金色の髪、女性ウケしそうな甘いマスク。優しげなほほ笑み、穏やかな口調。
今ご主人さまが自宅のリビングで相対しているのは、疲れ果てた表情の中にも隠しきれない気品と優雅さを醸し出す人間族の青年でした。
いやいや、これ絶対難民じゃないですよね、完全にやんごとなき身分の人間じゃないですか。
王子様オーラが尋常じゃないのですよ、これでただの平民とか言われたら全ての非モテ男子が竹槍片手に一揆を起こします、宇宙船すら投擲で撃ち落とすでしょう。
「本当に助かりました……ありがとうございます」
「ありがとうございました」
そんな王子様と言われても納得できるような彼の隣に座っているのは、淡い栗色の毛並みを持つ兎耳の女性。美人寄りですが可愛らしさを失っていない、たおやかな印象を与える人です。
どうやら彼の恋人らしいですね。手足に巻いた包帯が少し痛々しいですが顔色は良いです。
「いや、俺達も追われる辛さはよく解ってる、頭を上げて欲しい」
ご主人さまの声にふたりが揃って頭をあげると、女性の方の胸部装甲がぽよんと跳ねました。
そうです、彼女もまた恵まれたものを持つ者側のようでした。美男美女のカップル、お似合いですね、帰り際に扉の角に小指ぶつければいいのに。
「私も、皆が平穏に暮らすために出来うる限りは協力します。……とはいえできることは多くありませんが、どうぞなんでも仰って下さい」
青年の真摯な言葉に頷いたご主人さまは、冬の超え方と春先からの行動について話をはじめました。
彼はどうやら避難民のリーダー格だったようで、人間族ながら結構信頼を得ているのだとか。ご主人さまの見立てではそこそこ強いようですが、果たしてどれほど使えるものか。
「お嬢様、なんで偉そうなんですか……」
おっと、声に出ていたようです。ユリアに軽くたしなめられてしまいました。だって悔しいのですよ。
「イケメンで人望厚くて巨乳で兎耳の彼女持ちなんですよ、憎らしくないはずがありません。ボクなんてゴブリン扱いやらペット扱いやらで非モテ街道一直線ですよ、不公ふぇいれ!?」
いきなり真顔のユリアにほっぺたを摘まれて両側に引っ張られましたっていうか痛い!
「いひゃい、ひひゃひれひゅ、はにふるんれひゅは!?」
「私はお嬢様に好意を持ってます、好きだと公言してもいいです。ですが時折、無性に憎らしく思うことがあります……」
「なんれほひゅは……いひゃぁ!? ごえんなひゃい! ごえんなひゃいぃ!?」
痛い痛いいたいたたたた!?
◇
ユリアの突然の凶行でほっぺたに甚大なダメージを負ったボクは、ご主人さまにうるさいと怒られて退場することになりました。
ボクのせいじゃないというのに本当に理不尽なのです。寝室で枕に八つ当たりしていると、ご主人さまが戻ってきました。
「話は終わったのですかー?」
「……あぁ、とりあえずは冬の間は身体を癒すことに専念してもらって、冬が開けたら適性に合わせて勉強してもらうつもりだ」
ベッドに腰掛けたご主人さまは一瞬だけ思考するように中空を見上げると、決まったことを話してくれましたが何かおかしいのです。隠してるとか言葉を選んでるとかじゃなく、腑に落ちないことがあると顔に書いてあるようでした。
ベッドの上をにじり寄って近づきます。
「……ボクに関わりがあることなら知っておきたいのです」
「面白い話じゃないぞ?」
「覚悟のうえです」
いつになく真剣な表情で話してくれたご主人さまによると、どうやら王国側は何かを探すような動きをしていたらしいということ。
ただし、エルフ1匹のために大規模に軍を動かすとはそうそう考えられないし、青年もその話になると上手く隠していたけど僅かに挙動がおかしくなっていたと。
ボク狙いかと思っていたのですが、どうやら事はそう単純な話ではないみたいです。
それにしてもあの青年の正体は一体何なんでしょうか、寄り添っている姿は仲睦まじい恋人といった様子ではありましたが、見た目からして高貴な生まれっぽいですし。
実はどこかの大貴族の子息で獣人に恋して駆け落ちしちゃったーとか? いえ、それにしたって国が軍を動かすのはちょっと大げさすぎるのです。うーん、気になるのです。
「ま、悪人じゃなさそうだし暫くは様子見だよ。どちらにせよ冬の間はあちらもこちらも自由に動けないしな」
いつの間にか隣に腰掛けていたご主人さまが人のお腹をぽにょってきました。
冬の森に突入するのは決死の覚悟が必要です。
昨日はたまたま雪が止んでいて、たまたまご主人さまが結界に気温緩和を足して強化していたおかげで見た目ほど寒くなかったからギリギリ助かったようなもの。
普通なら当たり前のように全滅です。
何か思惑があったとしても、隠れ里に侵入するためだけにそんなギャンブルをするとは思えませんし、敵側だって不確定な情報だけで軍を冬の森に進行させる無茶はしないでしょう。
