ご主人さまとエルフさん   作:とりまる。

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第47話

 

 本格的にダイエットが始まりました。ボクとしてもお腹のたぷたぷは流石に気になっていたので大人しく従うことにしています。

 

 それと流石にご主人さまの依頼は断れないのか、ユリアもボクの分の食事をダイエットメニューに切り替えてくれました。耳の良いボクがギリギリ聞き取れる程度の舌打ちをしながら。

 

「ユリア、ひょっとしてボクのこと嫌いですか?」

「え? そんなことありません、お嬢様も大好きですよ?」

 

 本気できょとんとしてる様子から嘘ついてなさそうなのが……その、逆に怖いのですが。

 

 

 ある日のこと、結界に何らかの反応があったとご主人さまが切り出しました。

 

「ホワイトレイダー?」

「あぁ、隠れ里の周辺で出たらしくてな……」

 

 ホワイトレイダーとは、寒冷地に生息する植物と爬虫類の中間にあたる魔物。冬季になると活動範囲が増えて、雪の中を潜って移動しながら熱センサーで獲物を探して、雪の中に引きずり込んで喰らう。

 

 以上ご主人さま情報です。ちなみにこれも繁殖期になると捕まえた女性を苗床にするのだとか。

 

「ほんとにエロゲ生物盛りだくさんですね……。ここが実はエロゲの世界だと言われても納得してしまいそうなのですよ」

「あれ、言ってなかったか?」

 

 ため息混じりに皮肉を漏らしたところで、ご主人さまから予想だにしないお返事が返って来ました。今なんとのたまいやがって下さりましたか? 唖然とした顔でじっと見ていると、困ったようにご主人さまが頬をかきます。

 

「確証があるわけじゃないんだが、どうにも出てくる魔物や国の名前が俺の知ってるRPGもののエロゲと同じなんだよな」

 

 もっとも全部が一緒って訳じゃないが、類似点は多いと締めくくったご主人さま。その言葉が頭の中でぐるぐる渦巻いてます。

 

 ってことはアレですか、ここは所謂エッチなゲームにくりそつな世界で、ボクはそこに女の子のエルフの奴隷として放り込まれてしまったと。何ですかそれ。

 

「あはははは」

 

 家族会議をしていたリビングで、倒れるようにソファーから転がり落ちます。そのままカーペットでクロールをしはじめたボクを、話についていけてなかったのか黙ってみていたユリアとルル、フェレの三人がぎょっとした様子で見つめてきました。

 

「もーどうにでもなれー」

 

 って事はアレですかね、もしかしてご主人さまに買ってもらってなかったら今頃は奴隷として散々な目にあってあーるにじゅういちになっているか、冒険者としてオークやら触手やらにお腹を膨らまされているか、そんな未来が待っていたのですかね。

 

 ところがご主人さまのおかげで負のスパイラルから抜けだして、今ならお腹を膨らまされる相手はご主人さまか肉食魚か王様かオークか触手か、選り取り見取りです。

 

 やはり逆ハーも夢ではないかもしれません。

 

「せ、せんぱいが壊れた」

「だいじょうぶ、ソラがおかしくなっても私がちゃんと面倒見るから!」

「ありがとうフェレ、雪の下で安らかに眠ってください」

「とにかく俺とマコトと男衆で駆除しに行く事に行ってくる、遅くなるようだったら里の方に泊まるから、そのつもりでいてくれ」

 

 ボクを哀れんだ目でみていたご主人さまが話を切ってそう告げました。ユリアとルルは不服そうですが、万が一捕まってしまえばえらいことになるので無理矢理同行するつもりはないみたいです。

 

「がんばってくださいねぇー」

 

 仰向けで大の字になってひらひらと手を振ると、ご主人さまは疑うような瞳をこちらに向けたかと思えば、盛大に溜息を吐いてくれました。

 

「ソラは家の中でいいから少しは運動しておくように」

「はいはーい」

「……ユリア、ルルとフェレもサボらせないように見張っといてくれ」

 

 むぅぅ、信用がないのです……。

 

 

「ほらセンパイ頑張って、後3周ですよー」

「ひっ、はひっ」

 

 昼下がり、ボクは汗だくになりながら家の周囲を走っていました。当初は5周で体力が尽きていたのに今は17周くらいは走っています。今日の目標である20周まで後少しです。

 

 ダイエット云々以前に体力がなさ過ぎるという問題が立ちはだかったのは予想外でしたね、でも島生活から引きこもってご主人さまに嬲られる日々だったので体力がなくなるのも道理なのです、つまりご主人さまが悪い。

 

 しかしどれだけ糾弾しようとも現状は変わってくれません、クリスとフェレは雪像を作っているし、ユリアも近くで監視しているので逃げられません。仮に彼女たちを撒いたとしても本家狩人、ルルが逃してはくれないでしょう。

 

