅぴぃ!?」

 

 誤魔化せたかなと思った瞬間、ほとんど不意打ちに近い形でご主人さまがボクの耳を噛みました。悶えるボクを抱きしめると耳に息を吹きかけてきます。

 

「説明してなかった俺も悪いがな、いくらなんでもそこまではっちゃけるとは思ってなかったからさ」

「ひっ、んっ……ち、ちが……ぁ」

 

 知らなかったのです。他意はないのです。ただちょっとテンション上がって熱唱しちゃっただけなのです。なのにプレッシャーが増してるのです、今までの数倍というかご主人さまあの、殺気に近いものを感じるんですけど。

 

 説明してくれなきゃわかんないのです、理不尽なのです。

 

「お仕置きだな」

「ぴっ!? や、やぁ……」

「ソラは俺のものだってこと、ちゃんと教え込まないとな」

 

 身体がガタガタ震えてきます。なんですか発情期ですか! ここ1週間以上ご無沙汰だったからって……。あれもしかしてそれが原因ですか? 

 

 わかったわかりましたから、別に寒くないのに凍えてしまいそうなのです。その殺気を引っ込めてください! というか機嫌悪いご主人さまの不興を買うのは本気で怖いのです。

 

 オーバーチャージ状態のご主人さまのお仕置きとか、怖すぎて想像したくもありません。ご主人さまは基本的にはやさしいですけど、容赦しない時は本気で冷酷というか、血も涙もないのです。殺ると言ったら殺る、犯ると言ったら犯る。

 

 否定せず大人しく震えているボクの様子に満足したのか、最後に頬にキスをして身体を離しました。否定したいけどしゃべれないのですよ。

 

 ですがプレッシャーは消えていて、動くようになった体中からどっと汗が溢れます。

 

「それじゃあ、夜にな」

「ぴ、ぃぃ……」

 

 あかんです、あかんですよ。気軽な気持ちの飲酒がこんな恐ろしい結末を招くなんて。

 

 立ち去るご主人さまの背中が見えなくなるまでその場で見送り、壁に背を預けてずるずると座り込んで、深く深く息を吐きます。

 

 うぅ、過ちの代償は酷く高くついたのです。目尻に浮かんだ涙を拭い、よろめきながら立ち上がると壁に手をつきながら出来たばかりのお風呂場へ向かいます。取り敢えず今は、このぐっしょり濡れた下着を履き替えなければ。

 

 それから……それから、何とか夜までにご主人さまのご機嫌を戻すのです。生き残るためにも、ボクはやらなければいけません。

 

 




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
MAX Combo 34 <<New Record!!
BATTLE TOTAL 34 <<New Record!!
――時間経過分の経験値を加算
◆【ソラ Lv.75】+34 +10
◆【ルル Lv.30】+12
◆【ユリア Lv.28】+12
◇―
================
ソラLv.75[753]→Lv.78[787] <<LevelUp!!
ルルLv.30[300]→Lv31[312] <<LevelUp!!
ユリアLv28[282]→Lv29[294] <<LevelUp!!
【RECORD】
[MAX COMBO]>>34 <<New Record!!
[MAX BATTLE]>>34 <<New Record!!
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv77]HP1432/1432 MP2530/2530[正常]
[ソラ][Lv78]HP3/60 MP733/733[重疲労]
[ルル][Lv30]HP735/735 MP36/36[正常]
[ユリア][Lv28]HP1540/1540 MP88/88[正常]
【PARTY-2(Sub)】
[フェレ][Lv25]HP252/252 MP830/830[正常]
【PARTY-3(Sub)】
[マコト][Lv40]HP1450/1450 MP128/128[正常]
================
【Comment】
「お嬢さま、ご機嫌取りうまくいったんでしょうか?」
「あー、うん。さっき見てきたけどダメだったみたい」

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