ご主人さまの様子だと冬の間に戦う準備を進めるのでしょうね……なんとも嫌な話です。
「にしても何だこの腹は、流石にこれ以上行くと萎えるぞ」
「さっきから人のお腹を重点的に揉まないでください!」
咄嗟に腕を払ってお腹を押さえながらベッドを転がり離れます。なんとも失礼なお話なのです。……ん、いやまつのです、萎えるということはこのまま行けば夜にお呼ばれしなくなるかもしれません。
ただそうなると今現在残っている金貨544枚分の借金をどう返すのか、悩みますね。
不本意ながら一晩のお努めで銀貨10枚の返済は美味しいのです。10日で金貨1枚相当ですからね、しかもオプション増し増しでもっと上がるのです。ぶっちゃけこれ以外で全額返済できる気がしません。
「これは本格的にダイエットだな……」
悩んでいる間にご主人さまのほうで勝手にボクの処遇を決めたらしく、溜息混じりに立ち上がりました。それを見ながらさらに後退ってベッドから降りると、こっそりと顔半分をのぞかせて様子を伺います。
ここ暫くのアレによってダイエットという単語に恐怖しか感じません。
「何想像してるか解るが、残念ながら流石に普通にやるぞ?」
「残念じゃねぇのですよ」
人が期待してるみたいに言わないで下さい、というか普通とは一体どこの国の普通ですかね、エロマンガ王国ですか?
「ほれ、雪も止んでるし今日は外走るぞ、お前最近家の中ですら殆ど動いてないだろ」
「ええー……寒いの
思ったより普通なことを言われたので思わず反論してしまいました、寒い日は家でだらだらするに限るのですよ、こう寒くては汗もかかないから効果ないのですきっと多分。
しかし布団に潜り込もうとしたところで首根っこを掴まれて、引きずりだされてしまいました。
「甘やかし過ぎたか……よくわかった、ベッドの中で運動するか外で運動するか選ばせてやる」
冷たい目でご主人さまが見下ろしてきます。
できれば運動しないという選択肢を選びたいのですが、それを選んだら即デッドエンドなのはボクにだって解ります。
かといってベッドの中の運動は勘弁してほしいのです、本当に理解できないことに多少の効果はあるんですがそれがまた納得行かないのですよ。
「………………外でお願いします」
すなわち選べる選択肢はひとつだけです。全面降伏したボクの姿を見て納得してくれたのか、ご主人さまは「ならばよし」と頷いて手を離してくれました。ふぅ、全くご主人さまは……甘いのですよ!
前転のようにご主人さまの横をすり抜けてベッドから転がり降りると、扉へ向けて走り出します。自分の部屋に篭もれば流石に壊してまで引きずり出そうとはしないでしょう。
すなわちボクの勝ちです――そもそもなんでご主人さまの寝室へ来てるんでしょうかボクは、習慣というのは恐ろしいものです。
「甘い」
「ぎゃー!?」
あと一歩で扉に手がとどくところで、横からひょっとお腹からすくいあげられました。小脇に抱えるような持ち方です。屈辱です。
「やーめーるーのーでーすー! 外はいやー! 外はいやぁぁ!!」
きっと寒いのですよ、めっちゃ寒いのですよ!!
「珍しく変なことしないってのに抵抗すんな」
あ、自覚はあったんですね……って言ってる場合じゃありません、誰か助けてぇ!
◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.88】
◆【ルル Lv.36】
◆【ユリア Lv.35】
◇―
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ソラLv.88[887]
ルルLv.36[366]
ユリアLv.35[351]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>34
[MAX BATTLE]>>34
【PARTY-1(Main)】
[シュウヤ][Lv95]HP2100/2100 MP3460/3460[正常]
[ソラ][Lv88]HP20/63 MP1253/1253[疲労]
[ルル][Lv36]HP835/835 MP40/40[正常]
[ユリア][Lv34]HP1840/1840 MP89/89[正常]
【PARTY-2(Sub)】
[フェレ][Lv30]HP282/282 MP1030/1030[正常]
【PARTY-3(Sub)】
[マコト][Lv66]HP3450/3450 MP150/150[正常]
[クリス][Lv13]HP200/200 MP20/20[正常]
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「あれ、ソラはー?」
「家の周りを5周くらい走った所で力尽きて寝込んだみたいです」
「せんぱい体力なさすぎでしょ、強いのは夜だけ!?」