 全く忌々しいのです。それからも必死で脚を動かし、やっと目標の20週を達成した瞬間、ボクは雪の中に倒れこんでしまいました。

 

「ぜぇー、はぁー……も、もうだめなのですー……」

 

「はいはい、頑張りましたね」

 

 ルルめ、ねぎらいに心が込められていないのです。

 

 何はともあれ今日はもうこれで終了、汗でべとべとになった身体に雪の冷たさが心地よいです、早くお風呂入って今日はもうおしまいにしましょう。

 

「センパイ、やっぱ体力無さす……」

「しょうがないのです……よ?」

 

 ふと、微かに雪を踏みしめるような音が聞こえた気がしました。ルルも伺うような表情で森の一角を見ています。ご主人さまが戻ってくるにはずいぶん早い、里からの客人でしょうか。

 

「……鎧の、こすれる音が聞こえる」

 

 目を閉じて、耳を動かしていたルルが焦ったようにつぶやきました。

 

「ッ! ユリア、フェレとクリスを家の中へ!」

「はい!」

 

 咄嗟に身体を起こして指示を出します。まさかの侵入者、しかも鎧つきなんてろくでもありません。だから家の方を振り向いた時、思わず舌打ちしてしまったのは仕方ないことでしょう。

 

「あら、つれない子たちですわね、少しお話したいのだけど良いかしら?」

 

 玄関の扉を塞ぐように立ちはだかっていたのは、綺羅びやかな白い鎧に身を包んだ金色の髪を縦に巻いた女性。腰には鎧の豪華さとは真逆のような、落ち着いたデザインのレイピア。立ち居振る舞いから自信に満ち溢れていて、実際にかなりの圧力を感じます。

 

 周囲には足あとがありません、どうやったか知りませんが、こちらに察知されずに回りこんでいたようです。

 

 その背後から雪を踏みしめて出てきたのは、淡い緑色の髪を無造作に伸ばした糸目の青年と、眠そうな半眼の、裾の長いローブを着た黒髪の幼女。それから同じ意匠の鎧に身を包んだ10人近い……多分騎士でしょう。

 

「話とは?」

 

 微妙な緊張感の中、率先してユリアが前に出ました。最年長の責任感があるのでこういう時につい矢面に立ってしまうのでしょう。

 

 それにしてもこいつらの目的は何でしょうか、視線が一瞬ボクを捉えたものの、執念や執着みたいなものは感じないのです。

 

「僕達はね、人を探しているんですよ、金色の髪に青い瞳、顔立ちの整った人間の青年なんだけど、知らないかな?」

 

 答えたのは糸目の青年でした。

 

 はい、アウトー、あのイケメン野郎完全に厄介事持ち込んでんじゃねーですかふざけんななのです。というかフラグ立ってから回収までが速すぎるんですよ、完全に引き連れてきてるというか着けられてるじゃないですか馬鹿じゃないの、馬鹿じゃないの!!

 

「さぁ、心当たりはありませんが」

 

 しかしユリア、メイド生活で身に着けたポーカーフェイスで切り返しました。

 

「嘘なの、知ってる、少し前にここにきた、隠れ里にいるの」

 

 ですが幼女が無表情のままぴしゃりとそれを否定します。目が赤く光ってるのです、あれが厨二病的な演出でなければ何かの力を持っているのでしょう、こっちの世界には魔法使いとか結構な使い手もいるのです。

 

 幼女だからと侮っていると、彼氏持ちめと意味不明な嫉妬に狂い無駄に高度な体術を駆使して酒瓶でぶん殴ってこようとしたりする化石女もいるのですから。

 

「あら、そうですの、良かったですわ手間が省けて。取り敢えずそこのエルフを渡しなさい、そうすれば貴方達は見逃してあげてもいいですわよ」

 

 あくまで確認だったのでしょう、事務的に言葉を連ねた女騎士がレイピアの切っ先をボクに向けて言いました。どうやら主目的はあの青年のようですが、ついでにエルフ狙いでもあったようです。

 

「何でボクが?」

 

 僅かな可能性にかけて、ボクも会話の場に出ます。

 

「我等が陛下が富の象徴としてエルフを御所望でね、傷つけると後でうるさいから抵抗しないでくれると嬉しいんだけど」

 

 答えたのは糸目の騎士、心底めんどくさそうなあたり、王様とやらも慕われているわけではなさそうです。

 

「見たことも話したこともない王様のところなんてお断りです!」

「陛下は幼く美しい娘に目がなくてね、傷つけたら本当にうるさいんだよ」

 

 だから抵抗せずに捕まれと言いたいのですね、こちらと対話する気は無いってことですか。

 

「そんなロリコンならそっちの子に仮装でもさせて送り込んだらいかがですか?」

 

 悔し紛れに無表情な幼女を指さしながら言ってやります。無表情なのが難点でしょうが見た目は相当に整っているのです。どいつもこいつも美少女美青年揃いでむかつきます。

 

「いやぁ、彼女も同僚だからね、陛下も粉をかけてるけど強制は出来ないんだよね」

 

 あ、粉かけてるんですねっていうかガチのロリコンじゃないですか、国ごと滅べばいいのに。

 

「あのクソロリコン豚、ブタマ子爵と一緒に死ねばいいの」

 

 その一方で幼女は忌々しそうに吐き捨てました。中々過激な毒を吐きますね、敵ながらあっぱれなのです。

 

「だから私よりチビのお前がロリコンの無聊を慰めるの」

 

 とか思ってたら何を言いやがるのですかこのチビは!

 

「何でボクがそんな事しなきゃいけないんですか、第一お前のほうがチビなのです」

「いやお前のほうがチビなの」

「可哀想に、身体がミニマムすぎて世界も小さく見えるんですね」

「私は正常なの、お前こそ胸がぺったんこだから考え方が薄っぺらいの」

「誰がぺったんこですかぶち殺しますよ洗濯板」

「こっちこそぶち殺してやるの平原胸」

「故郷の森に還るがいいのです平たい胸族」

「ちんちくりん」

「幼児体型」

 

 ……理解しました、完全に理解しました。こいつは、このチビは敵なのです!!

 

「お前なんてどうせ死ぬまでちっこいままでロリコン以外相手にもされないのです」

「お前こそ一生ロリコンの慰み者、哀れなの」

 

 何て事を言うのですか、現時点でも否定できないのに!

 

「……どんぐりの背比べですわね」

「「うるさい年増!!」」

 

 いきなり口を挟むんじゃありません、怪我しますよ。

 

「誰が年増ですって!? 私はまだ21ですわ!!」

 

 本当でしょうかね、確かに若くは見えますけど女性の自己申告年齢なんて怪しいものです。

 

「嘘、本当は今年で24」

「可哀想に、21って言わないと誰も相手にしてくれないんですね」

 

 やっぱり嘘だったのですね。

 

「失礼な!?」

「きっと年下の若い女性たちに嫉妬して威張り散らして嫌われてるのです」

「本当、この間も掃除が雑って部下の若い娘をねちねちいじめてた、まるで姑」

 

 うわぁ、なんというお局様。年増をこじらせるとこうなるのですね。

 

「貴女達罵り合ってたんじゃありませんの!?」

「そういえば」

「そうだったの」

 

 すっかり忘れていました。敵の言葉で思い出すとはまだまだですね。ともあれ結構時間は稼げたでしょうか、感知したご主人さまがこちらに戻っているはずですから、なんとかそれまでこの場を持たせる事が出来れば……。

 

「……ロウ、あなた戻ったら覚えていなさい」

「記憶力が弱くなったおばさんと違って私はまだしっかりしてるの」

「やれやれ、捕縛させて貰うけど、抵抗しないでほしいね」

 

 言い争う幼女とオバサンを背後に糸目の男がボクに向かって手を伸ばして来ます。無理に抵抗して怪我人を出すよりは、一度おとなしく捕まるべきでしょう。抵抗しないように言い含めようと背後を振り向けば、緊張した面持ちの女性陣の中で独りだけ、ルルの姿が見当たりませんでした。

 

 ……一体どこに?

 

 周囲を探りながら騎士の方へと視線を戻すと、彼の背後で軽い音を立てて雪の中から、漆黒の刃を逆手に持ったルルが飛び出して来るところでした。誰もが声を発するより先に、短剣の刃が騎士の首へと吸い込まれていき……。

 

「躾のなってない野良猫がいるねぇ」

「がっ!?」

 

 激しい金属の衝突音を響かせて、ルルの身体が吹き飛ばされました。

 

「――ルル!!」

「ルルちゃん!?」

 

 糸目の騎士が右手に翡翠色の剣を握っています。どうやらあの一瞬で剣を抜いてルルを打ち払ったようです。時間差で黒い刃が雪の上に落ちて、そこから少し離れた雪の上、うつ伏せに倒れたルルの姿を見つけます。

 

 動かない彼女の下、純白だった雪がゆっくりと赤く染まっていくのが見えました。

 

 




◇◆ADVENTURE RESULT◆◇
【EXP】
NO BATTLE
◆【ソラ Lv.88】
◆【ルル Lv.36】
◆【ユリア Lv.35】
◇―
================
ソラLv.88[887]
ルルLv.36[366]
ユリアLv.35[351]
【RECORD】
[MAX COMBO]>>34
[MAX BATTLE]>>34
【PARTY-1(Main)】
[ソラ][Lv88]HP20/63 MP1253/1253[疲労]
[ルル][Lv36]HP---/835 MP40/40[――]
[ユリア][Lv34]HP1840/1840 MP89/89[正常]
[フェレ][Lv30]HP282/282 MP1030/1030[正常]
[クリス][Lv13]HP200/200 MP20/20[正常]
================
「どうしてこういう時に居ないんですかあいつは……ッ!!」

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